超巨大竜巻が多数発生したオクラホマを舞台に、過去にトラウマを持つ気象予報士のケイトと、竜巻に果敢に挑む姿を配信しているYouTuberのタイラーは、街の人々を救うため前代未聞の竜巻破壊計画を立てる!
映画『ツイスターズ』は、1996年の映画『ツイスター』の続編とも謳われているが、『ツイスター』のレガシーを共有しつつもストーリーやキャラクターを刷新し現代的にアップデートしたスリル満点の災害パニック・アクションアドベンチャー映画に仕上がっている。
監督を務めたのは『ミナリ』(2022)のリー・アイザック・チョン。『トップガン マーヴェリック』(2022)のジョセフ・コシンスキーが原案を、『レヴェナント 蘇えりし者』(2015)のマーク・L・スミスが脚本を担当し、製作総指揮にはスティーヴン・スピルバーグが名を連ねている。
主人公のケイトには『ザリガニの鳴くところ』(2022)のデイジー・エドガー=ジョーンズが、もうひとりの主人公タイラーに『恋するプリテンダー』(2023)や、リチャード・リンクレーター監督の『ヒットマン』(2023)の公開が控えているグレン・パウエルがそれぞれ扮し、抜群のコンビネーションを見せている。
目次
映画『ツイスターズ』作品情報
2024年製作/122分/アメリカ映画/原題:Twisters
監督:リー・アイザック・チョン 製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー 製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ、トーマス・ヘイスリップ、アシュリー・ジェイ・サンドバーグ キャラクター創造:マイケル・クライトン、アン=マリー・マーティン 原案:ジョセフ・コジンスキー 脚本:マーク・L・スミス 撮影:ダン・ミンデル 美術:パトリック・サリバン 衣装:ユーニス・ジェラ・リー 編集:テリリン・A・シュロプシャー 音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、グレン・パウエル、アンソニー・ラモス、ブランドン・ペレア、キーナン・シプカ、デビッド・コレンスウェット、モーラ・ティアニー、サッシャ・レイン、ハリー・ハッデン=パットン、ダリル・マコーマック、トゥンデ・アデビンペ、ケイティ・オブライアン、ニック・ドダーニ、ポール・シェアー
映画『ツイスターズ』あらすじ
幼い頃からケイトは天候に興味があり、空を見上げない日はなかったという。大学も気象学を専攻した彼女には大きなプランがあった。彼女は親しい友人たちと共に、竜巻を溶かして弱体化させる方法を研究しており、今日はその実験日だった。
計画に自信のある彼女たちは意気揚々と車に乗り、竜巻が発生する場所に向かった。しかし彼女たちが実験を試みた竜巻は予想を遥かに越えたスケールで、ケイト以外の3人が命を落とす大惨事となってしまう。
それから5年後。ケイトは故郷のオクラホマを離れ、ニューヨークの国立気象局に勤めていた。ある日、ケイトのもとに旧友のハビが訪ねて来る。彼はあの実験の日、ケイトたちとは少し離れた場所にいたため、竜巻に巻き込まれずに済んだのだ。
ハビは新しい竜巻調査プロジェクトを始めており、ケイトの力を借りたいと言う。失った友人たちへの罪の意識で一杯のケイトは、彼の誘いを受ける勇気がなく一旦は断るが、故郷のオクラホマで巨大竜巻が多数発生していることが気がかりで、一週間という条件付きで協力を承諾した。
ハビは仲間たちにケイトを紹介してくれた。ハビたちには出資者がいるらしく、非常に整った設備とスタッフが揃っていた。彼らの集めたデーターは竜巻対策の大きな進歩になるに違いないと、ケイトは空をにらみ、どこに竜巻が発生するかを予測し始めた。
そんな彼女たちの前に現れたのは、竜巻を追って、竜巻の中に入り込む様子を動画で配信しているYouTuberのタイラーとその仲間たちだった。
彼らは、騒々しく、ハビたちの車に度々割り込んでわれ先と妨害してくるので、ハビたちの作業は中々思うように進まなかった。
そんな間にもオクラホマでは深刻な竜巻被害が続いており、町全体が破壊され、一瞬で家を失った人々は途方に暮れていた。現場に駆け付けたケイトは、金儲けだけが目当てだと思っていたタイラーたちが、被災者に食料を配るなど献身的に奉仕している姿を目撃する。
逆に、ハビたちの出資者は、被災した人々からその土地を買い上げようとしている不動産王であることがわかる。ハビは、彼は被災者の手助けをしているのだと語るが、タイラーは、被災者からさらに搾取しようとしているのだと批判する。
或る日、タイラーはケイトをロデオの会場に案内する。オクラホマの良いところを彼女に知ってほしいと考えたのだが、ケイトもオクラホマの出身であることがわかり、ふたりは心を通わせるようになる。
ところが、ロデオ会場近辺に竜巻が発生。人々は逃げ惑い、タイラーとケイトもあわてて避難場所を探し始めた。ケイトはホテルのロビーに居た親子連れをここにいてはいけないと近くの水のないプールに連れて行き、皆で身をかがめるが、避難が遅れたホテルの受付の男性は、立ちあがったために竜巻に巻き込まれてしまう。またロビーで悪態をついていた男女は忠告を聞かず車に乗り込んだため、車ごと吹き飛ばされてしまう。
ケイトは5年ぶりに実家に戻り母と久しぶりに顔を合わせた。母は静かにケイトを受け止めてくれたが、彼女はケイトの貴重な研究がとん挫していることを残念に感じているようだった。
或る日、そんなケイトのもとにタイラーがやってくる。ケイトはかつて考えた竜巻破壊計画をタイラーに見てもらった。理論上では理屈にかなっているのだが、何が足りないのか。2人は、竜巻破壊計画の知恵を出し合い、計画は確実にグレードアップしていく。
ふたりは、竜巻を追い、実験を試みるため出かけていくが・・・。
映画『ツィスターズ』感想と解説
竜巻の威力で給水塔や風力タービンなどが崩れそうになっているカットを素早く見せ、一方で嵐の中で右往左往する車を比較的長い尺度で見せるなど、リー・アイザック・チョン監督の巧みな演出とテリリン・A・シュロプシャーによる緻密な編集が、恐怖とスリルを最高潮まで押し上げている。
おかげで私たち観客も冒頭からラストまで嵐の通り道に放り出されたかのような、高みの見物とはいかない、まさにキャラクターたちが経験するのと同様の臨場感を味わうことになる。
ヒロインのケイトは、竜巻の怖さを身をもって知っている。学生時代、「竜巻を手なずける」と竜巻を舐めた結果、大切な友人を3人も失ってしまったのだ。そのショックで長い間、竜巻対策の研究から離れていた彼女は、オクラホマに巨大な竜巻が次々と発生していることを知り、5年ぶりに故郷へ戻って来る。
冒頭からケイトに扮するデイジー・エドガー=ジョーンズのきびきびした動きが印象的で、爽やかで親近感のあるキャラクターとして非常に魅力的だ。
一方、もう一人の主人公、グレン・パウエル扮するタイラーは、かつてはロデオにのめり込んだことがあるという現代のカウボーイだ。彼は今は暴れ馬を乗りこなすのではなく、電動ドリルで固定できるトラックに乗車し、竜巻を乗りこなすことでYouTuberとして生計を立てている。
とても相性の悪そうな二人が、ぶつかり合いながら、徐々に惹かれ合っていく過程は伝統的なラブコメを踏襲しているが、最後まで二人のキスシーンすらないのが新鮮だ。
タイトルが「ツイスターズ」と複数形になっているのは映画を観た人なら納得だろう。次々と竜巻が発生するのは勿論のこと、時には同時に二つの竜巻が発生することもある。本作は「地球温暖化」には一切触れず、全てを映像で見せることで事態の深刻さを可視化している。
また、一瞬に町が崩壊し、困り果てている人々に善意を施すふりをしながら、土地を奪おうとする投機家といった存在にも言及している。
全てのシーンが見どころの本作だが、とりわけ、終盤の映画館でのシーンが素晴らしい。
巨大竜巻が街を襲う中、タイラーたちは逃げ惑う人々を映画館に導く。映画館ではモノクロ映画の『フランケンシュタイン』がかかっている。映画館はいつでも映画の中において(そして現実世界においても)隠れ家であり、逃げ場として機能して来た。
勿論、この映画館も決して安泰ではない。スクリーンを竜巻が破り、観客を吹き飛ばそうと襲いかかって来る。この絶体絶命の状態が、ケイトが、自身のトラウマを破り疾走する様と重ねて描かれている。
1996年の映画『ツイスター』のヤン・デ・ボン監督は、アクションに長けた監督だったが、本作で製作総指揮を務めたスピルバーグは1980年代のアメリカ南部を舞台に、成功を夢見てやってきた韓国系移民一家の姿を描いた『ミナリ』(2020)のリー・アイザック・チョンを監督に抜擢した。
リー・アイザック・チョン監督の人間描写の巧みさを高く評価したためだという説もあるが、寧ろ、リー・アイザック・チョン監督に流れるアメリカ西部劇魂に目を付けたからではないだろうか。
リー・アイザック・チョン監督は『ミナリ』公開の際、祖父が韓国からアメリカへの移民を決断したのは『大いなる西部』(1956)などの映画に憧れた背景があると述べていたし、彼自身も西部劇に思い入れがあるようだ。
『ミナリ』を観て、フランスの名匠ジャン・ルノワールがアメリカに来て初めて撮った映画『南部の人』(1945)を思い出した人は少なくないと思う。
『南部の人』は、アメリカ南部の移動農業労働者一家が、親方から数年開墾されていなかった土地を借り受け、新たな生活を始めるが次々と試練に襲われる。農業従事者の過酷な日々と、それでも支え合う家族の姿を描いた物語だ。
『ミナリ』がアメリカで賞賛された一つの原因は、多くのアメリカ人が『ミナリ』を観て『南部の人』のようなアメリカの開拓時代の精神を思い出したこともあるだろう。
『南部の人』には終盤大嵐に見舞われるシーンが出て来る。壮大なスペクタルだ。リー・アイザック・チョン監督自身が、実際、この作品に影響を受けているのかどうかはわからないのだが、『ミナリ』のことを思うと、この『ツイスターズ』にもつい、『南部の人』の強い影響を勝手に感じてしまうのだ。