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Netflix映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』あらすじと感想/キャスリン・ビグローが描く“核の30分間”

Netflix映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、突如発射された正体不明のミサイルをめぐるわずか30分間の攻防を、徹底的なリアリズムで描く政治スリラーだ。

アカデミー賞を受賞した『ハート・ロッカー』(2008)や、『ゼロ・ダーク・サーティー』(2012)で知られるキャスリン・ビグロー監督が、『デトロイト』(2017)以来となる長編映画で再び社会の暗部に切り込む。
脚本は、元NBCニュース社長であり、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016/パブロ・ラライン監督)やNetflixドラマ『ゼロデイ』を手掛けたノア・オッペンハイムが担当。

 

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主演はホワイトハウスの危機管理室のオリビア・ウォーカー大尉役のレベッカ・ファーガソン(『デューン』)、副補佐官を演じるガブリエル・バッソ(『ナイト・エージェント』)、そして大統領役にイドリス・エルバ(『ルーサー』)。

 

緊迫の室内劇の中で、彼らが背負う「国家の決断」が、ビグロー特有のリアリズムとともに観る者の胸をえぐる。
『ハート・ロッカー』の緊張感と『ゼロ・ダーク・サーティー』の知的スリルを融合させた、ピグロー監督の真骨頂といえる一作である。

 

目次

 

Netflix映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』作品基本情報

(C)Netflix

作品名:『ハウス・オブ・ダイナマイト(原題:House of Dynamite)』

監督:キャスリン・ビグロー

脚本:ノア・オッペンハイム(『ジャッキー』『ゼロデイ』)

出演:レベッカ・ファーガソン、ガブリエル・バッソ、イドリス・エルバ、グレタ・リー、ジャレッド・ハリス、ジョナ・ハウアー=キング、グレタ・リー、トレイシー・レッツ、ジェイソン・クラーク

製作国:アメリカ

配信:Netflix(2025年)

 

Netflix映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』あらすじ

(C)Netflix

 

アラスカの軍事基地がミサイル発射を感知し、そのメッセージはすぐに指揮系統に伝えられた。ミサイルはなぜか衛星のカメラをすり抜けたらしい。ホワイトハウスの危機管理室のオリビア・ウォーカー大尉(レベッカ・ファーガソン)は、ミサイルとみられる弾道の推定軌道の算出、報復の標的の特定などの指揮にあたる。

ミサイル実験はよくある光景であり、おそらく北朝鮮がまた日本海に向けてミサイルを発射させているのだと思われた。

しかし、ミサイルが準軌道に到達し、中部アメリカに着弾すると予測されると危機管理室の人々の顔色が変わった。とんでもないことが起こっている。これはアメリカに対する核攻撃だ。一体どの国が仕掛けて来たのか。あと十数分ほどでミサイルはシカゴに着弾するという。しかし手立てはある。GBI(地上配備型迎撃ミサイル)で撃ち落とせばいいのだ。

ただちに政府や軍の高官者たちに連絡が行き、GBI使用の許可が下りた。皆は固唾をのんで経過を見守るが、アラスカの基地から発射されたGBIは二発とも失敗したという報告が入る。

 

やがて映画は時間を巻き戻し、別の視点から再び同じ30分を映し出す。ホワイトハウスへ向かう副補佐官ジェイク(ガブリエル・バッソ)、休暇中の専門官アナ(グレタ・リー)、そしてシカゴのみならず地球の運命を握るアメリカ合衆国大統領(イドリス・エルバ)。それぞれの立場で迎える“終わりの30分”が交錯し、報復か沈黙か──究極の選択が迫られる。

 

Netflix映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』感想と評価

リアリズムに徹した“見えない戦争”

(C)Netflix

ミサイルが発射された。誰が発射したのか、誰にも分からない。当初はよくあるミサイル実験だと思われていたが、弾道の推定軌道を図ったところミサイルはアメリカに向かっていることが判明する。このままではミサイルは20分も経たないうちにシカゴに着弾し、壊滅的な被害を受けるだろう。ただちに政府高官が意見を交わし合い、GBI(地上配備型迎撃ミサイル)の使用が許可される。アラスカの軍事基地からGBIが発射され、人々は固唾をのんで結果を待つが・・・。

 

キャスリン・ビグロー監督の新作『ハウス・オブ・ダイナマイト』は核戦争の脅威が再び高まっており、核所有が抑止力に繋がっていた時代が終わったことを告げている。

ビグロー監督は、爆弾や災害シーン、あるいは猛烈なスピードでアメリカ大陸に向かう核弾頭ミサイルといったスペクタクルなものを一切、描かず、事態に対処しようとするプロフェッショナルな人々や政治家の動向をドキュメンタリー的なアプローチで描いている。

私たちはアメリカ合衆国の危機対応の仕組みの中へ導かれ、登場人物たちが室内の巨大なスクリーンを不安げに見守るのと同じように、映画を凝視することになる。

 

ミサイルが感知された当初、オリビア・ウォーカー大尉(レベッカ・ファーガソン)をはじめ、ホワイトハウスの危機管理室に勤務する人々は、まず誤報を疑い、次によくあるミサイル実験であろうと思い込もうとした。アメリカが核弾頭ミサイルで攻撃されるようなことが実際に起ころうとは思ってもいなかったというのが正直なところだろう。そんなことが起きないように彼女たちは日々働いているのだから。

まさか、という驚きと共に、一体どうなるのかという不安が徐々に大きく膨らんでいく様が恐ろしいほどの緊迫感を持ってリアルに迫って来る。

 

キャスリン・ビグロー監督は、『ハート・ロッカー』(2008)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)を手掛けた時のように今回も、軍事・政治システムを綿密に調査し、ワシントンD.C.の権力の中枢で働く人々が直面する危機的状況を背筋が凍るほどの生々しさで描いている。

 

繰り返される30分が突きつける決断の重み

(C)Netflix

ミサイル探知から始まる物語はわずか30分ほどだ。だが、ミサイルの着弾まであとわずかと迫る中、映画は巻き戻され、同じ30分ほどの出来事を最初から別の視点で映し始める。

今回、焦点が当たるのは、最初のパートでは危機管理室の巨大スクリーンの分割されたひとつの枠の中でホワイトハウスに徒歩で向かいながら会議に参加していた国家安全保障局(NSA)副補佐官ジェイク・バリントン(ガブリエル・バッソ)や、休暇中で息子と共にゲティスバーグの再現イベントの見学に来ていたグレタ・リー扮するNSAの北朝鮮専門家アナ・パク等だ。彼らは上層部にそれぞれの専門知識から導き出した見解を伝え、よりよい解決策を見つけようとする。

もはやアメリカが攻撃を受けていることは世界の知るところとなり、ロシアからかかってきた電話にジェイクは大統領代行として応じ、今後の対策の交渉と相手の説得に尽力するが、ロシア側は大統領と話さないと埒があかないと電話を切ってしまう。このパートでは大統領は声だけでしか登場せず、姿は見えないままだ。

 

そしてさらに時間は巻き戻され、第三章が始まる。大統領が子供たちによるバスケット大会に来賓として出席し、和やかに子供たちと交流する姿が描かれている。爽やかで温厚そうな黒人大統領を演じているのはイドリス・エルバだ。Amazon Prime Video配信映画『ヘッド・オブ・ステイト』では英国首相を演じていたことが記憶に新しい。

 

彼はイベントの途中でミサイルのことを知らされ、あわただしく護衛たちに連れ出される。窓のない軍用飛行機に乗せられた大統領の傍には大きな大統領緊急用バッグを持った若き海軍司令官(ジョナ・ハウアー=キング)が控えている。

 

ミサイルが着弾するまでわずかな時間しか残されていない中、大統領は決断しなくてはならない。第二章でジェイク・バリントンとやりとりしていた電話での会話が繰り返される。あの時、大統領はこんな状態だったのだ。

 

隣の海軍司令官が見せる核攻撃対応の様々なシュミレーションを掲載したファイルは、カラフルで、大統領はそれを「レストランのメニューのようだ」と語る。笑えないジョークだ。

 

一体誰が、どの国が、ミサイルを発射したかも不明なのに、疑わしいというだけで、そして第二、第三の攻撃があるかもしれないからという根拠のない理由で米軍ミサイルを発射し報復すべきなのか。ジェイク・バリントンがいうように報復することは「自殺行為」に等しいのだろうか。究極の選択が大統領一人にかかっている。意見を集め熟考するにはあまりにも時間が足りない。大統領に与えられた権限、責任の重さに、改めて思いを馳せる機会を映画は与えている。

 

ビグローが描く「ダイナマイトの家」

(C)Netflix

一方でこの章ではジャレッド・ハリス扮するベイカー国防長官がシカゴで暮らす娘を心配しているように、政府の中枢にいるプロフェッショナルな人々が、それぞれの大切な家族に思いを馳せ絶望にかられる人間的な面が描かれている。

その中で、核攻撃の際に、大型核シェルターに入ることが許されている人々の移動が始まる。国家の重要人物とされる人々だけが生き残れる、究極の生命の選択の姿だ。

これらの事柄は一巻して粛々として行われる。大きな声で取り乱す人はほとんどいないといってもいい。プロフェッショナルに鍛え上げられた人々の冷静さが際立っているが、それにしても、これほど優秀な人々が、常に危機感を持って、ことにあたっていたとしても、何者かによってひとたび核弾倉ミサイルが発射されてしまえば、なす術がないことに愕然としてしまう。頼みの綱であるはずのGBIも、飛んでくる弾丸を弾丸で撃つようなもので、かなり高く見積もっても60パーセントの成功率しかないという。万全だったはずのシステムの脆弱性が浮かび上がって来る。

 

キャスリン・ビグロー監督は、結末を描かず映画を終わらせることで、私たちに多くを思考させる。大切なのは常日頃の国家同士の対話であり、誰を国家の代表として選ぶかがやはり最も重要であるというような教訓を。

 

だが、ともかく、これほど恐ろしい映画はない。私たちは映画の登場人物がつぶやくように「ダイナマイトの家に住んでいる」ことを痛感するのだ。

 

まとめ

(C)Netflix

『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、単なる核スリラーではなく、現代社会の不安を突きつける政治映画だ。
国家のシステムに身を置く人々の“冷静さ”と“無力さ”を描きながら、観る者に「私たちは今、どんな場所に住んでいるのか」と鋭く問いかけてくるのである。

 

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