映画『オーダー』は1980年代のアメリカ北西部を舞台に、白人至上主義団体「The Order」と、彼らを追うFBI捜査官たちの対立を描いたクライムスリラーだ。
1989年にケヴィン・フリンとゲイリー・ゲルハートが著したノンフィクション書籍『The Silent Brotherhood: The Chilling Inside Story of America's Violent, Anti-Government Militia Movement』を原作にしており、実話に基づいた緊迫したストーリーが展開する。
『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2019)や『ニトラム NITRAM』(2021)など犯罪者の視点を追った作品を発表して来たオーストラリアの俊英ジャスティン・カーゼルが監督を務め、『グランツーリスモ』(2023)のザック・ベイリンが脚本を担当した。
ジュード・ロウが、20年間、暴力団やKKKを追ってきたベテランFBI捜査官テリー・ハスクに扮し、ニコラス・ホルトが極右福音派の指導者ボブ・マシューズを演じているほか、タイ・シェリダン、ジャーニー・スモレット等名優が名を連ねている。
2024年・第81回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品。
日本では劇場公開されず、2025年2月6日よりAmazon Prime Videoにて見放題配信中。
映画『オーダー』作品情報
2024年製作/116分/カナダ映画/原題:The Order
監督:ジャスティン・カーゼル 原作:ケヴィン・フリン、ゲイリー・ゲルハート 製作:ブライアン・ハース、スチュアート・フォード、ジャスティン・カーゼル、ジュード・ロウ 製作総指揮:ミゲル・A・パロス・Jr. ザック・ギャレット、アナント・タミリサ、ザック・ベイリン、ケイト・サスマン、ベン・ジャクソン、スティーブン・ファス、アラステア・バーリンガム、ゲイリー・ラスキン、ジェレミー・ソルニエ、ショーン・パトリック・オライリー、エリック・ラバルキン 脚本:ザック・ベイリン 撮影:アダム・アーカポー 美術:カレン・マーフィー 衣装:レイチェル・ディナー=ベスト 編集:ニック・フェントン 音楽:ジェド・カーゼル 音楽監修:ジリアン・エニス キャスティング:アビ・カウフマン、ロンダ・フィセクチ
出演:ジュード・ロウ、ニコラス・ホルト、タイ・シェリダン、ジャーニー・スモレット、アリソン・オリバー、マーク・マロン、セバスチャン・ビゴット、ジョージ・チョートフ、マティアス・ガリード、フィリップ・フォレスト・ルイツキー、ブラッドリー・ストライカー、オデッザ・ヤング
映画『オーダー』あらすじ
アメリカ北西部の田舎町にベテランFBI捜査官のテリー・ハスクが着任した。長年、暴力団やKKKなどの捜査に携わっていたハスクは、一度、心身ともに休むようにとこの小さな町の警察署に配属されたのだ。彼を迎えた保安官も、ここでは犯罪らしい犯罪はひとつもないと語るが、白人至上主義を謳うポスターが町のあちらこちらに貼られていることにハスクは気が付く。
きけばアーリアンネーションという白人至上主義の団体があるという。本部にはハーケンクロイツの旗が堂々と掲げられていた。
さらに、町で暮らす男性がひとり行方知れずになっていることがわかった。彼の妻は捜索願をなぜか出そうとしないという。若い警察官ジェイミー・ボーエンは、行方不明の男とバーで話をしたことがあるとハスクに語った。男性はアーリアンネーションに所属していたが、偽札づくりに加わったことで除名されたと話したという。
実はこの男性はなんでも場をわきまえずしゃべりすぎるという理由で、仲間に始末され、山中に埋められていた。彼らはアーリアンネーションが祈るだけで何もしないことに我慢できず、新たに白人至上主義の過激派グループ「オーダー」を組織していた。
組織のリーダー、ボブ・マシューズは、国内テロを通じて連邦政府の転覆を引き起こすことを計画していた。そのため、資金を集める必要があり、彼らは銀行強盗や装甲車襲撃、さらにはユダヤ人ラジオ司会者アラン・バーグを暗殺するなど、次々と凶悪な犯罪を重ねていた。
ハスクは、事件の背後に潜む巨大な陰謀を暴くため、ボーエン(タイ・シェリダン)や同僚のFBI捜査官ジョアン・カーニー(ジャーニー・スモレット)と協力し、捜査に没頭。ついに行方不明者の遺体を発見する。
彼の執念は、過去のトラウマや正義感からくるもので、単独行動を起こして仲間とぶつかることもしばしばだった。
ハスクは、マシューズと「オーダー」の存在を突き止め、両者の対立は、静かな田舎町を舞台にした銃撃戦へと発展して行く・・・。
映画『オーダー』感想と解説
映画『オーダー』は1980年代のアメリカ北西部を舞台に、白人至上主義団体「The Order」と、彼らを追うFBI捜査官たちの対立を描いたクライムスリラーだ。
物語は、アメリカ連邦政府の転覆を目論み、資金調達のために犯罪を繰り返した白人至上主義の過激派グループ「The Order」に関するケヴィン・フリンとゲイリー・ゲルハートのノンフィクション本に基づいている。1980年代のアメリカ北西部を舞台にしているが、世界中が右傾化する現在との類似点を考えずにはいられない作品だ。
監督のジャスティン・カーゼルは、これまでも『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2019)や『ニトラム NITRAM』(2021)など、実話を基にした犯罪者の心理に焦点をあてた作品を発表してきた。本作もベテランFBI捜査官のテリー・ハスクと、「オーダー」のリーダー的存在、ボブ・マシューズの動向を並行に描き、白人至上主義に基づいた犯罪心理に着目している。
ジュード・ロウ扮するFBI捜査官テリー・ハスクは、長年、マフィアやKKKなどの犯罪組織と戦ってきた男で、潜入捜査官として組織にもぐりこんだ部下が殺されたことに深い悔恨の念を抱いていた。疲れ果てた彼を休養させる目的で、当局は彼をこのアメリカ北西部の平和な田舎町に送ったようなのだが、目ざといハスクはすぐにこの町によからぬことが起こっているのに気付く。
冒頭、家族にあてた手紙の内容がナレーションとして挿入されているが、彼の疲れ切った孤独な様子を見ていると、家庭はすでに崩壊していることが伺える。ハスクはタイ・シェリダン演じる冷静な地元の刑事や、ジャーニー・スモレット演じるFBIの同僚たちよりもいつも一歩早い動きを見せ(チームプレーができないという意味でもある)、凶悪犯逮捕に執念を燃やす。そんな孤独な熱血刑事という役どころをジュード・ロウが骨太の演技でみせている。
一方の「オーダー」のリーダー、ボブ・マシューズを演じるのは、カーゼル監督の『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』に出演し、またクリント・イーストウッド監督の『陪審員2』(2024)や『吸血鬼ノスフェラトゥ』(2024)など話題作の出演が続くニコラス・ホルトだ。本作ではいつもよりも幼く見える髪型で登場し、そのキラキラした瞳は終盤、クローズアップで画面にかなり長く映し出されるのだが、その瞳がキラキラ輝けば輝くほど、ボブ・マシューズという人物が狂信的な思想に囚われていることが見えてくる。
「オーダー」のメンバーは、人種差別と反ユダヤ主義の小説『ターナーの日記』をアメリカ連邦政府の転覆6段階の教本として利用しているのだが、マシューズは寝る前に我が子に読み聞かせている。こうした極端な思想をこんなに幼い時から植えつけられてしまうことを危惧せずにはいられない。それはライフルの使い方を就学前の幼い子に教えている場面も同様だ。母親は、決してそれを快くおもっていないように見えるのだが、彼女は弱い立場なので夫であるマシューズを制することができない。実はこの夫婦には子供ができなかったため、男の子は養子なのだ。そしてどうしても自分の血をひいた子どもが欲しかったマシューズは別の女性に子供を産ませている。根強い家族(血族)主義と男性中心主義が彼らの生活の基盤であることがこうしたエピソードによく表れている。
「オーダー」のメンバーは一見、無闇には人を殺さないように見えるが、冒頭、仲間をあっさり撃ち殺したように、必要とあれば、躊躇なく人の命を奪うことが出来る連中だ。彼らはユダヤ系ラジオパーソナリティのアラン・バーグをむごたらしく殺害するが、この事件は、オリバー・ストーンが1988年の作品『ラジオ・トーク』で描いたものである。
カーゼルの演出は犯罪映画のダイナミズムに溢れているが、エンターティメントな爽快さというよりは、ひりひりとした痛みにも似た緊張感に満ちている。『アサシン クリード』(2016)などでカーゼルの映画に参加して来た撮影監督のアダム・アーカポーが、緊迫の場面を冷徹なトーンでとらえていて見応えがある。また、それとは別に、窓枠や、ドアの枠を利用した素晴らしいショットもいくつか見せてくれているので、見逃さないでほしい。
マシューズたちは「愛国心」を隠れ蓑にしながらユダヤ人や黒人たちを憎み、糾弾し、暴力で民主主義を転覆させ「白人革命」を起こそうとしている。そんな彼らに対してハスクは言う。「私は26年間この仕事をやってきた。暴力団、KKKのメンバーらには共通点が1つある。彼らは皆、誰かのせいにしようとしているのだ」と。
彼らが教典としていた『ターナーの日記』は、2021年の国会議事堂占拠などの最近の出来事にも大きな影響を与えたことが映画の最後に記されている。
2025年の今、事態はマシューズの時代からそれほど変わっていないように見える。むしろハスクの立場である側の力が衰退したことを強く感じさせるのである。
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