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Amazon Prime Video配信ドラマ『ベター・シスター』(全8話)あらすじと感想/15年間絶縁していた姉妹が殺人事件をきっかけに対峙するミステリードラマ

ミステリ作家アラフェア・バークの2019年の「The Better Sister」を原作にした全8話からなるAmazonオリジナルのリミテッドシリーズ。

 

人気雑誌の編集長を務めるクロエ・テイラーは、弁護士の夫アダムと10代の息子イーサンと共に順風満帆な日々を過ごしていたが、ある晩、アダムが別荘で殺害される。イーサンの法定後見人として実母のニッキーがやってくるが、彼女はクロエの実の姉で、アダムの元妻だった。恐ろしい殺人ミステリーと複雑な姉妹関係が絡み合いながら物語は進行する。

 

ドラマシリーズ『The Sinner -記憶を埋める女-』(2017―2021)などのジェシカ・ビールがクロエを、「スパイダーマン」シリーズ(2002-2007)のベティ・ラント役や「ハンガー・ゲーム」シリーズ(2012-2015)のエフィー役で知られ、映画『ピッチ・パーフェクト2』(2015)や『チャーリーズ・エンジェル』(2019)の監督としても活躍中のエリザベス・バンクスがクロエとは正反対の姉、ニッキーを演じている。

(C)Amazon Prime Video (IMDb)

ドラマ『ベター・シスター』は、2025年5月29日(木)よりAmazon Prime Videoで独占配信中。

 

目次:

 

映画『ベター・シスター』作品情報

2025年製作/全8話(53-61分)/アメリカ/原題:The Better Sister

監督:クレイグ・ガレスピー 原作:アラフェア・バーク 製作総指揮:レジーナ・コッラード、オリヴィア・ミルチ、クレイグ・ギレスピー、マーティン・アデルスタイン、ベッキー・クレメンツ、アリッサ・バックナー、ジェシカ・ビール、ミシェル・パープル、エリザベス・バンクス、アニー・マーター、ケリー・オレント プロデューサー:ジェイムズ・クロウェル 音楽・ウィル・ベイツ

出演:ジェシカ・ビール、エリザベス・バンクス、コリー・ストール、エイシー・ドノヴァン、キム・ディケンズ、ボビー・ナデリ、ガブリエル・スロイヤー、マシュー・モディーン、ロレイン・トゥーサント、グロリア・ルーベン、マイケル・ハーニー、ジャネル・モロニー、フレッド・ウェラー、ジョン・フィン、ポール・スパーク、フランク・パンドー

 

映画『ベター・シスター』あらすじ

(C)Amazon Prime Video (IMDb)

ライフスタイル雑誌編集者で慈善家のクロエ(ジェシカ・ビール)は、ニューヨーク・マンハッタンのペントハウスに、弁護士の夫アダム・マッキントッシュ(コリー・ストール)と15歳の息子イーサン(マックスウェル・エーシー・ドノヴァン)と共に暮らしていた。

 

クロエは政界入りも噂されているほどの影響力を持ち、SNSではそんな彼女を偽善者として叩く書き込みも少なくなかった。クロエも気になってたびたびSNSをチェックしていたが、その中に、彼女の家の住所がさらされているのを発見する。なんらかの対策をとる必要があった。

 

ある晩、仕事関係のパーティーからハンプトンズにある別荘に帰宅したクロエはアダムが刺殺されているのを発見する。思わずアダムに駆け寄るクロエ。彼女の白いドレスも真っ赤に染まっていた。やっとの思いで警察に連絡し、外に出ているように言われたクロエは思わず落ちていた凶器のナイフを拾い、庭に出て転んでしまう。

 

警察はまず彼女に疑いを向けたが、その疑いはすぐに解けた。クロエは犯人の本当の狙いは自分で、アダムが誤って殺されたのではないかと考える。

 

イーサンが未成年なので、彼の法定後見人として、実母のニッキーに連絡が行き、ニッキーがクロエたちの家にやって来た。

 

実は彼女はクロエの姉で、アダムの元妻だった。彼女は長い間、薬物と酒の依存症に苦しみ、クリーブランドでひっそりと暮らしていた。

 

彼女はイーサンが2歳の時、一緒にプールで遊んでいた際、薬物の接種で気を失ってイーサンを危険にさらしたことがあった。

 

それまでもクロエに散々悩まされて来たアダムはイーサンをニッキーから取り上げ、離婚。代わりにクロエがイーサンの世話をし、やがてクロエはアダムと結婚。ニッキーはクロエにとって軽蔑すべき姉だった。

 

マット・ボーウェン刑事とナンシー・ギドリー刑事は、すぐにイーサンを第一容疑者と特定。彼が主張していたアリバイが崩れ、アダムの爪からイーサンのDNAが発見されたのだ。しかも、少し前にイーサンは、拳銃を高校に持って行ったことで騒ぎとなり、アダムの力でなんとか退学を逃れたという騒動を起こしていた。イーサンにとって父は厳しすぎ、親子関係は決して良いと言えるものではなかったことが判明する。

 

アダムの上司であるビル・ブラドックは、すぐに弁護士をつけるようクロエに助言。アダムの同僚のジェイクの推薦で、黒人女性弁護士ミッシェル・サンダースが弁護を引き受けてくれた。

 

マスコミはこの事件をセンセーショナルに取り上げた。クロエとニッキーは公判のたびに、母親として二人で行動していたが、二人の関係をかぎつけたメディアが大々的に報道し、世間のクロエに対する信頼は失墜。上司のキャサリンからも、裁判が終わるまで編集の仕事を休むよう命じられてしまう。

 

クロエとニッキーは衝突しながらも、イーサンが無実であるということにおいては完全に一致していた。姉と妹をかろうじて結び付けているのはなんとしてもイーサンを有罪にするわけにはいかないという強い気持ちだった。

 

しかし、公判中、イーサンにとって、非常に不利になる事実が発覚し、姉妹は愕然とする・・・。

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『ベター・シスター』感想と解説

(C)Amazon Prime Video (IMDb)

(※極力ネタバレのないよう気を付けていますが、ミステリ作品であるため、まだ本作をご覧になっていない方はご注意ください)

 

帰宅したクロエが夫アダムの死体を発見するという典型的なミステリードラマとして始まったこの物語は、すぐに複雑な広がりを見せる。15年間も疎遠になっていたクロエの姉のニッキーがイーサンの法定後見人として登場すると、繊細な家族ドラマの様相を呈してくる。

ニッキーはイーサンの実の母親でありアダムの元妻なのだ。なぜ、姉の子をクロエが育てているのか。なぜクロエはニッキーを軽蔑しているのか。

 

姉妹は再び同じ家に住むことになり、これまで長らく避けていたこと、つまりお互いと真剣に向き合うことを余儀なくされる。その背後には家族、幼年期のトラウマ、依存症、暴力など、それぞれの人間関係をめぐる複雑な物語が隠されていた。

 

ジェシカ・ビール演じる冷静沈着で洗練されたクロエと、エリザベス・バンクス演じる粗野なニッキーの対比は、シリーズの核を成すものであり、ビールとバンクスは、この物語のあらゆる感情の起伏を見事に捉えている。

姉妹の確執というテーマは決して目新しい題材ではないが、二人の俳優の豊かな演技が、キャラクターを決して類型的なものにせず、視聴者を終始、物語に引き付けることに成功している。とりわけバンクスは、登場した際は、クロエだけでなく、作品を観る私たちにとっても不快で忌々しい人物に見えたニッキーを、徐々に、作品全体の感情を支える人物に変化させていく。その少々クレイジーなキャラクターが次第に魅力的に見え始めるのだ。

 

イーサンが父親殺しの犯人として逮捕され、二人の母親は、嫌が負うにも協力し合わざるを得なくなる。イーサンが何よりも大切であるという共通の思いがふたりを繋げるのだ。

 

イーサンの裁判の進行に、姉妹の過去に関するフラッシュバック、生前の夫との記憶などが交錯して物語は進んで行く。過去の回想シーン以外にも、父母やアダムなど死者が突然画面に登場し、姉妹がそれぞれ彼らと会話を交わす幻想的なシーンが繰り返される。

 

こうした重層的なシーンの積み重ねによって、徐々に姉妹の人生が明暗を分けた理由や、彼女たちの意外な共通点などが明らかになって行く。それに伴い、イーサンは無罪を勝ち取ることが出来るのか、真犯人は誰なのかというミステリとしての面白さも広がって行く。このドラマの魅力は、このように解き明かされる謎と多層的なストーリー展開にある。

 

主要キャストには、キム・ディケンズ扮するナンシー・ギドリー主任刑事と、彼女の相棒で仕事熱心なボビー・ナデリ扮するボーエン刑事が加わる。この刑事たちの私生活も丁寧に描写され、とりわけギドリーが休みの日にリトルリーグの野球指導をしている微笑ましいシーンも登場する。

 

彼らはスーパー捜査官ではなく、一概の田舎警察だが、セオリー通りに捜査を進め、着実に犯人を見つけ出そうとするリアルな刑事像を体現している。

 

また、アダムの上司ビル・ブラドックにマシュー・モディーンが、クロエの雑誌社の上司キャサリン・ランカスターにロレイン・トゥーサントが扮するなど豪華俳優陣が共演しているのも見どころの一つだ。さらに舞台のひとつとなるセントラルパークが見下ろせるアッパー・マンハッタンの豪華なコンドミニアムのドアマンを演じるマイケル・J・ハーニーの存在も見逃せない。

 

ソーシャルメディアが世論形成に与える影響についても触れられており、当初、クロエは女性の有名人というだけで匿名アカウントから陰気な攻撃を受けている。事件が明るみになり、クロエとニコールの関係が明らかにされると、メディアは一斉に姉から夫と息子を盗んだ女として、クロエを糾弾する。だが、クロエも大手出版社の人気雑誌編集長という立場から、メディアに記事をリークして、世論戦にうって出る。このあたりも物語のサブプロットとしてなかなか興味深い。

 

さらに暴力的なFBI捜査官や、怪しげなペーパーカンパニーも登場し、謎が深まって行くが、最後に被害者・アダムを演じたコーリー・ストールに触れておこう。

彼はドラマシリーズ『ハウス・オブ・カード』(2013-2018)のピーター・ルッソ役や映画『アントマン』(2015)のダレン・クロス役で知られる俳優だ。アダムは第一話で死体となってしまうため、彼のキャラクターのほとんどがフラッシュバックによって示されている。アダムとニッキーとクロエの関係がどのようにしてこの状態に至ったのか、その理由が回想によって徐々に明かされていくのだが、中でもクロエとニッキーが出てこない、教会の司祭とアダムだけの「告解」シーンが強烈な印象を残す。本作のハイライトのひとつと言っていいだろう。