韓国ドラマ「弱いヒーロー」シリーズは同名タイトルのネイバーウェブトゥーンを原作に、ヨン・シウンという孤独な男子生徒が、暴力の蔓延る過酷な学園生活の中で、友情を知り、成長していく姿を描いたアクション青春ドラマだ。
シーズン1である『弱いヒーロー Class1』は、2023年に韓国国内の動画配信サービス「Wavve」で配信され、2025年にNetflixで配信されたことで一挙に世界的に注目されるようになった。
『弱いヒーロー Class2』は、シウンがピョクサン高校を退学になり、ウンジャン高校に転校した「Class1」の続きから始まる。シウンは大切な友人を救うことが出来なかった罪悪感に駆られ、眠れない日々を送っていた。そんな彼の前に様々な人物が現れ、シウンは再び友情の大切さに気付くことになるが、やがて暴力団とつながる不良高校生グループ「連合」の悪事に巻き込まれていく。『弱いヒーロー Class1』につづき、ユ・スミンが演出と共同脚本を務めている。
シウン役のパク・ジフンはオーディション番組「プロデュース101」で注目され、Wanna Oneのメンバーとしても活躍したエンターテイナーとして知られている。『弱いヒーロー Class1』の演技が認められ、2023年度百想芸術大賞では新人俳優賞を受賞している。
シウンを目の敵にするウンジャン高校のボス的存在チェ・ヒョマンに『愛の不時着』(2019-2020)で知られるユ・スビン、ウンジャン高校の人気者でリーダー的存在のパク・フミン役にリョウン、いじめられっ子ソ・ジュンテ役に、チェン・ミニョン、フミンの親友ヒョンタク役にイ・ミンジェが扮しているほか、各高校の不良が所属するグループ「連合」のボスであるナ・ベクジンをペ・ナラが、その片腕である武闘派ソンジェをイ・ジュニョンが演じている。
『弱いヒーローClass2』は、Netflixオリジナル作品として2025年4月25日より配信がスタートした。
目次
韓国ドラマ『弱いヒーロー Class2』(全8話)作品情報
2025年/全8話/韓国/原題:약한영웅Class2
演出:ユ・スミン 製作総指揮:ハン・ジュニ 脚本:ユ・スミン、パク・ヒョヌ 原作:Naver webtoon 『弱いヒーロー』
出演:パク・ジフン(元Wanna One)、リョウン、チェ・ミニョン、イ・ミンジェ、ペ・ナラ、イ・ジュニョン、ユン・ジョンビン、イ・ミョンロ、ユ・スビン、コン・ヒョンジュ、チョン・ベス、チョ・ジョンソク、チェ・ヒョヌク、ホン・ギョン
韓国ドラマ『弱いヒーロー Class2』(全8話)あらすじ
友人のアン・スホをこん睡状態に陥れた男子生徒たちを次々と殴り倒したヨン・シウンは、ピョクサン高校を退学になり、唯一の受け入れ先であったウンジャン高校に転校する。すぐに学校のボス的存在であるチェ・ヒョマンに目をつけられるが、ヒョマンはシウンが前の学校で人を殺したという噂を信じて手を引き、代わりに複数のおとなしい男子生徒たちをパシリに使い、彼らに他の生徒たちの携帯を盗ませていた。なかでもソ・ジュンテは、もっとも酷い目にあっている生徒だった。
シウンは毎晩、眠れない日々が続き、心配した母親の手配でカウンセリングを受けていたが、ほとんど効果がなかった。学校の休み時間は机に突っ伏して過ごすことが日課になっていた。
ある日、ヒョマンからヨン・シウンの携帯を盗んで来いと命令されたソ・ジュンテは、授業が終わったあと、職員室から皆の携帯の入ったカバンを回収する際、シウンの携帯だけを抜き取る。
シウンが自分の携帯がないと言い出しても、とぼけたふりをしていたジュンテだったが、彼が盗んだことを見破っていたシウンから発せられた「卑怯者」という言葉が心に重くのしかかった。
ジュンテは翌朝、まだ誰も登校していない時間に校舎に入り、ヒョマンたちが勝手に使用している部屋に侵入すると、保管されていた携帯を全て取り出し、一つ一つ謝罪の手紙を添えて元の持ち主の机に返還した。
携帯が無くなっているのを知ったヒョマンは激怒する。彼は「連合」という不良グループの一員にしてもらうために携帯を大量に仕入れて納品しようとしていたのだ。「連合」は様々な学校から集まった強面のメンバーで構成されており、窃盗などの犯罪を繰り返して儲けた金でつながっているグループだった。
ジュンテの仕業だとわかったヒョマンはジュンテの教室にやって来て、ジュンテを殴り始めた。新しい学校ではもう誰とも関わりたくないと思っていたシウンだったが、かつて自分がピョクサン高校で暴力沙汰になった際、いつもスホが力になってくれていたことを思い出し、自然に涙が溢れて来た。
シウンは立ち上がると、「やり過ぎだぞ」と言ってヒョマンの前に立った。邪魔されたヒョマンは怒ってシウンを殴るが、シウンは殴られても、殴られても立ち上がり、最後はヒョマンをかわして、ヒョマンはひっくり返りそうになった。ちょうどその時、バスケット部のコ・ヒョンタクが教室に入って来た。ヒョマンは形勢が悪いと判断し、そそくさと教室から出て行った。
このことをきっかけにシウンはジュンテと行動を共にするようになる。ジュンテは眠れないというシウンのためにビタミン剤をわざわざ買って渡し、シウンはそのおかげで久しぶりに安らかな眠りにつくことが出来た。
一方、怒りがおさまらないヒョマンは、バスケット部の部室を荒らし、それがシウンの仕業だとヒョンタクに思わせ二人を争わせようと仕向けるが、その浅はかな計画のせいで、ヒョンタクは勿論、ヒョンタクの親友で、学校の人気者であるパク・フミンとシウンを近づけることとなった。
地下道でヒョマンたちを痛めつけたせいで、シウン、ジュンテ、ヒョンタク、フミンの四人は教師に呼び出され、週末にボランティア活動をするよう命じられる。ヒョマンたちが喧嘩を売って来たのだと反論しても教師は聞く耳を持たない。だが、共にボランティア活動に精を出したことで、四人の仲はより深まることになった。ボランティアが終わったあと、フミンはご飯を食べに行こうと皆を誘うが、シウンは用事があるからとひとり帰って行った。シウンの行き先はスホが入院している病院だった。彼は頻繁に見舞いに通っていたが、スホは意識が戻らないままだった。
一方、納品する予定だった携帯を用意できなかったことで、ヒョマンは連合のメンバーから制裁を受けていた。連合のリーダーであるナ・ベクジンは学校では優秀な成績を収める優等生だが、喧嘩にもめっぽう強く、一癖も二癖もあるメンバーたちも恐れをなす人物だった。クム・ソンジェはそんなベクジンの右腕的存在で、不良たちを管理する役割を担っていた。
ベクジンはパク・フミンと幼馴染で、フミンたちウンジャン高校も連合に参加させようと企んでいたが、フミンは要請を全て拒否していた。いわばフミンは、ウンジャン高校をひとりで護っているのだ。
しかし、ベクジンはフミンに執着し、彼の父親や、シウンたち仲間たちへの暴力的な嫌がらせを始める・・・。
韓国ドラマ『弱いヒーローClass2』(全8話)感想と評価
シリーズの1も2もシウンは周囲に「放っておいてほしい」と望んでいるのだが、良くも悪くも、彼は放っておいてもらえない。
まず悪い方から言うと、勿論、それは学校の不良たちのことで、彼らはシウンが気になってしょうがないらしい。さらに今回は、「連合」という犯罪集団ともいうべき不良グループたちまでが関わって来る。もう決して暴力は振るわないと固く決心したにも関わらず、シウンは今作でも何度もシャープペンを握りしめる羽目になる。
一方、良い方は、新しい学校でも友人ができることだ。シウンはスホを護れなかったことで罪悪感に苛まれており、新しい学校で友人ができるとは思いもよらなかっただろう。だが、いじめられっ子の立場から勇気を出して立ち上がったジュンテや、勉強は苦手だが、腕っぷしは強い学校の人気者フミン、その親友で男気のあるヒョンタクが彼の周りに集まって来るのだ。
シウンはスホを見舞いに行き、眠り続ける彼のスマホあてにメッセージを送る。「思い出したよ。友人はいいもので、笑うと楽しいことを」と。それらは、かつて孤独な毎日を過ごしていたシウンがスホから教わったことだった。
シーズン2が製作されると聞いた時、非常に楽しみな反面、最強を争うパワーゲームのような展開になるのではないかという危惧があった。勿論、大胆な暴力シーンや壮絶なアクションシーンが本作の大きな魅力であることは間違いない。だが、誰に対しても心を閉ざしてきたシウンが、仲間と友情を築くことで人間らしさを取り戻していく過程こそが「1」での最大のみどころだったのではないか。「1」では結局、仲間との友情は複雑な理由で長くは続かなかったのだけれど、「2」ではシウンはことあるごとにスホの姿を思い出し、彼がいかに自分を護ってくれていたのかに気づくことになる。今回、シウンが闘うのも、暴力の連鎖を止めるためなのだ。この展開はまさに期待通りの展開といえる。
前作も、シウンは闘う際に、物理や数学で学んだ定理を取り入れていたが、今回は「ニュートンの運動の第三法則=一方の力が作用すると、必ずもう一方の反作用が生じる」がテーマである。ジュンテは自分なりにその言葉を解釈して勇気ある行動を取り、パシリのようにこき使われ、盗みまでやらされる地獄のような日々から脱出する。ジュンテは体も小さく、喧嘩もからっきしだが、彼は常に勇気ある行動を取り続ける。
シウンもまた、決して喧嘩のスペシャリストではない。何しろ、長らく勉強ばかりして来た人物なのだから。だから、彼の闘い方自体は亜流である。「連合」の幹部であるソンジェ(扮するはイ・ジュニョン!)はペンや小物を使うシウンの闘い方を「卑怯」と呼ぶが、それは確かに正しい。だが、それがシウンの闘い方であり、歴然とした力の差がある相手に対しての必死の術なのだ(そしてその戦い方はこの物語では一種の型として認められている)。いずれにしてもソンジェとシウンの屋上での対決は本作のベストアクションのひとつだ。
そんな「弱いヒーロー」たちに対して、フミンとヒョンタクは別格の強さを見せる。幼い頃から喧嘩ばかりしてきたフミンのパンチは、まるでマ・ドンソクのそれのように重たく、ヒョンタクのテコンドーから来た技は、泥臭い取っ組み合いとは違った優雅さがある。
そんな四人に立ちはだかるのが、「連合」のテッペンであるナ・ベクジンだ。ペ・ナラが、ベクジンの得体のしれない怖さを見事に表現しているが、このキャラクターは、シウンとシーズン1の主要人物ボムソクの両方の面影を宿していると言えるだろう。
彼の生い立ちはあまり詳しく述べられていないが、勉強にいそしみ、優秀な成績で表彰されている姿は、孤独を癒すためにひたすら勉強に打ち込んでいたかつてのシウンの姿と重なる。また、彼が執拗に幼馴染のフミンに絡み、彼を支配下に置こうと試みる背景にはボムソクのスホに対する感情と同じものが見え隠れしている。
ベクジンはフミンが憎いから彼に執着するのではなく、彼の心を引き寄せたいから彼にこだわるのだ。ボムソクにしてもベクシンにしてもいずれも彼らの相手に対する愛情が強すぎてすれ違いが生まれ、それが大きな確執となってしまう。
哀しいことに、スホも、フミンも彼らの友情を超えた強い愛情に気づかずにいる。とりわけ、フミンはベクジンが自分にこだわるのは、昔、弱かったベクジンが自分よりも強くなったことをアピールしたいのだと思い込んでいて、ベクジンがフミンに絡むたびに、彼のベクジンへの嫌悪感は増すばかりだ。実際のところはわからないが、ベクジンが強くなったのも、フミンに少しでも近づこうという思いがあったからではないか。フミンに絡み続けるベクジンの姿は、映画『BLEAK NIGHT 番人』(2010)において、友情を取り戻すために暴力を行使し続けてしまうイ・ジェフン扮する少年ギテのことを思い出させる。
『弱いヒーローClass2』は、「僕の仕事は、子供が崖から落ちかけた時、つかまえてやることだ。子供はなりふり構わず走り回るものだろ」というシウンのナレーションで始まる。シーズン1ではヘルマン・ヘッセの『デミアン』の有名な一節が引用されていたが、2で引用されるのは1951年に発行されたJ・D・サリンジャーの代名詞ともなっている長編小説『ライ麦畑でつかまえて』(原題:The Catcher in the Rye)だ。言わずと知れた青春小説の不朽の名作である。
シウンはスホがまさにその「キャッチャー」だったと感じている。シウンが崖から落ちそうになったとき、いつも彼がシウンを護ってくれた。それにも関わらず、自分はシウンを護れなかった。本作の根底にあるのはそうしたシウンの後悔の念である。
『ライ麦畑でつかまえて』についてもう少し述べると、文学者のジョン・スイリーは、『ライ麦畑でつかまえて』を”銃弾が一発も発射されない戦争小説”と評している。
ホールデンには、第二次世界大戦に従軍し、戦争の記憶が脳裏から離れず社会復帰できない帰還兵サリンジャー自身の姿が反映されているというのだ。
シウンたちの高校生活もまた「闘いの連続」である。生活は不公平がまかり通っており、弱者はいじめのターゲットにされ、シウンも闘いの場に否応なく駆り出される。知らず知らずに他者を傷つけていることもある。彼らにとって世界は生きづらさに溢れている。
だが、そんな閉塞感を打ち破ってくれるものがある。それが友だちだ。シウンは友を得たことで、自身が「キャッチャー」になるべく、動き出す。スホの思いを継承していくのだ。全編、思いつめたような表情で、シウンの心の動きを表現し続けたパク・ジフンの演技が本当に素晴らしい。
※当メディアはアフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用し適格販売により収入を得ています。