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【考察】映画『ザ・メニュー』あらすじ・感想/レイフ・ファインズとアニャ・テイラー=ジョイが対峙する究極のフルコース

孤島にある高級レストランに招かれた11人の客に待ち受けていたものとは・・・!?

 

大ヒットドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』や『メディア王 華麗なる一族』で注目されたマーク・マイロッドが監督を務め、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』、『ドント・ルック・アップ』などで知られるアダム・マッケイがプロデューサーを務めた映画『ザ・メニュー』。


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天才的なシェフが提供する一皿一皿ごとに緊張感が高まっていく、想像のはるか上を行く極上のエンターティンメントだ。

 

シェフ役に『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)などのレイフ・ファインズ、ボーイフレンドと共にレストランを訪れる女性にNetflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』(2020)、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)などで成長著しいアニャ・テイラー=ジョイが扮している。  

 

目次

 

映画『ザ・メニュー』の作品情報

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

2022年製作/107分/R15+/アメリカ 原題:The Menu

監督:マーク・マイロッド 製作:アダム・マッケイ、ベッツイー・コック、ウィル・フェレル 脚本:セス・リース ウィル・トレイシー 撮影:ピーター・デミング 美術:イーサン・トーマン 衣装:エイミー・ウエストコット 編集:クリストファー・テレフセン 音楽:コリン・ステットソン

出演レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジャネット・マクティア、ジュディス・ライト、ジョン・レグイザモ

エイミー・カレロ、アルトゥーロ・カストロ、ロブ・ヤン、マーク・セント・シア、ポール・アデルスタイン、リード・バーニー  

映画『ザ・メニュー』あらすじ

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

有名シェフ・ジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストラン「ホーソン」で食事する機会を得たカップルのマーゴとタイラーは、船が到着するのを待っていた。

 

今夜の晩餐の定員はわずか 12 名。ひとりあたり1250 ドルという料金を聞かされ驚くマーゴだったが、美食家のタイラーは料金のことは気にもせず、感動しきりの様子だ。

 

今夜の客として店に選ばれた人々が集まってきた。その中に、マーゴは知っている顔を認めて思わず顔をしかめる。相手もマーゴに気がつくがお互い知らないふりを決め込んだ。

 

一行が島に到着すると給仕長のエルサに出迎えられた。そこでマーゴは、タイラーは別の女性と予約していたことを知る。エルサは一瞬戸惑いながらも部外者であるマーゴを店に案内する。

 

レストランの中は、客席から厨房がむき出しになっていて、大勢のスタッフたちが真剣に料理に打ち込む様子が見渡せた。

 

ガラス越しには湾の壮大な景色が聳えているのが見える。テーブルには共に船に乗ってきた11人の他に、一名の老女が席についていた。

 

テーブルについた客たちが各々会話を続けていると、激しく手を打つ音がして、シェフのスローヴィクが現れた。一品目の皿が振る舞われる。

 

エルサが彼に近づき、耳元で何かを告げている。スローヴィクの顔つきがみるみる険しくなって、彼はマーゴに鋭い眼差しを向けた。

 

「ただ、食べないでください。味わってください」と語るスローヴィク。彼は料理を出す際、必ずそこに込められた意図を伝え、スタッフたちは彼が発する言葉にまるで軍隊のような忠実さを示していた。マーゴはその一連の様子に違和感を覚える。

 

2つ目の料理として出されたのは、「パンのないパン皿」という名の皿だった。スローヴィクは、パンは従来貧しいもののための食事だった。あなたたちは裕福だからパンは出しませんと語る。皿の上にはパンに付けるソースのみが置かれ、それだけを味わえと言う。

 

唖然とする客たちをよそにタイラーだけはそれを喜々として味わっていた。

 

この店を見出したと自負している料理評論家のリリアンは、同伴者の編集者のテッドに向かって、ソースが分離している、このレベルの店ではあってはいけないことだと語る。すると店側から大量のソースがサービスとして提供される。

 

再び、スローヴィクが手を打ち、店のすみにいる老女が自分の母だと語りだした。母はかつて貧しく悲惨な生活をしていて、父親はたびたび母に暴力を振るっていた、ある日、父は母の首に電話のコードを巻き付けて締めあげようとしていた。それを止めるために幼かった自分ができたことは父の足にはさみを突き刺すことだった・・・。

 

そうして出された料理は焼かれた鶏肉にハサミが突き刺さった代物だった。目を見張る人々にさらに追い打ちをかけたのは次に出てきたトルティーヤだ。そこにはそれぞれの秘密を暴露する画像がプリントされていたのだ。

IT長者の3人組は彼らの不正を暴く証拠の画像がプリントされていて驚愕する。しかし、彼らは自分たちがこの店のスポンサー企業の社員だからと相変わらず強気だ。

 

料理に口をつけないマーゴをスローヴィクが呼びつける。「お前は何者だ?」と問うスローヴィク。「なぜ食べないのだ」と問われ、マーゴは「食べたいものは自分で決める」と言い放つ。

 

レストランは不穏な空気に包まれ、次にスローヴィクによって紹介された副料理長が取った行動が一行を恐怖のどん底に陥れる。

 

今宵、スローヴィクが何を計画しているのかが徐々に明らかになっていく。    

映画『ザ・メニュー』感想と評価

(ネタバレは極力抑えていますが、結末に触れている箇所もございます。気になる方は作品をご覧の上、お読みください)

Netflixドキュメンタリー『シェフのテーブル』との密接な関係

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

脚本家ウィル・トレイシーは、個人所有の島にあるレストランで食事をした際の体験が本作を生むきっかけとなったと語っている。

 

彼は孤島に送り届けてくれた船が帰っていくのを見て、数時間、この島から出られないことを悟りちょっとした恐怖を感じたらしい。

 

本作でもアニャ・テイラー=ジョイ扮するマーゴが帰っていく船を凝視するシーンがあるし、また、レストランの扉が固く締まるのを振り返って観ているシーンがきちんと描かれている。

 

そう、本作は、外界との往来が断たれた状況下でおこる出来事を扱ったクローズド・サークルものなのだ。辺鄙な場所の孤島であるゆえに携帯も機能しない。

 

そのような状況下にあるとはこれっぽっちも感じていない11人の客の顔ぶれは、この店を最初に見出したと自負している料理評論家とその記事を掲載する雑誌の編集者、この店の常連の裕福な老夫婦、かつての人気俳優でグルメ番組の司会に転身を図る男とそのアシスタント、経費で飲食する成金IT長者の男たち3人組、そして、美食家を気取る若造のタイラー(ニコラス・ホルト)とその連れのマーゴだ。

なかなか予約が取れないレストランに客として迎えられたことで彼らは意気揚々としている。

 

一方、そんな彼らを迎えるのは、レイフ・ファインズ演じるジュリアン・スローヴィクだ。一晩定員12名の超高級料理店を切り盛りする有名シェフである。

 

本作が面白いのは、クローズド・サークルものの復讐劇の舞台にグルメ業界を選んだことだ。その下敷きになっているのが、Netflix製作のドキュメンタリーシリーズ『シェフのテーブル』だ。

『シェフのテーブル』は世界の最前線で活躍する様々なユニークな料理人を紹介する番組で、現在第6シーズンを数えるエミー賞候補にもなったことのある人気シリーズだ。

 

第一回目に登場するイタリアの料理人マッシモ・ボットゥーラーが、食べた人が子どものころに戻れるような料理として提案する新しい料理は保守的な伝統料理を好む地元からそっぽを向かれ続ける。あと一年だけと挑戦し続ける彼のもとにたまたま訪れた料理評論家が評価してくれたことを契機に、彼の店は世界のベストレストラン3位に上り詰める。

 

我らがジュリアン・スローヴィクも同様な歩みを辿ってきた料理家と言えるだろう。この島で自ら食材を熟成させているという設定は、『シェフのテーブル』シーズン1のエピソード2に登場するアメリカの料理家ダン・ハーバーを彷彿させる。

また、孤島のレストランという舞台は、人里外れた孤島に拠点を持つ中南米最高のシェフ、フランシス・マルマンの回を思い出させる。

さらに、本作に登場する美しくもユニークなメニューを監修した、サンフランシスコの「アトリエ・クレン」のシェフでアメリカの女性で初めてミシュランガイドの三つ星を獲得したドミニク・クレンも『シェフのテーブル』シーズン2に登場している。

 

彼らの多くは、料理を食べてくれる人に喜んでもらいたいという気持ちと共に、料理で世界や人につながることを望み、料理でメッセージを伝えようとしたり、持続可能な農業を作り上げる使命感といった目標や野心を持っている。そのために彼らは絶え間ぬ探究と努力を続けているのだ。

 

我らがジュリアン・スローヴィクもまた、同様な努力を続けてきたに違いない。本作は、『シェフのテーブル』の料理人たちに目一杯の敬意を表しながら、彼らとは違う方向へと歩んでしまったひとりのシェフの姿を描いているのだ。

 

人気シェフの観念がどんどん哲学化し、やがて絶対的な存在になっていく弊害はグルメ界隈には珍しいことではないだろう。『ザ・メニュー』では、スタッフはシェフの命令に忠実な軍隊のようだ。また、どんな料理が出てきても有難がる美食家をニコラス・ホルト演じるタイラーによってシニカルに表現している。

 

ジュリアン・スローヴィクがなぜこの驚愕のフルコースを振る舞うに至ったのか、その心情を想像し、彼の動機を補填するのが、この作品を観る楽しみの一つと言えるだろう。『シェフのテーブル』はその一つのヒントと言える。

また、本作に登場する美しく奇怪なメニューをとらえたショットは、『シェフのテーブル』とあえて同じ撮影方法で臨んだという。  

 

シェフとひとりの招かれざる客との対決がもたらすもの

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

アニャ・テイラー=ジョイ扮するマーゴは、この空間における異分子だ。タイラーは同伴するはずだった女性に振られ、ペアでないと参加できないためにマーゴを連れてきたのだ。

あとからわかる事実を考えると、彼がこの選択をしたことに対してなんとも言えない気分になる。ニコラス・ホルトはこのクズ野郎を絶妙に演じて見せる。

 

スローヴィクが彼女を敵対視するのは、彼女が単に、自身の計画にもともと入っていなかったからだけではない。

彼が異様に戸惑ったのは、彼にとって彼女は敵ではないからなのだ。

彼はすぐに彼女の正体に気がつく。彼女はこの場所に来るべきではなかった。彼女を他の連中と同様に扱うのは不本意だ。しかし、後戻りはできない。彼女に与える選択は「与える者として死ぬか、奪う者として死ぬか」だけだ。

 

こうして、マーゴとスローヴィクの心理的対決が物語を通して描かれていく。

 

狂気のシェフと、俗物である客たちの織りなすブラックなホラー・スリラーというだけでは単なる悪趣味な物語に陥る可能性があるが、この2人の対決があるからこそ、ピンと糸が張り詰めたような緊張感とある種の清々しさが生れたといえるのではないか。

 

他の富裕層の客たちが成す術もなくテーブルに座ったままなのに対して、マーゴは頭を素早く回転させる。

 

彼女とスローヴィクの最後の決戦で、彼女はついに勝利を収める。それは彼女がスローヴィクのことを想像したからだ。それは彼女が誰も入ってはならないとされている彼の個人の部屋へと侵入できたことによる。そこに飾られた若き日の彼の写真を彼女は見たのだ。

 

想像すること、彼を理解しようとすることが、彼女の命を救ったのである。銃も刀もここでは飛び交わないが、まさに最大の決闘が静かに行われたのだ。このクライマックスに大いに拍手を送りたい。

 

風刺と社会告発と狂気とブラックユーモアに満ちた快作であると共に、人間と人間が真摯に対峙する心理的アクション映画でもある。アメリカで大ヒットしたのもうなずける一編。  

さらにグルメ映画に浸ってみたい方へのお薦め作品

観れば『ザ・メニュー』の面白さがさらに増すと思われる二作品を紹介しよう

まず一作目は『ノーマ、世界を変える料理』。

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マケドニアからデンマークにやってきた移民で、時に差別を受けながらもコペンハーゲンに開業したレストラン「NOMA(ノーマ)」が世界のベストレストラン一位に選ばれたカリスマシェフ、レネ・レゼピを描いたドキュメンタリー映画だ。

北欧の食材だけを使った革新的な料理を作ろうとする彼の試みは、当初はなかなか理解してもらえず苦戦を強いられる。それでも彼は追求をやめず、料理に「時間」と「場所」という概念を取り込み、北欧独自の料理を作り上げる。一位に選ばれてから環境ががらりと変わり、なかなか予約が取れない超人気店となった。  

 

レネ・レゼピは当時のことを振り返り、「店は突然高級志向になり僕は嫌な男に成り下がった」と述べている。

3回連続一位を記録したあと、ノロウィルスによる食中毒事件が起こり店は突然どん底へと突き落とされる。当然、一位の座からも転落。客足がぱったり途切れる。このドキュメンタリーの面白さは、レネ・レゼピという人物の飾り気のない行動や言動をそのままとらえていることにある。「一位から転落してよかったことは一位だからといって店に来る客がいなくなったことだ。そんな俗物たちはお断りだ」といった本音がそのままストレートに伝えられるのだ。

その後、店がどうなっていくのかは、観てのお楽しみ。

『ノーマ、世界を変える料理』を観る

『ザ・メニュー』のプロダクションチームは、セットデザインや料理のメニューに様々な有名店を参照しているが、この「NOMA(ノーマ)」もその一つである。

(2015/99分/イギリス/原題:Noma: My Perfect Storm/監督:ピエール・デシャン

 

二作目はフィリップ・バランティーニが製作・脚本・監督を務めた『ボイリング・ポイント 沸騰』。


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ロンドンの高級レストランを舞台に、一年で最も忙しいクリスマス前の金曜日の営業の姿を究極の90分ワンショットで捉えた劇映画だ。

キャパオーバーで埋まった店内で、料理人とフロアマネージャーは一触即発状態。『ザ・メニュー』の統制された従業員とは違い、こちらはすぐに怠ける掃除人、英語のわからないフランス人料理人といった顔ぶれで、効率も悪くミスも起こりがち。そこへシェフのライバルとカリスマ料理評論家が突然来店。余裕のないシェフは気が気でない。

客の方も黒人ウエイトレスを毛嫌いする差別主義者やメニューにないものを突然注文するSNSインフルエンサーなどの姿が赤裸々に描写され、混乱を極める中、営業は無事終えられるのか? 

主演のシェフを演じているのは、『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)などのスティーブン・グレアム。レストラン業の半端ない忙しさとシェフの苦悩がリアルに伝わってくる。

(2021年/95分/イギリス/原題Boiling Point/監督:フィリップ・バランティーニ)

(文責:西川ちょり)

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