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【NHKBS放映】映画『夜の大捜査線』あらすじと解説/北部からやって来た黒人のエリート刑事と、南部の白人警察署長の対立と友情を描いた1960年代の名作

『夜の大捜査線』は2025年3月4日(火)、NHKBSプレミアムにて放映(13:00~14:51)

 

『夜の大捜査線』は、ジョン・ボールのベストセラー小説『夜の熱気の中で』をスターリング・シリファントが脚色。ノーマン・ジェイソンが監督を務め、シドニー・ポワチエロッド・スタイガーがW主演した1967年製作の犯罪ドラマだ。

©1967 METRO-GOLDWYN-MAYER STUÐIOS INC‥All Rights Reserved

公民権法が制定されて間もない1966年、人種差別が色濃く残るアメリカ南部を舞台に、黒人刑事と白人警察署長が衝突しながらも協力し合い殺人事件の真相に迫る姿を描いている。

シドニー・ポワチエとロッド・スタイガーの演技が映画の核を成しており、特にスタイガーはこの役で第40回アカデミー賞主演男優賞を受賞した。また、『卒業』(1967)、『俺たちに明日はない』(1967)などの並みいる強豪を抑え、作品賞も受賞している。

 

後に監督となるハル・アシュビーが編集として参加。社会的意義のある作品にしようと、キャスト・スタッフは、自発的に作品に関わり、高い意識をもって製作に臨んだという。

 

クインシー・ジョーンズが手掛けたサウンドトラックも名高く、レイ・チャールズが歌う主題歌「In the Heat of the Night」が映画の雰囲気を一層引き立てている。

 

目次

 

映画『夜の大捜査線』作品情報

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1967年製作/109分/アメリカ映画/原題:In the Heat of the Night

監督:ノーマン・ジェイソン 原作:ジョン・ボール『夜の熱気の中で』 製作:ウォルター・ミリッシュ 脚本:スターリング:シリファント 撮影:ハスケル・ウェクスラー 音楽:クインシー・ジョーンズ 編集:ハル・アシュビー 主題歌:レイ・チャールズ

出演:シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ、リー・グラント、ジェームズ・パターソン、ウィリアム・シャラート、ビア・リチャーズ、ピーター・ホイットニー、カーミット・マードック、ラリー・D・マン、クエンティン・ディーン、ラリー・ゲイツ、スコット・ウィルソン

 

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映画『夜の大捜査線』あらすじ

1960年代のアメリカ南部、ミシシッピ州の小さな町スパルタで、ある夜、北部から来た実業家コルバートが殺害される。彼は地域経済を活性化させるため、この町に新しい工場を建設する予定だった。

 

事件を担当するのは、偏見に満ちた町の警察署長ビル・ギレスピーだ。捜査が開始されるや、駅で不審な黒人男性が逮捕される。しかし男はフィラデルフィア市警の刑事、ヴァージル・ティッブスだった。彼は黒人という理由だけで不当に逮捕されたのだ。

 

ティッブスはすぐに釈放されるが、彼の高い捜査能力を知ったコルバートの未亡人は、ティッブスに事件の捜査を依頼する。ギレスピーは最初激しく反発するが、町の上層部から圧力を受け、渋々ティッブスと協力することに。こうして、人種差別が根深く残る南部の町で、黒人刑事と白人署長が対立しながらも事件を解決するために手を組む異例のコンビが誕生する。

 

ティッブスは冷静かつ論理的に捜査を行い、町の住人の証言を集めようとするが、何度も差別的な扱いを受け暴力にさらされる。だが、有力者で農場主のエンディコットと対峙した際、毅然とした態度を見せると、町の権力構造に変化が現れ始める。

 

ティッブスはギレスピーと協力しながら真相に迫り、ついに事件の真犯人を突き止めるが・・・。

 

映画『夜の大捜査線』感想と評価

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列車のライトが輝きこちら向きにやってくる。踏み切り、赤く点滅するライト。列車が横切っていく。止って車掌が足台を置く。そこに降りてくる足。一人の男が降り立ち、駅舎へ。シドニー・ポワチエ扮する北部からやって来た黒人の敏腕エリート刑事の登場シーンである。

 

場面変わって、壁にとまる蝿。それを輪ゴムで狙う男。命中させる。ダイナーの店主なのだが、いつも顔を見せるパトロール中のサムにわざとケーキを注文させないようにしている一癖もフタ癖もある男だ。サムは車に乗り込み、ダイナーを去って住宅地にはいり、煌々と灯かりがともった家の前で止って車のライトを落とす。そこには裸の女がうろついており、いわば”覗き”に興じたサムはしばらくすると車を走らせて去る。女はその姿を窓から目で追う。車を走らせていると今度は道路になにかが見える。降りてみるとそれは男の死体だった。サムはあわてて署に連絡し、その後、彼は駅舎で先ほどのポワチエをみつけるとホールドアップして問答無用で署に連行する。「犯人は黒人であるはずだ」という決めつけが、この誤認逮捕を生むのである。

 

60年代のアメリカ、黒人への偏見が根強くあった当時の南部の風土を背景に、北部からやって来た黒人の敏腕エリート刑事と、南部の田舎の白人警察署長の対立を中心に物語は進む。田舎の粗暴な捜査と、都会の最新式の捜査という対比などは、ボン・ジュノの『殺人の追憶』(2003)などにも見受けられるある意味、王道の対立軸だ。

 

ポワチエは、ヴァージル・ティッブスという黒人刑事を演じるにあたり、落ち着いた態度と品格を保ち、冷静に状況を掌握するエリート刑事像を作り上げた。しかしただ冷静なだけでなく農場主のエンディコットから平手打ちを食らった際には即座に打ち返している。それはヴァージル・ティッブスの勇気と誇りの表れで、その場の空気を一瞬でかえてしまう迫力があった。

公民権運動の時代に活躍した黒人俳優として、ポワチエは単なる役者以上の意味を持っていた。デンゼル・ワシントンがポワチエをロールモデルとして尊敬していることはよく知られている。

 

一方、ロッド・スタイガー扮する警察署長ビル・ギレスピーは粗野で頑固な差別主義者である。だが、この男がただの単細胞でないことが物語に深みを与えているのだ。

 

警察署長は、黒人への差別意識をなかなか払拭できずにいるのだが、少しずつ北部の黒人エリート刑事を人として、刑事として認めていく。その課程が本作の最大の見どころといっても過言ではない。

 

若いチンピラたちがポワチエを襲おうとするのは、彼等がどうしようもない愚連隊であるからなのは確かだが、当時の南部の人の偏見の強さをリアルに物語っており(チンピラたちの車には南軍旗がつけられている)、その中でのスタイガーの態度は人として立派なものであり、そのことが観ているものに高揚感をもたらす。 ロッド・スタイガーは、この複雑なキャラクターを時にユーモラスに、時に感情豊かに表現しており、見事、第40回アカデミー賞主演男優賞に輝いた。

 

公民権運動の盛り上がりの中で、これまで自分たちよりも劣ると決めつけていた黒人の人となりや才能を認め、どう接していくのかということにアメリカ白人社会が試行錯誤していた時代に、本作はひとつの在り方を提起して見せた作品といえるかもしれない。

 

犯人探しなどミステリの要素は若干物足りない部分もあるが、ラスト、理解しあった二人がクールに分かれていく様がふたりの関係の集大成として描かれていて素晴らしい。

 

この映画が、その後の人種問題をテーマにした映画やドラマに大きな影響を与えたことはいうまでもないが、刑事ものとしても一つのスタンダードとなった。また、作品の好評を受けて続編的な作品『続・夜の大捜査線』(1970)、『夜の大捜査線 霧のストレンジャー』(1971)が作られ、テレビシリーズ化(1988-1995年)もされるなど、長く愛される作品となった。

 

www.chorioka.com

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