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映画『洲崎パラダイス 赤信号』あらすじ・感想/”境界線”に立ち寄る男女を見つめる川島雄三の代表作

 2023年2月26日(日)~4月22日(土)の期間、ラピュタ阿佐ヶ谷で特集上映「映画監督 川島雄三 才気煥発の極み」が開催されている。

 

上映される37作品の中から、今回は1956年の作品洲崎パラダイス 赤信号を取り上げたい。

洲崎遊廓の入口の飲み屋周辺に集まる人々の姿を描いた芝木好子の原作を映画化した川島雄三の代表作のひとつ。

新珠三千代三橋達也が地方から駆け落ちしてきた恋人同士を演じ、飲み屋の女店主に轟由紀子が扮している。

蕎麦屋の店員に扮した芦川いずみはイノセントの象徴として描かれている。  

 

目次

 

映画『洲崎パラダイス 赤信号』作品情報

洲崎パラダイス 赤信号 川島雄三 (C)日活

1956年製作/81分/日本・日活

監督:川島雄三 原作:芝木好子 脚色:井出俊郎、寺田信義 撮影:高村倉太郎 美術:中村公彦 音楽:真鍋理一郎 録音:橋本文雄 照明:大西美津男

出演:新珠三千代三橋達也轟夕起子、平沼徹、松本薫芦川いづみ牧真介、津田朝子、河津清三郎、加藤義朗、冬木京三、小沢昭一、田中筆子、山田禅一、菊野明子、桂典子、加藤温子、隅田恵子

 

映画『洲崎パラダイス 赤信号』のあらすじ

洲崎パラダイス 赤信号 川島雄三 (C)日活

初夏の浅草。両親に結婚を反対されたため、栃木から上京した義治と蔦枝は、あてもなく歩いていた。職もなく、財布の中身もすっかり乏しくなっていた。

2人は勝鬨橋からバスに乗り込み、赤線地帯の「洲崎パラダイス」がある洲崎川近くで降りた。

2人は目の前にあった一杯飲み屋「千草」に入り、蔦枝は女将のお徳に職探しを依頼する。入って来た常連客を達者にもてなす蔦枝を見て、お徳は彼女を店で雇うことにした。

義治の方も、千草に近い蕎麦屋を紹介され働き始めた。気立ての優しい女店員の玉子がいろいろと気遣ってくれ、覇気のなかった義治も次第に笑顔を見せるようになっていく。

 

ところが、蔦枝が「千草」の常連で気前のいい落合という男に靡いてしまう。ふたりで寿司を食べに行ったと聞いた義治は、慌てて飛び出ていくのだが・・・。  

 

映画『洲崎パラダイス 赤信号』の感想・レビュー

洲崎パラダイス 赤信号 川島雄三 (C)日活

(結末に言及しています。ご注意ください)

「洲 パラダイス 崎」と記されたアーチがまず印象に残る。そのアーチがかかる橋の手前と奥ではまったく違う世界が広がっている。

本作に登場する蔦枝(新珠三千代)と義治(三橋美智也)のわけありカップルは、”なか”(赤線)へ行ってしまうことをぎりぎりのところで踏みとどまっている。  

 

そのギリギリの境界線にあるのが、轟夕起子扮するお徳が営んでいる小さな飲み屋「千草」だ。そこはこちら側の人とあちら側の人が交錯する空間だ。お徳は飲み屋とともに、貸しボートの営業もしている。

 

冒頭、川面に映ったネオンとけたたましい女の声のあと、客引きをする女と客たちの絡みを延々と斜め上の角度から、右へ右へと移動撮影していくのだが、そこに映し出されるのは全て店の玄関先である。

後に三橋達也が働くことになる蕎麦屋も決して店の奥にカメラは入らず、いつもカウンターからも遠い店先だけで物事が展開する。

ところが「千草」だけは、店先以外にも奥の六畳間の子どもたちの遊び場兼居間、ほぼ屋根裏のような天井の低い二階と、家の全ての間取りがわかるように描かれている。

こうしたことからも、この家だけが特別な空間であることがわかる。

部屋の奥ということで印象的だったのは、女と逃げてしまい四年間も行方不明になっていた轟の夫が戻ってきた場面だ。轟は玄関口に立つ足をみて、不信に思い外を覗くのだが、その時、夫がたっているのを見て、あわてて部屋の奥へとはいり、むせび泣く。すると、その川面の明かりが揺らめく障子に男の影がよぎる。轟は戸を開け、夫に中に入るよう呼びかける。この家だけが、三百六十度、その姿を惜しみなくスクリーン上に披露するのだ。  

 

蕎麦屋で働くことになった三橋が飲み屋を訪ねると、新珠三千代は客と寿司を食べに行ったと聞かされる。血相を変えて、橋のどちらにいった!? と尋ね、橋の手前側だと聞いて飛んでいく三橋だったが、そこは寿司屋だらけの飲み屋街で、彼は、新珠を見つけることが出来ない(そういえば、この寿司屋のシーンでは三橋が一度はカウンターに座るのだが、やっぱりいいやと出て行ったあと、奥の座敷で新珠たちが飲んでいるシーンが出てくる。が、奥とはいえ、それも店の一角に過ぎない)。

さらにいえば、新珠を追って、秋葉原のラジオ屋を訪ねるシーンもあるのだが、ここも界隈はラジオ屋だらけで、三橋はたどり着けない上に(店の前まではなんとか行くのだが、主とは入れ替わりとなって逢えない)、道端で疲労のためひっくり返ってしまう。橋のこちら側にも向こう側にも彼の居場所がないかのようだ。

 

勝鬨橋や都電は貴重な映像資料でもあるが、猛スピードで飛ばすトラックの列、冒頭とラストで主人公 が飛び乗るバスなどもその時代を浮き彫りにしている。雨のシーンが多いのも印象に残る。  

 

2人はどちらも新しいパートナーを見つけ、別々の道に進んでいくように見えたのだが、結局彼等はいつの間にか寄りを戻してしまう。

彼らは成瀬巳喜男監督の代表作『浮雲』のように、別れては復縁し、また別れては復縁し続けるような “腐れ縁”の恋人同士になっていくのかもしれない。

ラスト、冒頭では新珠の後を渋々ついて行くだけだった三橋が動く。洲崎での体験は彼を少し大人にさせたのだろうか。

バスに飛び乗った彼等が行くところは多分秋葉原だ。彼に行くあてなどそれくらいしかないはずだからだ。

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