恋人として平穏な日常を送っていたはずの高校生の男女が思わぬ形で性的搾取と遭遇する物語を通じて、多くの人々が「ただの日常」と受け入れてしまう属性への偏見や経済格差が蔓延する社会と、それらがもたらす人間の孤独と苦悩を綴った映画『平坦な戦場で』。
監督・脚本を務めたのは、 “若い女性”という社会に押し付けられる属性に囚われる24歳当時の自己と向き合った『遠上恵未(24)』がぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2020で入選した遠上恵未だ。
初の長編監督作である本作では、男性自身もまた、性の属性を押し付けられていることに目を向け、人間を孤独へと追い詰める現代の日常をより多面的かつ切実に描き出している。本作は、第24回TAMA NEW WAVE コンペティション部門で入選 、うえだ城下町映画祭 第21回自主制作映画コンテストで大賞に輝いた。
主演を務めたのは、『犬も食わねどチャーリーは笑う』、『春の結晶』に出演し、本作でカナザワ映画祭2023「期待の新人監督」期待の新人俳優賞を受賞した櫻井成美と、『ドクター・デスの遺産』、『脳天パラダイス』に出演し、ぴあフィルムフェスティバル PFFアワード2020で審査員特別賞を受賞した『未亡人』など自身も自主映画を監督する野村陽介のふたり。それぞれの心の痛みに苛まれながらも共に“生き延びる”方法を模索する主人公たちを繊細に演じた。
このたび、映画『平坦な戦場で』の2025年7月5日(土)池袋シネマ・ロサでの2週間の劇場公開が決定。
さらに主演の櫻井成美と野村陽介、監督・脚本の遠上恵未の公開記念コメントが解禁されたほか、映画監督の古厩智之、TAMA NEW WAVEディレクターの宮崎洋平の応援コメントも到着した。
『平坦な戦場で』主演・監督公開記念コメント
櫻井成美(早崎のぶえ役)
自分の加害性について考えると、他人と関わるのが怖くなる。
大切な感覚だと思う。
それでもやっぱり、他人と関わりたい。
どうしよう。
問いも、光も、いつも映画が教えてくれました。
『平坦な戦場で』は、私にいくつもの視点を与えてくれました。
遠上監督の社会への、そしてひとりひとりへのまなざしが、そうさせてくれたのだと思います。
そして、“らしさ”から解放されることも、“らしさ”に沿って生きるたのしさも、誰かを縛る“らしさ”を少しでも緩めることはできないだろうかという気持ちも、肯定された気がします。
たくさんの方に、『平坦な戦場で』を観ていただきたいです。
野村陽介(村木智也役)
性は私たちに孤独を差し出す。
性と書いて、「さが」と読むような、
なぜ今自分はこうも駆り立てられているのか問われているような。
人はいつも、一生懸命に生きていただけのはずが、
すれ違ったりたまに間違ったり。
それでも、誰かとの繋がりを求め続けている。
性的に見られたくないけど、見られたい。
矛盾の中に、私たちの生存をかけた戦いがあるように思った。
遠上監督との出会いは、PFFでした。
自らの存在に対して性を皮切りに、
自分で演出と出演をしながら、現代らしく「自撮り」を互いに携えて自意識にもだえていましたね。
勝手ながら嬉しく思った事を覚えています。
戦場でできた、友達かも知れないです。
遠上恵未(監督・脚本)
私は東京・東部に位置する、都内有数の歓楽街として知られる街で生まれ育ちました。
学生時代、通っていた学習塾やアルバイト先が、まさに賑やかな街の中にあったため、当たり前のように、居酒屋やキャバクラ、風俗店の立ち並ぶ道を歩いていました。
これが世の中なんだと思っていました。
2020年の冬、渋谷区幡ヶ谷のバス停で、ホームレスの女性が襲撃されて亡くなった事件に、とても心が痛みました。私自身、コロナ禍の影響で仕事がなくなり、この先の生活をどうしていこうかと考えていた矢先でもあり、被害者の女性のことを、自分と近い存在に感じたからだと思います。
そうしてまた地元を歩いていると、地べたに横になっている人の姿を目にしました。声をかけようか迷うも、結局いつもと同じように、通り過ぎてしまいました。
こういう自分の傲慢さ、冷たさが嫌いでした。
だからせめて、自分の作る映画では、自分とは異なる環境にある他者のことを、無視せず、想像しなければいけないと思いました。
人間の、人間に対する思いやりを、描かなければいけないと思いました。
それが、これまで無視してきてしまったことへの償いであり、この社会に生きる者として、新たに映画を生み出す意味だと思うからです。
『平坦な戦場で』応援コメント
孤独な人たちが出てくる。
ペットのウサギの死が耐えきれず、男子高校生に金を渡し、性交を迫る中年女。
お金を出せばやってあげる、と高校生たちのあいだで有名な若い女。
「性」を糸口に他人と接点を持つ女たち。彼女たちの目が、喋り方が、そこにいる居方が、とてもリアルだ。孤独が肌にしみついて、それは彼女たちを侵食し、分かち難い。歩く孤独そのもの…。
彼女たちは主役ではない。主人公のひとりである少年をさらなる孤独の「平坦な戦場」に呼び込み、並走させる者たちだ。
彼女たちの孤独が圧倒的なリアリティで少年に迫る。全ての人たちが孤独のタコツボに閉じこもっている日本が、六畳間にふいに現れる。
日本はどこに行ってもそう。出口なんてない。その中で生きて行くには…。
圧倒的な絶望の中で、小さな声で希望を呟こうとする遠上監督にやられた。傑作です。
──古厩智之(映画監督)
2020年代の現代社会について、人間関係の痛みと後悔とわずかな温もりとのなかで安易なジャッジをせずに描ききっているところにとても感銘を受けた。
分断が加速するこの時代において、微光のような共感のありかを信じては探し、見出した本作の眼差しはまさに映画の役割という気もして、この作品が響くかもしれない観客たちに、いますぐ届いてほしいとまで感じさせられた。
──宮崎洋平(TAMA NEW WAVE ディレクター)
※当メディアはアフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用し適格販売により収入を得ています
『平坦な戦場で』あらすじ
高校2年、冬。早崎のぶえと村木智也は仲睦まじく過ごしていた。
ある夜、村木は路上で泣いていた女性を家まで送り届けるも、突然女性から「お金は払うから、抱いてほしい」と頼まれてしまう。
すでに断れる空気ではなく、村木はやむをえず女性を抱くことに。しかし、この経験がトラウマになった村木は、学校を休むようになる。
のぶえは村木のいない日常に、孤独を募らせていく……。
『平坦な戦場で』作品情報
2023年/⽇本映画/78分/カラー/ステレオ/R-15
監督・脚本・編集:遠上恵未 撮影:井坂雄哉 録音・整音:若杉佳彦 照明:奥田夏輝 美術:鶴優希 撮影助手:堂脇和奏 助監督:川島崇、小川将也、遠上明希、深見はまる、安藤チカラ カラーグレーディング:奥田夏輝、井坂雄哉 宣伝デザイン:Do Ho Kieu Diem 宣伝:河合のび(Cinemago)
出演:櫻井成美、野村陽介 玉りんど、佐倉萌、竹下かおり、安藤チカラ、つかさ、山田荘一朗、上野山圭治、金子翔、大野やすひろ、大河原恵
(※性被害の問題を一部扱っていますが、直接的な描写はありません。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。)