8歳の少女がキャドー湖に小舟を出したきり行方不明になる事件が発生。義理の姉であるエリーは彼女を必死で探し回るが、絶滅したはずの狼を目撃するなど不思議な出来事が続く。彼女は湖周辺を何度も行き来するうちにあることに気が付くが・・・。
『きっと地上には満天の星』(2022)のセリーヌ・ヘルドとローガン・ジョージのコンビが脚本・監督を務めた映画『キャドー湖の失踪』は、テキサス州とルイジアナ州の州境をまたぐ同名の湖にインスパイアされたミステリー作品だ。
「メイズ・ランナー」シリーズ(2015~)でお馴染みのディラン・オブライエンと『ベイビーティース』(2019)で重い病に冒された少女を演じたエリザ・スカンレン等が出演。M・ナイト・シャマランがプロデュースしていることでも話題の一作だ。
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目次
映画『キャドー湖の失踪』作品情報
2024年製作/103分/アメリカ/原題:Caddo Lake
監督:セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
製作:M・ナイト・シャマラン、アシュウィン・ラジャン、カラ・ダーレット、ジョシュ・ゴッドフリー製作総指揮:キンバリー・スチュワード、ハリソン・ハフマン、ウィル・グリーンフィールド 脚本:セリーヌ・ヘル、 ローガン・ジョージ 撮影:ローウェル・A・マイヤー 美術:デビー・デビラ 衣装:ベゴニア・バージェス 編集:ローガン・ジョージ
音楽:デビッド・バロシュ キャスティング:レベッカ・ディーリー
出演:ディラン・オブライエン、エリザ・スカンレン、ダイアナ・ホッパー、キャロライン・ファルク、サム・ヘニングス、エリック・ラング、ローレン・アンブローズ
映画『キャドー湖の失踪』あらすじ
母親が運転中に発作を起こし車が湖に転落。ひとり生き残ったパリスは母親を助けられなかったことで後悔の念に駆られ、人生を前に進むことができなくなっていた。
事故後、別れてしまった元恋人が知人の葬儀に出席するため街に戻って来た。ふたりは久しぶりに再会する。
元恋人の優しさに触れ少し前向きになったパリスは、母の発作の原因を探ろうと行動を始めた。確かに母の具合が悪くなる時はあったが、病気を患っていたとは思えないのだ。なにか別の因果関係があるのではないか!? しかし、彼の父親はもう事故のことは忘れろと言う。
キャドー湖に面した家で暮らす高校生のエリーは、母親と折り合いが悪く、常にぶつかり合っていた。父親はエリーが母親のお腹にいるときに失踪。母とエリーは長らく貧しい生活をしていたが、母はその後再婚し、今の家で暮らし始めた。
義理の妹アンナとだけは良い関係が築けているのが救いだったが、エリーにとってこの家に居場所はないように感じられた。
その日も母と喧嘩になって家を飛び出したエリー。友達の家に泊めてもらうが、朝になってアンナが行方不明になったという報せが入る。あわてて駆け付けたエリーだったが、彼女が乗って来たボートがきちんと停めたはずなのに忽然と消えたり、別のボートで湖を下っている時に、絶滅したはずの狼を目撃するなど、不思議な出来事に直面する。
ヘリコプターも飛び、懸命な捜査が行われたが、アンナは以前行方が知れなかった。
一方、パリスは湖を調査している最中、思いもかけない出来事に遭遇する・・・。
映画『キャドー湖の失踪』感想と解説
物語は母親が運転する車が湖に転落し、乗っていた息子のパリス(ディラン・オブライエン)だけが助かるショッキングなシーンから始まる。
母を助けられなかったという後悔にさいなまれ、パリスの人生はそこで止まったままだ。医師は母親が運転中に発作を起こしたと診断したが、パリスは母親が病気だったとは思えない。母が具合が悪くなったのには別の因果関係があると考える彼に、父親はもう事故のことは忘れろと忠告するが、真実を明らかにすることだけが彼の生きる証となっていた。
そんなパリスの生活と並行して描かれるのは、エリーという高校生の家庭環境だ。彼女は母親と折り合いが悪く、しょっちゅうもめごとを起こしている。その日も母と喧嘩になって家を飛び出したのだが、異母妹のアンナが行方不明になったという連絡が入り、あわてて家に戻ることに・・・。
M・ナイト・シャマランがプロデューサーのひとりに名を連ねていることから、エンターティンメントに振り切ったミステリアスな物語を想像していたのだが、予想に反して、セリーヌ・ヘルドとローガン・ジョージのコンビは、二つの崩壊家庭の様子を静かに淡々と綴って行く。
コミカルな作品が多かったディラン・オブライエンが、シリアスな境遇に陥ってしまった若者パリスを繊細に演じ、また、『ベイビーティース』(2019)での名演が忘れがたいエリザ・スカンレンが本作でも少女の複雑な内面を見事に表現しており、主役二人の存在感溢れる演技が観る者を自ずと作品に引き込んでいく。
8歳の義理の妹の行方がわからなくなり、町ぐるみの捜索が始まったあたりから、徐々に不可思議な出来事が見え始め、やがてタイムリープものであることが判って来るのだが(これはネタバレにはならないだろう)それも決してエキセントリックな技法は使用せず、あくまでも静謐な世界を作り上げているところに本作の独自性がある。
湖を舞台にしており、度々主人公たちは泥まみれになりもするので、マシュー・マコノヒー主演の『MUD マッド』(2013)などを想起させもするのだが、主人公たちが出くわす狼などは襲ってくる気配がなく、それゆえに『MUD マッド』のような荒々しさとは異なった幻のような奇妙な雰囲気が漂っている。
そんな中、想像もしていなかった物語的飛翔が、全てのピースを埋め、家族のドラマに帰結していく様は実に鮮やかだ。
セリーヌ・ヘルドとローガン・ジョージのコンビは長編第一作目の『きっと地上には満天の星』(2022)が劇場公開されているが、今後もしっかりと名前を記憶しておきたい作家である。