成績トップの優等生ヨン・シウンは、勉強だけが自分の武器だと思っていたが、大切な模試を前にクラスメイトからいやがらせを受けるようになる。いじめや暴力がエスカレートする中、彼はついに怒りを爆発させるが、いつも寝てばかりいるアン・スホの機転によって退学処分を逃れることとなった。シウンとスホに転校生のオ・ボムソクが加わり、三人は友情を深めるが、過酷な現実が彼らを待ち受けていた・・・。
韓国ドラマ『弱いヒーロー Class1』は同名タイトルのネイバーウェブトゥーンを原作にした過酷な学園生活を舞台にしたアクション青春ドラマだ。
2023年に韓国国内の動画配信サービス「Wavve」で配信されていた作品で、韓国国内では熱烈な支持を集めていたが、2025年になってNetflixで配信されたことで一挙に世界的に注目されるようになった。
シウン役のパク・ジフンはオーディション番組「プロデュース101」で注目され、Wanna Oneのメンバーとしても活躍したエンターテイナーとして知られる。本作で2023年百想芸術大賞・新人俳優賞を受賞している。
喧嘩が強いが気のいいアン・スホ役のチェ・ヒョンウクは、高校まで野球をしていた運動選手出身で、『ラケット少年団』(2021)や『D.P. -脱走兵追跡官シーズン2』(2023)などドラマで活躍。また、『D.P. -脱走兵追跡官-』(2021)で憲兵を演じ、本作でも複雑な役どころを演じたホン・ギョンは、演劇映画科出身。本作で2023年KBS演技大賞・新人賞を受賞した。
これまで短編映画などで注目されてきたユ・スミン監督が本作で長編ドラマシリーズデビューを飾った。
韓国ドラマ『弱いヒーロー Class1』はNetflix、Amazon Prime Video他にて配信中。
本作の続編である『弱いヒーローClass2』は、Netflixにて2025年4月25日より配信が予定されている。
目次
韓国ドラマ『弱いヒーロー Class1』作品情報
2022年/全8話/韓国/原題:약한영웅Class1
演出:ユ・スミン、パク・ダンヒ 脚本:ユ・スミン、ハン・ジュニ 原作:Naver webtoon 『弱いヒーロー』
出演:パク・ジフン(元Wanna One)、チェ・ヒョヌク、ホン・ギョン、キム・スギョム、シン・スンホ、キム・ソンギュン、コン・ヒョンジュ
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韓国ドラマ『弱いヒーロー Class1』あらすじ
ビョクサン高校一年生のヨン・シウンは、周囲に溶け込まずひたすら勉強する冷静な優等生だ。両親は離婚し、父と2人で暮らしているが、スポーツ選手の父は遠征で家を空けることが多く、母と会うことはほとんどなかった。
大切な模試を目前にして、クラスメイトのヨンビンによるシウンへの嫌がらせが始まった。「放っておいてくれ」とシウンはヨンビンに告げるが、いじめの行為はエスカレートしていくばかりだ。
ある日クラスに転校生がやってくる。ボムソクという名の生徒はおどおどして気の弱そうなそぶりを見せ、すぐにヨンビンの標的になる。ヨンビンはシウンの後ろの席に彼が座っているのを利用して、テスト中、シウンの首元に麻酔用鎮痛剤のチップを貼るよう脅した。
ボムソクは言われた通り、チップを貼る。何事かと後ろを振り向いたシウンだが、すぐにテスト用紙に視線を向けた。途中で意識がおかしくなったシウンは、自分の頬をびんたして活を入れるが、意識が遠のき、集中することが出来ない。テスト終了後、彼は自分の首元に貼られたチップに気が付く。我慢の限界に切れたシウンはヨンビンに襲い掛かり、彼の顔をカーテンで包み込みながら上から激しく何度も殴打。カーテンに血が滲んでいく。それを止めたのはいつも教室の隅で寝てばかりいるアン・スホ(チェ・ヒョヌク)だった。
ヨンビンが麻酔用鎮痛剤を常用していたため、シウンは退学せずに済み、怪我をしたヨンビンの方が処罰を受けて転学させられることになった。
腹の虫のおさまらないヨンビンは、年上の従兄のスクテにシウンへの復讐を依頼し、シウンはスクテと彼の仲間に襲われる。しかし、シウンの危機に気づいたボムソクとスホが割って入り、シウンは救い出された。
気が付けば、シウンはすっかり、スホの手中にはまり、彼のアルバイトを手伝わされたり、塾に行く日に遊びに連れて行かれたりすることが増えていた。これまでひたすらひとりで生き抜いてきたシウンが初めて知った友情だった。ボムソクも加わり、三人は急速に友情を深めていく。
しかし、暴力の連鎖は途切れず彼らを襲ってきた。スクテが所属する組織は、未成年をターゲットにしたオンライン賭博で悪どく儲ける質の悪いチンピラの集まりだった。スクテのボスはスクテの骨をわざと折り、膨大な治療費をシウンたちに請求する。校庭の前ではいつもスクテと仲間たちがたむろし、3人が逃げないように監視していた。
国会議員の養子であるボムソクは父親の時計をこっそり金庫から取り出し、売ってお金に換えるが、シウンとスホは彼らのアジトを突き止めて、警察に通報しようと考える。
スホは他のふたりを制してひとり、アジトを突き止めるため、彼らの車に乗り込む。スホはアジトの住所をつきとめ、シウンに連絡。だが、金で解決出来るのならと考えたボムソクはのこのことアジトに出向いてしまい彼もまた捕まってしまう。スホがこっそり連絡し警察が来ることを知った男たちは、スホとボムソクを連れたまま、別の場所へあわただしく移動してしまった。警察と共に、アジトに着いたシウンだったが、そこは既にもぬけの殻、警察はまた明日署に来てくださいと言い残して帰ってしまい、シウンは途方に暮れる。
スクテの仲間のひとりヨンと不思議な縁があったシウンは彼女のおかげで彼らの隠れ場所を掴み、警察と共に、直行。現場ではスホとボムソクは縛られていたが、スクテがボスに反旗を翻していた。
組織の連中は検挙され、シウンたちは、ボクソクの父のおかげで無罪放免された。だが、家に帰ったボクソクは父に罵声を浴びせられ、激しい懲罰を受ける。父親は政治家としての対面を保ちたいために彼を養子にしただけで、彼が自分の思い通りに振る舞わないことに腹を立てていた。前の学校で彼がいじめにあったことすら父親は恥ずかしく感じているのだ。
行き場のなかったヨンはスホのおばあちゃんの家でやっかいになることになった。すっかりスホのおばあちゃんと仲良くなったヨン。スホとも仲良くやっているヨンの姿をインスタグラムで観たボクソクは複雑な感情に囚われる。
3人でカラオケに行った際、ボクソクは彼をいじめていた前の学校の同級生に偶然出くわし、激しく感情を取り乱すが・・・。
韓国ドラマ『弱いヒーローClass1』感想と評価
主人公のヨン・シウンは、成績優秀だが孤独な高校生だ。両親の離婚により家庭での愛情を知らず、ひたすら勉強することで自分を保って来た。試験で良い成績をとることは彼の生きる証なのだ。しかし、そんな彼の静かな努力を嘲笑うかのように、同級生たちによる執拗ないじめが始まる。シウンはただ「放っておいてくれ」と願うが、いじめを行う者たちにその言葉が届くはずもない。
この状況は、デレク・ツァン監督の中国・香港合作映画『少年の君』(2019年)を彷彿とさせる。同作でも、全国統一試験(通称「高考」)を直前に控えた主人公が同級生からのいじめに苦しむ姿が描かれていた。国や文化は異なるものの、若者が置かれた閉塞感や理不尽な暴力の構図は普遍的な問題なのだ。
シウンは我慢の限界を超え、いじめの主犯格を激しく打ちのめす。しかし、クラスメイトのアン・スホの機転によりその場は収められ、シウンは退学の危機を免れる。スホは教室の片隅でいつも寝ているような少年だが、鋭い観察力と行動力の持ち主だ。この出来事をきっかけに、シウンとスホ、そしてもう一人の少年オ・ボムソクの間に友情が芽生え始める。
孤独だった彼らが互いに心を開き、仲間と共に過ごす喜びを知る過程が丁寧に描かれていく。シウンは冷静で知的な性格、スホは自由奔放で行動力があり、ボムソクは内向的で繊細な心の持ち主だ。キャラクターそれぞれの個性が俳優たちの自然な演技によって際立ち、私たちは彼らの友情に強く共感を覚えることになる。
パク・ジフンの抑えた演技は、シウンの内面の葛藤を繊細に表現し、チェ・ヒョヌクの軽妙な存在感はスホに独特の魅力をもたらしている。ホン・ギョンの演じるボムソクもまた、控えめながら感情の揺れを巧みに表現している。
しかし、物語は単なる友情の讃歌では終わらない。暴力の連鎖は止まることなく、学内から学外へと広がっていく。シウンたちは、暴力団のような年上の不良たちと対峙せざるを得なくなる。この展開は、漫画家・西森博之の作品などに見られる「暴力の連鎖」のテーマを想起させるものだ。だが、本作が独自の輝きを放つのは、アクションの緊張感だけでなく、友情が崩壊していく過程を丁寧に描き出す点にある。
友情の破局は、ボムソクの心理に焦点を当てて描かれる。彼はスホに対して、友情以上の感情を抱いていたように見えるが、その感情は、時に嫉妬や劣等感として表れ、些細なきっかけで爆発してしまう。たとえば、インスタグラムでスホにフォローしてもらえないという出来事が、ボムソクにとって大きな断絶の原因となってしまうのだ。このエピソードは、現代の若者たちがSNSを通じて自己肯定感を測りがちな現実を鋭く反映しているといえるだろう。
こうした友情の崩壊は、岩井俊二の『リリィシュシュのすべて』(2001年)や、韓国映画なら『BLEAK NIGHT 番人』(2010年)、『最善の人生』(2021)といった映画を思い出させる。いずれも、登場人物それぞれの家庭の事情や、思春期特有の複雑な感情が絡まり、友情が敵対へと理不尽に変化してしまう作品だ。
特に韓国映画の二作は、前者が男子生徒3人組、後者が女子生徒3人組の友情とその崩壊を描いており、3人という人数が本作と共通している。
『弱いヒーローClass1』の場合はボムソクの心理が丁寧に掘り下げられているため、上記の作品に比べ幾分理解しやすい面もあるが、「どうしてこうなってしまったのか」という問いには答えがなく、「あの頃に戻りたいけれどもう元には戻れない」という哀しみが広がるばかりだ。
アクションシーンは、本作の大きな魅力の一つだ。スピーディーで緊張感のある戦闘描写は、学園アクションとしてのエンターテインメント性を高めている。とりわけ、物理や数学で学んだ定理を取り入れたシウンの戦い方はユニークで面白いが、やはりそれ以上に印象的なのは、キャラクターたちの感情が織りなすドラマの密度だ。
物語の冒頭で引用されるヘルマン・ヘッセの『デミアン』の言葉、「鳥は卵から出ようと闘う。卵は世界だ。生まれようとする者は、一つの世界を壊さなければならない」は、本作のテーマそのものと言えるだろう。シウンは勉強に打ち込むことで、自己を確立しようとするが、暴力や友情の試練を通じて自身の内面と向き合うことを強いられる。スホは自由に見えるが、彼もまた祖母を養うために若くして経済を支える役割を背負っている。ボムソクの葛藤は、自己肯定感の欠如と他者への依存の間で揺れる若者の姿を体現するものだ。彼らの戦いは、単なる肉体的な闘争ではなく、自己を確立するための精神的な闘いでもあるのだ。
典型的な学園アクション物の構造を取りながらも、3人の生徒の友情と破局を通じて青春の痛みと成長を描いた『弱いヒーローClass1』はジャンルを超えた完成度の高いドラマに仕上がっている。