ドラマシリーズ『ブラック・ダヴ』 は、クリスマスホリデーシーズンにぴったりのスパイアクション・スリラーだ。
本作はキーラ・ナイトレイにとって初のドラマレギュラー出演作品。彼女は、政治家の聡明な妻で双子たちの優しい母親でありながら実は秘密裏に政府の情報を収集している女性スパイ、ヘレンを演じている。
そんな彼女の相棒として活躍するのが、ベン・ウィショー扮するサムだ。腕利きの頼れる殺し屋だが、元彼との思い出に囚われている人間的な一面も。
また、ヘレンの上司役リードを演じる、サラ・ランカシャーを始め、イギリスの名優たちが多数顔を揃え、素晴らしい演技を見せている。
製作、脚本を務めたのは、『Giri/Haji』などのドラマシリーズ作品で知られるジョー・バートン。
ドラマシリーズ『ブラック・ダヴ』 は2024年12月5日よりNetflixにて配信中。
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目次
Netflixドラマシリーズ『ブラック・ダヴ』(全6話)作品情報
2024年製作/イギリス/全六話(52~56分)/原題:Black Doves
製作・脚本:ジョー・バートン プロデューサー:ジェーン・フェザーストーン、クリス・フライ、キーラ・ナイトレイ 監督:アレックス・ゲバッシィ、リサ・ガニング 撮影:ジュリオ・ビッカーリ、マーク・パッテン 配信:Netflix
出演:キーラ・ナイトレイ、ベン・ウィショー、サラ・ランカシャー、アンドリュー・バカン、アンドリュー・コージ、オマリ・ダグラス、サム・トラウトン、キャスリン・ハンター、エラ・リリー・ハイランド、ガブリエル・クリービー
Netflixドラマシリーズ『ブラック・ダヴ』(全6話)あらすじ
英国国防大臣ウォレス・ウェッブの妻であるヘレンは、多忙な夫を支え、パーティーのホステス役など政治家の妻に求められる役割を颯爽とこなす毎日を送っていた。彼女はまた、可愛い双子の母でもあった。
だが、ヘレンには裏の顔があった。実は彼女は英国政府の機密を最高入札者に売る民間のスパイ組織「ブラック・ダヴ(黒い鳩)」の一員なのである。
彼女がウォレスに近づいたのも、初めからスパイ行為が目的だった。だが、ウォレスは彼女を愛し、可愛い双子が生まれたこともあって、ヘレンは非常に複雑な立場に立たされていた。
そんな二重生活のストレスを埋め合わせるためだったのだろうか。彼女は公務員のジェイソン・ディヴィスと恋に落ちてしまう。
ところが、クリスマスシーズンでにぎやかなある夜、ジェイソンはヘレンに電話を残したあと、何者かに射殺されてしまう。彼の友人であるジャーナリストと宝石商も同時に別々の場所で亡くなっており、ニュースでは不可解な事件と話題になっていた。
犯人の検討はまったくついていなかったが、ヘレンにも危険が迫っているのは確かだった。スパイ組織「ブラック・ダヴ(黒い鳩)」でヘレンを指導する立場にある上司のリードは彼女を護るため、ローマからサムを呼び寄せる。
サムは腕効きの殺し屋でならしていたが、7年前に仕事でミスを犯し、また、当時付き合っていた恋人を危険にさらしたために、長らくイギリスを離れ、大陸で放浪暮らしを続けていた。
かつての親友であるヘレンが一大事だと知り、ロンドンに戻って来た彼は、すぐに街角で知人に声をかけられ、かつての恋人が結婚し四歳の女の子を養子にしたこと、今は既に離婚して、子どもと二人暮らしだということを知らされる。サムは彼のことが気になって仕方がない。
サムとヘレンは、ジェイソンを殺し今やヘレンの敵となっている相手の正体を突き止めようと動き始めるが、一方、ウォレスは急死した中国大使のことで頭を悩ませていた。
イギリス政府は大使の死に事件性はないと発表したが、中国政府は納得していなかった。CIAの職員が大使が死体として発見される前に部屋に入ったことが判明しており、アメリカ政府がイギリス政府に殺人の隠蔽を頼んだのではないかと中国側は抗議していた。さらに大使の娘が行方不明になっており、大使の死となんらかの関係があると思われた。
サムとヘレンはやがて、この国際的な問題に発展しかねない中国大使の死と娘の失踪事件にも巻き込まれていく・・・。
Netflixドラマシリーズ『ブラック・ダヴ』(全6話)感想と解説
(ネタばれ&ラストに言及しています。ご注意ください)
キーラ・ナイトレイとクリスマスといえば、カミラ・グリフィン監督の映画『サイレント・ナイト』(2021)を思い出す。
親戚や親しい友人を招いてクリスマスパーティーを開こうとしている主婦をキーラ・ナイトレイが演じているのだが、実はあらゆる生物を死滅させる謎の毒ガスが竜巻によって拡散され、地球最後の日は目の前。政府から配布された苦しまずに死ねる毒薬を飲むまで彼女たちは最後のクリスマスパーティーを楽しむが・・・という恐ろしくもユニークな物語だった。
『ブラック・ダヴ』もクリスマスで賑わうロンドンを舞台にしているが、キーラ・ナイトレイはイルミネーションが輝く華やかな街並みとは対照的な殺人事件や陰謀に巻き込まれていく。彼女が演じるヘレンどいう女性は国防大臣の夫を支え、二人の幼い双子に愛情を注ぐ良き妻、母なのだが、この女性、国の重要事項を民間のスパイ組織に流しているスパイの一員という裏の顔を持っている、というこちらも複雑な役柄だ。
ヘレンは様々な危機に陥っても冷静で、腕っぷしも強い。キーラ・ナイトレイは迫力たっぷりのアクションシーンも鮮やかにこなしてみせる。
とはいえ、彼女が超人のような人間として描かれているかというとそうではなく、寧ろ、彼女の人間的なもろさが本作の魅力のひとつになっている。
本作に副題を付けるとしたら、「恋するスパイたち」というタイトルが相応しいだろう。本作は3人の男女が暗殺されるシーンから始まるが、その中のひとりで公務員のジェイソンとヘレンは不倫関係にあった。ヘレンは彼を本気で愛していて、彼の死を全編に渡って引きずり続ける。
また、双子の娘と息子への愛も日増しに大きくなっていき、彼女は激しいジレンマに陥っている。
彼女のボスであるリードは、彼女を精神的にも敵の攻撃からも護るために、かつて、ヘレンの相棒だったサムという殺し屋を呼び寄せる。サムを演じるのはベン・ウィショーで、彼もまた一流の殺し屋なのだが、かつてのトラウマに苦しんでいる。愛する男性を事件に巻き込み、恐ろしい思いをさせてしまったため、二人は破局、元恋人への想いを引きずったまま彼はロンドンを去り、7年もヨーロッパ大陸を放浪していた。
サムは元恋人と再会するのだが、ほぼ終始、涙目で接しており、その行動は時にユーモラスで思わず笑いを誘う。とりわけ大切な任務の中、元恋人から電話がかかってくると、思わずそっちを優先してしまうサム=ベン・ウィショーが愉快で、たまらなく愛しく感じられる。
そんなヘレンとサムは厚い絆で結ばれていて、二人の関係がとてもいい。本作は、ハイテンションな銃撃戦やナイフ一本での手に汗握る対決など、スパイアクションとしても非常によく出来ているのだが、やはりキャラクターの人間性や関係性が、ナイトレイとウィショーの旨さもあって、最大の魅力になっていると言えるだろう。
彼らを取り巻く人々もユニークだ。「殺し屋が多すぎる」という副題もつけたくなるほど、ジョン・ウィックの世界に通じる面白さがある。
フリーランスの殺し屋ウィリアムズ(エラ・リリー・ハイランド)とエレノア(ガブリエル・クリーヴィ)は、当初、サムの対立相手として登場するが、サムは彼女たちを協力者として取り込み、ちょっとしたチームとなって、強敵と対峙することになる。
絶体絶命の危機に陥った際も、呑気に「クリスマス映画といえば?」というやり取りをしており、その中で名前があがる作品があの作品とこの作品なのも面白い(観てのお楽しみということで)。
また、本作もクリスマスものとして、非常によく出来た作品といえるだろう。誰をも一人にしないところが素晴らしい。