デイリー・シネマ

映画&海外ドラマのニュースと良質なレビューをお届けします

Netflixドラマ『アドレセンス』(全4話)あらすじと考察/10代の少女が刺殺された事件の背景と人間模様を全編ワンテイクで描く

Netflixのリミテッドシリーズ「アドレセンス」(Adolescence)は、イギリスで製作され、2025年3月13日から配信が開始された全4話の犯罪ドラマだ。13歳の少年が引き起こした衝撃的な事件を軸に、捜査する刑事、少年の同級生たち、加害者家族など、関係者の姿がリアルに描かれ、根底にある問題が浮き彫りにされる。

 

youtu.be

 

全4話全てがワンテイクで撮影されており、臨場感あふれる映像に思わず引き込まれる。監督のフィリップ・バランティーニは、映画『ボイリング・ポイント/沸騰』(2022)でも同様の手法を用いており、同作で主役の料理長を演じたスティーヴン・グレアムが本作では少年の父親を演じているほか、共同制作・共同脚本を務めている。

 

目次

 

Netflixドラマ『アドレセンス』作品情報

(C)Netflix

2025年/イギリス/全4話(51~65分)/原題:Adolescence

監督:フィリップ・バランティ―ニ 脚本: スティーヴン・グレアム、ジャック・ソーン 

出演:オーウェン・クーパー、スティーヴン・グレアム、クリスティン・トレマルコ、アシュリー・ウォルターズ、フェイ・マーセイ、マーク・スタンリー、ケィン・ディヴィス、ジョー・ハートリー、アメリー・ピーズ、ファティマ・ボジャン、オースティン・ヘインズ、リル・チャーヴァ、エリン・ドハティ

 

Netflixドラマ『アドレセンス』あらすじ

(C)Netflix

(一話の結末まで書いていますのでご注意ください)

明け方のまだ早い時間に警察はミラー家の住宅のドアを破り、強制捜査に入った。またたく間に武装した警官が容疑者を確保。逮捕されたのはミラー家の長男で13歳のジェイミーだった。

 

事件を指揮するルーク・バスコム警部補は、パニック状態の両親にあとで警察署に来るように告げた後、ジェイミーをパトカーに乗せて連行した。

 

警察署に到着したジェイミーの家族は、ジェイミーが父親を「適切な大人」に選んだことを聞かされる。それはジェイミーの身体検査や尋問などが行われる際、父親がジェイミーに付き添うことを意味する。ジェイミーは終始おびえて泣きながら無罪を訴えていたが、流れ作業のように様々な手続きが行われた。

 

弁護士が付き添い、尋問が始まった。バスコム警部補とミシャ・フランク巡査部長はジェイミーに彼がSNSにあげた投稿を印刷したものを見せ、そこにコメントを寄せたケイティ・レナードを知っているかと尋ねた。ジェイミーとケイティは同じ高校の同級生だった。ケイティはしばしばジェイミーの投稿にコメントを寄せていたが、ジェイミーは彼女とはそれほど親しくなかったと応えた。バスコム警部補はケイティが昨晩刃物で襲われ死亡したと語った。頭や首など何か所も刺されていたという。

 

そのことを聞かされても、ジェイミーは自分は何もしていないと繰り返すだけだ。弁護士は休憩をとってわたしたちだけで話をしましょうとジェイミーと父親に呼びかけるが、父親は息子は隠し事などしていないと言ってそれを断った。

 

バスコム警部は監視カメラの映像を見せ、映っている少年を指してこれは君だね、とジェイミーに尋ねた。ジェイミーはうなずいた。次にバスコム刑事から出て来た言葉は「君はケイティを尾行していた」というものだった。続けて見せられた監視カメラの映像にはジェイミーがケイティをナイフで刺し殺す決定的な場面が映っていた。父親は茫然とした表情で画面を見つめ、顔を覆う・・・。

 

動かぬ証拠を提示され、ミラー家の平凡だが幸せな日々は瞬く間に崩壊してしまう。一方、捜査を進める刑事や心理療法士も、事件の背後にある深い社会問題を目の当たりにすることになる・・・。

※当サイトはアフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用しています

 

Netflixドラマ『アドレセンス』感想と評価

(C)Netflix

(ネタバレを含みます。ご注意ください)

 

ワンショットワンテイクの驚異的な技術力

本作の監督を務めたのは『ボイリング・ポイント/沸騰』のフィリップ・バランティーニだ。『ボイリング・ポイント/沸騰』はクリスマス前で賑わうレストランを舞台に様々な状況におかれた従業員たちの姿を、人種問題、労働問題、パワハラ、セクハラ、SNSなどレストランに関係するあらゆる問題を絡めて描いた90分の作品で、全てワンショットワンテイクで撮影されていることで話題になった。トリックを使ってワンテイクと称している作品も多い中、同作は一切トリックを用いていない。Netflixドラマ『アドレセンス』もまた、全四話ともトリックなしのワンテイクで撮影されている。

 

第一話は、アシュリー・ウォルターズ扮するバスコム警部補とフェイ・マーセイ扮するフランク巡査部長が覆面パトカーで待機しながら、とりとめもない話をしているところから始まる。その地点では緊張感などまるで感じられないが、カメラが動き出すと、何台ものパトカーが連なっている通りが見え、これが大規模な捜査であることがわかる。道路を進み一挙にミラー家に接近すると、別の角度から装甲車が現れ武装警官が何人も降りて来てドアを蹴破って突入、警官と共にカメラも中へ入り、二階に駆け上がるという恐るべきカメラワークがなされている。もちろん、全てワンテイクで、これがラストまで続くのだ。

 

さらに第二話のラストもカメラがとんでもないことになっていて、どのようにして撮ったのか、メイキングを観てみたくなるほどだ。『ボイリング・ポイント/沸騰』は、ほとんどがレストランの内部で展開していたのに対して(若干外にも出てはいたが)、こちらは広域にカメラが動いており、その高い技術力に圧倒される。

 

とはいえ、第一話は警察署、第二話は学校、第三話は少年拘置所(第四話は加害者家族の一日を描く)と、本作も基本は室内とその周辺が主要な舞台である。

 

事件の背景に浮かぶソーシャルメディアと若者の関連性

第一話では、あどけなさを残した少年が殺人なんてありえない、あれほど否定しているのだから冤罪なのではないか、と少年の家族と同じような感情に包まれながら、何がなんだかわからない状態に私たちも放り込まれる。また、逮捕された未成年がどの様な扱いを受け、どのように取り調べられるのかといったプロセスがスピーディーかつ詳細に描かれ、少年から「適切な大人」に指名され、検査や尋問などに同席することとなった父親と共に、最後は我々も衝撃の事実を突きつけられることになる。

 

第二話は第一話の翌日に設定され、ジェイミーと被害者が通っていた学校で刑事たちが聞き込みを行う姿が描かれる。だが、誰もが非協力的であり、子供たちはまるで治外法権のように傍若無人に振る舞っている。学内は混沌としており、教育の現場とは思えない。刑事が動画を見せる授業ばかりだと指摘しているが、生徒たちを教室に押し込めておくためにはそれがもっとも効果的なのだろう。教師も、警官も、大人たちは誰もこの学校の生徒とつながることができない。

 

全四話の中でもっとも評判の高い第三話はジェイミーと心理療法士のブリオニー(エリン・ドハティ)とのセッションで構成されている。エピソード 1 から 7 か月後という設定で、前二話とは毛色の違った息詰まる室内劇が展開する。

和やかに始まったやり取りも、ブリオニーの質問が「男らしさ」や「性的な体験」といったものに及ぶと、ジェイミーは反発し、自虐的になったり、嘘をついたり、会話を主導しようと躍起になるなど動揺を隠せなくなる。カメラは二人の感情の深淵に迫ろうと、寄ったり、ひいたりと自在にパンし、やがてジェイミーが思いもかけない性分を露わにするにいたって緊張はピークを迎える。十代前半の少年が女性蔑視的な思想や攻撃性に染まっている実態が浮かび上がって来る。

 

第四話は加害者一家の一日を追うエピソードが綴られるのだが、その中で両親はまだ幼いジェイミーにPCを買い与えた日のことに触れ、外の世界にいるよりも画面に没頭している方が安全だと考えていたことを吐露している。

 

ジェイミーは生まれつきのソシオパスなのだろうか。否、彼はポッドキャスターやインフルエンサーなどソーシャルメディアを通じて「マノスフィア」*1といった思想に影響を受けた少年なのだ。“20対80の法則”(80%の女性が20%の男性を好む)や“インセル”*2という概念を容易に受け入れてしまうのは、社会的な孤立感や現状の不満、自信のなさによるものだろう。女子生徒の裸の写真を男子生徒がオンライン上で共有することがもはや日常になってしまっている事態は女性蔑視の思想が強く根付いていることを証明している。少年が事件を起こした背景にはこうしたソーシャルメディアと子供たちの関係が大きな要因になっており、ソーシャルメディアがいかに悪しき形で若者の生活に浸透してきているかを本作は告発しているのである。

 

タイトルの「Adolescence」は、「思春期」という意味だ。心も体も変化していく時期であるから、それでなくても成長の痛みを感じるデリケートな年頃だというのに、オンライン社会によって、現代の子供たちの感情はより複雑なものと化している。

 

第二話で明快に視覚化されているように、親世代とデジタルネイティブ世代の若者たちの間には明らかな断絶がある。親は子どもたちを以前のようコントロールすることが出来なくなっている。スマホやパソコンで彼らが何をしているのかを全て把握している親など誰一人としていないだろう。

 

加害者の両親はわたしたちが息子に対して何かできることがあったのだろうかと自問する。そしてそのことをずっと考え続けなければいけないと述べている。ここまでこの作品を観て来た人にとって、その言葉は重く、深く心に沁み入るだろう。

 

Netflixリミテッドシリーズ『アドレセンス』は、若者に深刻な影響を与えている社会的状況を的確にエンターティンメントとして表現した2025年の最重要作品である。

 

 

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

www.chorioka.com

*1:インターネット上で男性の権利や関心事,アンチフェミニズムを中心に議論するコミュニティや文化の総称

*2:(Incel) 恋愛や性的関係が得られない非自発的独身者