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蓮實重彦著『ジョン・フォード論』を読むために。ジョン・フォード映画覚書(その3 / 1930年~40年代 )『若き日のリンカン』、『果てなき航路』あらすじ・ネタバレ・感想

蓮實重彦の『ジョン・フォード論』(文藝春秋)を読むために、ジョン。フォード作品のおさらいをするという趣旨で書いている連載記事です。第三弾は、ジョン・フォード1930~1940年代の作品から『若き日のリンカン』と『果てなき航路』の2本をご紹介。

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目次

 

若き日のリンカン(1939)

原題:Young Mr. Lincoln 脚本:ラマー・トロッティ 撮影:バート・グレノン 音楽:アルフレッド・ニューマン  出演:ヘンリー・フォンダ、アリス・ブラディ、マージョリーウィーバー、アーリーン・ウェラン

 

『オックスボウ事件(牛泥棒)』などのプロデューサーで脚本家のラマー・トロッティによるオリジナル脚本で、イリノイでの弁護士時代のリンカーンが描かれている。ヘンリー・フォンダが付け鼻をしてリンカーン役に挑んだ。

 

映画の冒頭、リンカーンの母親について歌った詩が紹介される。これにより彼の母親が早くに亡くなったことがわかる。

 舞台はイリノイ州ニュー・セイラム。小さな田舎町にちらほらと人がいて、そこへ幌馬車が進んでいく風景が映し出される。礼服を着た男が町の人々数人に向かって何やら演説をしているようだ。どうやら彼は立候補者を紹介しているらしい。出てきたのは、近くに足を伸ばして座っていた若者で、ラフな格好をした男、若きエイブラハム・リンカーンだ。彼が気取らないしっかりとした演説を終えると、2、3人の子どもたちがニカっと笑うカットが挿入される。その場にいた人々も自分の営みに戻っていく。のんびりとした風景だ。

幌馬車でやってきた客はリンカーンが営む雑貨屋の商品が欲しいが、金があまりないのだという。荷台に積んできた樽の中に本があると聞いて、お代金はそれで結構と言うリンカーン。本は法律の本で、彼はそれを川のほとりの木の下で熱心に読む。そこに恋人のアン・ルトレッジがやってくる。二人が水辺をゆっくりと仲睦まじく歩いていくのをカメラは横移動で捉える。

突然BGMがやや暗めの音楽に変わったと思いきや、画面は水面に氷がはっている冬の光景に変わっている。アン・ルトレッジと記された墓。リンカーンは花を添え、杖がどちらに倒れるかで将来を決めようとする。彼女の墓の方に倒れて、彼は法律の世界へ進むことを決意する。

 町でパレードが開かれている。収穫祭では様々な催しが行われている。綱引きは横画面ではなく、縦の構図に斜め上から映しだされる。この日、ちょっとした喧嘩から一人の男が死ぬ。容疑者の青年2人はかばいあい、それを目撃していた母親も口をつぐんで真相を言わない。警察に拘留される若者。しかし町のものは、群集心理から暴徒となり、2人をリンチするべく、拘置所を襲う。

大きな丸太を何度もドアに打ち付ける群衆。祭りに使用していた松明を持った人間も多数まじり、のどかな田舎にこれほどの人がいたのかというような嵐のようなシーンである。

ここにリンカーンがわってはいり、拘置所の門を背にして彼らを説得し始める。リンカーンの視点からみえる丸太を担いでいる男たちのバストショットは異様な迫力がある。リンカーンは説得力のある弁舌で、息巻いていた男たちを落ち着かせ、最後にはすっかりおとなしくさせてしまう。この後は法廷劇になり、リンカーンは被告を思慮深く弁護する。

 ひょろっと背が高く、風景を美しく感じる心を持ち、ダンスは少し苦手で、ゆっくりと動き、思慮深く振る舞う男として描かれるリンカーン。全編を貫いているのは彼の深い孤独感だ。

ちなみに、ケリー・フレモン・クレイグが監督を務め、ヘイリー・スタインフェルドが主演した2016年の作品『スウィート17モンスター』で、この『若き日のリンカン』が高校の授業に使われているシーンが出てくる。

 

 

果てなき航路(1940)

原題:The Long Voyage Home 原作:ユージン・オニール 脚色:ダドリー・ニコルズ 撮影:グレッグ・トーランド 出演:トーマス・ミッチェル、イアン・ハンター、ジョン・ウェイン、バリー・フィッツジェラルド、ミルドレッド・ナトウィック

 

第2次世界大戦初期の頃の船乗りたちの人生を描くユージン・オニールの戯曲を映画化。若きジョン・ウェインも出演し重要な役どころを演じている。

 

停泊している船。木々にもたれている女たち。ちょっと不思議なカットだが、のちに彼女たちは島の物売りの女たちだとわかる。

デッキから眺めている男たちの顔をアップでとらえる。懐中電灯を振る。このような静かなカットが積み重ねられていく。物売りの女たちがボートでやってきて船に乗り込む。商品の果物の下に隠されて持ち込まれた酒を水夫たちは飲み、ちょっとしたパーティーになるが、騒ぎすぎて女たちは船をおろされる。

水夫たちは狭い船室で過酷な毎日を過ごしている。航海士たちとは明らかに違う労働条件だ。

出帆直前に新参水夫スミッティは逃げ出し、光の中にその姿を浮かばせるが、警官に捕えられて乗船させられる。ゆっくり進んでいく船にカメラは近付いていく。

大雨が船を叩きつけている。水夫たちはビニールを覆うのに懸命だが、そこに激しく波が襲いかかる。非常に迫力のあるシーンで、一人の水夫がたたきつけられ重症を負う。医師も乗船していない船では命も助かりようがない。

そうしたいくつかのエピソードが続いたあと、今度は契約満期となって船を降りた男たちを追っていく。もう船はこりごりだという男たち。しかしここには巧妙な罠があって、悪どい船と契約を交わしている怪しい酒場が男を酔わせて船にまた乗せようと企んでいる。

その男に扮するのがジョン・ウェイン。農家を出て10年も故郷に帰っていない酒の弱い男を演じている。彼はいつも船を降りたあと故郷を目指すが、つい一杯と飲んだ酒のせいで、再び船に乗り込むはめになるのだ。今回も、まんまと罠にはまって悪名高き貨物船に乗せられそうになるが、彼が飼っているオウムにより、酒場の男たちの悪事がばれ、水夫たちは彼を救出に行く。しかし、その際、別の男が船長の棒に打たれて倒れそのまま船は出港してしまう。

結局ジョン・ウェイン以外の男たちは、再び船に乗るべく帰ってくる。一人、陸に降りず、船との再契約を決めていた男が、彼らに姿の見えない男について訪ねる。奴はアミランダに乗せられたよ、と聞いて男は持っていた新聞を海に捨てる。水に使った新聞の一面にはアミランダ号がイギリス海峡で雷撃されて沈没という記事が掲載されていた。

底辺労働者の仕事の過酷さと、わかっていてもその仕事から逃れられない負のサイクルを描いた社会派作品。現代にも通じる点が多く興味深かった。

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