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映画『王将』あらすじ・感想・解説/ 坂田三吉を描いた伊藤大輔監督の代表作

映画『王将』はシネ・ヌーヴォの特集上映「時代劇が前衛だった〜日本映画の青春期 牧野省三、衣笠貞之助、伊藤大輔、伊丹万作」にて上映!

 

『王将』は、伊藤大輔が脚本・監督を務めた1948年の作品。将棋棋士・坂田三吉を坂東妻三郎が演じた伊藤大輔の代表作のひとつだ。

写真引用元:IMDb

大映京都の当時の社長菊池寛が、将棋は映画にはならないと制作に反対する中、伊藤は9回も脚本を書き直し、制作にこぎつけたという。

 

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目次

 

『王将』作品情報

1948年 大映京都 94分 白黒 監督・脚本:伊藤大輔 原作:北条秀司 撮影:石本秀雄 音楽:西梧郎 美術:角井平吉 美術助手:西岡善信 録音:海原幸夫 照明:湯川太四郎 将棋指導:升田幸三 助監督:加藤泰

出演:阪東妻三郎、水戸光子、三條美紀、坂本武、斎藤達雄、小杉勇、滝沢修、大友柳太郎、三島雅夫、香川良介、葛木香一

 

『王将』のあらすじと感想(ラストまで言及しています)

明治39年、大阪、時計塔。カメラ、下にパンすると、路面電車やちんどん屋で賑やかな通りが現れる。赤ん坊をおんぶした女、小春(水戸光子)がビラを配っていて、たくさんの子どもが群がっている。

娘のたまちゃんが、アレ、お父ちゃんと違う?と言うと、羽織をかぶった男が通りを左手に走っていく姿が見える。天神さんで「東京棋士関西素人将棋大会」に参加する坂田三吉(阪東妻三郎)の姿である。

 

対局が始まると三吉は深々とお辞儀して、頭をあげた相手はまだ三吉がお辞儀をしたままなのを見て慌てて頭をさげている。三段→五段→七段、どんどん勝ち進み、ついに関根七段(滝沢修)との対局に及ぶ。二人の周りには人が集まり、三吉はうんうんと考え込みながら銀を打ち込むが、それは将棋のルールとして認められない一手で、三吉は敗北する。

そのころ、質屋の暖簾から出てきたのは三吉の女房の小春であった。カメラ、パンすると土手に女の子が坐っている。二人が歩いている道の背景には畑を耕している人々が見える。お父ちゃんのような人を「将棋極道とゆうんやで」と子どもは言う。

 

家に戻ると仏壇がなくなっていることに小春は気付きうずくまる。三吉が将棋大会に参加する費用を捻出するため売ってしまったのだ。着物の袖を握り締めて泣く小春をアップで撮る。屋台の親父が心配して覗き込むと、もう小春は坐って荷造りをしている。このカットのつなぎが小春という人を表していて面白い。赤ちゃんを背負ってねんころりと歌っていた娘が「おとっちゃん」と叫ぶ。

背中に大きな荷物を背負い、手にも荷物を持った三吉だ。将棋の賞品で仏壇は買い戻したのだが、小春は泣いて、将棋の駒と将棋盤を投げつける。

映画を観るまでは、この三吉は将棋バカの手前勝手な男だろうと思い込んでいたのだが、実際のところは、なんとも憎めない善良な人間なのである。それを阪妻が見事に演じている。

そして、この長屋の美術が素晴らしい。ライオンというネオンがきらめく通天閣が奥に見えていて、崖下を汽車が走るのですな。そのときにシュシュシュっという音と共に煙がうわ〜とあがってくるのだ! 美術の担当は、角井平吉。伊藤とは他にも『素浪人罷通る』(1947)、『山を飛ぶ花笠』(1941)、『大江戸五人男』(1951)などの作品でコンビを組んでいる。

ちなみに撮影は石本秀雄。衣笠貞之助、稲垣浩、マキノ正博等の作品の撮影でも知られ、伊藤とは本作を始め、『鞍馬天狗』(1942)、『われ幻の魚を見たり』(1950)、『おぼろ駕籠』(1951)、『大江戸五人男』などの作品でコンビを組んでいる。

 

朝日新聞主催の将棋大会が中之島で開催される。川のほとりに対局場が出来ていて、三吉も参加するのだが、どうやら目が悪いらしく、川辺の明るいところに場所を変えている。そのころ、娘が祭りに着るはずだった“べべ”が、呉服屋(?)にかかっているのを小春がみつける。線路の上を歩いてる女の子の足元をカメラはとらえる。列車が来る。赤ん坊をおぶっている小春の顔にカメラは寄っていく。

中之島にいる三吉のところに電話が入り、三吉は会場を飛び出していく。三吉が走る! カメラが走る! 中之島から天王寺まで!! 走る!走る!

チンドン屋の音色の中、家へ。隣人たちの冷たい目が三吉を突き刺す。そのとき、無事、小春と娘が帰ってきて、皆、ほっとして喜び合う。三吉は心の底から詫び、将棋の駒を七輪に投げつける。しかし、小春は、あんたが大好きな将棋をやめさせようなんて、なんて私はひどい女房なのか、そう思ったから死ぬのをやめましたんや。好きなだけ将棋をしなさい、と告げる。そして、小春が家の前で拾ったのは、「王将」の駒であった。

 

雨。赤ん坊をおんぶしている娘が玄関の前を歩き、疲れ果てた大人が畳に坐っている。極貧の生活。そんな中、関西から名人を出したいと考えている人々のおかげで、三吉は目の手術をし、プロの騎手として歩み始める。

法華の太鼓。この後、全編に渡って、この太鼓がなり続けることになる。三吉の勝利を祈って、小春は太鼓を叩き続ける。

 

京都・南禅寺での対局。関根八段との対決だ。息詰まるシーン。揺れる簾。周りに集まる記者たちの書類が風で飛ぶ。三吉、絶対絶命の状況を逆転で勝つ。

花火、提灯がいっぱい。娘が「お父さん、頼むからしっかりして」と叫ぶ。この娘、たまちゃんは、幼い頃、三吉の相手をしていたので、将棋のことがわかっているのだ。お父ちゃんは苦し紛れの手を打って、たまたま勝ったのだと指摘され、三吉は荒れるが、鏡に映った自分の顔をみて、悄然と泣き崩れる。二階にかけあがると、太鼓を持ちだし、立派な将棋指しにしてくださいと叩き続ける。小春、手をあわせる。

ラストも素晴らしい。多少くどい部分もあるが、三吉という人間の人柄に思わずもらい泣きする。東京の将棋関係者もその場に釘付けになって、皆頭をたれている映像が忘れられない。小春亡きあと、またあの天王寺の長屋を訪ねる三吉。遠くに通天閣。崖下を列車が煙を上げて通っていく。

 

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