デイリー・シネマ

映画&海外ドラマのニュースと良質なレビューをお届けします

韓国映画『死を告げる女』あらすじ・感想/ チョン・ウヒ演じるトップキャスターを襲う本当の恐怖とは!?

「娘と私は殺される」―ある日、報道局の女性キャスターあてにかかってきた一本の電話。電話の女性が語った住所に赴いたキャスターは母子の遺体を発見する。

スクープを手にしたキャスターは事件の真相に近づこうとするが・・・。

 


www.youtube.com

 

映画『死を告げる女』は、競争社会の中でしのぎを削る女性の深層心理を巧みに映し出しながら描く新たなサスペンス・スリラーだ。

 

『哭声/コクソン』、『悪の偶像』のチョン・ウヒが花形ニュースキャスターを演じ、謎めいた精神分析医に『僕の特別な兄弟』、ドラマ『悪を超えて』のシン・ハギュン、ヒロインの母親にホン・サンスの『あなたの顔の前に』などのイ・ヘヨンが扮している。

 

目次

 

映画『死を告げる女』の作品情報

(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

2022年製作/111分/G/韓国映画/原題:앵커(英題:The Anchor)

監督・脚本:チョン・ジョン 撮影:カン・ミンウ 編集:チョン・ビョンジン 音楽:チャン・ヨンギュ

出演:チョン・ウヒ、シン・ハギュン、イ・ヘヨン、チャ・レヒョン、ナム・ムンチョル、パク・ジヒョン

 

映画『死を告げる女』あらすじ

(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

生放送5分前、テレビ局YBCの9時のニュース・アンカーを務めるセラのもとにユン・ミンと名乗る女性から情報提供という名目で電話がかかって来た。

 

セラが電話に出ると、「変な男に付け回されている。私も娘も殺されるかもしれない」と怯えた声が聞こえてきた。セラは住所を尋ね、警察に連絡するので安心するようにと告げるが、女性はセラに来てくれませんか?と頼み、セラを困惑させる。

 

もし殺されてもあなたが来てくれて報道してくれれば、自分はそれで本望だ、という女の話はにわかには信じ難く、セラはいたずら電話と判断し受話器を置こうとするが、子供はもう死んでいると女が呟くのを聞いて問いただそうとするも、電話は切られていた。

 

この電話のことがずっと頭の隅に残り、珍しくその日は本番中に言葉に詰まってしまう。家に戻ると母ソジュンから放送中の失態について小言を言われてしまう。セラが本番直前に奇妙な電話がかかってきたせいだと答えると、母はスクープを掴むチャンスかもしれないと言う。

 

セラは半信半疑で、メモした住所を訪れた。激しく雨が降る中、セラは階段を降りYBCのものだと名乗りドアをノックする。しかし返事はない。

 

ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。恐る恐る部屋に足を踏み入れ、暗い中を進んでいくと、なぜか部屋は水浸しだ。

 

浴槽を覗くと人の腕が見え、子供が死んでいるのがわかった。セラは恐ろしさで思わず後退りするが、そのままさらに奥の部屋へと進み、メモしてきた電話番号にかけてみると、奥の部屋で携帯が鳴っているのが聞こえた。そこでセラは女が首を吊っているのを発見する。

 

到着した警察に拠ると事件と自殺の両方の可能性があるという。まもなく放送局の車が到着し、セラは気丈に近隣の住民にインタビューするなど情報収集に励んだ。

 

テレビ局は9時のニュースでこの母子が死亡していた事件を大々的に特集。セラのもとにかかってきた電話の音声を公開した。

 

事件は大きな注目を集め、セラは一躍時の人となった。番組の改編期にあたる今、この事態はセラにとって9時のニュースのアンカーの座を死守するものになりそうだった。

 

しかし、セラは死んでいた女性のことが頭から離れず、そのことを同僚に相談する。同僚は「ちゃんと顔を見たか?」と尋ねてきた。彼自身、亡くなった人の顔を見なかったがためにずっとその人のことが頭から離れなくなったという。セラも死んだ女性の顔を見ていなかった。

 

事件から数日が経過し警察は母子が将来を悲観して無理心中を図ったと断定した。誰かが侵入した形跡もない上に、ユン・ミンには精神疾患があったという。

 

セラはその発表に納得することができず、再び事件現場を訪れる。すると、男がひとり、部屋に入ってきて、何かを探しているのが見えた。

 

セラはあわてて担当のキム刑事に電話。駆けつけた刑事は男のことをよく知っているようで、しばらく押し問答したあと男を開放した。

 

セラは、人が死んだ部屋に侵入するなんて明らかに怪しいと抗議するが、男は精神科のチェ医師でユン・ミンの主治医だと聞かされる。

 

キム刑事は過去の出来事もあるから彼を疑っていないわけではないとセラに説明した。何年か前に彼の患者が診察室から飛び降りて死亡するという事件があったのだそうだ。セラは彼に対する疑いを深めていく。

 

そんな中、セラはニュースの本番中、大きな失態を犯す。主任からは数日間番組をはずすと告げられてしまう。

 

家に戻ると母が「私に対する腹いせのためにわざと失敗したのか」とセラを詰った。母は大事な時期に子供を産んだりするなだとか夫と早く離婚しろと迫るなど、セラに過度な干渉を繰り返していた。

 

セラはチェ医師が催眠療法士であることを知り、彼のところへ出かけていくが・・・。

映画『死を告げる女』感想と評価

(C)2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

雨が激しく降り、水で溢れる溝沿いにカメラがゆるゆると進んでいくオープニングからただならぬ気配が漂っている。ライトに照らされた水の側面は時に赤く光り、見方によっては血がどくどくと流れているようにも見える。

 

カメラはそのまま上方にパンし、ある家の窓の前で止まり、次いで場面切り替わって、部屋の内側から窓と、眠っている女性を捉える。暗闇の中、音がする。ドアを開けようとする物音、靴音、一瞬、ガラスに男のシルエットが浮かぶ。誰かが家に入ろうとしている。目覚めた娘を女性は抱きしめることしかできない。

 

予告編を観た時からナ・ホンジン監督の『チェイサー』(2008)路線のスリラー映画として楽しみにしていたが、まさに期待通りのオープニングといえるだろう。

しかも主演がナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』(2016)で謎の女を演じたチョン・ウヒなのだ。イ・スジン監督の『悪の偶像』(2019)でも強烈な印象を残した彼女。今回彼女が演じるのは、大手放送局の看板番組「9時のニュース」のアンカーを務めるトップアナウンサーだ。

 

放送開始5分前に彼女にかかってきた電話は冒頭の女性と思しき人物である。女は「殺されるかもしれない。うちに来てほしい」という言葉を残す。心配してというよりは、キャリアになんらかの足しになるかもしれないという下心でヒロインは動き、母子の遺体を発見することになる。

 

無理心中だったとする警察の発表はにわかに信じがたい。そこにいかにも怪しげなシン・ハギュン扮する精神科医が登場する。逆光で顔のよくみえないシン・ハギュンとスポットライトを浴び不特定多数の人間にその顔を知られているチョン・ウヒ。対象的な顔を持つ2人が対峙し交錯し合うことで、物語はより複雑になり、驚くべき真相が浮かび上がってくる。

 

画面を観ながらどうも何かがおかしいという違和感が常につきまとうが、その違和感の正体を知ろうとする度に映画は加速度を増し、観る者を煙に巻く。最終的に真相が明らかになった時、全てに伏線が貼られ、きちんとヒントが与えられていたことに気づくだろう。

 

禍々しいスリラー、事件の真相を追求していくミステリーとしての面白さは勿論のこと、本作で重要なのは、競争社会の中で活躍する女性たちの心理が克明に描かれている点だ。

 

トップアナウンサーといえども番組の改編期には常に降板させられる可能性がある。熾烈な競争社会の中でトップであることを守り続けることのプレッシャーは想像を絶するものだろう。

 

とりわけ女性は、結婚、出産、育児といった事柄がキャリアを否応なく中断させる現実がある。本来なら幸せと喜びの源にもなるであろうものが重荷や負担になり、極端な場合はトラウマにさえなる。

 

このような働く女性の本音ともいうべき作品を作り上げたのは女性監督のチョン・ジョンだ。本作が彼女の長編映画監督デビュー作である。

昨今、パク・チワン監督の『ひかり探して』(2020)や、ソ・ユミン監督の『君だけが知らない』など女性監督が、フィルム・ノワールやミステリー&スリラーというジャンルに挑戦し、女性の人生や生き方をテーマとして描いた作品が増えている(韓国映画以外でならオリビア・ワイルド監督の『ドント・ウォーリー・ダーリン』が挙げられるだろう)。

 

本作もその流れにあるといえるが、本作が描いているのは、男性社会の中で女性のキャリアが切断されること自体が女性にとってホラーであるということだ。

 

子を通して自分の夢を叶えようとする母親や、妻の人生の目標や夢といったものにはまったく関心がない夫といった存在も、長年女性がかけられて来た呪いといえるのかもしれない。そうした存在がどれほど人を追い詰め、疲弊させるかは本作を観れば明らかだろう。

 

そういう意味で、本作は女性のリアルな現実を、全編「悪夢」として表現したホラー映画なのだ。

 

 

 

※当メディアはアフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用し適格販売により収入を得ています。

 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

韓国映画『草の葉』ネタバレ感想/ホン・サンスによる絶妙な人間観察

映画『草の葉』は、韓国の名匠ホン・サンスの22作目の長編監督作だ。

公私に渡るパートナーの女優、キム・ミニが狂言回しの役割を果たし、ある喫茶店にやって来た人々の悲喜こもごもをスケッチしていく。2013年の作品『自由が丘で』の舞台でもある安国駅裏路地で撮影された

 

第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品作品。日本では第19回東京フィルムメックスで初上映され、その後、配信サイト「JAIHO」で、『あなた自身とあなたのこと』(2016)、『川沿いのホテル』(2018)などと共にホン・サンス特集として配信された。

 

目次

映画『草の葉』作品情報

(C)2017 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERV

2018年製作/66分/韓国/原題:풀잎들(英題:Grass)/監督・脚本:ホン・サンス

出演:キム・ミニ、コン・ミンジョン、アン・ジェホン、キ・ジュボン、チョン・ジニョン、ソ・ヨンファ、キム・セビョク、シン・ソクホ、ハン・ジェイ、ユ・ヨン

映画『草の葉』あらすじ・ネタバレ感想

(C)2017 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERV

植木鉢がたくさん並んだ静かな路地を大きなリュックを背負った女性(コン・ミンジョン)が歩いてきて、角の小さな喫茶店に入っていく。その様子を観ていたテラス席の男は立ち上がり、タバコを吸いながら植木をのぞいている。

 

場面変わって、2人の男女が向かい合って座っている。一人は先程の女性。もうひとりは女性と同じくらいの年の男性(アン・ジェホン)だ。カメラは固定されていて、長回しで2人が会話する様子を撮っているが、ホン・サンスらしいカメラワークで、唐突にズームで人物に寄ったり、会話する人間にあわせてカメラが右へ左へ動いたり、一方の人間をクローズアップでとらえたりしている。どうやら彼らには共通の友人がいて、その女性は亡くなっているらしい。会話している女性はそのことを悔やんでいて、彼女を殺したのはあなただと男性を詰り、男性は「そのいい方はひどい」と抗議している。カットが変わると、キム・ミニ扮する女性がMacBookを広げている。大声で言い合いをしているカップルについて考えたことを書き付けているのだ。

 

喫茶店では様々な人々がそれぞれの会話を交わしている。そうした会話を盗み聞いた作家が、そこからまた多様な想像をする作品は少なくない。が、しかし、キム・ミニはそこで行われている人間の会話のみに集中している。別に小説の題材というわけでもなく小説家になるつもりもないらしい。

 

彼女を一種の狂言回しとして、この空間に集う人々の姿がクローズアップされる。前述した男女以外にも、劇団の団長と喧嘩して飛び出し、自殺未遂した上に住む家もなく、後輩(ソ・ヨンファ)の家に間借りできないかと頼む初老の男(キ・ジュボン)がいる。

テラス席に座っていた男(チョン・ジニョン)は俳優だが脚本も書いていて、脚本家の後輩(キム・セビョク)に済州島に10日ほど行って一緒に脚本を書いてみないかと誘っている。その後、この男はキム・ミニのところに行き、唐突に10日ほど日常生活を観察させてほしいなんてことを言っている。

こうした男たちの頼みは実にずうずうしく映り、嫌悪感さえ覚えるが、女たちははっきりと拒否している。間借りさせてほしいと頼まれた女性は相手が先輩なだけに申し訳無さそうだが、譲れない部分は断固として拒否だ。男たちの頼みが受け入れられることはない。

 

そういう意味ではキム・ミニと会う弟(シン・ソクホ)も同様だろう。キム・ミニを喫茶店まで迎えに来た弟は別の店に姉を連れて行き、そこで恋人を紹介する。弟は姉と恋人が互いに良い感情を持ってほしいと望んでいたはずだが、最初は調子がよかったのに、途中、なぜか姉が激しく激高しだす。

その店の別の一角では、中年の男性と若い女性が深刻な顔つきで会話している。二人の共通の知人が亡くなったようで、男性は女性が殺したも同然だと責めている。女性は酒に逃げながら、「落ち着いてください」と男に声をかけるが、男は知人の死を惜しみ、感情を抑えることができない。

また、先程、テラス席で俳優の男としゃべっていた脚本家は、好きな人が約束の場所に現れなかったのか、店の階段を降りたり上ったりする。最初は軽やかに降りてもいたのだが、段々と鬼気迫る上り下りになっていく。ここで描かれているのは理性で抑えることのできない「感情の爆発」である。

 

日が落ち、当たりが暗くなってくる。喫茶店には酒が持ち込まれ、店内にいた俳優ふたりが知り合いだったようで、二組が合流して席を共にしている。

その横にキム・ミニがいる。「持ち込みの酒はどうしてこう美味しそうなのだろう」とキム・ミニは綴り、同じ空間にいた最初のカップルもその持ち込まれた酒に敏感に反応している。そればかりか、先程の殺伐としたムードとは一変し、どこかで酒を飲んで今夜一緒に過ごそうという話になっていく。キム・ミニはそれを耳にして、かなり辛辣に彼らを批判する。「死んだ人を出汁にして仲良くなるつもり?」、「自分たちが死ぬことなど考えてもいやしないから毅然としていられる」と。けれどもすぐに「生きている人はちゃんと生きていかなくちゃね」「羨ましい」と続けている。

 

昼から夜まで、彼らはこの喫茶店で一体どれくらいの時間を過ごしたのだろうか。その上、酒とツマミを持ち込まれては店はたまったものではないだろうと考えつつ、人間とは本当に奇妙な生き物であると感じる。喧嘩していた人間がいつの間にかよりを戻したり、悲壮感漂っていた人間が笑みで溢れたり。

 

ホン・サンスによる絶妙な人間観察だ。上映時間66分とは思えない実に濃密な作品に仕上がっている。

www.chorioka.com

『子猫をお願い』のチョン・ジェウン監督によるドキュメンタリー映画『語る建築家』解説・感想

韓国の映画監督チョン・ジェウンが、建築家・チョン・ギョン(1945-2011)に密着した初のドキュメンタリー映画『語る建築家』が、東京と京都で上映!

 

チョン・ギョン氏は順天、鎮海など6つの子供図書館「奇跡の図書館」や、武州公共プロジェクトなどで知られる韓国を代表する建築家だ。本作は氏が癌でなくなる最後の一年に密着して撮影された。

『語る建築家』は、2021年10月に「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021」にてオンライン上映されたが、スクリーンでの上映は今回が初となる。

 

上映は、東京・アテネ・フランセ文化センターで開催される「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2022」(11月19日19時の回)、京都の京都文化博物館フィルムシアターで開催の「京都建築映像祭2022」(12月18日10時30分~の回)にて、それぞれ一回行われる。

京都建築映像祭2022

 

目次

 

チョン・ジェウン監督 filmography

2001年、ペ・ドゥナらが主演した『子猫をお願い』で初の長編劇映画監督デビューを果たす。

『子猫をお願い』は、釜山国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭、香港国際映画祭、大韓民国映画大賞等で多くの賞を受賞するなど国内外で高い評価を得た作品であるだけでなく、韓国の多くの女性監督に多大な影響を与えた作品としても知られている。

20年以上経った現在でも多くの人々に愛され続けている作品だが、このたび、『子猫をお願い』4Kリマスター版が公開されることとなった。2022年12月17日よりユーロスペースほかにて全国順次公開される。

また、老朽化し、再開発が決まった団地に暮らす250匹の地域猫の“お引越し大作戦を描いた2022年制作のドキュメンタリー映画『猫たちのアパートメント』が、12月23日より東京・ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開される。

そのほかの監督作品に、オムニバス映画『もし、あなたなら 6つの視線』の一篇「その男、事情あり」(2003)、『蝶の眠り』(2017)がある。

 

『語る建築家』作品情報

2011年製作/韓国映画/95分 原題:말하는 건축가 (英題:Talking Architect) 監督:チョン・ジェウン 出演:チョン・ギョン

 

『語る建築家』短評

「語る建築家」

韓国の建築家・チョン・ギョンは、安城公民館や子供のための図書館「奇跡の図書館」などの建築で知られている。本作は彼の晩年の姿を捉えたドキュメンタリー映画だ。

「我々に足りないのは身体で感じる体験と良い建築とのふれあいだ」といった彼の言葉で始まるように、チョン・ギョンは饒舌に建築について語り続ける。

それらは、彼が目指している「公共事業」のあり方に関わることが大半だ。韓国・ソウルにおける建築について、彼は非常に手厳しい。そこで暮らす人々を視野にいれていない建築のための建築になっていると怒りを交えて語っている。

 

イルミン美術館でこれまでの作品を振り返る展覧会が開かれることになり、美術館側と時に衝突しながら、準備が進んでいく。この時チョン・ギョンは大腸がんを患っており、「時間がない」状態にある。「死んでから回顧展というのは絶対いやだ」と笑顔を混じえて彼は力説する。

 

この2010年11月11日より開催されたイルミン美術館の個展を中心に『子猫をお願い』のチョン・ジェウン監督が、チョン・ギョンの作品と人となりを穏やかな視点で捉えている。

個展を見終えた人々が、カメラの前で感想を述べている場面では、皆の興奮冷めやらぬ様子が心地よく伝わって来る。

 

「建築は人々の生活を閉じ込めるものではない。人々からあふれるものを大事にしたい」と「建築の持つ公共性を皆に伝えようと孤軍奮闘」した一人の建築家の姿と言葉がしみじみと心を打つ一作だ。建築を通した韓国論でもある。

 

www.chorioka.com

韓国映画『奈落のマイホーム』あらすじ・感想・評価/キム・ジフン監督が手掛けるシンクホールからの決死のサバイバル劇

地盤沈下により突如現れたシンクホール(巨大陥没穴)によって、せっかく手に入れたマイホームと共に奈落の底に!

地下500メートル下に落下した人々は地上に戻ることが出来るのだろうか!?


www.youtube.com

 

超高層ビル火災を扱った『ザ・タワー 超高層ビル大火災』や、『第7鉱区』を手掛けたキム・ジフンが監督を務め、キム・ソンギュンチャ・スンウォン等、個性派俳優が顔を揃えた決死のディザスター・パニック・ムービー『奈落のマイホーム』

 

2021年韓国映画興行収入第2位の大ヒットを記録というのも納得の面白さ。

第74回ロカルノ国際映画祭、第27回サラエボ映画祭など、様々な国際映画祭に招待され、第20回ニューヨークアジア映画祭では閉幕作に選ばれている。

 

目次

 

映画『奈落のマイホーム』の作品情報

(C)2021 SHOWBOX AND THE TOWER PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

2021年製作/114分/G/韓国映画 原題:싱크홀(英題:SINKHOLE) 監督:キム・ジフン  美術:キム・テヨン

出演:チャ・スンウォン、キム・ソンギュン、イ・グァンス、キム・ヘジュン、ナム・ダルム、キム・ホンパ、コ・チャンソク、クォン・ソヒョン、イ・ハクジュ、キム・ジェファ、ハン・ヘリン

 

映画『奈落のマイホーム』あらすじ

(C)2021 SHOWBOX AND THE TOWER PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

平凡なサラリーマンのドンウォンは、11年の節約生活を経て、ソウルに念願のマンションを購入。いよいよ今日は引っ越しの日だ。

 

ところが朝から生憎の雨で、しかもマンションの前に車が止められていて荷物を運び込めないアクシデントが発生。

 

車の持ち主に連絡をとっても、まったく返信がなく、困り果てたところに、やっとマンションから一人の男が出てきて、車を移動。ようやく荷物を入れることができるようになった。

 

「なぜ電話にでないのですか?」とドンゥオンが尋ねると、男は朝早くから起こされておまけにガソリンも消費されたと憎まれ口を利き、二人はにらみ合う羽目に。

そこにドンゥオンの息子がやってきて、男に元気に挨拶したことで、なんとか場はおさまったが、ドンゥオンと男=マンスはこの後もなにかと顔をあわせる機会が多く、互いにぎくしゃくしていた。

 

広々とした部屋にくつろぐ家族3人だったが、息子が床にビー玉を置くと、なぜか転がっていく。まさかとは思うが家が傾斜しているのではないかと疑うドンゥオン。おまけに水の出もよくない。よく見ると、マンションの壁にも亀裂のようなものが見えるではないか・・・。

 

そんな中、ドンウォンは会社の同僚を招き“引っ越しパーティー”を開くが、部下のうち2人が飲みすぎて、家に泊まることになった。

 

翌朝、大雨で巨大陥没穴《シンクホール》が発生。マンション全体と住人たちを僅か1分で飲み込んでしまう。

 

ドンウォンは反りの合わないマンスと、不運な2人の部下と共に地下500メートル下に落下。なんとか命をつなぎとめたドンゥオンたちは地上と連絡をとろうとするが、携帯がつながらない。

 

近隣の住民の報せを受け、救助隊がやってくるが、二次災害の危険があり、思うように救助は進まない。

 

そして実は、一旦は母親と出かけたが、また一人で戻ってきたドンゥオンの息子がひとり陥没したマンションの別の階に閉じ込められていた。ドンゥオンはまだそのことを知らずにいた・・・。

 

映画『奈落のマイホーム』感想と評価

(C)2021 SHOWBOX AND THE TOWER PICTURES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

有毒ガステロにあった街の高層ビルに取り残された人たちが脱出を試みる『EXIT』や、地上108階建ての超高層複合ビルの火災を扱った『ザ・タワー 超高層ビル大火災』など、韓国映画はこれまでにも多数のパニック映画を制作してきた。

危機からの脱出という意味では、内戦の起こった国から大使館の人々が命がけの脱出を図る『モガディシュ 脱出までの14日間』も忘れてはいけないだろう。そうした系譜の中、本作が扱う災害は、「シンクホール」だ。

 

シンクホールとは、石灰岩がなんらかの作用で浸食されてできた陥没穴のことで、韓国では大きさの差はあれど年間900件も発生していると言われている。

イ・オクソプ監督の『なまず』(2018)でも、道路が突然陥没し、ク・ギョハン扮する青年が穴に落ちていた場面が記憶に新しい。

 

監督を務めたのは、前述した『ザ・タワー 超高層ビル大火災』のキム・ジフンだ。『ザ・タワー』は、韓国版『タワーリング・インフェルノ』と称されるだけはある手に汗握る王道のパニック映画で、犠牲者も多数出るリアルでシリアスな作品だったが、『奈落のマイホーム』の前半は、実にのほほ~んとしている。

 

前半だけというよりは、全体に、コメディタッチに仕上がっていて、生死をかけたサスペンスとコメディが両立してしまうところに、韓国映画独特の味わいがある。鑑賞する者は、スリルとサスペンスと涙と笑いというあらゆる感情を覚えることになるのだ。これぞ韓国映画の醍醐味といえよう。

 

前半部分に話を戻すと、のほほんとしているだけでなく、韓国の住宅事情問題もさりげなく盛り込まれている。ソウルに家を持つことの大変さ、住民間トラブル、欠陥住宅といったテーマでもいくつか作品ができそうなくらいだ。

しかし、映画は中盤、一挙にシンクホールによる災害とそこからの脱出へとなだれ込んでいく。主人公たちは地下500メートル下にマンションごと陥落してしまう。

 

そこからの試練はまるで死者が地獄の裁判を受けて回る「神と共に」(2017~2018)シリーズを想起させるほどだ。水や泥が人々を襲い、どんな場所も安全とはいえず、常に落下の危機がある。

 

奈落の底におちた人々は皆、平凡な市民で、ひとりもスーパーマン的な人物は存在しない。そんな彼らが互いに助け合い、強力し合いながら、信頼を深めて行く姿はじわりと胸を打つ。また、パニック部分においても、脱出に向かう経路においても作り手が繰り出す豊富なアイデアには、一瞬たりとも退屈する隙きがない。“イエローサブマリン”なんて誰が想像しただろうか。

 

さらに、前半部分のさりげないやり取りが、もっともシリアスな場面で使われる猛烈なおかしさには吹き出さない方がおかしいくらいで、この点は是非映画館で確かめて欲しい。

 

『悪いやつら』(2012)で強烈な印象を残し、最近ではドラマ『D.P. 脱走兵追跡官』の中佐役など、数多くの作品に出演しているキム・ソンギュンが、主人公のドンゥオンを演じ、反りの合わない隣人マンスを『毒戦 BELIEVER』(2018)、『がんばれ!チョルス』(2019)などのチャ・スンゥオンが演じている。ふたりの関係の変化もみどころのひとつだ。

 

ただし、それでも犠牲は出てしまう。どのような人々が犠牲になったのか、キム・ジフン監督は、そうした現実もしっかり描写している。

(文責:西川ちょり)

 

※アフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用しています
 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』公開!/ 極悪非道の悪役を演じ話題の俳優ソン・ソック出演ドラマ&映画5選!

(C)ABO Entertainment Co.,Ltd. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION

マ・ドンソクが強力班の怪力刑事マ・ソクトに扮し、警察と韓国ヤクザ、中国マフィアによる三つ巴の抗争を描いて大ヒットとなった映画『犯罪都市』(2017)。

あれから四年、その続編『犯罪都市 THE ROUNDUP』が2022年11月3日より全国公開されている。

 

前作も悪役のユン・ゲサンがめちゃくちゃ強くて恐ろしかったのだが、今回の悪役もさらに強力だ。

極悪非道のナイフ使いの犯罪人カン・ヘサンを演じているのは、ドラマ、映画で活躍し、人気、実力ともに、急上昇中の俳優、ソン・ソックだ。Netflixで配信されているドラマ『私の開放日誌』でファンになった方も多いだろう。

 

ここではそんなソン・ソックの魅力が詰まったこれまでの出演作をセレクトしてみた。

 

目次

 

ソン・ソックのプロフィール

ソンソック(손석구)

1983年生2月7日生まれ。中学時代からアメリカに留学し、シカゴ芸術大学に進学。ドキュメンタリー監督を志す。その後、演技の勉強を開始し、韓国へ戻り舞台俳優として活動。2014年の舞台『愛が燃える』では俳優として出演すると共に、芸術監督もこなした。

32歳のときに仏韓合作『Black Stone(原題)』(2015)で映画デビューを果たす。悪役からラブコメまで様々な役柄を幅広く演じて俳優としての階段を確実に登り、2022年に放送されたドラマ『私の解放日誌』で謎の男、ク氏を演じて大ブレイクを果たした。

 

ドラマ『サバイバー 60日間の大統領』(2019) 全16話   

出典:tvN

【作品情報】原題:60일, 지정생존자  tvN 演出:ユ・ジョンソン 脚本:キム・テヒ 出演:ソン・ソック、チ・ジニ、イ・ジュニョク、ホ・ジュノ、カン・ハンナ、ペ・ジョンオク、チェ・ユニョン、イ・ハユル、キム・ギュリ(キム・ミンソン)

 

国会議事堂の爆破テロにより、大統領以下の閣僚と現役議員がほぼ全員死亡するという大惨事が起こる。生き残ったのは、ただ一人、たまたま議会を欠席していたKAIST(韓国科学技術院)の元教授で環境庁長官に抜擢されたパク・ムジン(チ・ジニ)だけ。

必然的に彼が「大統領権限代行」として仕事を引き継ぐことになる。次の大統領を選ぶ選挙が行われるまでの期間、ムジンと彼を支える人々が様々な困難に直面しながら、国と家族を守るため尽力する姿がエキサイティングに描かれたドラマだ。

アメリカABC放送局の人気ドラマ『サバイバー: 宿命の大統領』の韓国リメイク作品だが、北朝鮮との戦争勃発危機など、韓国が抱える様々な政治問題、社会問題に焦点があてられており、リアルなポリティカルドラマに仕上がっている。

 

現実の腐敗した政治の世界にはほとほとうんざりさせられているだけに、この理想に溢れた誠実な大統領には、これがフィクションで、一種のファンタジーだと判っていても、肩入れしてしまう。

既存の権力を一掃することでやっと新しい才能にチャンスが与えられ、これまでにない試みが行われることを描いている点で、『シン・ゴジラ』を連想する人もいるだろう。

 

この作品でソン・ソックが演じるのは秘書室長のヨンジンだ。冷静で、有能で、ひとつのスキもないように見える彼が、学級肌であくまでも正義を貫き、誠実さを重んじ、おまけに頑固なパク・ムジンに反発し意見しながらも、支え、心を通わせて行く姿を堂々と演じている。

ひとつのスキもないようなクールな彼が、時折人間らしさを見せる姿が実にチャーミングで、誰もがヨンジンに心惹かれずにはいられないだろう。俳優ソン・ソックの出世作と言ってもいいのではないだろうか。

 

映画『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(2019) 

(C)2019 SHOWBOX AND HODU&U PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

【作品情報】原題:뺑반(英題:Hit-and-Run Squad)韓国映画 133分  監督:ハン・ジュニ 撮影:キム・デギョン 美術:チャン・グニョン 武術監督:ホ・ミョンヘン 

出演:コン・ヒョジン、リュ・ジュンヨル、チョ・ジョンソク、ヨム・ジョンア、チョン・ヘジン、ソン・ソック、キム・ゴウン、イ・ソンミン

 

ラブコメの女王”、“視聴率の女王”などの異名を持つ人気女優コン・ヒョジンが、上層部の圧力で内査課からひき逃げ専門捜査班に左遷された警官ウン・ションを演じ、あるひき逃げ事件と贈収賄事件の背後に隠れた巨悪を追求していくサスペンス・アクション。

ひき逃げ専門捜査班のメンバーは、妊婦のウ課長(チョン・ヘジン)と若い巡査のミンジェ(リュ・ジュンヨル)だけというなんとも小さな部署だが、その捜査方法は独特だが理にかなっていて、ションも大いに刺激される。

ミンジェが追っていた謎多きひき逃げ事件の容疑者として巨大企業JCモーターズの会長を務めるチョ・ジェチョル(チョ・ジョンソク)が浮かび上がり、ションはJCモーターズのパーティーに潜り込みチョ・ジェチョルを内偵。この時に、ションと同席するションの恋人である検事のキ・テホを演じているのがソン・ソックだ。

映画の冒頭では、シャワーを浴びている彼のたくましい上半身姿も映し出されている。検事という、権力のある職業につきながら、彼は常に恋人にリードされ、振り回されている。犯人を追い詰めるために危険な自動車レースにまで出場させられている。このような終始受け身のキャラクターが多くの女性の母性本能をくすぐったのは間違いないだろう。

この作品が作られる以前は、韓国映画は圧倒的に男性俳優が中心で、女性俳優は活躍の場に恵まれないことが多かった。コ・ヒョジンや、彼女の元上司役のヨム・ジョンアが演じた役柄も少し前なら男性俳優が演じていただろう。現在、韓国映画界の女性の活躍は以前に比べて随分向上している。ある意味、本作は女性の活躍を予言する過渡期の映画だったと言ってもよいかもしれない。そんな作品で、エリート男性ながら女性を支える立場のキャラクターを演じたソン・ソックが、その後着実にキャリアを積み上げていったのは必然といえるかもしれない。

 

ドラマ『D.P. 脱走兵追跡官』(2021)全6話

(C)Netflix

【作品情報】 原題: D.P. 監督:ハン・ジェニ 原作:キム・ボトン『D.P.犬の日』 脚本:ハン・ジュニ、キム・ボトン Netflix配信 

出演:チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン、ソン・ソック、チョ・ヒョンチョル、シン・スンホ、ホン・ギョン、キム・ドンヨン、イ・ジュンヨン、コ・ギョンピョ

 

兵役義務のある韓国では、若い男性は一定期間、軍に入隊しなくてはならない。本作は入隊する若い青年たちに焦点をあて、これまでタブーとされてきた軍隊におけるいじめ=暴力を暴いていることで、社会現象となった作品だ。社会への暗部や権力に果敢に挑む韓国のドラマや映画の姿勢にはいつも羨望さえ覚えてしまう。

 

本作の主人公アン・ジュンホ(チョン・ヘイン)は入隊後、厳しい訓練を受け、憲兵に配属される。そこでは壮絶ないじめが行われていた。ジュンホもそのターゲットになるが、彼を見込んだパク・ボムグ(キム・ソンギョン)中佐から「D.P.」で仕事をするよう命じられる。

「D.P.」とは”Deserter Pursuit=脱走兵追跡”の略で、軍から脱走した兵士を逮捕する組織のこと。原作のWeb漫画を描いたキム・ボトン氏も兵役時代「D.P.」だったそうだ。

 

ジュンホは、脱走者を逮捕というよりは救おうとして懸命に行動する。ク・ギョファン扮するホユルとのバディ映画的な面白さもあり、見事な社会派エンターティンメントに仕上がっている。

全6話を演出したのは、前述した『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』のハン・ジュニ監督だ。

 

さて、この作品でのソン・ソックの役柄は陸軍憲兵隊に新たに赴任した大尉(正式には第103歩兵師団憲兵隊長補佐官)イム・ジソプ。柔軟で有能に見える人物として登場するが、パク・ボムグ中佐にマウントをとろうとしたり、憲兵大将には逆らえず手のひら返しをしたり、怒鳴り込んできた若い兵士の母親にたじたじとしたりと人間味溢れる演技を見せている。表情も豊かで、新たなソン・ソックの魅力を見出すことができるだろう。

 

本作はシーズン2の制作が決まっており、キャストもシーズン1を踏襲するものとなるらしい。今回の経験を経て大尉がどのような変化を見せるのか、今から非常に楽しみだ。

 

映画『恋愛の抜けたロマンス』(2020)

 (C)2021 CJ ENM Co., Ltd., TWELVE JOURNEY ALL RIGHTS RESERVED

【作品情報】原題:연애 빠진 로맨스(英題:Nothing Serious)韓国映画 95分 監督:チョン・ガヨン 脚本:チョン・ガヨン、ワン・ヘジ 撮影:イ・ソンジェ 編集:ナム・ナヨン 音楽:サンウジョンア

出演:チョン・ジョンソ、ソン・ソック、コン・ミンジョン、キム・スルギ、ペ・ユラム、キム・ジェファ

 

恋愛するのはもうこりごりだが寂しいのは嫌いな女性ジャヨン(チョン・ジョンソ)と雑誌の編集者で恋愛体験記を書くよう編集長から無茶振りされた男性ウリ(ソン・ソック)がマッチングアプリで出逢う。直ぐ様、体の関係を持ったふたりだったが・・・。

 

インディーズ作品『ビッチ・オン・ザ・ビーチ』(2016)で知られているチョン・ガヨン監督のメジャーデビュー作だ。チョン・ガヨンはこれまで演出と共にヒロインも自分自身で演じてきたが、今回は『バーニング 劇場版』(2018)や『ザ・コール』のチョン・ジョンソが務めている。

 

性欲丸出しのかなりきわどい会話に少しばかりハラハラさせられる一種の艶笑コメディーだが、いやらしさを感じさせず、根本にあるピュアな部分をうまく表現している。すこぶる愉しい大人のラブコメで、ソン・ソックの可愛らしい(としかいいようのない)素敵な笑顔には誰もが魅了されるだろう。

 

ドラマ『私の開放日誌』(2022)全16話

出典元:JTBC公式Facebook

【作品情報】原題:나의 해방 일지/My Liberation Diaryso JTBC  監督:キム・ソギュン 脚本:パク・ヘヨン 音楽:キム・テソン 

出演者:イエル、イ・ミンギ、キム・ジウォン、ソン・ソック、イ・ギウ、チョン・ヘジン、チョン・ホジン、イ・ソンギョン、キム・ロサ、チョン・スヨン、ハン・サンジョ、チョ・ミンギ、チョン・ヨンジュ 

 

郊外のサンポ市に暮らす、ヨム家の三きょうだい、長女ギジョン(イ・エル)長男チャンヒ(イ・ミンギ)次女ミジョン(キム・ジウォン)は、毎日、電車とバスを乗り継ぎ、ソウルまで1時間半以上かけて通勤している。

 

通勤だけでも大変なのに、彼らの職場はいずれも理不尽さやストレスにあふれていて、上の二人は常に元気なほど不平をまくしたてているがミジョンはいつも静かで淡々としている。

 

彼らの両親は朝から晩まで働き、休むことを知らない。そんな家族に混じって、父親の家具工場を手伝い、きょうだい以上に農作業も手伝う寡黙な人物ク氏を演じているのがソン・ソックだ。

ク氏は、ある日、ふらっと町にやって来て住みついた素性もわからない謎の男で、アルコール依存の気がある。なにやら秘密を持っているらしいが黙して語らないこの男を、ソン・ソックは、淡々と飾らず、しかし雰囲気たっぷりに演じている。

 

そんなク氏にある日、ミジョンが言う。「私を崇めて」と。その言葉をきっかけに、寡黙な二人の中で何かが変わっていく。次第に自分自身を開放させていくク氏。二人は心を通わせていくが、それは世間一般で言うところの恋とは少々違っている。ミジョンはクに酒をやめろとはいわないし、彼の以前の職業に驚きはするものの、詮索はしない。彼女は、クという人物だけを真っ直ぐ見て、彼を認めているのだ。そして自分自身を開放させていく。

ク氏のアウトサイダー的な魅力が、ソン・ソックに非常にマッチしている。それでいて、ミジョンに心開いていくク氏の姿は愛らしくさえある。これもまた、ソン・ソックにとてもマッチしている。

 

本作は、彼ら二人以外の展開も素晴らしいのだが、さすがに長くなりすぎるので、今回はこのへんで。

(文責:西川ちょり)

 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

韓国映画『君だけが知らない』あらすじ・評価・感想 / ソ・イェジ&キム・ガンウ主演の極上サスペンス(ネタバレなし)

登山の最中過って転落し病院に担ぎ込まれた女性は、かろうじて命を取り止めたものの記憶を失っていた。優しい夫に支えられ、無事退院した彼女だったが、不可思議な幻覚に見舞われると共に様々な疑念に襲われる。

 

youtu.be

 

映画『君だけが知らない』は、2021年公開時に韓国ボックスオフィス初登場NO.1を記録した緊張感溢れる韓国製サスペンスだ。

監督を務めたのは女性監督のソ・ユミン。『八月のクリスマス』などのホ・ジノ監督のもとで助監督や脚本を手掛け、本作にて長編監督デビューを果たした。

 

人気ドラマ『サイコだけど大丈夫』のソ・イェジが記憶喪失の女性を演じ、その相手役に、映画『死体が消えた夜』(2018)、『ニューイヤー・ブルース』(2021)などで知られるキム・ガンウが扮している。

 

目次

 

映画『君だけが知らない』作品情報

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

2021年製作/100分/韓国映画 原題:내일의 기억 (英題:Recalled) 監督・脚本:ソ・ユミン  撮影:キム・ギテ 

出演:ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク、ヨム・ヘラン、ペ・ユラム、キム・ジョング、コン・ユリム、キム・ガンフン、キム・ジュリョン

 

映画『君だけが知らない』のあらすじ(ネタバレなし)

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

登山中に墜落事故に遭い、記憶を失ったまま目覚めたスジン(ソ・イェジ)は、夫ジフン(キム・ガンウ)の献身的なケアのおかげで体は徐々に回復し、ついに退院の日を迎えた。しかし、マンションの10階の自宅に戻っても何も思い出すことができない。

ジフンはまもなく2人はカナダに行く予定なのだと語る。壁にかかっている絵はカナダのバーミリオン湖を描いたもので、カナダ行きを言い出したのはスジンだと言う。

 

ある日、スジンがエレベーターに乗っていると、3階でひとりの少女が乗り込んできた。スジンは少女に微笑みかけるが、突然、頭の中に少女が道路に飛び出し、トラックにひかれそうになるシーンが浮かびあがる。

まさかと思いながら、少女を見守っていると、少女は道路の向こう側で手を振っている少年の方に行こうとして、飛び出し、そこにトラックがやって来た。スジンは思わず少女に向かって走り出すが、誰かの強い腕に引っ張られて、車道に倒れる。危ないところを助けてくれたのはジフンだった。

少女を探すと、無事渡れたようで、少年とふたりで並んで歩いている姿が見えた。ほっとしたのも束の間、この奇妙な体験はその後、何度もスジンを襲う。なぜ、自分は人の未来が見えるのだろうか。

 

そんなある日、彼女のもとに刑事がやってくる。スジンが虐待を受けていた可能性があると病院が知らせて来たので確認しに来たのだと言う。

スジンの腕や脚にはあざが出来ていて、それは事故より以前に出来たものだと病院側は報告していた。

身に覚えのないスジンは、そのような事実はないと告げ、警察も納得して立ち上がるが、その際、刑事の一人がつぶやく。「反対じゃないか?」と。彼の視線の先には、スジンとジフンの結婚式の記念写真があった。

 

外出したスジンは、賑やかな通りでひとりの女性に久しぶりじゃないと声をかけられ振り返る。スジンはこの女性のことも覚えていなかったが、昔の職場の同僚だという。

彼女によれば、スジンは絵画教室に勤めて子どもたちに絵を教えていたそうだ。教室まで案内してもらい、スジンはそれがうそでないことを知る。そんな大切なことをなぜ、ジフンは教えてくれなかったのか。

 

スジンの心に小さな疑惑が芽生え、それは次第に大きくなっていった。「わたしは何者? そしてあなたは何者なの?」

 

映画『君だけが知らない』の感想・評価

(C)2021 CJ ENM. All Rights Reserved.

疑わしく怪しい夫といえば、ケイリー・グラントが夫を演じたヒッチコックの『断崖』(1941)を思い出す。ジョーン・フォンテイン扮する妻は、夫の行動を顧みるうちに、夫が自分を殺そうとしているのではないかという疑念に包まれていく。

また、記憶喪失を題材にした作品といえば、同じくヒッチコックの『白い恐怖』(1945)が思い浮かぶ。『君だけが知らない』はそうした古典的なミステリ作品のエッセンスをうまく応用しながら、観客を引き付けることに成功している。

 

『白い恐怖』は、記憶を失っているグレゴリー・ペックの精神状態を描くビジュアルにサルバドール・ダリを起用して、強烈なインパクトを演出したが、『君だけが知らない』は、ヒロイン、スジン(ソ・イェジ)の精神が錯綜している中で、彼女が身近に接した人の未来が見えるというアイデアが利いている。

 

監督のソ・ユミンは、ホ・ジノ監督のもとで長い間、助監督や脚本を手掛けてきた方で、脚本作にはホ・ジノ監督の『四月の雪』(2005)、『ハピネス』(2007)、『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』(2016)、チョン・ギフン監督の『恋するインターン ~現場からは以上です!~』がある。本作でも監督と共に脚本も担当していて、練りに練った作品に仕上げた。

 

ヒロインと夫が暮らす高層マンションの設定もこの映画の巧みさのひとつだ。このマンション、かつては人気の高い高級マンションだったようだが、年月が経つに連れ、次第に空きが目立ち始め、今ではマンションの前には「未入居物件セール」という広告が立てられている。退院した日もいきなり停電して、スジンはエレベーターに閉じ込められるという恐怖を味合わされている。

このエレベーターを中心にして、スジンはマンションの住人と出逢い、「未来を予知」するようになるのだが、このマンションなくしてはこの物語は成り立たないだろうというほど、舞台として絶妙なのだ。

 

ミステリーの構成の妙をこれ以上語ってしまうと、映画の面白さを半減させてしまう恐れがあるのでそろそろやめておくが、非常に緻密に考え抜かれ、構成された作品であることは強調しておきたい。

 

ただ、終盤にかけて映画がアクロバティックに二転三転する様や、そこから始まるメロドラマチックな展開はいささか冗長に感じてしまった。このあたり、評価が分かれるところだろう。

 

もっとも、ある謎を解き明かすラストシーンは、ソ・イェジ、キム・ガンウという役者の凛とした佇まいも相まって、非常に美しいものに仕上がっている。静謐な中に愛が溢れているのだ。そして、だからこそ、胸がキュっと痛むような、複雑な思いにかられる、忘れがたいシーンである。

 
※当サイトはアフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用しています。
 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

【感想・あらすじ】韓国ドラマ『シスターズ』第一話を徹底解剖/2022年韓国版『若草物語』とは!?

貧しい家庭に生まれながらも互いに支え合って暮らしてきた三姉妹が、富と権力を持つ者たちの陰謀に巻き込まれていくサスペンスドラマ『シスターズ』がNETFLIXで配信されている。

 

youtu.be

原題が「작은 아씨들(英題:Little Women)」とあるように、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』が原作だが、あの『若草物語』が2022年の韓国を舞台にするとこんな作品になるのか!と驚くこと間違いなし。

 

脚本がパク・チャヌク監督作品の脚本で知られるチョン・ソギョンというのも楽しみのひとつだ。演出を務めるのは大ヒットドラマ『ヴィンチェンツォ』のキム・ヒウォン

今回はこの作品の第一話をじっくり観てみよう。

 

目次

 

韓国ドラマ『シスターズ』の作品情報

放送日】 2022年9月3日〜2022年10月9日(予定)/TVING、Netflix 全12話

原題】 작은 아씨들(英題:Little Women)

原作】 ルイーザ・メイ・オルコット 『若草物語』

演出】 キム・ヒウォン

脚本】 チョン・ソギョン

キャスト】キム・ゴウン、ナム・ジヒョン、パク・ジフ、ウィ・ハジュン、オム・ギジュン、カン・フン、オム・ジウォン、コン・ミンジョン、パク・ジヨン、パク・ボギョン、キム・ミスク

 

映画『シスターズ』〈第一話〉あらすじ

韓国ドラマ「シスターズ」のポスタ=tvN提供

インジュ、インギョン、イネの三姉妹は、古いビルの屋上に建てられたみすぼらしい家屋に住み、助けあいながら暮らしていた。

 

インジュとインギョンはイネの誕生日祝にケーキを買い、修学旅行に行くための250万ウォンを工面して手渡す。貧しさ故に修学旅行には行けないと諦めていたイネは喜ぶが、イネが寝ているうちに母がその金をくすね、借金が返せなくなって逃亡した父のいるフィリピンに行く費用にあててしまう。

 

姉ふたりはイネに恥をかかせないためにも、もう一度金を工面することにした。インジュはオーキド建設で経理を担当しているが、彼女が貧しい家の人間だからという理由で周りの人々からハブられていた。前借りをしたいと頼んでみたものの、当然の如く断られてしまう。

 

そんなインジュにもたったひとりだけ仲の良い先輩がいた。一階上で働くファヨン先輩だ。彼女もまた貧しい家の生まれの苦労人だったが、大変優秀で、起業して世界へはばたこうと準備を進めていた。修学旅行の費用も快く貸してくれた先輩にインジュは心から感謝を述べるのだった。

 

一方、次女のインギョンは大叔母を訪ねていた。インギョンはかつて大叔母と暮らしていたことがあるのだ。大叔母は大金持ちだが、意地悪で、インギョンは彼女が嫌いだった。しかし、大叔母くらいしか頼る人はいない。大叔母は、これからも家を訪ね、朝、新聞を読み上げることを条件に金を貸してくれた。

 

インジュはイネに捻出した金を渡すが、イネは受け取りを拒否。自分のために苦労する姉たちを見るのがいやだという彼女は友達と約束があると告げ、インジュを振り切り出かけてしまう。

 

高級車に乗り込むイネの姿をたまたま見かけ不信に思ったインギョンは、尾行して、イネが裕福な同級生の肖像画を描いて金をもらっているのを目撃する。行為を咎める姉に対して、得意なことでお金が稼げて嬉しかったのにと不満を漏らすイネ。

 

インギョンはOBNの社会部記者だ。テレビのニュース番組でソウル市長選に出馬することを噂されているパク・ジェサンが取り上げられているのを見て、インギョンは過去の事件を思い出していた。「ポベ貯蓄銀行の資金流出事件」で、銀行の頭取が自殺した事件である。

 

「死にたくない」と訴えていた保釈中の頭取が、弁護士と面談後にトイレで注射器を刺したまま死に、自殺と認定された。この時の弁護士がパク・ジェサンだったのだ。この事件では32人が起訴され4人が自殺しているが、多くの弁護士がいた中で、その4人を担当していたのが、パク・ジェサンだった。

 

当時、パク・ジェサンは事件とは関係ないと結論付けられたが、インギョンはずっと疑念を抱いていた。上司にそのことを伝えると思いがけず取材を許可される。

 

パク・ジェサン財団の集会が行われた際、インギョンは、ロビーでパク・ジェサンに「ポベ貯蓄銀行の資金流出事件」における自殺の件について果敢に尋ねるが、仕事中に酒を飲んでいたことがバレて、一ヶ月の停職を命じられてしまう。

 

アルコール中毒かも知れないと思うインギョン。昔から他人の感情に敏感で、ニュースを読む際に涙を流すこともあった。気持ちを落ち着かせるために、いけないと思いながらも最近は頻繁に酒を飲んでいたのだ。

 

その頃、インジュは、海外からやって来た財務本部長のチェ・ドイルという人物に呼び出される。ファヨンと連絡が取れない、海外に行ってもう帰っているはずだが、連絡先を知らないかと尋ねたあと、本部長はファヨンが欧州法人の口座から700億ウォンを横領したと語り、インジュを驚かせる。

 

携帯がつながらないので、インジュは先輩の部屋を訪ねることにした。先輩の帰りが遅くなった場合、熱帯魚に餌をやってほしいと頼まれ、部屋に入る際の暗証番号を教えてもらっていたのだ。

 

部屋に入ったインジュは、クローゼットの中で首を吊って死んでいる先輩を見つけ愕然とする。

先輩はコートを着て真っ赤なハイヒールを履いたままぶら下がっていた。部屋にはその赤と対比するように青く輝くランが一輪おかれているのが見えた。

 

先輩の死にショックを受け、会社の対応に疑問を持ったインジュは辞表をつきつける。そんな中、ヨガの会員制クラブから会員権が譲渡されたと連絡がはいった。

 

ヨガクラブにやってきたインジュがキーを渡されたロッカーをあけると、大きなリュックサックが押し込まれていた。入っていた箱をあけると、この世に三足しかないという「ブルーノ・ズミノ」の靴が出てきた。

 

一度先輩と食事に行った時、インジュの靴のヒールが折れ、先輩が貸してくれたことがあるのだ。

そしてその箱の下にはぎっしり詰め込まれた札束が入っていた。インジュはリュックを抱きしめて泣き崩れる。やがてインジュの中に、こんなにお金があるのに自殺するわけがないという疑念が浮かびあがる。

 

韓国ドラマ『シスターズ』〈第一話〉主な登場人物の解説

オ・インジュ(キム・ゴウン:三姉妹の長女 オーキッド建設の経理。

オ・インギョン(ナム・ジヒョン:三姉妹の次女 OBN社会部記者。

オ・イネ(パク・ジフ:三姉妹の末っ子。セラン芸術高校の奨学生。絵の才能がある。

パク・ジェサン(オム・ギジュン:貧しい幼年、青年期を過ごした後、弁護士となり、ベトナム戦争の英雄ウォン・ギソン将軍の娘と結婚。現在はパク・ジェサン財団の理事長を務め、才能ある人材に奨学金を支援している。ソウル市長、ゆくゆくは大統領を目指している野心家。 

ウォン・サンア(オム・ジウォン:パク・ジェサンの妻。 ウォンリョン美術館館長を務める。

パク・ヒョリン(チョン・チェウン:パク・ジェサンとウォン・サンアの一人娘。オ・イネの同級生。

 

チン・ファヨン(チュ・ジャヒョン:オ・インジュの先輩。会社でのハブられ仲間。

シン取締役(オ・ジョンセ:オーキッド建設役員。ファヨンと不倫関係だという噂がある。

チェ・ドイル(ウィ・ハジュン:ウォルリョングループ海外法人本部長。オーキッド建設欧州事業担当のコンサルタント。

 

ハ・ジョンホ(カン・フン:姉妹の大叔母の家の近所に住む青年。オ・インギョンの幼なじみ。病気の祖父と二人で暮らしている。

 

オ・ヘソク(キム・ミスク:三姉妹の大叔母。不動産会社を運営する大金持ち。

 

韓国ドラマ『シスターズ』〈第一話〉の解説

オルコットの『若草物語』を大胆にアレンジ

『シスターズ』は、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』が原作とは思えないほどサスペンス溢れる作品だが、主人公の設定や、お金にまつわる主題など、作品の基盤を構成するのは紛れもなく『若草物語』そのもので、やはりその点が本作の大きな魅力のひとつとなっている。

 

オルコットの『若草物語』はこれまでにも何度か映像化されている。最も記憶に新しいのがグレタ・ガーウィックが監督を務めた映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』だろう。次女役のシアーシャ・ローナンを主役に据え、現在から過去を回想していくという大胆な脚色を行い、「女性と経済」を主題に、姉妹のそれぞれの生き方、人生の選択が描かれていた。

 

『若草物語』では長女のメグは、堅実な結婚をし、幸せな家庭を築いている。一方、次女のジョーは小説家志望の活発な女性で、隣に住む幼なじみの青年ローリーと仲が良い。四女のエミリーは、絵の才能があり、ヨーロッパで叔母の世話のもと、修行を積んできた。三女のベスは姉妹で一番やさしい心の持ち主だが、病に倒れてしまう。

 

一方、『シスターズ』はどうだろうか。キム・ゴウン扮する長女インジュは一度結婚したものの離婚しているという設定になっているが、次女のナム・ジヒョン扮するインギョンは、放送局に務める記者=ジャーナリスト、大叔母の家に住んでいた頃の幼なじみと再会し、親しく会うようになるというように、非常に原作に近いキャラクターと言えるだろう。幼なじみのハ・ジョンホの設定もローリーとそっくりだ。

 

また、末っ子のイネは、絵の才能があり、ヨーロッパに留学したがっているという設定で、エミリーと重なる。『若草物語』では四姉妹だが、本作は三姉妹だ。なぜ三姉妹なのかは、今後の展開で明らかにされていくのだろうか?

 

最も原作と違うのが、母親のキャラクターだ。原作では父親は従軍牧師として戦争に行っており、母親と姉妹の5人で留守宅を守っている。母は、一家が貧しくても、そのことを卑下しないよう、健やかに子どもたちが育つように努めてきた。

 

一方、『シスターズ』は父親が事業に失敗し、挙げ句に大量の借金を作って逃げ、一家は貧困にあえぐことに。母親はろくに娘の世話もせず、あろうことか長女と次女が妹のために貯めたお金を盗んで夫の暮らす海外に行く費用として使ってしまう。

 

ただ、生きていくためにはお金が必要だという主題は貫かれている。お金を工面する難しさから始まった現代の韓国を舞台にした“若草物語”は、金に執着する人間の姿をクローズアップし、貧富の差が拡大する現代社会の闇を映し出す、大胆なミステリー作品として生まれ変わったのだ。

 

『親切なクムジャさん』や『お嬢さん』などのパク・チャヌク監督作品で知られる脚本家のチョン・ソギョンは今後どのように原作を料理してみせるのだろう。かなり骨太の社会派になる予感もする。

 

多才な出演者たち

三姉妹の長女を演じるキム・ゴウンは、ドラマファンには『トッケビ』でお馴染みだろう。映画ではキム・ヘスと共演した『コインロッカーの女』やイ・ジュンイク監督の『サンセット・イン・マイ・ホームタウン』(原題:『辺山』)での演技が印象に残っている。本作でも喜怒哀楽に溢れた様々な表情をみせている。

 

次女役のナム・ジヒョンは、子役出身で、『ファイ 悪魔に育てられた少年』などの映画、『魔女食堂にいらっしゃい 』などのドラマで知られている。誰もが金に囚われている本作の中で、唯一金に目が眩んでいない、正義感の強いキャラクターを颯爽と演じている。

 

三女役のパク・ジフは国内外の映画祭で多数の賞を受賞したキム・ボラ監督の『はちどり』で主演を務め、自身も様々な賞に輝いた。『はちどり』は、ひとりの中学生の日常と成長を描きながら、そこに韓国という国の成熟の軌跡を重ね合わせた作品。本作もまた、ある一家の小さな物語が、韓国の現代史へとつながっていく「社会派」エンターティンメントの様相を呈しており、本作に、パク・ジフが出演するのは必然のように思われる。

 

そんな三人の前に現れる巨大な敵に扮するのは、パク・ジェサン役のオム・ギジュン。演劇やミュージカルでの活躍で知られる俳優だ。その妻役には、『感染家族』などのオム・ジウォンが扮している。

 

また、ドラマ『イカゲーム』のウィ・ハジュンや、ドラマ『グリーンマザーズクラブ』、『ナルコの神』のチュ・ジャヒョン、映画『エクストリーム・ジョブ』(2019)、『スウィング・キッズ』(2018)、ドラマ『サイコだけど大丈夫』(2020)などで知られるオ・ジョンセといった錚々たるスターが顔を揃え、第二話には、『ヴィンチェンツォ』つながりなのだろうか、ソン・ジュンギがカメオ出演している。

 

『シスターズ』は、全12話。Netflixで毎週土・日曜日23時に新しいエピソードが配信。

 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(全16話)感想・レビュー なぜ人はこのドラマに惹きつけられるのか?!

自閉スペクトラム症を抱える天才的頭脳を持つ新米弁護士ウ・ヨンウが大手法律事務所に就職し成長していく姿を描く韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』

 

youtu.be

 

韓国のENA水木ドラマ枠で放映され、第1話では0.9%だった視聴率が最終回では17.5%を記録したという注目作だ。Nerflixでも配信され、韓国は勿論、世界中で大ヒットを記録。早くもパート2の制作が発表され、アメリカや日本でのリメイクの話も出ているという。なぜ本作はこんなにも人を惹きつけるのだろうか!?

 

目次

 

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の作品情報

【放送日】 2022年6月29日〜2022年8月18日(予定)/ENAチャンネル、Netflix 全16話
【原題】 이상한 변호사 우영우(英題:Extraordinary Attorney Woo)
【演出】ユ・インシク
【脚本】ムン・ジウォン(『無垢なる証人』) 
【メインキャスト】パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギョン、ハ・ユンギョン、チュ・ヒョニョン、クォン・ミヌ、ペク・ジウォン、チョン・ベス、チン・ギョン

 

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のあらすじ

(C)Netflix

生まれて始めて話した言葉が法律用語だったという自閉スペクトラム症を抱える天才肌の女性弁護士ウ・ヨンウ。ソウル大学のロースクールを主席で卒業したものの就職に苦戦。中途半端な時期に採用された大手法律事務所で、力を発揮し始める。

法廷は勿論のこと、オフィスでの人間関係、恋愛まで、様々な壁にぶつかりながらも果敢に挑む姿をハートフルに描いたリーガル・ヒューマンドラマ。

 

韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』全16話 評価と感想

人とは違う佇まい、普通でない行動をする人に、人は眉をしかめたり、腹立ちを覚えがちだが、本作を見ていると、社会には寛容さがもっと必要であると思わされる。

特に最終回にヨンウの直属の上司であるチョン・ミョンソク(カン・ギヨン)が彼女に「君は普通の弁護士じゃないだんから」と微笑んで励ますシーンがある。この言葉は、人と違っていい、君らしくやりなさいというエールであると同時に不寛容な社会への問いかけでもあるのだろう。

 

勿論、綺麗ごとだけで進行する物語ではない。同僚弁護士クォン・ミンウ(チュ・ジョンヒョク)は、ライヴァルとしてヨンウの存在自体を忌々しく思っているし、別のシニア弁護士はヨンウのことを生意気な態度の悪い新人と決めつけ評価していない。

誰もがヨンウの特質を理解してくれるわけではなく、ドラマの中でも差別や偏見(そもそもソウル大学のロースクールを主席で出たのに就職できないこと自体が差別であるという指摘も劇中でなされている)は描かれている。

 

しかし、視聴者は、ドラマを見続けていくうちに、そうした偏見について真摯に受け止めるようになり、障害を持つ人々への理解を深めていく。こうした点をしっかり押さえて作られているからこそ、芯からこのドラマを楽しむことが出来るのだろう。

それにしてもヨンウが最初にチョン・ミンソク弁護士のもとで、仕事を始めていなかったら、彼女の能力はきちんと花開いただろうか?人の能力をいかせるのもいかせないのもまたひとつの能力なのだ。

 

また、弁護士は依頼者を助けるのが仕事ということは自明だが、それが決して社会正義であるとは限らないこと、とりわけ、大手の事務所なら、依頼者が金を出せる人に限られることなど、志を持ち弁護士となった人々が直面する現実的な葛藤も描かれている。

 

そのため、時に、心情的に応援してしまいたくなる相手が「敵」である場合もあり、勝訴しても素直に喜べない事案もある。とりわけ、12話の女性問題を多く取り扱う社会派の女弁護士との対比が象徴的で、この弁護士は一人だけしか居ない小さな事務所のため、大手に勝てない。でも、依頼人からの信頼は絶大で、ヨンウや、同じチームのチェ・スヨン(ハ・ユンギョン)も彼女には一目置く。12話は彼女を中心とした女性の連帯が描かれていて特に素晴らしいエピソードに仕上がっている。

 

明るく朗らかなコメディータッチで物語は進むが、ヨンウの出生の秘密や、大手弁護士事務所同士の対立など、どろどろした要素も含まれている。16話をひっぱっていくにはそうした設定が必要だと考えられたのだろうが、別にいらなかったのでは?とも思えてしまう。

 

それだけヨンウや周りのキャラクターが魅力的で、各回が扱う興味深い事案にいかに取り組むかという展開だけで十分満足できてしまうからだ。しかし、どろどろしたいかにもドラマチックな設定も、最終的に、本当の愛情とはなにか? 真摯に誠実に生きるということはどういうことかという本作が最も描きたかったことへと集約されていく。

 

実際の社会を見ればそれは「ファンタジー」の世界であると言われるかもしれない。しかし、それでも伝えなければいけない、本当に公正な社会のあり方を、それに向かって悩み葛藤し続けることの必要性を、という作り手の強い意志が、多くの人の心を捉えたと言ってもいいだろう。

 

そしてなんと言ってもウ・ヨンウに扮したパク・ウンビンが素晴らしい。カン・テオ扮する法律事務所の職員、イ・ジュノが彼女に恋をするのだが、彼が彼女に向けるその温かい優しい視線は、視聴者が、ヨンウに送った視線と重なるだろう。愛さずにはいられないのだ。

 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

イ・オクソプ+ク・ギョハン短編4作がJAIHOで配信中

第14回大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞したイ・オクソプ監督の『なまず』が一般公開されるのを記念して、配信サイト「JAIHO」(https://www.jaiho.jp/)にてイ・オクソプが公私に渡るパートナーのク・ギョハンとのコラボレーションにより発表してきた傑作短編の中から、オクソプ監督自身が選んだ四つの短編が配信されている。彼らの独特の個性がよく現れた必見の作品だ。

 

目次

 

『四年生のボギョン』(2013)

女子大生ボギョンとドックは付き合って4年目。粗大ゴミとして捨てられていたソファを持って返ったり、大型扇扇風機を買って運んだりという恋人たちのエピソードをジャンプカットを巧みに使いながら、ユーモラスに見せ、2人の長年の息のあったところを見せる。一方で、仲はマンネリになっていて、ときめきが欲しいポギョンは、このまま大学を卒業して彼と結婚することにためらいを持っている。別の先輩が気になりだし、ついに別れ話となるふたり。しかし最後のセックスの最中にドックに首を絞めてと言われたポギョンは絞めたまま絶頂にいたり、気がつけば、ドックを絞め殺していた。この時、あわてふためていて、とりあえず窓をあけると、下ではダンス部がダンスの練習をしているのがいい。これは偶然か、それとも演出か? 警察につかまって刑務所で先輩に肖像画を書いてもらっているところに幽霊のドックが来てという妄想のあと、画面には、部屋のカーテンに包まれたドックの遺体が。そしてその横にはポギョンのパンティーが。このあと、ポギョンは先輩の家に行き、関係を結んでしまうのだが、ここに関連してくるタクシーの運転手というキャラも絶妙だ。いなくてもいいキャラなのに、なぜか存在感たっぷり。ラストはいささが落ちが弱く感じられるが、男の思惑から自由になった女の話でもあるのかもしれない。

『四年生ボギョン』(A Dangerous Woman 4학년 보경이)2013年 28分
監督:イ・オクソプ 出演:キム・コッピ、ク・ギョファン、ペク・スジャン 

 

『監督!僕にもDVDをください!』(2013)

JAIHOで独占配信中

売れない俳優のギファンは、出演したインディーズ映画のDVDをもらうため、監督たちのもとを訪ねてまわっているが、監督たちはなかなかDVDを渡してくれない…。今も映画監督を続けている者もいるが、セールスマンがすっかり板についた人もいる。なかなかDVDを渡したがらない女性監督は「この作品だけで私を評価しないで」と言う。インディーズで映画に関わっていた人々のあるあるの世界が描かれる中、DVD集めという目的が「黄色の紙袋」一点に集約され、それが主人公にとって特別なものになっていくのが面白い。

『監督!僕にもDVDをください!』(Where is my DVD? 왜 독립영화 감독들은 DVD를 주지 않는가?)2013年 28分 監督:ク・ギョファン 撮影協力:イ・オクソプ 出演:ク・ギョファン、コ・ボギョル、ハ・ジュノ

 

『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(2015)

JAIHOで独占配信中

革細工職人になる夢に敗れイタリアから帰国したソンファンを俳優志望のギョファンが出迎える。彼は重機免許を取って、俳優になることをあきらめかけていた。それで納得できるのかと問うソンファンだったが、彼も重機免許をとるべく、運転の練習に勤しむ。ついに免許を取るが、ギョファンと連絡がとれなくなる。やっとかかってきた電話で、ギョハンはちょっとした遊び程度の気持ちで手伝った映画がベルリンで賞をとり、今は撮影で忙しいと告げる。がっぽり儲けたという彼に「俺も俳優になろうかな」とソンファンが言うと「おすすめしません」という言葉が返ってくる。なんとも言えぬ味わいの結末で、ソンファンの気持ちを思うと実に複雑な気分に。オ・イプソク、ク・ギョハンコンビの真骨頂とも言える皮肉全開の一篇。

『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(Fly to the Sky 플라이 투 더 스카이)2015年韓国14分
監督:イ・オクソプ、ク・ギョファン出演:ク・ギョファン、チョ・ソンファン 

 

『ROMEO』(2019)

階上の恋人の姿を見たさに奔走する若い男性。一分たらずの作品で少しグロい。

『ロミオ』(ROMEO)2019年 韓国 1分
監督:イ・オクソプ 出演:ク・ギョファン