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韓国映画『ランサム 非公式作戦』あらすじと感想/アクションとコメディが絶妙に融合したハ・ジョンウとチュ・ジフンの共演作

「神と共に」シリーズで息のあったところを見せたハ・ジョンウチュ・ジフンが再びコンビを組んだ韓国映画『ランサム 非公式作戦』は、1980年代、内戦前のレバノンベイルートで実際に起きた韓国外交官の誘拐事件をモチーフに、ドラマチックに展開する怒涛のアクション映画だ。

 

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映画『トンネル』、ドラマシリーズ『キングダム』でハ・ジョンウ、チュ・ジフンとそれぞれタッグを組んだ経験があるキム・ソンフン監督はアクションドラマのベテランで、本作も手に汗握る迫力ある演出を見せている。

 

ハ・ジョンウとチュ・ジフンのコミカルな掛け合いも愉快なすこぶる楽しいエンターティンメントに仕上がっているが、政治や国家に対して鋭い視線を向けている点にも注目したい。

 

目次

韓国映画『ランサム 非公式作戦』作品情報

(C)2023 SHOWBOX AND WINDUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

2023年製作/133分/G/韓国/原題:비공식작전(英題:Ransomed)

監督:キム・ソンフン 製作:チョン・イジュン、ヨ・ジョンミ 脚本:キム・ジョンヨン、ヨ・ジョンミ 撮影:キム・テソン 照明:キム・ギョンソク 編集:キム・チャンジュ 音楽;モグ

出演:ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ウンス、キム・ジョンス、バーン・ゴーマン、フェド・ベンシェムジ、イム・ヒョングク

 

韓国映画『ランサム 非公式作戦』あらすじ

(C)2023 SHOWBOX AND WINDUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

1987年.外交官のイ・ミンジュン(ハ・ジョンウ)は、周りが敬遠する中東地域での活動を担当している。

 

既に5年が経過し、早く欧米の担当に替わりたいと願っているミンジュンだったが、特別なコネクションもなく、ロンドン赴任のチャンスも、ソウル大学出身の後輩に奪われてしまう。

 

そんな折、ミンジュンはレバノンから一本の電話を受ける。受話器からは外交官だけにわかる暗号が聞こえて来た。それは20ヶ月前、レバノンで拉致され行方不明になったオ・ジェンソク書記官によるSOSの通信だった。オ書記官は死亡したものとみなされていたが、生きていたのだ。

 

上司から対応するよう命じられたミンジュンは、まずCIA出身の中東専門家のカーターという男と会い、オ書記官の安否を確認するよう要請した。

 

オ外交官の生存が正式に確認され、ミンジュンはレバノンの首都ベイルートに向かった。

 

オリンピックを目の前にして、安全企画部は、国家が汚名をかぶらないようにするため「テロリストとは交渉しない」という方針を掲げていた。そのため救出は、安全企画部を通さず、外交部によって非公式で行われることとなった。

 

人質犯に身代金を渡すだけの簡単な任務だと思われたが、ミンジュが空港に到着し、カーターから指定されたとおりに現地の協力者から金を受け取った途端、金を横取りしようとする空港警備隊に襲われる。

 

発砲され指定されたタクシーには乗れず、別のタクシーに命からがら乗り込むが、偶然にも運転手は韓国人だった。

 

運転手はパンスと名乗った。ミンジュが韓国に電話して問い合わせると、ベイルートに大使館を建てる際、多大な協力をしてくれた人物だという。ただし、金に汚く、生粋の詐欺師だとも。

 

去ろうとするパンスに対してミンジュはアメリカに住む権利を外交官特権で手に入れるからと説得して協力を要請し、彼にしこたま札を握らせた。

 

オ書記官は20か月前、日本人だと間違われて拉致され、また、拉致犯人たちの仲間割れなどのごたごたの中で存在を忘れられ、今は地元の金目当てのならず者たちに監禁されていた。

 

彼を助けるべく、現地の協力者と共に、監禁場所に向かっている途中、検問にひっかかり、あやうく自爆テロに巻き込まれそうになったり、ギャングたちから銃撃を受けるなど、頻繁に生命の危機にさらさられる。

 

やっとのことで寝る場所を確保したパンスとミンジュだったが、パンスが眠っている間に、ミンジュが身代金をそっくり盗んで姿を消してしまう・・・。

 

韓国映画『ランサム 非公式作戦』感想と評価

(C)2023 SHOWBOX AND WINDUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

翌年にオリンピックの開催が決まっている1987年の韓国。全斗煥(チョン・ドファン)による軍事独裁政権最後となる年を背景に、レバノンベイルートで実際に起きた韓国外交官の誘拐事件をモチーフにしたストーリーが展開する。

 

『ランサム 非公式作戦』というタイトルの「非公式」とはオリンピック開催を前に国際的な批判を浴びないように躍起になっている安全企画部が「身代金は支払わない」という方針を打ち出しているため、外交部が安全企画部に内緒で人質奪還の交渉にあたるという事情から来ている。

 

拉致された大使からのSOSの電話を受けたミンジュンが金を運ぶ役割を命じられるが、その時ちくりと彼は「そんな大切な任務はソウル大学出身者がやればいい」と呟いている。というのも、彼はロンドン赴任のチャンスをソウル大学出身者の後輩に奪われたばかりだからだ。だが残念ながら、ソウル大学出身者にはそのような役割は回らないようだ。

 

希望地に移動させてもらえず鬱憤を抱えているミンジュンは、この任務を終えたらアメリカ赴任を約束してほしいと条件を付けることで、交渉役を引き受ける。こうして正義感からではなく利己的な動機から始まった「非公式作戦」は、金を渡せば済むと考えられていたが、ベイルートに着くや対立する二つのギャングと政府の空港警備隊に追われ、何度も命を脅かされるはめに。

 

ミンジュはそこで偶然知り合った韓国人タクシー運転手パンスと行動を共にすることになる。外交部に電話で問い合わせるとパンスは大使館を建てる際に大いに協力してくれた人物とのこと。一方で金に汚く生粋の詐欺師であるという情報も付け加えられた。

いまいち信用ならない男だが、それでも頼る人は彼しかいない。ミンジュは適当な餌を与えつつ、彼に同行を求め、一方のパンスは金を目当てにそれに応じ、ふたりはさらに危険な場所へと向かう。

 

ミンジュに扮するハ・ジョンウと、パンス役のチュ・ジフンがとにかく素晴らしい。ハ・ジョンウは彼が得意とするちょっととぼけたひょうひょうとした演技で究極の場にたたされた人物をコミカルに表現し、チュ・ジフンは癖のあるしたたかな人物をいきいきと演じている。

打算で結びついた2人の駆け引きが絶秒なユーモアを醸し出し、やがて芽生えていく信頼関係というバディ映画の神髄を堪能させてくれる。

 

人質として囚われている大使を連れて自らも無事、帰還するというたった一つの目標に向かって、映画は疾走していくが、キム・ソンフン監督は彼らの前にあらゆる難関を用意する。空港警備隊による執拗な追跡と発砲、ギャング同士の銃撃戦、自爆テロ、野犬の襲来等々・・・。

車が一台、通れるか通れないかぐらいの狭い路地でのカーチェイスなど、ユニークなアクションが小気味いい。また、老朽化したビルの屋上から見下ろす街の景色が頻繁に映し出され、故郷から果てしなく遠い異国の地にいるという緊張感と寂寥感を生みだしている。

 

中盤になって、もし人質の奪還が失敗したら、世間から叩かれ、オリンピック前の政権に大いに痛手となると考えた政府筋は現地の協力者に支払われる金をストップさせてしまう。そのため、孤立したミンジュたちはさらなる試練にさらされるのだが、ここには人の命よりも政治的利益を優先させようとする国家への批判が込められている。

実際にこの時、韓国政府は仲介するブローカーに金を支払わなかった疑いがあるとのことで、その記録が開示されるのは2047年まで待たなければならない。

 

コメディとアクションが見事に融合した本作だが、人命救助を主題に外交官としての矜持と人としての誠実さが描かれている点で、リュ・スンワン監督の『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)と重なる部分がある。

 

とりわけ、終盤のミンジュの選択には息を呑み、心打たれるだろう。お仕事映画としても、心意気の映画としても一級品の一編だ。

 

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