「《どう死ぬか》と向き合った時、人は初めて《どう生きるか》と向き合えるのではないか」……イ・チャンヨル監督が思索の果てに辿り着いた人生の在り方を、日本同様に高齢化が進む韓国社会で多くの者が向き合う「認知症」と、韓国の口承伝統芸能「ハンソリ」を題材に綴った映画『君への挽歌』。
ハンソリの歌い手である夫と認知症を患った妻の、生と死の間で歌い上げられる愛の物語は、韓国ではまだ認められていない安楽死の課題にも言及するなど、命の尊厳の現実を観る者に問いかけてくる。
世界各地の映画祭で作品賞・監督賞・主演俳優賞を中心に計51冠もの賞を受賞。韓国インディペンデント映画史上、最も多くの賞を獲得した映画となった。
主人公ドンヒョク役を演じた俳優ソン・ドンヒョクは、認知症を患った自身の母親を15年間支え続け、本作の撮影開始の2週間前に見送った経験を持つ。亡き者の成仏を願う「晩歌」をはじめ、 彼が生歌で披露する魂の込められた歌声は、本作の最大の見どころのひとつだ。
ドンヒョクの妻ヨニ役を演じたのは、日本でも話題となった韓国ドラマ『ぺントハウス』などで知られるチョン・アミ。200本以上の演劇作品に出演したベテラン俳優で、認知症により否がおうにも変化していってしまう一人の女性の姿を、自然かつ壮絶に演じている。
そして本作の日本配給を手がけるのは、『輝け星くず』(2023)、『幕が下りたら会いましょう』(2021)、ドラマ『笑うマトリョーシカ』(2024)などに出演する俳優・松尾百華と、彼女が有志と共に立ち上げた映画制作・配給会社「SCRAMBLE FIILM」。
「人と人をつなぐ存在」をモットーに俳優活動を続ける松尾は、口承により人から人へ受け継がれてきた伝統芸能パンソリと、一言では語り尽くせない老夫婦の愛の結末を描いた『君への挽歌』に感動し、日本での配給を決意。本作が自身と同社にとって初の海外配給作品となった。
韓国映画『君への挽歌』は2025年に公開予定だが、このたび、2024年10月18日(金)〜23日(水)に開催される韓国映画祭「コリアン・シネマ・ウィーク 2024」でのオープニング上映が決定!
映画祭上映を記念して韓国版ポスタービジュアル&特別スチールが解禁されたほか、本作の配給「SCRAMBLE FILM」の代表にして俳優・松尾百華の記念メッセージが到着した。
韓国版ポスタービジュアルでは、生命力に溢れる一面の緑の中を、認知症を患った妻ヨニを背負いながら歩く主人公ドンヒョクを映し出している。目を閉じ眠っているように見えるヨニに対し、ドンヒョクの表情からは言い様のない《愛するがゆえの哀しみ》がほとばしる。
一方の特別スチールは、劇中、「ドンヒョク・ヨニ夫妻、二人の娘スギョンとその夫の家族写真」としても使用されている1枚。ヨニの認知症が判明する以前の家族の姿を描いた写真は、映画本編が始まる以前の物語を想像させる。
松尾百華(配給「SCRAMBLE FILM」代表/俳優)メッセージ
「人と人をつなぐ存在になりたい」という思いで俳優活動をしてきましたが、本作を日本に届けることもまた、その目的を達成する一手だと感じ、日本配給を決意しました。
特にK-POPのような先鋭的な魅力とは異なる、先人から受け継がれた「魂の歌」ともいえるパンソリの歌声は、心の奥深くにじみわたり、皆様にもぜひ本作でその感動を味わっていただきたいです。
また本作は、イ・チャンヨル監督の故郷であるテジョン(大田)で撮影されました。田舎を愛し、命の尊さを深く見つめる監督の誠実さが、作品全体から強く伝わってくるはずです。
生と死の間で生きる老夫婦の愛の物語である本作によって、皆様が「明日」というものを、少しでも特別で、より貴重なものに感じられることを願っています。
【松尾百華プロフィール】
1997年福岡県生まれ。俳優、映画配給プロデューサー。
東京学芸大学教育支援学科表現教育コースを卒業後、映画のもつ無限の可能性に惹かれ、俳優の道に進む。2020年11月、舞台『真白き富士の気高さを』で主演を務め俳優デビュー。
その後、映画『輝け星くず』や舞台『Three Kingdoms ~最終章~』などの国内作品で経験を積みながら、カンボジアでのマジックショーや韓国での俳優活動など国際的な活動にも力を注ぐ。
イ・チャンヨル監督との出会いを契機に、韓国映画の日本配給を決意し「SCRAMBLE FILM」の代表となる。
映画『君への挽歌』あらすじ
韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の優れた歌い手としてのツアー公演、大学教授としての学生たちへの国楽の講義と、長年にわたり多忙の日々を送ってきたドンヒョク。
彼は「晩年を故郷で過ごしたい」という妻ヨニの願いを受け入れ、夫婦二人での美しい田舎暮らしを始める。ないがしろにしがちだった妻との時間を取り戻そうとするドンヒョクだったが、ほどなくして彼女の言動の異変に気づく。
今何を話していたのか、何をしていたのかを忘れてしまう。感情を制御し切れず、時には暴力まで振るってしまう……ヨニは、認知症を患っていた。
何もかもを捨てて、愛する妻の介護に向き合うドンヒョク。しかし認知症が進行し、別人のように変わっていくヨニに、彼の心は疲れ果てていく……。
映画『君への挽歌』作品情報
2023年/韓国/120分/カラー/ビスタ/G/原題:그대 어이가리
脚本・監督:イ・チャンヨル プロデューサー:イ・ハンヨル 製作:映画社純粋 日本語字幕:コンテンツセブン 配給協力:LUDIQUE、アルファープロデュース、グローバルリンクス 宣伝:Cinemago 配給:SCRAMBLE FILM
出演:ソン・ドンヒョク、チョン・アミ、キム・ユミ、ミン・ギョンジン、チャン・テフン