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映画『サイレント・ナイト』あらすじ・感想 / 人類最期のクリスマスイブを過ごす人たちをブラック・ユーモアで綴る

学生時代の親友をパーティーに招くイギリス人夫婦に、キーラ・ナイトレイマシュー・グードが扮し、最後のクリスマスイブを過ごす人たちの姿がブラックユーモアたっぷりに描かれる映画『サイレント・ナイト』。


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なにしろ、あらゆる生物を死滅させる猛毒が世界を襲い、 このクリスマスイブが地球最後の日になることが判明しているのだ。人々はどのような選択をするのだろうか?

 

本作で長編映画監督デビューを果たしたカミラ・グリフィンは、『ジョジョ・ラビット』でゴールデン・グローブ賞男優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネートされ、本作でも重要な役どころを演じているローマン・グリフィン・デイヴィスの母親。ローマンの双子の弟役として、ローマンの実際の双子の弟ハーディとギルビーも出演している。   

 

目次

映画『サイレント・ナイト』の作品情報

(C)2020 SN Movie Holdings Ltd

2021年製作/90分/G/イギリス映画 原題: 監督・脚本:カミラ・グリフィン 美術: フランキー・ディアーゴ 衣装:ステファニー・コーリー 編集:ピア・ディ・キアウラ、マーティン・ウォルシュ 音楽:ローン・バルフェ 音楽監修:イアン・ニール

出演:キーラ・ナイトレイ、リリー=ローズ・デップ、ローマン・グリフィン・デイヴィス、マシュー・グードアナベル・ウォーリス、ルーシー・パンチ、ソープ・ディリス、カービー・ハウエル=バプティストダヴィダ・マッケンジー、ギルビー・グリフィン・デイビス、ハーディ・グリフィン・デイビス、トゥルーディー・スタイラー

映画『サイレント・ナイト』あらすじ

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イギリス人夫婦ネルとサイモンには長男のアートと双子の弟たちがいる。彼らは田舎の屋敷でクリスマスのディナーパーティを開くべく準備に勤しんでいた。

 

屋敷には夫婦の学生時代の友人たちとその家族が次々に集まって来た。子どもを含む12人の男女は久々の再会を喜びあう。

 

しかし、今年のクリスマスは例年とは全く異なるものだった。あらゆる生物を死滅させる謎の毒ガスが竜巻によって拡散され地球全土に拡がり、明日にもイギリスに到達することがわかっていた。

 

毒ガスの恐怖を忘れるべく、皆は、おしゃべりやダンス、ゲームに興じる。子どもたちにはテレビやネットを見ないよう警告するが、彼らは既に事情をよくわかっていた。  

 

毒ガスを吸うと、とても苦しく、最後は致命的な出血をして死ぬらしい。そんなむごたらしい死に方を避けるために、政府は飲めば安らかに死ねる薬“EXITピル”を各家庭に配っており、皆がその薬を飲むつもりでいた。

 

しかしアートがそれは間違っている、僕は諦めたくないと言い出し、ネルとサイモンは息子を説得しようと躍起になる。

 

そんな間にも、刻一刻とガスは屋敷に近づいていた・・・。

映画『サイレント・ナイト』感想と評価

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クリスマス映画といえば、クリスマスに家族や親しい友人が集まって、ときに衝突したり、隠していた秘密がバレたり、というすったもんだの挙げ句、最後はさらに絆を深めてめでたし、めでたしといったものが頻繁に作られているが、本作も、王道のクリスマス映画としてスタートする。

 

集まって来た人々は、それぞれ強烈な個性があり、それだけでも一騒動ありそうな気配だが、やがて彼らの振る舞いが、虚勢であることがわかってくる。

 

なんとこのクリスマスイブを最後に、謎の毒ガスに襲われ、皆、死ぬのだという。恐ろしい運命を忘れるためにも、彼らは騒いで踊り続け、映画『フェーム』のアイリーン・キャラの主題歌などを陽気に合唱しているのだ。

 

世界の終わりを待つといえば、アダム・マッケイ監督のNetflix映画『ドント・ルック・アップ』(2021)が思い出されるだろう。

こちらは巨大彗星が近づき半年後に地球が滅びるという事実が判明しアメリカ政府が対策を講じるが、様々な利権が絡んで作戦にことごとく失敗し、救えるものも救えなくなってしまう。

ディカプリオたちは、家族や友人たちと共に食卓を囲んで手をつなぎながら、皆で最期の時を待っていた。    

『ドント・ルック・アップ』の政府は全く使えないろくでなしの集まりだったので、国民は放置されてしまったが、『サイレント・ナイト』の政府は、血まみれになって死ぬというむごたらしい死を避けるために、安楽死する薬を国民に配っているという設定。

 

『ドント・ルック・アップ』同様、政府が役割を放棄しているのに変わりはないが、苦肉の作としてこうした薬が与えられたことで、人々は、飲むか、飲まないかという選択を強いられることになる。

 

ちなみにこの薬、ホームレスや違法滞在者には与えられておらず、現実の社会を彷彿させる皮肉な風刺となっている。

 

ネル(キーラ・ナイトレイ)は、夫のサイモン(マシュー・グード)ともう何度も何度も話し合って、飲む方が懸命だという結論に至ったのだと、飲むことに疑問を呈し始めた息子のアート(ローマン・グリフィン・デイヴィス)を説得しているが、選択権すら与えられない子どもたちは実に不憫である。

 

双子の弟たちがチラっと口にした「もう、自然が耐えられなくなった」という言葉からこのガスの現象は、自然破壊や地球温暖化といった事象の延長線であることが伺える。

 

にもかかわらず、ネルは子どもたちに「大人は悪くない」と語っており、こんな時でも素直に子どもたちに申し訳ないと言えない大人の身勝手さが現れている。

 

こうしたとんでもない光景が、一種のコメディとして展開する点が実にイギリス的であり、際どいぎりぎりの設定を、ブラック・ユーモアとして仕上げるカミラ・グリフィンの力量に感服する。

 

さて、結末については書けないが、映画が終わったあと、これほど、あれこれと思索を誘う映画もないのではないか。おそらく、この作品、そんなことも緻密に計算されて作られているのだ。www.chorioka.co

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