韓国の映画監督チョン・ジェウンが、建築家・チョン・ギョン(1945-2011)に密着した初のドキュメンタリー映画『語る建築家』が、東京と京都で上映!
チョン・ギョン氏は順天、鎮海など6つの子供図書館「奇跡の図書館」や、武州公共プロジェクトなどで知られる韓国を代表する建築家だ。本作は氏が癌でなくなる最後の一年に密着して撮影された。
『語る建築家』は、2021年10月に「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021」にてオンライン上映されたが、スクリーンでの上映は今回が初となる。
上映は、東京・アテネ・フランセ文化センターで開催される「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2022」(11月19日19時の回)、京都の京都文化博物館フィルムシアターで開催の「京都建築映像祭2022」(12月18日10時30分~の回)にて、それぞれ一回行われる。
目次
チョン・ジェウン監督 filmography
2001年、ペ・ドゥナらが主演した『子猫をお願い』で初の長編劇映画監督デビューを果たす。
『子猫をお願い』は、釜山国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭、香港国際映画祭、大韓民国映画大賞等で多くの賞を受賞するなど国内外で高い評価を得た作品であるだけでなく、韓国の多くの女性監督に多大な影響を与えた作品としても知られている。
20年以上経った現在でも多くの人々に愛され続けている作品だが、このたび、『子猫をお願い』4Kリマスター版が公開されることとなった。2022年12月17日よりユーロスペースほかにて全国順次公開される。
また、老朽化し、再開発が決まった団地に暮らす250匹の地域猫の“お引越し大作戦を描いた2022年制作のドキュメンタリー映画『猫たちのアパートメント』が、12月23日より東京・ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開される。
そのほかの監督作品に、オムニバス映画『もし、あなたなら 6つの視線』の一篇「その男、事情あり」(2003)、『蝶の眠り』(2017)がある。
『語る建築家』作品情報
2011年製作/韓国映画/95分 原題:말하는 건축가 (英題:Talking Architect) 監督:チョン・ジェウン 出演:チョン・ギョン
『語る建築家』短評
韓国の建築家・チョン・ギョンは、安城公民館や子供のための図書館「奇跡の図書館」などの建築で知られている。本作は彼の晩年の姿を捉えたドキュメンタリー映画だ。
「我々に足りないのは身体で感じる体験と良い建築とのふれあいだ」といった彼の言葉で始まるように、チョン・ギョンは饒舌に建築について語り続ける。
それらは、彼が目指している「公共事業」のあり方に関わることが大半だ。韓国・ソウルにおける建築について、彼は非常に手厳しい。そこで暮らす人々を視野にいれていない建築のための建築になっていると怒りを交えて語っている。
イルミン美術館でこれまでの作品を振り返る展覧会が開かれることになり、美術館側と時に衝突しながら、準備が進んでいく。この時チョン・ギョンは大腸がんを患っており、「時間がない」状態にある。「死んでから回顧展というのは絶対いやだ」と笑顔を混じえて彼は力説する。
この2010年11月11日より開催されたイルミン美術館の個展を中心に『子猫をお願い』のチョン・ジェウン監督が、チョン・ギョンの作品と人となりを穏やかな視点で捉えている。
個展を見終えた人々が、カメラの前で感想を述べている場面では、皆の興奮冷めやらぬ様子が心地よく伝わって来る。
「建築は人々の生活を閉じ込めるものではない。人々からあふれるものを大事にしたい」と「建築の持つ公共性を皆に伝えようと孤軍奮闘」した一人の建築家の姿と言葉がしみじみと心を打つ一作だ。建築を通した韓国論でもある。