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映画『南部の人』あらすじ・感想/ジャン・ルノワールのアメリカ時代の代表作に込められたものとは!?

シネマヴェーラで「ヌーベルヴァーグ前夜」と題して、ルノワール、オフェルス、ベッケル、グレミヨン等、ヌーベルヴァーグが愛した映画作家の特集が開催される (2022年12月24日~2023年1月27日)。その上映作品の中から、今回はジャン・ルノワール監督の『南部の人』(1945)をとりあげたい。

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第二次世界大戦中にドイツがフランスに侵攻したため、フランスを離れてハリウッドに渡ったジャン・ルノワールは、アメリカで数本の映画を撮った。その中でもジョージ・セッション・ペリーの原作をルノワールが脚本、監督した『南部の人』はアメリカ時代の代表作として知られている。ベネチア国際映画祭(1946)では最優秀作品賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされた。  

 

目次

映画『南部の人』作品情報

1945年/92分/アメリカ映画/原題:The Southerner 原作:ジョージ・セッション・ペリー 監督:ジャン・ルノワール 脚本:ジャン・ルノワール 脚色:ヒューゴ・バトラー 撮影:ルシエン・アンドリオ 音楽:ウェルナー・ジャンセン

出演:ザカリー・スコット、ベティ・フィールド、J・キャロル・ネイシュ、エステル・テイラー、ボーラ・ボンディ、パーシー・キルブライト、ブランチ・ユーカ、チャールズ・ケンパー、ノーマン・ロイド、

映画『南部の人』あらすじ・ネタバレ感想

冒頭、一冊のアルバムが開かれる。それにより、アメリカ南部の移動農業労働者サム・タッカー(ザカリー・スコット)家の面々がわかりやすく紹介される。

収穫の季節。大勢の人々が綿の収穫に精を出している。ひとりの老人が倒れる。タッカー家の祖父だ。横にして、水を飲ませ、顔を水でふいてやる。飼い犬がやってきて寄り添っているが祖父はサムに「自分の土地を持て」と言い残し、次の場面では葬式のシーンに移っている。式を終え、帰り道、綿畑の間を車や馬車が通り過ぎていく。祖母と孫娘が野イチゴをみつける。野イチゴを食べる二人。孫娘は小さなへびをつかまえて祖母をこわがらせる。帰路につく家族。祖母は片手にいっぱいの野イチゴを持っている。

親方から三年間開墾されていなかった土地を借り受けた一家は、引っ越しのため、トラックに荷物を積み込む。家が近付いてくると祖母が大声で愚痴り出す。確かに前方に見えるのは屋根も壊れ、荒れ果てた家だ。祖母は、一人トラックの上で椅子にすわったまま動こうとしない。  

 

その間に家族は荷物を運び込み、サムの妻・ノーナ(ベティー・フィールド)は、ストーブを直して、早速コーヒーを淹れる。はちみつ入りのコーヒーだ。コーヒーなんかでごまかされないよ、と意地を張りながらも、祖母も家にはいり一服する。この作品ほどコーヒーがおいしく飲まれるアメリカ映画を観たことがない。 

 

冬。祖母は毛布をまとい、皆、寒そうな中、なぜか子どもは半袖姿だ。貧しくて冬服が買えないのだ。それで学校も休んだというので、サムは、祖母の毛布をとりあげてコートを作るのだけれど、ここでも祖母は、猛烈に抵抗する。

厳しい冬の食料を確保するためのサムの奮闘ぶりが描かれる中、息子が栄養失調で病気になってしまう。苦しそうな息子を見るに見かねた母は、大地の上で泣く。必要なのは、野菜とミルクだという。

隣人の農夫にミルクを分けてもらいに行くが、この男、とんでもなく人格が歪んでいて、男の娘がこっそり持ってきたミルクも、結局叩き落されてしまう。この一家との衝突は、サムが男に猟銃で撃たれそうになるまでもつれることになる。

サムが街に出たときのこと、町の工場で働く友人が彼を誘う。かなりの高額が得られるようだが、サムはきっぱり断る。友人が酒代を払うと、店主がお釣りを誤魔化し、友人は怒って物を投げつける。店主と店の女もビール瓶などを投げ合ってジュークボックスがぶっ潰れるなど、スラップスティックな展開になり驚かされる。

サムの母親のつてで牛が一頭運ばれてくる。息子の病気も次第によくなり、農業のほうもようやく軌道に乗りかけた頃、隣人が畑を荒らし、怒ったサムは隣人を殴りとばす。殴った右手を思わずさするなど細かい演出が施されているところがいい。

怒った隣人は猟銃を持ち出してサムを撃とうとするが、サムが巨大な鯰を捕まえた様子を見て、思わず仕掛けを引っ張ろうと駆け寄る。彼は長年、自分の手で鯰を釣ることを夢見ていたのだ。今後、一切のいやがらせをしないから、自分が釣ったことにしてくれと頼み込む隣人。サムは「自分の家で食べる」と主張し続けるが、男の娘が駆けつけたときには、隣人の言うことを聞いてやるのだった。

苦労した畑はついにたわわな綿をつける。そしてなんと、サムの母親で未亡人が、再婚することに! 賑やかに結婚式が行われる。すっかり酒に酔ったサムと友人はベッドに倒れこみ寝てしまう。

夜は嵐になる。水、水、水!樋に勢いよく流れる雨、横殴りの雨に濡れる窓ガラス。町全体が嵐に包まれる。ノーナは「心配だわ、家に帰りましょう」とサムを揺り起こす。家に着くと、畑は水浸しだ。祖母は泣き喚くが、ノーナはぴしゃりと言う。「こんなときにこそ、皆が団結するのよ」。そして、祖母の手を引いて家に入っていく。サムは友人と姿が見えなくなった牛を探しに行く。川が溢れて境が判らなくなってしまっている。溺れそうになっている牛を見つけて、引いていると、友人が溺れて助けを呼んでいる。

どんどん水かさが増していく中、泳いで友人をつかまえると(カメラも川渡りだ!)、サムは「もうたくさんだ、こんなところ出て行ってやる!」と履き捨てるように叫ぶ。その後、身体半分出して立ち尽くしている牛のショットへと続くのがなんとも印象的だ。   

 

家に戻ってくると、ノーナは笑顔で「うちの中の被害はたいしたことないわ」と言い、「ストーブも直したわ」と胸をはる。その振る舞いを見て、サムは再びやり直すことを決意する。友人は「お前は生まれつきの農夫だな」と言い、サムは農業の素晴らしさを説く。「しかし、逆も言えるよ、農業をするためには鍬もいるし、いずれは農耕機も必要だろ。それは町の工場で作る。いろんな人が世界をささえているんだ」この友人の言葉が素晴らしい。

わずか92分の映画とは思えないてんこ盛りの展開と嵐の日のスペクタクル感&人間愛。見事としかいえない一編だ。

 

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