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Netflix映画『レベル・リッジ』あらすじと解説/元海兵隊の主人公が警察の腐敗と対峙するジェレミー・ソルニエ監督の新作アクション!

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(C)Netflix

元海兵隊員の男は、微罪で拘留されている従兄弟のために保釈金を届けに行く際中、パトカーに止められる。交通違反の容疑を掛けられた上、金を没収されてしまう。なんとか保釈金を工面しようと奮闘する中、男はいつの間にか、警察権力による陰謀に巻き込まれていく・・・。

 

映画『レベル・リッジ』は、『ブルー・リベンジ』(2013)、『グリーンルーム』(2015)、ドラマシリーズ『トゥルー・ディテクティブ』第3シーズン(2019)などの監督・演出で知られるジェレミー・ソルニエの6年ぶりの新作映画だ。『ホールド・ザ・ダーク そこにある闇』(2018)に次ぐNetflix映画である。

 

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2018年にロンドンのシェークスピア・グローブ座で上演された舞台『オセロ』でブレイクし、バリー・ジェンキンスのTVシリーズ『地下鉄道 自由への旅路』などで知られるアーロン・ピエールが、主演の元海兵隊員テリー・リッチモンドに扮し、圧倒的な存在感を見せている。

 

ドン・ジョンソンが警察署長を、エモリー・コーエンが署長に忠実できわめて不快な警官役を、憎々し気に演じているのにも注目だ。

 

Netflixにて2024年9月6日より配信開始。

 

Netflix映画『レベル・リッジ』作品情報

2024年製作/131分/アメリカ映画/原題:Rebel Ridge

監督・脚本・編集:ジェレミー・ソルニエ 製作:アニシュ・サビアーニ、ニール・コップ、ビンセント・サビーノ、ジェレミー・ソルニエ 製作総指揮:ダニエル・ジェイソン・ヘフナー、メイコン・ブレア、ルイーズ・ラブグローブ 撮影:ダビ・ガジェゴ 美術:ジョン・P・ゴールドスミス、ライアン・ウォーレン・スミス 衣装:アマンダ・フォード 音楽:ブルック・ブレア、ウィル・ブレア 音楽監修:ジョン・ビッセル キャスティング:フランシーヌ・メイズ、ラー モリー・ローズ 配信:Netflix

出演:アーロン・ピエール、ドン・ジョンソン、アナソフィア・ロブ、デビッド・デンマン、エモリー・コーエン、スティーブ・ジシス、ジャネイ・ジャイ、ダナ・リー、ジェームズ・クロムウェル

 

Netflix映画『レベル・リッジ』あらすじ

(C)Netflix

テリー・リッチモンドはアラバマ州の小さな町を自転車で走っていたところを追跡して来たパトカーにひっかけられ転倒してしまう。

 

彼らはずっと警告していたらしいが、テリーは音楽を聴いていたので聞こえなかったのだ。

 

一時停止で止まらなかったという容疑にも関わらず、警官たちはテリーに手錠をかけ、所持品検査を始めた。彼らは鞄の中から36,000ドルの現金をみつけ、麻薬関係ではないかと疑い始めた。

 

それはその町で拘留中のテリーの従弟の保釈金とテリーが新しいトラックを購入するための金だった。従弟はマリファナ所持疑惑で逮捕されたのだが、かつて暴力団の幹部の裁判で証人になったことがあり、州刑務所に送られれば報復されることが容易に想像できた。拘留期間もあとわずかで、テリーは保釈金を届けるために急いでいたのだ。

 

警官たちは交通違反だけで処理してやると言って手錠をはずすが、テリーの言い分を聞かず金は没収し、告訴する権利はあるが、時間がかかると告げて立ち去ってしまう。

 

テリーは町の裁判所を訪ね、保釈金を没収された事情を話すが、金がなければ保釈できないの一点張りだ。テリーが困っている様子を見て、サマーという若い職員が声をかけてくれたが、警官が不審だと判断した場合、民事没収と言う権利があり、今回の行為自体、違法ではないという。訴えることもできるが、時間もお金もかかると聞かされてはどうしようもない。

 

テリーは警察署へ向かい、黒人の女性警官ジェシカ・シムズに被害届を提出した。だが、加害者が仲間の警官だと知ると、ジェシカはあわてて奥に引っ込み、代わりに昨日の警官が姿を見せた。一触即発の雰囲気に、署長のサンディ・バーンが割って入るが、テリーが録音しているのに気が付き、中断させる。

 

署長は逮捕をチラつかせ、テリーを威嚇するが、テリーは食い下がり、次の月曜の朝9時にくれば従弟のマイクに会わせてやるという約束を取り付けた。

 

しかし、当日、テリーが現場に出向くと、マイクは既にバスに乗せられて出発していた。話が違うではないかと抗議するも、3分の遅刻だと署長は薄ら笑いを浮かべるだけだった。警察はわざと予定を早めたのだ。

 

テリーは必死で自転車を漕ぎ、バスを追うが、テリーに気付いたマイクに対して「目立たないようにしていろ!」と声をかけるのが精一杯だった。

 

テリーはサマーを訪ねた。彼女は娘がいるからクビになりたくないと関わりを最初は拒否するが、結局、テリーを呼び止め、保釈金が高すぎたり、微罪なのに拘留期間が長すぎたり、延長されたり、不審な点が多いこと、それらは町の財政が厳しいための金目当てではないかという疑惑を口にする。このことが解明されればマイクを助けることができるかもしれないが、今は、急がなくてはならない。

 

今から一万ドル用意すればまだマイクを助ける可能性があることを確認したテリーは警察署に向かう。

 

そのころ、警察はテリーの退役証明書を入手していた。海兵隊に所属しMCMAPの教官だったと記載されていた。

MCMAPという聞きなれない言葉に首をかしげる署長だったが、実戦経験がないことに安堵の色を浮かべる。そこにテリーがやって来た。署長は自ら彼を追い返そうと外に出るが、テリーは署長の銃を奪い、弾を全て捨て去り、出て来た部下も締め上げて、二人と共に、建物の中に入って行った。

MCMAPとは徒手で闘う接近戦の戦闘システムを指し、彼はその使い手だった。

 

彼はジェシカに命じて署長と警官に手錠をかけさせ、保管室にしまわれていた36,000ドルから保釈金の一万ドルだけを抜き、持ち去った。

 

すぐに裁判所に向かい、サマーの上司に一万ドルを渡して手続きを完了させるも、警官が突入して来てテリーは逮捕される。

 

しかし、署長は、彼に26,000ドルを返却し、町を出ろと命じる。テリーは保管室の中で収納されていた軍隊並みのライフルや、多くの金を目撃した。それは彼らにとって都合の悪いことだったのだろうか。

 

そして彼らはマイクが州刑務所に到着した途端、メッタ刺しにあったことを告げる。その時、州警察からのヘリコプターが到着。テリーはマイクと悲しみの対面をすることとなった。

 

サマーは微罪の人々の拘留期間の長さに不信を感じ、調査を開始していた。しかしテリーにとってはもう興味のないことだった。彼は言われるまま、町を出て行くが・・・。

 

Netflix映画『レベル・リッジ』感想と評価

(C)Netflix

西部劇では流れ者が小さな田舎町に馬に乗ってやってくるが、本作では退役軍人のテリーという男が自転車に乗ってやってくる。

 

ジェレミー・ソルニエの6年ぶりの長編映画作品である本作は、見知らぬ土地に足を踏み込んだ男が、町の腐敗に直面し、権力者に立ち向かうという西部劇の伝統を踏襲しながらも、リアルな社会問題を詰め込み、現代的なヒーロー像と、ユニークな切り口のアクションで構成されている。最近のNetflixのオリジナルアクション作品の中でも、群を抜いた出来栄えだ。

 

テリーは街を支配する保安官ならぬ、保守的な警官に遭遇し、所持していた金を没収されてしまう。それはこの町に住む従兄弟の保釈金として用立てた金だった。法律によれば、警察が不審に感じた場合、このような行動を取るのは「民事没収」として認められており、違反ではないという。だが、そもそもただの交通違反なのに手錠までかけ、カバンの中を全て確認するというのは明らかにやりすぎだ。これはテリーが黒人だからだ。黒人なら過剰に疑っても構わない、多少乱暴に扱っても許されるという考えが、彼ら、警察に植え付けられているのだ。

 

こうした人種差別、あるいは「民事没収」が認められているというアメリカの制度的不公平性、巨大過ぎる権限を持った警察という問題を、ジェレミー・ソルニエは鋭く見つめている。

 

権力者によって社会的弱者は搾取され、騙され、挙句に命まで奪われてしまう。こうしたことはどこの社会でも転がっていて、何もアメリカだけのものではない。彼らは誤りを認めず、嘘をつき、威嚇し恫喝する。今の世の中の息苦しさが、明瞭に描かれている。

 

主人公のテリーというキャラクターは怒りを抑え自分を守ることが出来る至って冷静な男だが、この閉塞感が頂点に達した時、彼は個人の尊厳と正義を守るために立ちあがる。

 

テリーの正体は映画の中盤くらいまでは不明で、彼の経歴を調べた警察によって元海兵隊のMCMAPの教官だったことが明かされるのだが、誰もMCMAPがなんなのかわからない。ドン・ジョンソン扮する警察署長は、それよりも彼が実際に戦地に行っていないことに安堵し、内心小ばかにしている。ドン・ジョンソンが憎々し気なこの男を絶妙に演じており、しょっちゅう唾を吐いているのがまたなんともいやな感じを与えている。

 

ところがMCMAPがなんだかわかった瞬間、彼はテリーに既に締め上げられているのだから実に痛快だ。

MCMAPとは徒手で闘う接近戦の戦闘システムのこと。本作に『ランボー』第一作の影響を感じた方は多いと思うが、スタローンのように機関銃をぶっ放すのではなく、テリーは敵に徒手空拳と非殺傷武器のみで立ち向かうのだ。アーロン・ピエールの身のこなしは俊敏で、怒りでキレる男でなく、道徳的正義で闘う男として完璧な立ち振る舞いをしている。

 

大掛かりなアクションを期待していた方には物足りない部分もあるかもしれないが、悪に対して、正義を突きつけるという意味ではこれ以上の表現はなく、前半に重くのしかかってきた現在の権力システムによる閉塞感を見事に打ち破ってくれる。

 

また、アナソフィア・ロブ演じる裁判所の助手のサマー・マクブライドとテリーのチームワークの良さも特筆に値する。

 

緻密に構成された脚本、スタイリッシュなフレーミングとカメラワーク、演者たちの熱演と見どころが多いが、とりわけ、多くのアクション映画が、激しくスピーディーで乱暴なカーチェイスを競うのに対して、本作では車は加速していくどころが逆に減速していくのがユニークで、そこでも正義の判断が意外な形でなされるのが面白い。

 

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