近未来。植物が育たず資源が乏しい世界では子供を産むことが厳格に制限されていた。資格を得るためにはアセスメント(査定)を受けなくてはいけない。査定を希望したある夫婦のもとに査定人がやってくる。これから一週間、彼女は家に滞在し、夫婦が親としてふさわしいかどうかを判断するというのだが、その手法は予想外のものだった・・・。
映画『アセスメント 愛を試す7日間』は、M83やドレイクなどのミュージックビデオで知られるフルール・フォーチュンの初の長編映画監督作だ。フォーチュンは、プロダクションデザイナーのヤン・ウレヴィグと共に、ミニマルな魅力を放った舞台を作り上げ、見事なストーリーテリングのもと、現代社会に鋭い警告を投げかけている。
子供を産みたいと切望するインテリ夫婦役をエリザベス・オルセンとヒメーシュ・パテルが演じ、彼らを査定しにやってくる役人をアリシア・ヴィキャンデルが演じている。
映画『アセスメント 愛を試す7日間』は2024年トロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、Amazon Prime Videoが配信権を獲得。2025年5月8日より見放題配信中。
目次:
映画『アセスメント 愛を試す7日間』作品情報
2024年製作/114分/ドイツ映画/原題:The Assessment/配信:Amazon Prime Video
監督:フルール・フォーチュン 製作:スティーブン・ウーリー、エリザベス・カールセン、ジョナス・カッチェンスタイン、マキシミリアン・レオ、シバニ・ラワット、ジュリー・ゴールドスタイン、グラント・S・ジョンソン 製作総指揮:アレン・ギルマー、リキ・ラッシング、ウィリアム・ショックリー、トム・ブレンティ、コナー・フラナガン、マデリン・K・ルーディン、ウィリアム・ブルース・ジョンソン、トーマス・K・リチャーズ、カルロッタ・レッフェルホルツ、ヨナタン・ザウバッハ、ルスタ・ミザニ 脚本:ミセス・トーマス、ミスター・トーマス、ジョン・ドネリー 撮影:マウヌス・ヨンク 衣装:セ^ラ・ブレンキンソープ 編集:ヨルゴス・ランプリノス 音楽:エミリー・レビネイズ=ファルーシュ プロダクションデザイン:ヤン・ウレヴィグ
出演:エリザベス・オルセン、アリシア・ヴィキャンデル、ヒメーシュ・パテル、インディラ・バルマ、ニコラス・ピノック、シャーロット・リッチー、リア・ハーベイ、ミニー・ドライバー
映画『アセスメント 愛を試す7日間』あらすじ
近未来。地球は高温が続いて環境が破壊され、世界中で疫病が流行り多くの死者を出した。一部の人間は旧世界とは隔離された新世界に移り住んだが、新世界で暮らす権利を得た者も、問題を起こした場合は容赦なく旧世界へ追放された。
新世界は旧世界に比べ、気候も安定しているが、資源が著しく限られているため、人口過剰にならないように子供を産むことが制限されていた。夫婦が子供を望む場合、政府の承認が必要となり、「アセスメント」と呼ばれる手続きを受けなければいけない。
ミアとアーリャンは人里離れた海辺の家に暮らしていた。妻のミアは植物学者で、独自で開発した温室で食用植物を育てている。夫のアーリャンは、動物が飼えなくなってしまったこの世界でバーチャルペットを開発中のバイオエンジニアだ。ふたりとも自分たちは社会に役立つ人間だと自負していた。
ある朝、ヴァージニアという政府から派遣された査定人がやって来た。子供を産みたいと望んだミアとアーリャンは、今日から7日間、子供をもつのに相応しいかどうか、査定を受けるのだ。一度失格と判定されてしまうと再申請はできないので、二人はナーバスになっていた。
ヴァージニアが自分にあてがわれた部屋に不満を漏らしたため、二人はヴァージニアに自分たちの寝室を譲る。ヴァージニアはふたりの非常にプライベートなことまで質問し、夫婦の営みまでチェックしにやって来た。夫婦の関係をあらゆる側面から評価する必要があるからだと彼女は説明する。
朝、食卓にやってきたヴァージニアはだだをこねる子供になりきっていた。ミアとアーリャンは彼女になんとか食事をさせようとするが、ヴァージニアはボウルをテーブルにたたきつけたり、物を投げたりする。ミアはついに大声で彼女を叱った。アーリャンはヴァージニアがいなくなったあと、「子供がほしくないのか」とミアに詰め寄った。
その後もヴァージニアは子供になりきっていた。三人は海辺に遊びに行くが、ミアとアーリャンが少し目を離したすきに、ヴァージニアがいなくなってしまう。靴だけが落ちており、あわてて探すと、うつ伏せで海に浮かんでいるのをみつけた。あわててアーリャンが抱き起すと、ヴァージニアはヒトデになって遊んでいたと言う。
家に戻る途中、ヴァージニアはおんぶをせがみ、アーリャンが彼女をおんぶするが、彼は腰痛もちで、途中、前に進めなくなってしまう。それでもダダをこねるヴァージニアをミアがおぶって連れ帰った。
ある時は、精巧で複雑な子供のおもちゃの組み立てを一晩中やらされたり、突然、来客をもてなさなければならなくなったり、二人に様々な試練が与えられる。時に夫婦の間に亀裂が入りかけるが、それでも二人は互いに愛情を確かめ合い、合格を勝ち取ろうと励まし合う。そうしてついに最終日がやって来るのだが・・・。
映画『アセスメント 愛を試す7日間』感想と解説
エリザベス・オルセンとヒメーシュ・パテルが演じるミアとアーリャンの夫婦は近未来の新世界で暮らすのに相応しい理想的なカップルだ。
地球温暖化のための環境破壊と疫病で地球がほとんど壊滅状態になった中、世界は旧世界と新世界に別れ、彼らは気候の安定した新世界で暮らしている。彼らは植物学者、バイオアーティストとして社会をより良いものにしようと研究に勤しんでおり、こうした実際に社会に役立つ人が優先的に新世界に住む権利を得ていることを観る者に想像させる。
彼らの家のモンドリアンの絵画を想起させる窓や粗削りなコンクリート建築は、人工的で無菌的な様が近未来のデザインとしてすこぶる魅力的だが、レトロな雰囲気も秘めている。それはこの家が新世界と旧世界の間(はざま)にあることを示しているだろう。
ミアとアーリャンの家は人里離れた場所に建っている設定なので新世界の全容は見えないのだが、多くを語らなくてもこの家で展開する様を見ているだけで、この世界がディストピア的なものであることがありありと伝わって来る。
新世界はほとんど居住不可能な環境の旧世界と比べるとまだ過ごし良いが、植物が実らず、あらゆる物資が不足している。そのため生殖が厳しく規制されていて、子供を産みたい夫婦は政府から査定(アセスメント=assessment)を受けなければいけない。ミアとアーリャンの家にやって来たのはヴァージニアという名の査定人で、これから7日間、ふたりはこの女性の審査を受けるのだ。
ヴァージニアに扮するのはアリシア・ヴィキャンデルで、ほぼこの3人で物語は展開する。ヴァージニアが行う評価方法は予期せぬ型破りなもので、ヴァージニアは3日目から手のかかる厄介な子供としてふたりの前に立ち、彼らをさんざん振り回す。目の前の彼女は子供だが、実際は新世界の独裁的国家の象徴であり、もし、彼女の機嫌を損ねたら不合格になってしまうという恐れが、夫婦を追い詰めていく。
やっかいな手のかかる子供と、冷静で何を考えているかわからない役人を行き来するアリシア・ヴィキャンデルの不穏な演技が素晴らしい。到着したその日、彼女が突拍子もなく一心に部屋の中央でくるくると舞うシーンがある。その不可解な行動は、ミアとアーリャンだけでなく、観ている私たちをも戸惑わせるが、同時に美しいとも感じさせてくれる。
一方、このような環境においても前向きに生きようとするミアを演じるエリザベス・オルセンの溌剌とした演技や明るい笑顔は、ある意味サディスティックで息が詰まるような展開の中で救いとなっている。ただ単に言いなりになるのではなく、人間として正しく生きようとする彼女の姿は一貫しており、一種の清々しささえ感じさせる。
査定のプログラムの中に組み込まれていた突然のパーティーで、ふたりの家に数名の招待客がやって来る。ミアとアーリャンが過去に関係があった人物が含まれており、ふたりの絆を揺さぶることとなるのだが、来客の中にはこのテストに合格して生まれた10歳くらいの子供が含まれている。ただ、あまりにも子供の数が少なく、彼女は遊ぶ友だちもいないらしい。そんな彼女が子供になっているヴァージニアを見て「何歳の設定?」と疑問を投げかけるシーンには思わず笑ってしまう。さらに招待客のひとりは、こうした状態に人間が置かれることになったのは「強欲と無関心のせいだ」と叫ぶ。作り手が現代社会への警告としてこの言葉を選択しているのは明らかだろう。
さて、ここからはネタバレになってしまうが、アーリャンとミアはこれ以上ないほどの理想的な夫婦に見えたが、ラストシーンを見て彼らがそれぞれ探求していたものは始めからまったく真逆のものであったことに気づくこととなる。
ミアは植物が育たない不毛の地に、なんとか植物が育つ環境を生み出せないかと模索しているが、アーリャンはヴァーチャル世界を追求することで、人間に癒しを与えようとしている。彼らの最後の選択があのような形になるのは必然といえるだろう。
そんな中、ある種の教訓めいたものを超えた感情が存在したことが、この作品の評価を押し上げる要素となっている。「アセスメント」を超えた信頼と愛情が、ミアとヴァージニアの間にほんのわずかな瞬間だが、芽生えるのだ。あれは確かに真実の、本物の心の交流だった。
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