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韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』あらすじと解説/韓国を揺るがした火災事件を基に、救助のために炎に飛び込む消防士たちの闘いをチュウォン等、個性豊かなキャストで描く

映画『消防士2001年、闘いの真実』は、2001年に韓国で実際に起きた「弘済洞火災惨事事件」をもとに、劣悪な環境にもかかわらず、一人でも火災現場に取り残された人がいれば炎に飛び込んでいく消防士たちの闘う姿を『友へ チング』(2001)のクァク・キョンテク監督が人間味豊かに、リアルに描いたヒューマンドラマだ。

 

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Netflix映画『カーター』(2022)やドラマ『グッド・ドクター』(2013)などで知られるチュウォンが、新人消防士のチョルンを演じ、『哭声 コクソン』(2016)のクァク・ドウォンが隊の班長のジンソプ、映画『声もなく』(2020)や、ドラマ『梨泰院クラス』(2020)のユ・ジェミョンがカン隊長に扮しているほか、『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024)のキム・ミンジェ、ドラマ『秘密の森』(2017)や映画『野球少女』(2019)などのイ・ジュニョク等、韓国を代表する実力派俳優が顔をそろえている。

 

韓国では2024年12月の公開ながら、『破墓/パミョ』、『犯罪都市 PUNISHMENT』などに次いで、年間の興行収入で洋画を除く国内映画トップ5にランクインする大ヒットとなった。

 

目次

 

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』作品情報

(C)©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved.

2024年製作/106分/韓国映画/原題:소방관(英題:The Firefighters)

監督:クァク・キョンテク 脚本:クァク・キョンテク、キム・ヨンデ、チェ・クァンヨン 撮影:イ・ヨンガブ 音楽:モク・ヨンジン

出演:チュウォン、クァク・ドウォン、ユ・ジェミョン、イ・ユヨン、キム・ミンジェ、オ・デファン、イ・ジュニョク、チャン・ヨンナム

 

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』あらすじ

(C)©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved.

新人消防士のチョルンは、ソウル市の西部消防署に配属される。初出勤の日、隊員たちへの挨拶もそこそこに交通事故の現場へと出動するが、訓練とは違う実際の現場に戸惑い、ほとんど何もできず隊員たちの足を引っ張ってしまう。

 

落胆するチョルンだったが、体育会系の厳しくも優しい隊員たちの助けもあり、日々の経験を経て消防士として少しずつ成長していく。そんな中、3階建てのアパートで火災が発生し、チョルンらは現場へ向かった。

 

しかし、火の手は瞬く間に広がり、懸命な消火活動も追いつかず建物は崩壊寸前だった。隊長からは撤収の命令が下されるが、班長のジンソプらは要救助者を発見するため、二人一組に分かれて、一階から3階までをくまなく捜索する。その際、パニックになったチョルンは、窓ガラスを余分に叩き割ってしまい、バックドラフトが起き、ヒョジョンが背中に火傷を負ってしまう。

 

一方、三階に上がった班長のジンソプとヨンテは倒れている女性をみつけ、救出するが、ジンソプは、家具の上にある女性と小さな子供の写真を見て、子供がまだいると確信する。しかし、炎は益々勢いを増し、彼らが背負う酸素ボンベも空に近づいていた。ついにヨンテが子供を発見するが、彼の足元に火が回り、彼は子供をジンソプに投げて渡し、救助を呼ぶようにと叫ぶ。ついに足元の階段が崩れ、彼は宙ぶらりんになってしまう。はしご車で登って来た隊員に子供を預けると、すぐにジンソプは、ロープをヨンテに投げるが、彼はそれを掴めないまま、炎に向かって落下して行った。

 

ヨンテの死は、隊員たちに大きなショックを与え、チョルンは心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされ、休職を余儀なくされてしまう・・・。

 

韓国映画『消防士2001年、闘いの真実』感想と評価

(C)©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved.

映画はチュウォン扮する新人消防士チョルンが西部消防署に初出勤するところから始まる。先輩たちへの挨拶の途中で出動がかかり、チョルンもあわてて車に飛び乗る。交通事故の悲惨な現場に到着するや、隊員たちは、すばやく車から降り、すぐにバックドアが開けられ、隊員たちが次々と必要な道具を手にしていく。これをカメラ固定のワンテイクで撮っている。隊員たちの手際の良さと、きびきびした行動が鮮やかにとらえられ、一秒も無駄に出来ない救助の緊張感がダイナミックに伝わって来る。チョルンは初めての現場で緊張のあまりほとんど動けず、先輩たちの足を引っ張ってしまう。

 

映画の序盤は、そんなチョルンが徐々に環境に慣れ、成長していく姿が描かれている。その過程で、消防士が想像以上に多くの仕事をこなしていることが語られる。火災と救急隊の仕事以外にも、酔っぱらい対応など警察がやるような仕事もこなさなくてはならない。先輩のヨンテ(キム・ミンジェ役)が、警察には連絡しにくいと思う人もいるから、自分たちの出番になるんだと明るく語るように、彼らはクァク・ドウォン扮する班長のジンソプを筆頭に、自分たちを必要とする人のためならどこにでも飛んでいくという信念を持っており、チームは強い絆で結ばれていた。

 

そんな中、チョルンは初めて大きな火災現場に出動する。生存者を助けるため、燃え盛る火の中に入って行く隊員たち。火の手の勢いは増し、チョルンの呼吸音も次第に大きくなっていく。状況の過酷さ、息苦しさが生々しく伝わって来る中、チョルンは必要以上に窓を割ってしまいバックドラフトを誘発、そのせいでヒョジョン(オ・デファン)が背中に火傷を負ってしまう。さらに、酸素が切れる直前まで生存者を捜していた班長のジンソプは、共に行動していたヨンテと共に2人の生存者を見つけて決死の救出作業を行うが、ヨンテの足元に火が回って、階段が崩れ、ヨンテは命を落としてしまう。

 

チョルンはショックで、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされ、無理な救助を行った班長への不信感を募らせる。が、班長と直にぶつかって行く中で、彼の心の内を知ったチョルンは人を救うために自分自身も消防士として生きていこうと決意する。チェウォンは、生真面目なチョルンを繊細に演じ、新人ながらの不器用さと、複雑な感情を揺らしながらも成長していく姿を、抑えた演技で的確に表現している。

 

ヨンテの死は、隊員自身は勿論のこと、その家族にも大きな影響を与えた。ジンソプの妻は、毎日、心が休まる日がないと夫に消防士をやめるよう訴え、ヒョジョンは、近々自分の妹と結婚するギチョル(イ・ジュンヒョク)に妹が苦労するから行政職に移れと忠告するが、仕事に誇りを持っている彼らにとって、現場を離れたり、退職することなど、考えられないことだった。

 

それでも、妻の忠告を聞き、ジンソプは、一年の休職を決心するのだが、そこで事件は起こる。火災の通報があり、西部消防署の隊員たちはただちに現場へと向かった。違法増築を繰り返した迷路のような古いビルが炎に包まれていたが、違法駐車や二重駐車した車で道路がふさがっており、消防車が前へ進めない。

 

この火災は、2001年3月4日に発生した「弘済洞火災惨事事件」を基にしている。家主の男が保険金目当てに放火し、救助にあたった6人の消防士が死亡した事件だ。

 

クァク・キョンテク監督はこの20年前の火災事件を通じて、市民の命を守るために迷わず火の中に飛び込んで行った消防士たちの姿を伝えると共に、当時の消防士たちのおかれた過酷な状況を告発している。

彼らの装備は劣悪で、作業服は防水加工されてはいるが、防火対策はなされていない。手袋には予算がつかず、普通の軍手のようなものを使用するという信じられないような状態で、見るに見かねてユ・ジェミョン扮するカン隊長が、自腹でドイツ製の耐熱手袋を隊員のために購入するというエピソードが綴られている。このようにまったく安全に配慮されていない状況にも係わらず、消防士は生命保険に入ることもできないのだ。また、消防車の行く手を阻む、違法駐車にたいしても、警察と違い、消防士には、移動の権限もないのだ。

 

彼らは長い長い消防ホースを持って走り、放水へと向かう。劇中、これが何度も繰り返される。火の手が大きくなり、崩落の危険があるにも関わらず、人がまだいると聞いた彼らは炎の中に飛び込んでいく。

 

火災シーンは恐ろしいほどリアルで、煙が画面を覆い、炎が建物を飲み込んでいく。まるで怒り狂う怪物のようだ。火の使用は安全第一をモットーに、細心の注意を払って行われた。本作における火の活用とCGの割合は半々だという。

 

クァク・キョンテク監督は、消防士たちをスーパーヒーローや英雄として描くのではなく、それぞれに悩みや葛藤を抱えたひとりの人間として描いている。そこに、恐怖や喪失感といった職業的苦悩も含まれているのは言うまでもない。それでも懸命に生存者を捜す彼らの姿には誰もが心揺さぶられるだろう。なんとかこの人たちが助かりますようにと願わずにはいられなくなるのだ。

 

観客には、中に取り残されていると言われている男は放火犯で、もう中には誰もいないことが分かっている。それゆえに無線で必死に「早く出てこい!」と叫び続けるカン隊長の声は、映画を観ている私たちの心の叫びでもある。

 

「弘済洞火災惨事事件」は、消防士の安全対策の著しい欠如、作業員への支援の圧倒的不足を浮き彫りにし、その後、対策が取られたが、消防士が国家公務員に指定されたのは2020年になってからだという。それまでは公務員として扱われていなかったことに驚かされる。劇中、ジンソプは政治家に直に改善を訴えているのだが、まともな声として取り扱ってもらえない。大きな悲劇が起きないと、改善されないのは、利益追求主義社会が持つ大きな欠陥だろう。これは韓国だけではない、私たちの問題でもあるのだ。

 

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