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映画『花様年華』あらすじと感想/1960年代の香港を舞台にウォン・カーウァイがトニー・レオンとマギー・チャンを主演に迎えて撮った愛の物語

ウォン・カーウァイ監督がトニー・レオンマギー・チャンを主演に迎え、2000年に撮った作品。

1962年の香港を舞台に、それぞれの配偶者が不倫関係になったために取り残されたふたりの男女の揺れる心を圧倒的な美のもとに繊細に描き、粒ぞろいのウォン・カーウァイ監督作品の中でも最高傑作と名高い一編だ。

 

チャイナ・ドレス姿のマギー・チャンの美しさに目を奪われるが、大家役のレベッカ・パンの着用分も含め30着のチャイナ・ドレスが準備された。六十年代に実際に着られていた古着ドレスをリメイクしたものだという。

 

また、ロケの大部分は、60年代の香港を再現するのに適している場所としてタイで行われた。

 

第53回カンヌ国際映画祭では最優秀男優賞(トニー・レオン)とフランス映画高等技術委員会賞(クリストファー・ドイル、リー・ピンビン、ウィリアム・チャン)を受賞。

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目次

映画『花様年華』作品情報

(C)2000 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED

2000年製作/98分/G/香港映画

監督・制作・脚本:ウォン・カーゥアイ 製作総指揮:チャン・イーチェン 撮影:クリストファー・ドイル、リー・ピンビン 照明:ウォン・チーミン 美術・衣装・編集:ウィリアム・チャン 音楽:マイケル・ガラッソ

出演:トニー・レオン、マギー・チャン、スー・ピンラン、レベッカ・パン、レイ・チン

 

映画『花様年華』あらすじ

(C)2000 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED

1962年、香港。地元新聞社で編集者として働くチャウ(トニー・レオン)と、日系企業で秘書として働くチャン夫人(スー=マギー・チャン)は、偶然にも同じアパートに同じ日に引っ越してきた。

 

二家族はそれぞれの大家を交えた隣人同士の付き合いを始めたものの、チャウの妻とチャン氏は仕事の多忙を理由にあまり家におらず、チャウとチャン夫人はそれぞれに孤独を感じていた。

 

だが、チャン氏とチャウ夫人の長期の不在がいつも重なること、チャン氏が日本で買って来たおみやげなどから疑問を持ち始めたチャウとスーは二人会って確かめ合い、互いの伴侶が実は不倫関係にあることを悟る。

 

裏切られ傷ついた二人は、慰め合うように時間を共有し始めるが・・・。

 

映画『花様年華』感想と解説

(C)2000 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED

狭い空間をいかに見せるか、これは香港映画に課せられた命題であり、香港映画の大いなる魅力のひとつだろう。クリストファー・ドイルによるカメラは、人が一人通れるのがやっとといった空間に巧みに身を置き、ある男女の姿を覗き見るように撮っている。

 

開放されているドア、狭い階段を上がってくるトニー・レオンの後ろ姿。彼はちょうど部屋から出てきたマギー・チャンとすれ違う。

彼が間借りしようとしていた部屋はマギー・チャンがたった今契約したばかりだった。しかし大家の女性によれば隣の部屋も空くという。こうしてふたりは隣同士となり、同じ日に引っ越して来る。狭い廊下に人が溢れ、荷物がたびたび間違って運び込まれる。カメラは大賑わいの廊下にうまくスペースを作って陣取り、その混沌とした活気を伝える。

これはうちのじゃない、これはおとなりだと混乱が起きるが、それはこの二組の夫婦のその後を予言しているかのようだ。

 

二組の夫婦は互いの組み合わせをチェンジして行動するようになる。つまり、マギーの夫とトニーの妻の不倫が始まるのだが、彼らは不在であることが多く、画面にはほとんど登場しない。一方、置いてけぼりを食らった方の二人は、互いの相方のように軽やかに移動することはできない。

そこにはレベッカ・パン扮する家主のスエン夫人の目がいつも光っていて(そこのドアはいつも開いている)、潔癖な彼らの方が不自由な思いをすることになるのだ。

 

スープを買いに、魔法瓶を持って狭い階段を降りて行く寂しげなマギー・チャン。そこで食事するために同じく狭い階段を降りて行く疲れた顔のトニー・レオン。二人はその空間で「再び出会う」。

 

別のレストランで二人が向かい合って食事をするシーンではマギー・チャンの皿にマスタードを添えるトニー。それがトニーの妻の好物だという。執拗にマスタードに肉を持っていくマギー。甘美なエロティシズムが漂う。

 

出かけていた家主が早く戻って来て、客人と麻雀を始めてしまったため、部屋を出るに出られず、二人で過ごすこととなるその横長の空間。

トニーが書斎代わりに借りた部屋(2046号室!)はドアの並ぶ反対側が赤いカーテンだ(いつも風に揺れている)。部屋の中にいる二人は三面鏡を通して我々の目に届く。「国民日報」の会社のロゴのガラス越しに真剣な表情で前方をみつめるトニー・レオンを撮る。

まるで誰かが覗き見をしているかのようなカメラワークは作品全体を通して行われている。

 

トニー・レオンから握られた左手を自身の右手にもっていき、関節キスのようにからませるマギー。手の仕草から切なくも甘美な心情がほとばしる。

 

二人は多くのメロドラマがそうであるかのように見事にすれ違うが、シンガポールでのスレ違い(スリッパが重要な小道具となる)はせつなく秀逸である。最大のすれ違いは香港に帰って来たトニーが隣の部屋のドアをノックしなかったことだ。無理もない。世話になった大家はカナダに行ってしまい、今は母親と子供が住んでいると聞かされて、その母親というのがマギーであろうとは誰が予測できだだろうか。

 

家主は上海から香港に渡って来た人で、彼女を訪ねて来る人々も大陸から渡って来た人々であった。いつか上海に戻ろうと考えていた彼女たちは、上海語を話し続け、生活様式を香港風に変えることは決してなかった。けれど、母国に帰る夢は破れ、彼女たちは次々とカナダへと旅立つ。

本作には「愛」だけでなく、こうした歴史の記憶が記録されている。

 

トニーとマギーはなぜ結ばれなかったのか。

自分たちの連れ合いが不倫するにいたった経緯を想像し、ふたりはそれを何度か実演している。もう一度、とやり直す姿は、まるで映画がテイクを重ねていく様にも似ている。

想像し、実演することでふたりの心理を理解しようとする試みだが、逆に演じることで、その罪深さ、不誠実さをひしひしと感じることになり、自分たち自身の愛をも拒み続ける結果を生んでしまう。

配偶者による裏切り、孤独、新しい相手へのときめき、罪悪感、といった複雑な感情が常に画面をせつなく行き来している。

 

トニーは、カンボジアのアンコールワットでかつて彼が同僚に語った「大きな秘密を持った男」の行動を試みる。美しくも悲痛すぎるラスト。

 

哀愁を帯びたチェロが響く梅林茂作曲の「夢二のテーマ」をはじめ、「Quizas, quizas, quizas」などのナット・キングコールによるラテン音楽がまた素晴らしい。

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