映画『平坦な戦場で』が、2025年7月5日より東京の池袋シネマ・ロサ、7月26日よりシアターーセブンにて公開される。また、愛知のシネマスコーレでも近日公開が予定されている。
『平坦な戦場で』は、平穏な日常を送る高校生カップルが、ある日彼氏が年上女性から性搾取被害を受けたのを機に関係性が変わってしまう物語を通じて、属性への偏見や経済格差が蔓延し人間を孤独へと追い詰める現代の日常を多面的かつ切実に描き出した作品だ。
監督・脚本を務めたのは、 “若い女性”という社会に押し付けられる属性に囚われる24歳当時の自己と向き合った『遠上恵未(24)』がぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2020で入選した遠上恵未。
初の長編監督作である本作では、男性もまた、性の属性を押し付けられていることに目を向け、人間を孤独へと追い詰める現代の日常をより多面的かつ切実に描き出している。本作は、第24回TAMA NEW WAVE コンペティション部門で入選 、うえだ城下町映画祭 第21回自主制作映画コンテストで大賞に輝いた。
主演を務めたのは、『犬も食わねどチャーリーは笑う』、『春の結晶』に出演し、本作でカナザワ映画祭2023「期待の新人監督」期待の新人俳優賞を受賞した櫻井成美と、『ドクター・デスの遺産』、『脳天パラダイス』に出演し、ぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した『未亡人』など自身も自主映画を監督する野村陽介のふたり。それぞれの心の痛みに苛まれながらも共に“生き延びる”方法を模索する姿を繊細に演じた。
このたび、映画『平坦な戦場で』の予告編が解禁。予告編では初めに映画批評家・児玉美月のコメントが紹介された後、一見すると「平坦」に見えるものの、個人の属性に対する差別・偏見=個人の心身を傷つける「敵」が潜む日常の光景が描かれていく。
また、第3弾応援コメントとして、予告編でも紹介された映画批評家・児玉美月のほか、草彅剛主演作『台風家族』や香取慎吾主演作『犬も食わねどチャーリーは笑う』で知られる映画監督・市井昌秀等、著名人のコメントが到着した。
目次:
『平坦な戦場で』第3弾・応援コメント
この社会では性的搾取や虐待の被害に遭う属性は圧倒的に女性のほうが多いが、この映画ではそれが智也という男子高校生として設定された。
『平坦な戦場で』はそうしてジェンダーを反転させ、別の角度、新たな視点からこの社会をまなざそうとしてみせる。
その意思はメインプロットに留まらず、物語の至るところに鏤められている。スクリーンに映し出された平坦な光景に見えるそこではいったい何が変質し、何が水面下で蠢いているのか。観客はそれこそを注視しなくてはならない。わたしたちが闘わなくてはいけない「敵」は、そこら中に影を潜め、そしていつも凡庸な顔をしているものなのだから。
──児玉美月(映画批評家)
万札をマグネットで冷蔵庫に貼り付ける父親に虫酸が走り、空気を読まないと生き抜けない友達関係にうんざりする。
繰り返される平坦な日常は、ただのコピペや反復ではない。
たった一つの亀裂でいとも簡単に崩れ、2人の高校生男女はより外の孤独な者たちと出会い、さらなる戦場へと導かれる。
私の心は散々かき乱されるが、孤独を知る者こそわかち合える微かな希望の表出に、ぼっと火が灯った。
安易な希望を描かない遠上監督の眼差しと姿勢に共感を覚え、この作品を通じて知らない者同士が繋がれたら素敵だなと想像しました。
──市井昌秀(映画監督)
可笑しさはせつなく、哀しさはやるせない。遠上恵未監督は、そんな人間という存在のどうしようもない可笑しさや哀しさに対して、真正面から誠実に繊細に対峙している。淡々と繰り返される日常がふとしたはずみで変容したあとの、人の善意も悪意もとどかない向こう側は、どこまでもせつなくやるせない。でも、僕らが平坦な戦場で生き延びるために必要な人間関係はようやくそこから始まるのだ、と教えてもらった。
そして、この作品には、僕も知っている玉りんどさん、大河原恵さんが出演しているのだけれども、自分にはついぞ引き出せなかった彼女たちの魅力が画面に充満していた。そのことで密かに嫉妬を覚えたのは、ここだけの話である。
──菊地健雄(映画監督)
生きているかぎり、日常は常に戦場なのかもしれない。
しかし遠上恵未は、どのような環境下であろうとも、自分であろうとすることをあきらめず、目の前の違和感を、存在を、痛みをなかったことにしない。
その一点でもって、私は今後も遠上恵未の作品を観続けるだろう。
──木村奈緒(ライター)
この作品は、やさしく繊細な高校生カップルの動静から、この社会の息詰まる「平坦」さの呪縛をあぶり出す傑作だ。そのブレッソン的なショットの積み重ねは、静謐ななかにも尖鋭に、いかんともしがたい日常の閉塞感を描き出す。
そして乾いたセックスの売買をめぐる青春の悲喜劇を通して、遠上恵未監督はヒステリックなフェミニズム称揚やセクハラ批判の次元をしなやかに跳躍し、われわれを縛る不自由なこわばりを解くヒントを見せてくれるだろう。
──樋口尚文(映画評論家・映画監督)
(敬称略・順不同)
映画『平坦な戦場で』あらすじ
高校2年、冬。早崎のぶえと村木智也は仲睦まじく過ごしていた。
ある夜、村木は路上で泣いていた女性を家まで送り届けるも、突然女性から「お金は払うから、抱いてほしい」と頼まれてしまう。
すでに断れる空気ではなく、村木はやむをえず女性を抱くことに。しかし、この経験がトラウマになった村木は、学校を休むようになる。
映画『平坦な戦場で』作品情報
2023年/⽇本映画/78分/カラー/ステレオ/R-15
監督・脚本・編集:遠上恵未 撮影:井坂雄哉 録音・整音:若杉佳彦 照明:奥田夏輝 美術:鶴優希 撮影助手:堂脇和奏 助監督:川島崇、小川将也、遠上明希、深見はまる、安藤チカラ カラーグレーディング:奥田夏輝、井坂雄哉 宣伝デザイン:Do Ho Kieu Diem 宣伝:河合のび(Cinemago)
出演:櫻井成美、野村陽介 玉りんど、佐倉萌、竹下かおり、安藤チカラ、つかさ、山田荘一朗、上野山圭治、金子翔、大野やすひろ、大河原恵
(※性被害の問題を一部扱っていますが、直接的な描写はありません。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。)