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韓国映画『ハルビン』あらすじと解説/韓国の独立運動家をヒョンビンが演じ民衆の抵抗の精神を描く

1909年10月に中国のハルビンで起きた歴史的事件をスリリングに活写したサスペンス作品。大韓義軍のアン・ジュングンと同志たちは、ある使命を果たすためにハルビンへと向かうが、行く手を阻もうとする日本軍との激しい攻防が繰り広げられる。

 

『KCIA 南山の部長たち』(2020)、『インサイダーズ/内部者たち』(2015)のウ・ミンホが監督を務め、ヒョンビンがアン・ジュングン役を熱演。ヒョンビンは、数ヶ月にわたる準備で力強いアクションと繊細な感情表現を披露している。

 

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パク・ジョンミンイ・ドンウクチョ・ウジンチョン・ヨビンユ・ジェミョンパク・フン等が共演。リリー・フランキーが伊藤博文を演じている。

 

第61回百想芸術大賞(韓国)では作品賞、ヒョンビンの最優秀演技賞、ウ・ミンホの監督賞など5部門にノミネートされ、作品賞、大賞(ホン・ギョンピョ撮影監督)を受賞。撮影監督が大賞受賞となったのは百想芸術大賞史上初。

 

第49回トロント国際映画祭GALAプレゼンテーション部門公式招待作品。

 

目次

 

韓国映画『ハルビン』作品情報

(C)2024 CJ ENM Co., Ltd., HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED

2024年製作/114分/G/韓国映画/原題:하얼빈(英題:Harbin)/カラー/シネマスコープ/5.1ch

監督:ウ・ミンホ 脚本・ウ・ミンホ、キム・キョンチャン 撮影:ホン・ギョンビョ 照明:パク・ジョンウ 音楽:チョ・ヨンウク 編集:キム・マングン

出演:ヒョンビン、パク・ジョンミン、イ・ドンウク、チョ・ウジン、チョン・ヨビン、ユ・ジェミョン、パク・フン、チョン・ウソン、リリー・フランキー

 

韓国映画『ハルビン』あらすじ

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1908年、極寒の咸鏡北道(ハムギョンブクト)シナ山で、アン・ジュングン(安重根)率いる大韓義軍は、数で勝る日本軍に勝利を収めた。アン・ジュングンは万国公法に従って戦争捕虜たちを解放すると主張するが、イ・チャンソプはありえないと激しく抵抗。結局、自らの兵を率いてその場を去ってしまう。

 

その結果、逃した捕虜たちから情報を得た日本軍の急襲を受け、数百人の同志が虐殺されてしまう。部下たちを失ってしまったアン・ジュングンは、なんとかロシア・クラスキノの隠れ家にたどり着くが、イ・チャンソプをはじめとする同志たちの視線は厳しかった。

 

1909年10月、アン・ジュングンたちは、日本の政治家・伊藤博文がロシアの高官と会談するために大連からハルビンに向かうとの情報を得る。祖国の独立を踏みにじる「年老いた狼」を抹殺することこそが、亡くなった同志たちのために自分ができることだと確信した彼は、ウ・ドクスン、キム・サンヒョンと共に大連行きの列車に乗るが、列車を巡回していた日本軍から一等車両に乗る身なりではないと疑われ、乱闘になり、キム・サンヒョンは疾走する列車の窓から日本兵と共に落下するなど、3人はバラバラになってしまう。

 

幸い、3人は命に別条がなく、ロシアの隠れ家で合流を果たす。ウラジオストクの中国人通りで骨董店を営むコン夫人を尋ねた彼らは、爆弾を手に入れたいと相談する。コン夫人の夫は茂山の闘いで命を落としていた。闘いのあと、馬賊となった義兄のパク・ジョムチョルのもとを訪ねた4人は、酒におぼれ、変わり果てたジョムチョルの姿を目撃する。彼は死んだのが弟でなく俺だったら良かったのにと言いながら、爆弾を用意してくれた。

 

馬車を用意し、爆弾を詰め込んだ日、なぜか日本軍とロシア軍が彼らを包囲していた。銃撃戦となり、イ・チャンソプが死亡し、爆弾を積んだ馬車は、電車と衝突して、激しい爆発が起きた。

 

計画は失敗に終わり、変更を余儀なくされるが、明らかにこちらの動きがバレていることから、同志たちの中に密偵がいるのではという疑惑が生じる・・・。

 

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韓国映画『ハルビン』感想と評価

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映画『ハルビン』は、1909年に日本の政治家・伊藤博文が、朝鮮独立運動の象徴的人物であるアン・ジュングン(安重根)に暗殺された事件を、鮮烈な映像美と緻密な時代再現、そして、豊かな映画的想像力をもって描いた作品だ。

 

ウ・ミンホ監督は、屈服して敗北を受け入れるよりも、誇りと決意を持って闘うことを選んだ朝鮮の抵抗運動家に焦点を当て、彼らの独立精神、絆や夢、平和への渇望、運命への対峙を静かなトーンで、だが、力強く描き出している。

 

アン・ジュングンを必要以上に美化せず、彼の人間的な面によりアプローチしているのが本作の最大の特徴だろう。日本人には名前が知られる程度かもしれないが、韓国(そして北朝鮮)の人々にとってアン・ジュングンは抗日運動の英雄である。ウ・ミンホ監督は、そんな彼を神格化するのでなく、悲しみや絶望を覚えることも、自信が揺らぐこともある一人の人間として描いている。このような姿はアン・ジュングンに関してこれまでほとんど語られてこなかった側面だ。

 

映画は、アン・ジュングンが凍り付いた豆満江を渡る場面で始まる。『パラサイト半地下の家族』(2019)や『バーニング 劇場版』(2018)などを手掛けた名撮影監督ホン・ギョンピョによるその空撮ショットに思わず息を呑む。荒涼とした豪壮さを持つ光景は、アン・ジュングンが疎外感を抱き道に迷っている心象風景の表れといえるかもしれない。だが、至るところで反射してキラキラと輝く光は小さいが無数の希望の灯ともとれるだろう。

 

序盤の雪に覆われた森での戦闘シーンは地獄図のような接近戦が展開する。アン・ジュングンは独立軍を率いて人数的には不利な中、勝利を収めたが、捕虜を処刑せず森大尉をはじめとする日本兵を解放した。だが森たちはすぐに本部と連絡を取り、アン・ジュングンの同志たちを皆殺しにし、たまたま食料を捜しにその場を離れていたアン・ジュングンだけが生き残る。

義軍の中には彼に疑念を抱く者もいる。激高しやすいイ・チャンソプ(イ・ドンウク)は、アン・ジュングンと激しく対立する。一方、チョ・ウジン扮するキム・サンヒョンと、パク・ジョンミン扮するウ・ドクスンは、アン・ジュングンの朋友だ。芸達者な二人の俳優が演じるキムとウの友情も本作の見どころのひとつだろう。

 

ヒョンビンは、任務の重大さと仲間から向けられる不信の眼差しに押しつぶされそうになりながらも、祖国のために闘い続けるアン・ジュングンを演じている。厳しくも柔らかな表情と強いまなざしを通して、ヒョンビンはアン・ジュングンの人間的な誠実さと、彼が背負う責任の重さを伝えている。アン・ジュングンは自らの罪を償い、運動を救うため、伊藤博文を暗殺する計画を立てる。

 

本作は、韓国、モンゴル、ラトビアなどさまざまな場所で撮影が行われた。凍った湖から雪に覆われた森、広大な砂漠まで、息をのむような風景が映し出され、物語に豊かな質感を与えている。隠れ家に姿を潜めることの多い彼らのもとにも、窓の向こうから淡い光が差し込んでくる。ウ・ミンホ監督とホン・ギョンピョは、その光と影を、バロック期のイタリア人画家カラヴァッジョの作品のように撮っている。

 

アクションシーンも秀逸だ。列車の狭い客車での乱闘からウラジオストクの街中での銃撃戦と爆発シーンなどがクールにシャープに描かれ、ウ監督のアクション演出の才を改めて堪能させられる。

 

最終目的である伊藤博文暗殺場面では、アン・ジュングンを英雄的に奉るのでなく一人の人間として描き、朝鮮と日本の対立をことさら叙事詩的に描くのではなく、国権回復のための抵抗精神に焦点を当てるというこの作品の狙いが如実に反映されている。

 

カットを割り、クローズアップを増やせば、ずっとカタルシスをもたらす演出も可能だったろうが、静かで緊迫感溢れる横移動と、視線を意識させる画面の切り替えでサスペンスを最高潮に仕上げ、最後は一連の顛末を俯瞰で捉えている。俯瞰とはすなわち「観察する視点」である。観客は、アクションに没入するのではなく、その一瞬の出来事のようなシーンを冷静に文字通り観察し、アン・ジュングンと同志たちの権力に屈しないという不屈の精神を目撃させられるのだ。

 

映画のラストに字幕で示されるように、この暗殺により、日本の韓国への締め付けは拡大され、朝鮮が独立を取り戻すには長期に渡る複雑な闘争が続くことになる。

 

だが、本作がもたらすメッセージは明らかだろう。劇中、リリー・フランキー扮する伊藤博文が、豊臣秀吉の朝鮮出兵を例に出し、国家が一大事のときは、必ず民衆が立ち上がることを憂いているシーンがある。その時代から脈々と受け継がれる抵抗精神は、大韓帝国の危機におけるアン・ジュングン等の闘いを経て、独裁軍事国家への抵抗へと続く。さらに2024年12月4日、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領によって突然の戒厳令が宣言された際も、数千人の民衆が深夜にもかかわらず国会周辺を包囲し、軍隊や警官隊の暴挙を封じ込め民主主義を守った。

映画『ハルビン』は、韓国の歴史の考察であると共に、現代に、そして未来へと引き継がれる民衆の抵抗の精神そのものを描いているのだ。