偽装煙草を売っている証拠をつかむだけの簡単な任務のはずだったのだが・・・。
警官に見込まれて、囮捜査官になった「即興劇教室」在籍の3人が、ロンドン裏社会に深入りし、とんでもない危険に巻き込まれていく姿を描く映画『ディープ・カバー~即興潜入捜査~』は、笑いとサスペンスに溢れた注目のクライム・コメディだ。
「ジュラシック・ワールド」シリーズ(2015、2018)のコリン・トレボロウとデレク・コノリーが書いた脚本をイギリスのコメディデュオ、ザ・ピン(ベン・アシェンデンとアレクサンダー・オーウェン)が改訂して、舞台をロンドンに変更。実際、ロンドンでのロケも慣行された。
主演は、「ジュラシック・ワールド」シリーズや『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011)などのブライス・ダラス・ハワード、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ(2001~2003)で知られるオーランド・ブルーム、ドラマシリーズ『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』(2020~2023)などのニック・モハメッドの3人。監督はドラマシリーズ『ゴースト~ボタン・ハウスの幽霊たち』(2019~)などのトム・キングズリーが務めた。
『ディープ・カバー~即興潜入捜査~』は、2025年のSXSWロンドンでワールドプレミア上映され、2025年のトライベッカ映画祭で北米プレミア上映。Amazon Prime Videoが配信権を獲得し、2025年6月12日より見放題配信中。
目次:
映画『ディープ・カバー~即興潜入捜査~』作品情報
2025年製作/100分/イギリス映画/原題:Deep Cover/配信:Amazon Prime Video
監督:トム・キングズリー 製作:コリン・トレボロウ、ウォルター・F・パークス、ローリー・マクドナルド 脚本:デレク・コノリー、コリン・トレボロウ、ベン・アシェンデン、アレクサンダー・オーウェン 製作総指揮:ニック・バウアー、ベン・ロス、リヨコ・タナカ 撮影:ウィル・ハンケ 美術:ハンナ・パーディ・フォギン 衣装:レベッカ・ヘイル 編集:マーク・ウィリアムズ 音楽:ダニエル・ペンバートン キャスティング:アレックス・ジョンソン
出演:ブライス・ダラス・ハワード、オーランド・ブルーム、ニック・モハメッド、パディ・コンシダイン、ソノヤ・ミズノ、イアン・マクシェーン、ジョーン・ビーン、ベン・アシェンデン、アレクサンダー・オーウェン、オミッド・ジャリリ、ネーカ・オコイエ、フレイヤ・パーカー、ソフィー・デューカー、スザンナ・フィールディング、ケイティ・ウィックス
映画『ディープ・カバー~即興潜入捜査~』あらすじ
オフィスで毎日コンピューター相手に仕事をしているヒューはフロアの一角で楽しそうに会話している同僚たちの輪に加わろうとするも相手にしてもらえない。ヒューは社交性が皆無なのだ。
マーロン・スウィフトは俳優だが、まともな役についたことはなく、大きな仕事といえば、ピザのテレビコマーシャルくらい。生真面目で役作りに熱心だが、彼が望むような仕事の話はほとんど来ない。
カットは、即興の演劇教室を開いている。彼女はアメリカからロンドンにやって来て、俳優としての成功を夢見ているが、大した仕事も得られず、この教室を始めた。教室のメンバーにはマーロンもおり、また、社交性をつけたいと考えたヒューも教室に通い始めたばかりだ。
ある日、ビリングスという名の巡査部長がカットに声をかけて来た。1回200ポンドで囮捜査に協力してほしいと言う。警察官は演技がへたなのですぐに敵にばれてしまうので俳優を捜しているという。潜入捜査官に見えない人材が欲しいという彼に押し切られて、カットは引き受けることに。あと2人必要なので、誰かに頼まなくてはならない。優秀な二人組の女性に声をかけようとするも、彼女たちは大手エージェントから声がかかったところだった。仕方なく教室にまだ残っていたマーロンとヒューに声をかけると、ふたりともすんなりOKしてくれた。
マーロンは、骨太なアクションスターになるためのチャンスと捉え、ヒューは社交性を身に着け、友達ができる機会かもしれないと考えたのだ。
偽造煙草を売っている店に行き、証拠をつかむというのが彼らの与えられた仕事だった。実物を出してくるのを確かめ、携帯の音声をオンにしたまま、会話を録音すればいいだけだったが、役者魂に力が入り過ぎたマーロンが暴走し、店主は彼らを薬物目当ての大物と勘違い。別の場所に連れて行かれる。
その様子をオフィスで聴いていたビリングスは何をやっているんだと唖然とするが、彼らを止めることができない。3人が連れてこられたのはこの界隈で麻薬の取引を仕切るフライという大物のアジトだった。
フライは、この見たこともない3人組に戸惑いつつも、警察ではなさそうだし、意外な上客かもしれないと判断し、敵対する組織から強奪した麻薬を売りつけようとする。その時、当の敵対している相手が俺たちのヤクを盗んだなと殴り込みにやって来た。カットは、機転を利かして、そのヤクは自分たちのものだと言って、男たちに何倍もの額で売りつけることに成功。すっかり、フライに気に入られてしまう。
最初はあきれていたビリングスだったが、これは麻薬組織をつぶすチャンスだとばかり、潜入捜査を続行することに。ついに3人はロンドンの犯罪組織のボス・メトカーフに遭うことになるが・・・。
映画『ディープ・カバー~即興潜入捜査~』感想と解説
映画『ディープ・カバー~即興潜入捜査~』は、警察から潜入捜査を依頼された3人の冴えないはみ出し者がロンドンの裏社会に深入りし、思いもよらぬ危険な状況に巻き込まれるクライム・コメディーだ。
まず、この3人だが、俳優としての成功を夢見ながらも思うようにいかず、「即興劇教室」で演技を教えているカット(ブライス・ダラス・ハワード)と、念入りに役作りすることと想像力に長けてはいるのだが、肝心な仕事がない売れない俳優マーロン(オーランド・ブルーム)、社交性が皆無で、少しでも自分を変えるために即興教室に加わったITエンジニアのヒュー(ニック・モハメッド)という顔ぶれ。
映画の序盤はそれぞれの冴えない暮らしぶりが描写されているのだが、とりわけ、ヒューが会社の同僚とコミュニケーションを取ろうとする際のあまりの外しっぷりには思わず笑ってしまう。その後、ヒューの顔を見るだけで笑いがこみあげて来るほどだ。これだけでもコメディとしては大成功ではないか。
彼らが、囮捜査官に選ばれたのは、彼らが演劇をしているので、本物の警官よりもターゲットに正体を見破られないだろうという理由からなのだが、演劇は演劇でも、カットが教室で指導しているのは「即興劇」なのである。
ただ単純に偽造煙草を取り締まるだけの囮捜査だったはずが、マーロン(囮捜査官としての別名があるのだが、まぁこれでいいだろう)が始めた即興が、どんどんエスカレートして、ついにはロンドンの麻薬界の大物のところに連れて行かれ、麻薬の密売の情報を手に入れるという非常に危険なミッションを担うことになってしまう。後に引けなくなった3人は、延々と即興劇を続ける羽目になるのだ。
誰かひとりが暴走しても即興でまた元に戻せばいいじゃないと思われるかもしれないが、即興劇には、相手の発言を否定してはならず、どんな状況、内容でも必ず、「Yes、and...」と応じて続けて行くルールがあるのだ。カットはその指導者だから、それがすっかり身についているし、生徒であるマーロンとヒューも教えに忠実で、なかなかよくできた生徒のようだ。とはいえ、やはりヒューは即興は苦手らしいが・・・。
この「即興劇俳優が囮捜査をすれば?」というアイデアが本作の成功の最大の要因と言ってもいいだろう。即興のせいで物事はとてつもなくエスカレートして行き、3人は予想もしていなかった危険な事態に突入して行く。
麻薬組織の大物にパディ・コンシダイン、そのボス的存在で暗黒街の顔役にイアン・マクシェーンが起用されていて、クライム映画としての貫禄も十分だ。おまけに、3人を引き込んだ刑事を演じているのはショーン・ビーンなのだ。さらに、金髪ショートの眼光鋭い女性ショッシュにソノヤ・ミズノと、なかなか豪華な顔ぶれである。
囮捜査官の3人であるブライス・ダラス・ハワード、オーランド・ブルーム、ニック・モハメッドも大真面目に演じているからこそ、可笑しい。自分たちがいるはずのない場所に来てしまった3人の喜怒哀楽ぶりが、後半の見せ場となる。
そして、なんといっても、3人の息のあったチームワークが、観ていてあたたかな気分にさせてくれる。ロンドン裏世界のクライムサスペンスと、なんともおバカなコメディの見事な融合である。
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