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映画『風の中の子供』あらすじ・感想/坪田譲治の同名作品を映画化した清水宏の代表作

2022年12月31日~2023年1月6日の期間、早稲田松竹で「清水宏特集」が開催される。

清水宏監督特集 | 早稲田松竹 official web site | 高田馬場の名画座

上映される4本の作品の中から今回は『風の中の子供』(1937)を紹介しよう。

 

児童文学者・坪田譲治が「東京朝日新聞」に連載した同名小説を映画化した清水宏の代表作。子どもたちの日常を生き生きと綴り、父親が困難に陥った際の兄弟愛を抒情豊かに描いている。清水映画を象徴する子役・爆弾小僧(横山準)の腕白ぶりが見事だ。

1938年のヴェネチア国際映画祭に出品され、賞は逃したものの高い評価を受けた。  

 

目次

映画『風の中の子供』作品情報

©1937 松竹

1937年/86分/35mm/白黒/松竹大船 ©1937 松竹

監督・脚本:清水宏 原作:坪田譲治 脚本:斎藤良輔 撮影:斎藤正夫 美術:江坂実、岩井三郎 音楽:伊藤宜二 

出演:河村黎吉、吉川満子、葉山正雄、爆弾小僧、坂本武、岡村文子、末松孝行、長船タヅコ、突貫小僧、アメリカ小僧

映画『風の中の子供』あらすじ・感想

映画『風の中の子供

(※結末に触れています)

下校する子供たちの後ろ姿で映画は始まる。次いでカメラは前にまわって、一定の距離をあけた引きの構図で歩いている子供たちを映すのだが、実はこれ、馬が引く荷車が子供たちの前にいて、そこにカメラを置いて取っている。

荷車の後ろの部分が見えて、子供たちが走ってきて荷台に乗り込む。荷台にのった子供たちの会話。車の引き手の大人が振り向いて子供たちは降ろされてしまう。

 

家に帰ってご飯を食べている母と子供たち。弟・三平(突貫小僧)は通信簿で叱られ、兄・善太(葉山正雄)と一緒に勉強するように言われる。兄と弟は小さな机を2つ隣同士に並べて座っている。その後姿をとらえながら、優等生の兄と腕白な弟の対比がなされる。兄弟はなにかと言えばけんかをし、口のたつ弟に兄が「バカバカバカバカ」と叫ぶシーンが何度も出てきて思わず笑ってしまう。

 

母が父に弁当を届けに行くよう善太に委ねると、三平は自分が行く!と主張する。が、勉強するように言われ外へ出してもらえない。一人で机に向かい大声で教科書を読み始めるが、次のカットでは彼の姿は既になくなっている。

「あ~ああ〜〜」、ターザンの如く、声を出すと、あちらこちらから子供たちが集まってきて、皆、走り出す。ふんどしいっちょうになって川に威勢よく入っていく子供たち。一人の少年がふんどしをつけていないから川に入れないと言ってズボンを引き上げながら逃げて行くと、彼を追いかけて子供たちは一斉に走る。大きな木に登っている兄を見て、負けじと自分も登ろうとするが力が足りない弟。元気な子供たちの姿が生き生きと描かれていく。

しかし、そんな中、善太と三平の父が会社の合併の際に不正行為をしたという疑いで警察に連行されてしまう。

工場で抜け殻のようになって動かない父の傍で不安そうな弟や、自宅でうなだれる母を遠回しに見守る兄弟など、幼い子が感じるただならぬ不安の渦が丁寧に描かれている。手前に部屋でうなだれて座っている母を配し、庭に立って母を見つめている兄弟、さらに奥には物見遊山で覗きこんでいる近所の子供たちというショットのあと、カメラは子供たちの背中に回って、奥にうなだれた母を配置する。

「あーああー」、弟の役割は他の子供に奪われてしまい、兄弟は孤立し、二人ぼっちになってしまうが、彼らの幼いながらの懸命さに思わずもらい泣きしそうになる。

といっても、清水の演出はただ、兄弟のやりとりを引き気味のカメラで見守るだけで、お涙頂戴の演出などがあるわけではない。このあと、三平は親戚の家に引き取られていくのだが、そこで彼が巻き起こすてんやわんやはお涙頂戴とは正反対のコミカルな武勇伝だ。それも、別に彼がわざわざそれを意識してやったわけではなく、彼の普通の行動が大人たちをきりきりまいさせてしまう。とにかく腕白なのだ。元気なのだ。

「木の上に登ったり、たらいに乗って川を渡ったり、河童に会いに行ったり、曲馬団の練習をしたり」というようなことをするんだけど、これはまさに大人の口から別の大人に伝えることにより「武勇伝」となるだけで本人にとっては特別な冒険をしたわけではない。叔父があわてて馬で駆けてくるところからみても、弟の行動範囲の広さが伝わってくる。  

 

あまりにも腕白すぎて命の保証も出来ないと、親戚から返されてしまう三平。母が仕事に行っている間、家事はみんな自分たちでやるんだとご飯を炊くが、しっかり焦がしてしまう。普通に食卓に黒く焦げたご飯がどんと盛られているのが笑いを誘う。病院の住み込みの仕事をするため、挨拶にいった母と弟は、医者からこの子には無理だね、小さすぎる、と断られるはめに。

母と弟が帰ると、兄がおとうさんの昔の日記を読んでいたのと言う。それは父が探していた日記であり、父の無実が証明される書類がはいっていたもの。母は弁護士にそれを見せに飛び出していく。

こうして父は帰ってくる。兄弟は庭に立って、「お父さん」「お父さん」と嬉しそうに忍者のように走りながら声をかける。大人たちの顔がこっちをむいたりあっちをむいたりするクローズアップがはさまって「お父さん」「お父さん」と子供たちは呼び続ける。

ここでは「お父さん」だが、他の作品では「お母さん」「お母さん」と繰り返し呼びかけるシーンがある。こうした連呼もまた清水宏作品の特徴のひとつで、なんとも胸をきゅっとさせられるのである。

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