ドラマ「イカゲーム」シリーズは、膨大な借金や深刻なトラブルで人生を詰んだ人々が、巨額の賞金(456億ウォン)を賭け、「負けたら即死」の過酷なデスゲームに挑むサバイバルスリラーだ。2021年にシーズン1が配信されるや、世界的な社会現象となり大ヒット。Netflix史上最も視聴された非英語シリーズとなった。
シーズン2は2024年12月26日に公開され、5週連続でNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)1位を記録する、これまた大ヒットとなった。
待望のシーズン3はシリーズの最終章として、2025年6月27日よりNetflixで世界独占配信が開始。シリーズを通しての主人公イ・ジョンジェ扮するソン・ギフン(プレイヤー456番)をはじめ、シーズン2に登場したプレイヤーたちが再び戦いに挑む姿が描かれ、さらなる過酷なゲームと人間ドラマが展開する。
ゲームの運営者であり、シーズン2ではギフンを欺いていたフロントマンにイ・ビョンホンが扮しているほか、兄(フロントマン)を捜す弟の刑事にウィ・ハジュン、海兵隊出身の若い男性デホにカン・ハヌル、暗号通貨投資に失敗した元インフルエンサー・ミョンギにイム・シワン、ミョンギの元恋人で妊娠中のジュニにチョ・ユリ、陸軍出身のトランスジェンダー女性ヒョンジュにパク・ソンフン、気弱で友人に騙されて借金を作ったヨンシクにヤン・ドングン、その老いた母親クムジャにカン・エシム、巫女のソンニョにチェ・グッキ、元軍人の脱北者でピンクガードのひとりノウルにパク・ギュヨン、彼女の直接の上司にパク・ヒスンが扮するなど、個性的な俳優が演技の火花を散らしている。
シーズン3では、本シリーズの特徴である「子供の遊びを基にしたデスゲーム」がさらに過激に進化しており、シーズン1、2に続き、ファン・ドンヒョクが監督・脚本を務めている。
(シーズン1,2をご覧になっていない方にはネタバレになる個所がございます。ご注意ください)
目次
Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』作品情報
2025年/全6話(全366分)/原題:오징어 게임(시즌 3)、英題:squid game3/配信:Netflix
監督・脚本・ファン・ドンヒョク
出演:イ・ジョンジェ、イ・ビョンホン、ウィ・ハジュン、イム・シワン、カン・ハヌル、パク・ギュヨン、パク・ソンフン、ヤン・ドングン、カン・エシム、チョ・ユリ、ソン・ヨンチャン、イ・ソヌ、チェ・グッキ、イ・ダウィ、ノ・ジェウォン、ウ・ジョングク、チェ・グィファ、パク・ジヌ、パク・ヒスン、チョン・ソクホ、オ・ダルス、
Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』あらすじ
ギフンが主導した反乱計画は失敗し、ギフンの親友チョンベが目の前で殺害されたのを目撃したギフン。ギフンが気を失っている間に他の人々も次々と処刑され、ギフンだけが生かされ、ゲームに戻される。
皆を死に追いやったことへの絶望感と喪失感がギフンを襲い、彼はゲーム続行か否かの投票にすら参加できなくなる。
ゲームの再会は、プレイヤーたちが、青か赤の玉を選ぶことから始まった。赤の玉を持った人々はそれぞれドアを開ける鍵を渡され、早く出口まで行けば生き残れる。一方、青の玉を持つものにはナイフが配られ、赤の玉を持つものを一人殺せばゲームをクリアしたことになる。もし、誰も殺せなければピンクガードによって始末されてしまう。赤の人々は見つからないよう、殺されないよう、出口をみつけなくてはならない。命を懸けた「かくれんぼ」である。
ただし、ゲームが始まるまでにボールを交換することは可能で、人々は戸惑いながらも、ゲームに突入していった。ヨンシクとクムジャの親子はこれまでずっと一緒に行動していたが、色が分かれてしまう。
人を殺すことに躊躇していた青ボールの人々も、時間が進むにつれ、生き残りをかけて、牙をむき始めた。ギフンは落ち込んでいたが、ピンクガードと銃撃戦になった際、弾倉を取りに行きそのまま帰ってこなかったデホを見つける。彼が予定通り、弾倉を持ってやってきたら、事態は違った方向に動いたのではないか?お前のせいだと叫んで青ボールのギフンは赤ボールのデホを追いかけ始めた。
一方、クムジャと妊婦のジュニには、ヒョンジュが付き添っていた。3人は、それぞれの鍵の種類が違うことで、様々なドアを開けることが出来、順調に前進するが、そんな中、ジュニが襲われ、脚をケガしてしまう。ヒョンジュが救うも、ジュニは破水し、お産が始まってしまった。
一方、巫女のソンニョは、出口が見えると語り、彼女を信じる者たちが、あとに続くが、実はまったく見当もついていなかった。
プレイヤーを絶望に突き落とすゲームはその後も、容赦なく彼らを地獄へと駆り立てる・・・。
Netflix韓国ドラマ『イカゲーム3』感想と解説
(大きなネタバレはしていませんが、念のため、まだご覧になっていない方は、ご注意ください)
前作「2」が、過酷なゲームを止めるために参加したギフンと、彼の周りに自然に集まって来た暖かな心根の持ち主たちが絆を深めて行くのを中心に描いていたのとは対照的に、「3」は、ギフンが起こした反乱失敗による絶望からスタートする。
反乱に加わった参加者のうち、ギフンだけが生かされ、再び、彼はゲームへと引き戻される。だが、仲間を死に追いやった罪悪感と喪失感に見舞われたギフンは、もはや気力を失ってしまっており、精神的支柱を失くしたまま物語は進行することとなる。
次に彼らが強いられるゲームは、参加者が赤か青のボールを選び、2つのグループに分かれてかくれんぼをするというものだ。赤のプレイヤーは各自一つずつ鍵を手渡され、いくつもあるドアを開けて出口をみつけ、ナイフを手渡された青のプレイヤーに見つかり殺される前に脱出しなければならない。青のプレイヤーは必ず赤のボールを持った誰かを殺さなくてはならず、誰も殺せなかった場合は、ピンクガードに射殺される。これまでもゲームに負けることは死を意味していたが、自分で手を下すとなると事情は違ってくる。果たして簡単に人は人を殺せるのか!? 参加者はこれまで以上に過酷な試練にさらされるのだ。だが、生き延びて大金を掴みたい一心の青のプレイヤーは見境なくゲームに忠実に行動し始める。カラフルなデザインの迷路のような空間をカメラは時に長回しで、時に一人のプレイヤーに照準をあてて撮り、追いかけっこの緊張感と殺伐とした雰囲気を巧みに表現している。
ギフンが後退した分、各キャラクターのストーリーが強く描かれている。とりわけ、カン・エシム演じるクムジャとパク・ソンフン演じるヒョンジュ、チョ・ユリ演じるジュンヒが強い印象を残す。強くて思いやりのあるヒョンジュは「かくれんぼ」ゲームにおいて、高齢者と妊婦というもっとも弱い立場のふたりに寄り添う。ヒョンジュはひとり生き延びるチャンスがあったにも関わらず、ふたりを救いに戻ろうと危険な場所へと踵を返す。「2」と「3」を通して、パク・ソンフンは、身体をはって人々を護り、その人間味あふれる演技によってヒョンジュというキャラクターの存在がどれほど尊いものであったかを私たちの心に焼き付けるのだ。
また、もっともつらい状況に至ったクムジャが、ギフンや、ジュンヒを励ます言葉も忘れ難い。責任を感じて後悔し、苦しんでいる人に対して「あなたのせいではない」と言うのは簡単だが、そこに「選択」という言葉が入ることでどれほど説得力が増すことか。どんな行動も、どんな結果も、それは人が何を「選択」したかに関わって来るものなのだ。このクムジャの言葉は、茫然自失のギフンを我に返させると共に、終盤に向かい、彼がどのような「選択」をするのかという新たな見どころを作ることになる。
「2」ではそのひ弱さが目立ったチョ・ユリ演じるジュンヒは、強い意志を持つ、重要なキャラクターへと変貌する。一方、ジュンヒの元カレ役のイム・シワンは、ただのずる賢い卑しい男か、それとも誠実な面もある男なのか、観る者を困惑させるキーパーソン的なキャラクターを巧みに表現している。
各ラウンドの間に競技の継続を決める投票は2では作品のハイライトとしての効果があったが、3ではもはやむなしいだけのものに成り下がっている。にも拘わらず、投票は続けられ、多数決でゲームが続けられることが決まると、継続を希望したプレイヤーたちは「民主主義に乗っ取った公正な結果」と何度も自慢げに言う。この言葉が皮肉として使われているのは言うまでもない。
罪の意識もなく平気で他人を蹴落とす絵に描いたような貪欲な男たちが、勝ち続ける。彼らは民主的な話し合いを拒否し、ゲーム継続ありきで強引に物事を進めて来た者たちだ。弱き者への思いやりがないのは勿論のこと、倫理観にも欠ける。いつでもどんな時でも自分の利益のために他人を蹴落とそうと考えている。社会はこうした力を持つ人間によって、動かされており、小さな善意や良心的な声はかき消されてしまう。だが、彼らとて、『イカゲーム』シーズン1と同様、仮面をつけたVIPによって娯楽として見下ろされ消費されているのだ。まさにこの社会の縮図とでもいうべき光景は、不愉快で観るのがつらくなってくるほどだ。
残酷なサバイバルを、懐かしい遊びを連想させるゲームと融合させて描き、世界的大ヒットとなったNetflixドラマシリーズ『イカゲーム』。シーズン1では、確かに出演者も魅力的だし、十分楽しめる仕上がりになっているが、韓国の映画やドラマならもっと面白いものもあるのに、なぜこれなのかと正直、感じたものだ。しかし、シーズン2で社会の分断を描き、人間の生き方や次世代への思いなどを込めたシーズン3を見終えた今、ただの悪趣味の作品ではない、今ある世界を戯画的に描いたエンターティンメントの堂々たる秀作であると認めざるを得ない。
ラスト、意外な出演者が登場し驚かされる。アメリカを舞台にした続編が期待されるところだが、実現するなら、フロントマンこと、イ・ビョンホンが出演することを願っている。彼は、今回のゲームにおいて、人生観を変えるような光景を見たはずなのだ。金銭的な罪滅ぼしのような行動だけでお茶を濁すのではなく、ギフンが残したメッセージを活かす場所があってもいいはずだ。