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韓国映画『寒いのが好き』(차가운 것이 좋아!)あらすじと感想(第21回大阪アジアン映画祭上映作品)/理性を残すゾンビと出会う韓国ウェルメイド社会派ゾンビ映画

『おひとりさま族』でOAFF2022グランプリに輝いたホン・ソンウン監督の最新作『寒いのが好き』(2025)は、社会派要素とラブコメ的な映像表現を兼ね備えた新感覚ゾンビ映画だ。

 

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ゾンビ感染が落ち着きつつある世界で、非正規雇用社員のヒロイン、サ・ナヒが理性を残すゾンビ「チョン・ウンビ」と出会い、彼を救うため長い旅に出る決意をする。

 

サ・ナヒを演じるのは、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(2021)で、聴覚障害を持つユナ役を演じ、強い印象を残したパク・ユリム

 

第26回全州国際映画祭、第21回大阪アジアン映画祭(OAFF2025EXIPO)にて上映され、大阪アジアン映画祭ではホン・ソンウン監督が「来るべき才能賞」を受賞。今後、日本での劇場公開も予定されている。

 

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目次:

 

韓国映画『寒いのが好き』作品情報

(c) The Coup Distribution

2025年/韓国映画/107分/原題:차가운 것이 좋아!(英題:Some Like It Cold)

監督:ホン・ソンウン 脚本:ホン・ソンウン、チョン・ジョウン プロデューサー:チョン・ジョウン

出演:パク・ユリム、パン・ウォンギュ、キム・テゴン、ソン・イェウォン

 

韓国映画『寒いのが好き』あらすじ

(c) The Coup Distribution

ゾンビが蔓延する時代も終わりに近づき、残存ゾンビた​​ちは人間の迫害から逃れるために逃亡を強いられていた。ゾンビ駆除チームに臨時職員として勤務するナヒ(パク・ユリム)は、退治したゾンビを運搬するのが仕事だったが、ゾンビの減少によって、契約更新を打ち切られてしまう。

失業のショックで街を彷徨っていたナヒは、突然現れたゾンビに襲われかけるが、言葉を話すゾンビに助けられる。ゾンビは過去の記憶を失っていると語り、名前を付けてほしいとナヒに頼む。ナヒが考案した名前はチョン・ウンビ。彼は喜んでその名を名乗ることにした。ナヒは、ウンビを安全で寒いアラスカへ避難させるため、長い旅に出る。

 

韓国映画『寒いのが好き』感想と評価

(c) The Coup Distribution

ヨン・サンホ監督の2016年の作品『新感染 ファイナル・エクスプレス』の爆発的ヒットを皮切りに次々と良質なゾンビ映画が作られ「Kゾンビ」なる言葉も生まれた韓国産のゾンビ映画にまたユニークな作品が登場した。

 

韓国映画『寒いのが好き』は、ゾンビ映画のイメージを覆すウェルメイドな作品に仕上がっており、観ていて実にあたたかな気持ちにさせられる。と、同時にそこには韓国社会に蔓延する様々な問題が鮮やかに盛り込まれている。

 

物語は、ゾンビ感染が一段落し、都市の混乱が落ち着きつつある韓国を舞台に、民間企業が残存ゾンビの管理と退治を生業としているという実態を捉えた生々しいアクションシーンから始まる。ゾンビ退治が商売として成立している点が、現代社会における「何でもビジネス化する構造」をシニカルに映し出しており、このリアル感あふれる設定が面白い。

 

主人公のサ・ナヒは非正規雇用社員で、死んだゾンビの運搬を任されている。従来のゾンビ映画は、生存者の視点からの恐怖とサバイバルを中心に据えてきたが、本作はむしろゾンビの存在を現代的な社会問題のメタファーとして機能させている部分がある。監督によれば、コロナ禍が本作のヒントとなったということで、感染や隔離、社会的距離といった現代的テーマが、ゾンビというフィクションを通して描かれているとも言えるだろう。

 

さらに本作の独自性は、理性を残したゾンビとの出会いにある。サ・ナヒは、ゾンビが減少して来たという理由で契約更新がされないことを告げられ落ち込むが、街を彷徨っている際に残存ゾンビに襲われかけ、間一髪のところ、ある男性に助けられる。ところがその男性も誰かに噛まれてゾンビ化していた。だが、彼の場合、攻撃的なところはひとつもなく、正直、サ・ナヒには、今、彼女が付き合っている高慢ちきな恋人よりもずっと心が通じ合うように感じられるのだ。

 

ここで面白いのは、ゾンビに噛まれても、それぞれ、現れる症状が違うという点だ。従来のゾンビものといえば、噛まれれば怪物化してこちらを襲ってくる厄介な存在となるため、家族であろうと容赦なく撃ち殺さなければならなかったが、ここでは非常に恐ろしい狂暴なゾンビもいれば、ぱっと見は人間と変わらないゾンビもいるのだ。考えてみれば、これはそれほど突飛な設定ではないかもしれない。なぜって人間には個人差があるのだから。ちなみに後者のゾンビは「理性的ゾンビ」と分類されていることが後に明らかになる。

 

本作のゾンビの弱点は「暑さ」で、ナヒはチョン・ウンビ(理性的ゾンビに頼まれ、ナヒが命名)を救うため、彼を車に乗せ釜山へと向かう。治療薬ができるまでゾンビをアラスカに送る計画をたてている「低温人間解放団」が、釜山に来るよう呼び掛けているのを知ったからだ。

こうして中盤以降、ロードムービーとしての面白さも加わり、映画は、物理的な移動が感情的な旅路となっていく様を、スリラーやロマンスの要素を交えて鮮やかに描いている。

 

「低温人間解放団」という人権団体や、アラスカプロジェクトなどもリアリティのある設定といえる。ナヒはウンビ以外のゾンビも人間だということをなかなか受け入れることができず、ウンビと衝突する。本作は韓国の国家人権委員会の16番目の人権映画プロジェクトであり、そうした観点からも様々な読み取りができるだろう。

 

ところで人権映画プロジェクトの作品といえば大阪アジアン映画祭で上映され、その後、劇場公開も果たした映画『なまず』(2018)が思い出される。イ・ジュヨンが監督を務め、ク・ギョハンが主演とプロデューサーを務めた作品だ。

『寒いのが好き』が「ゾンビ」なら、『なまず』は「シンクホール」である。「人権」と聞いて、このモチーフを発想するそのオリジナリティな感性が素晴らしい。”「人権」に関する作品“という課題を多様な観点で捉え、表現しようとする韓国の若い作り手たちのチャレンジ精神に、心底、感心させられるのである。

 

 

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