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蓮實重彦著『ジョン・フォード論』を読むために。ジョン・フォード映画覚書(その1/1930年代Ⅰ)『ドクター・ブル』、『肉弾鬼中隊』あらすじ・ネタバレ・感想

蓮實重彦の『ジョン・フォード論』(文藝春秋)を購入し、読むのを楽しみにしている方も多いのではないだろうか。

筆者も少しずつ読んでいるが、やはり映画本は取り上げられている映画を見ていないと話にならないことを痛感。もっともっと作品を観る必要があるが、ここではまず、過去に観たジョン・フォード映画を整理していくことから始めてみたい。当ブログが『ジョン・フォード論』を読む際の参考になれば幸いです。

まず第一弾は、ジョン・フォード1930年代の作品から『ドクター・ブル』と『肉弾鬼中隊』の2本をご紹介。

 

 

目次

『ドクター・ブル』(1933)

原題:Dr. Bull 脚本:ポール・グリーン 撮影:ジョージ・シュナイダーマン 出演:ウィル・ロジャース、ヴェラ・アレン、マリアン・ニクソン、バートン・チャーチル、ハワード・ラリー、ローチェル・ハドソン

 

「NEW WINTON」と書かれた駅舎のファサード。カメラ、左にパンすると、大きな音を立てて機関車が到着する。機関車がとまり、車掌が降りてくる。バサっと投げ出された荷物。継いで一人の女が降りてきて、駅員と言葉を交わす。

小さな町は鐘がなり、人々は同じ方向に向かって歩いている。礼拝の風景だ。医師も教会に向かうが、体の不調を訴える若者に捕まってしまう。画面では賛美歌が歌われているところに、あとから医師がやってきて歌う様子をおさめている。

内科から、産科まで、時には獣医として町のあらゆる医療行為を一手にひきうけているブル氏を描く一種の赤ひげものなのだが、未亡人との恋で町の噂になっているなど、豪快で快活なブル氏の魅力がそのまま映画の魅力となっている。

彼を「やぶ医者」として追い出そうとする集会が行われる。礼拝が開かれた逆の方向にあるタウンホールに人が集まっていく。彼を擁護するのはたった独り、あの未亡人だけだ。町の連中はいたって中立に描かれていて、へんな人情話にならないところがこの作品の良いところだろう。

半身不随の男に奇跡がおき、ブル氏は町に残ることになる。最先端の病院ですらみつけられなかった治療法、ブル氏の百戦錬磨の経験が生きるという展開。ここも彼の医師としてのプロフェッショナルさが描かれていて、結局それが町からの追放を阻止することとなる。こうした証明の仕方は実にアメリカ的といえるだろう。

 

『肉弾鬼中隊』(1934)

原題:THE LOST PATROL 脚本:ダッドリー・ニコルズ、ギャレット・フォード 撮影:ハロルド・ウエインストローム 出演:ヴィクター・マクラグレン、ボリス・カーロフ、ウォーレス・フォード、レジナルド・デニー、J・M・ケリガン、ビリー・ビーヴァン、ブランドン・ハースト、ダグラス・ウォルトン、サミー・スタイン、ネヴィル・クラーク、ポール・ハンソン、

 

第一次大戦中のメソポタミア砂漠で、姿の見えないアラブ軍に追い詰められていく英国軍中隊を描くジョン・フォード初めての戦争映画。

砂漠を横切る兵隊の列。突然、馬に乗った一人の兵隊が撃たれて落ちる。馬の哀しみの目がクローズアップで映し出される。撃たれた男は小隊の隊長で、信心深い男が埋葬を提案。祈りの言葉を発するが、伍長はそれを途中でさえぎって「Amen」と言い、さっさと終わらせてしまう。

砂漠を進んでいく馬の脚。若い兵士が疲れてしまい、倒れる馬も出始める始末。隊長を失い、目的地も方角もわからない隊の前に現れたのは、水、椰子の身もあるオアシスだった。水に体をつけて、疲労を回復する兵士たち。十九歳の少年兵は母の過保護から独立するために志願したのだと身の上を話す。

砂埃のひどい朝。画面には背中を刺された男が映し出されている。馬は全て盗まれてしまった。砂漠の向こうまで蹄が続いている。見張りをしていたはずの少年兵も殺されている。墓だけが増えていく。ある兵士が椰子の木に登り、あたりを見回すが、その男もアラブ人に射殺されてしまう。

暑さにやられた歩兵には砂漠が歪んで見える。そのまま前進し、なおも歪み続ける砂漠。探索に出た二人は無残に殺され、馬がその死体を運んでくる。姿の見えないアラブ人により、また一人、また一人と命を落としていく。

信心深い男は心を病んでいき、ついに仲間に縛り上げられる。三人だけとなった中、飛行機がやってくる。三人は懸命に手を振り、気付いて着陸した飛行機から運転手が降りてこようとする。必死で危険を知らせる三人だったが、通じず、その男も撃ち殺されてしまう。

飛行機を燃やして煙に本隊が気付くことに賭けたのだが、本隊が来る前に部下の二人も殺されてしまう。伍長は最後に姿を見せたアラブ人を撃ち殺すことに成功し、漸く本隊も姿をみせるが、他の者は?と訪ねられ、無言で墓を示すのだった。

敵には自分たちの姿が見えているのに、こちらからは姿が見えない。兵士たちの無慈悲で過酷な運命に観ているほうもどっと疲弊していく緊張感溢れる一作。

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