1970年代アメリカ・ロサンゼルス。オーディションになかなか受からない役者志望のシェリルは、エージェントからバラエティー番組『デートゲーム』に出演することを勧められる。大勢の人に見てもらえると説得され、しぶしぶ出演を承諾したシェリルだったが、彼女をめぐってゲームで競い合う3人の男性出演者の中に恐るべき連続殺人犯が混じっていた・・・。
「ピッチ・パーフェクト」シリーズ(2012、2015、2017)や、『シンプル・フェイバー』(2018)などのコメディータッチの作品で知られる俳優のアナ・ケンドリックの初監督作品『アイズ・オン・ユー』は、事実は小説よりも奇なりな実話を基にした驚くべき作品だ。
アナ・ケンドリックがヒロインのシェリルを演じ、『ヴァチカンのエクソシスト』(2023)でトーマス神父を演じたダニエル・ゾヴァットが連続殺人犯のロドニー・アルカラに扮している。
映画『アイズ・オン・ユー』は2023年のトロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、2024年10月18日よりNetflixにて独占配信中。
目次
Netflix映画『アイズ・オン・ユー』作品情報
2023年製作/95分/アメリカ映画/原題:Woman of the Hour/配信:Netflix
監督:アナ・ケンドリック 脚本:イアン・マクドナルド 製作:ロイ・リー、ミリ・ユン、JD・リフシッツ、ラファエル・マーグレス 製作総指揮: スチュアート・フォード、ザック・ギャレット、ミゲル・A・パロス・ジュニア、アナ・ケンドリック、イアン・マクドナルド、ジョー・ペンナ、ポール・バルボー、ショーン・パトリック・オライリー、マシュー・ヘルダーマン、ルーク・テイラー、アンドリュー・ディーン、スティーブン・クロフォード 撮影: ザック・クーパースタイン 編集: アンドリュー・カーニー 音楽: ダン・ローマー、マイク・タシーロ 美術:ブレント・トーマス 音楽監修:ジリアン・エニス キャスティング:メアリー・バーニュー、 ブレット・ハウ
出演: アナ・ケンドリック、ダニエル・ゾヴァット、ニコレット・ロビンソン、オータム・ベスト、ピート・ホームズ、ケリー・ジェイクル、キャサリン・ギャラガー、トニー・ヘイル
Netflix映画『アイズ・オン・ユー』あらすじ

1977年。人里離れたワイオミングの山麓で若い女性がカメラマンの男ロドニーのモデルを務めていた。女性はかつて付き合った男性との思い出を話し始め、涙を見せる。男はそんな彼女を優しく受け止めているように見えたが、突然豹変し、彼女の首を絞め始めた。男は最初から女性を襲うことを目的に優しい言葉で巧みに誘って彼女をここにつれて来たのだ。
1979年、サン・ガブリエル。若い女性エイミーは無一文で寝る場所もない。ベンチで眠っているところを警察に注意され、コインランドリーに座り込んでいるとまた注意される。彼女は小銭を盗んで逃げ、ある建物の階段の下に身を寄せた。そんな彼女にカメラを向ける男性がいた。男はロドニーだった。彼は彼女に近づくとモデルになってくれないかと頼む。エイミーは彼の礼儀正しい振る舞いをみて信用し、車に乗りこんでしまう・・・。
1978年。ハリウッド。役者志望のシェリルは、いくつものオーディションに挑戦するも、まともに演技を見てもらえずフラストレーションを溜めていた。そんな彼女に転がり込んできたのはテレビの恋愛バラエティー番組「デート・ゲーム(The Dating Game)」の出演だった。
「デート・ゲーム」は、1人の女性が、事前に集められた3人の男性と顔を合わせないままそれぞれに質問を投げかけ、最終的に一番気に入った相手を選ぶという全国放映の人気番組。シェリルはキャリアの足しにならないと出演をしぶるが、エージェントから大勢の人に見てもらえると説得され、しぶしぶ出演を承諾した。
番組の収録が始まり、始めはシェリルも台本どおりに質問を投げかけていたが、あまりに女性をバカにしたようなばかばかしい内容に辟易し、自身で考えた質問をぶつけ始めた。男性陣の滑稽さが暴露されることとなり、大いに観客を沸かせるが、三人目の男性はどんな質問も、的確かつウィットにとんだ答えを返してくる。
そんな中、客席で観覧していた一人の女性が急にスタジオを出て行き、一瞬番組の進行が止まるハプニングが起きた。
女性は出演者に知っている顔があってその場にいるのが耐えられなかったのだ。忘れもしない、あの三番目の男(ロドニー)は自分の大切な親友を誘い、殺害した男に違いない。彼女は、番組のプロデューサーに会いたいと訴えるが、テレビ局は相手にしてくれない。彼女のボーイフレンドも出演者は審査されているんじゃないか(だから気のせいではないか)と彼女を説得しようとする始末だ。
その間も番組の収録は続き、ついにシェリルが三人の男性の中から一人を選ぶ時がやって来た・・・。
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Netflix映画『アイズ・オン・ユー』感想と解説

アナ・ケンドリックの映画監督デビュー作である本作は、ロドニー・アルカラという実在した連続殺人鬼が、1978年に、人気テレビ番組「ザ・デーティング・ゲーム」に出場したという嘘のような本当の話をメインに展開する。
ロドニー・アルカラは1968年から1979年にかけて複数の州で8人の女性を殺害した容疑で死刑を宣告された男だ。実際の被害者は130人を超えているとも言われている。
ケンドリックはまず、いかにアルカラが女性に巧みに近づき、彼女たちを安心させ、そして如何に豹変して彼女たちを襲うのかを描いて見せる。ただし、その残忍な過程は、最小限のカットのみに絞ったり、アングルに注意して全てを見せないように表現している。場面が煽情的になって暴力への好奇心を呼び起こすのを防ぎながら、そこに当事者の声や周囲の音を巧妙に重ね緊張感を高めている。
アルカラに扮するのは、『ヴァチカンのエクソシスト』(2023)でトーマス神父を演じたダニエル・ゾヴァットで、好感の持てる穏やかな雰囲気と、豹変して犯罪者となる不気味な側面を巧みに表現している。
ケンドリックは、監督と主演を兼任し、デート番組に出演する俳優希望の女性、シェリル・ブラッドショーを演じている。この番組はステージに仕切りがあり、観客は全てを見渡せるが、出演者の女性一人と、男性三人は互いが見られない仕組みになっている。女性が男性に次々と質問をし、最終的に気に入った男性をひとり選びカップルが誕生する。
その三人の男性の中に、アルカラがいるわけだが、このシーンではアルカラの存在をとりわけセンセーショナルに強調するのではなく、普通の人々の中にしれっとまじらせて描いており、それが返ってシュールな恐ろしさを浮かび上がらせている。
シェリルはテレビの台本があまりにもくだらないので、途中からアドリブを乱発して、男性たちが女性に対してどのように普段から考えているのかを明らかにするような質問を重ねていくのだが、アルカラは頓珍漢な答えを乱発する他の二人と違って、シェリルを満足するような受け答えをする。この男が危険な男だということをシェリルも番組の観覧客も誰も気づけない。
ここでのやり取りは、まさに他者と知り合う際に女性を取り巻いているひとつの危険性を象徴したものになっている。
アナ・ケンドリックは、本作をシリアルキラーの素顔に迫る従来の犯罪実録ものとは一線を画した作品に仕上げている。衝撃的な題材を基に本当に描きたかったのは、その時代に蔓延っていた女性蔑視と性差別だ。
オーディションの台詞読みを手伝ってくれる隣人の男性は、シェリルが酒の席から帰ろうとすると極端に不機嫌になる。シェリルは彼が傷つかないよう配慮せねばならず、もう一杯付き合った上に結果としてベッドまで付き合う羽目になる。
彼女がエージェントから半ば強制的にすすめられて仕方なく出演することになったデート番組においても司会者は高慢ちきな男で、出演する女性を見下しており、台本はばかげた台詞で一杯だ。シェリルが台本を無視して本当に知りたいことを質問し始めると司会者はどんどん不機嫌になっていく。
この時のケンドリックは、「ピッチ・パーフェクト」シリーズなどの出演作を思い出させるような活気に満ちているが、彼女を待ち構えているのが、シリアルキラーであることがサスペンスを盛り上げる。
スタジオの観覧席に座っていたひとりの女性は、三番目の男の正体を知っていて、犯罪者が出演していることを局の上層部に訴えようとするが、誰にも相手にされない。彼女の恋人でさえ、「テレビ局が事前に調査しているのだからそんなやつが出演するわけない」と言って相手にしてくれない。警察は彼女の話に耳も傾けない。誰も女性を信用せず、殺人鬼は野放しになったままだ。
女性が日常的に直面する危険に関する描写も、暗がりの駐車場でケンドリックを男が執拗に尾けてきて近づいて来る様が描かれていてゾッとさせられる。
これらのシーンには、卑劣な凶悪犯罪者を長年のさばらせてしまった当時の社会に対する強い批判が込められているわけだが、悲しいことに今でも状況は大して変わっていないように思える。
映画は70年代の懐かしい雰囲気をうまく表現し、当時のテレビの人気バラエティー番組をカラフルにレトロに見事に再現している。
作品はある意味実験的だが、飽きさせず、複雑な構成をうまくコントロールしている。アナ・ケンドリックの初監督作は堂々たる成功作に仕上がったと言えるだろう。
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