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【NHKBSP放映】映画『お早よう』のあらすじ/子供たちの行動を通して、大人たちの未熟さをユーモラスに綴る【小津安二郎生誕120年】

2023年は小津安二郎監督(1903-1963)の生誕120年、没後60年にあたる記念すべき年だ。Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下りでは「小津安二郎 :モダン・ストーリーズ selected by ル・シネマ」と題した特集上映が組まれ、NHKBSでもこの12月は小津作品がいくつか放映されている。

 

今回取り上げる映画『お早よう』(1959)もNHKBSPで12月19日(火)に放映される(13:00~14:35)。

 

彼岸花』(1958)で、第一回カラー作品を手掛けた小津が次に取り上げたのは、小津のサイレント期の名作『生まれてはみたけれど』(1932)のリメイクだった。

 

とはいえ、作風は少々違い、『お早よう』では子どもたちの世界がより軽妙に描かれ、子どもたちを通した大人の世界が愉快に、風刺的に表現されている。  

 

映画『お早よう』作品情報

(C)1959 松竹

1959年製作/94分/日本映画(松竹作品)

監督:小津安二郎 脚本:野田高梧小津安二郎 製作:山内静夫 撮影:厚田雄春 美術:浜田辰雄 音楽:黛敏郎 録音:妹尾芳三郎 照明:青松明 編集:浜村義康

出演:笠智衆三宅邦子、設楽幸嗣、佐田啓二久我美子杉村春子、島津雅彦、泉京子、高橋とよ、沢村貞子、藤木満寿夫、東野英治郎長岡輝子、三好栄子、田中春男、竹田浩一、東野栄治郎、白田肇、桜むつ子  

 

映画『お早よう』のあらすじ

多摩川沿いの小さな家が並ぶ新興住宅地。

組長の原口家は、辰造(田中春男)、きく江(杉村春子)の夫婦に中学一年の子・幸造、お婆ちゃんのみつ江の四人暮し。原田家の左隣にはガス会社勤務の大久保善之助が、妻のしげ、中学一年の善一と暮らしている。

大久保家の向いの林啓太郎(笠智衆)家は妻の民子(三宅邦子)と、中学一年の実(設楽幸嗣)、次男の勇(島津雅彦)、民子の妹・有田節子(久我美子)の五人暮らし。その左隣には年配のサラリーマン、富沢汎(東野英治郎)が妻とよ子(長岡輝子)と二人で暮らしている。右隣はこの界隈で唯一テレビをもっている丸山家だ。若い夫婦は派手好みで近所から度々ひんしゅくを買っているが、大相撲に夢中の子どもたちはテレビを見るために彼らの家に入りびたりだ。

 

子どもたちは毎日元気に学校に登校している。行き帰りに、自在におならをする練習に取り組むが、うまくコントロールできずにパンツを汚してしまうことも。

 

林家の息子、実と勇はテレビを買ってほしいと親にねだるが聞き入れてもらえず、逆に「子どものくせに余計なことを言うな」と叱られてしまう。子供たちは家でも学校でも口を利かないと決め、挙句に家を出てしまうが・・・。  

 

映画「お早う」感想・レビュー

(C)1959 松竹

(ラストに触れています。ご注意ください)

 

そびえる鉄塔の後方に干された洗濯物。小さな住宅の向こうに緑の土手が見えており、その上を通る者、その下を通る者が見える。この光景は本作のメインシーンだ。

 

電気製品が少しずつ、家庭に普及していた時代を背景に、小さな建売住宅の人間関係の煩わしさと可笑しみを描いている。

小さな住宅を近所の人が互いに頻繁に出入りし気さくな関係を育んでいるが、距離が近すぎるせいか、ひょんなことで人間関係に亀裂がはいる。それを女優陣たちが、巧みに演じている。

 

一方で、団地に住むのは、福井平一郎役の佐田啓二である。彼は英語の翻訳の手伝いをしたり、子供の英語を教えている(本棚には早川ポケミスが並んでいる!)。佐田は小津の遺作となった『秋刀魚の味』(1962)でも団地で暮らしている長男の役を演じていた。いずれの作品も彼は小津作品における「モダンな若者像」の代表として登場している。

 

物語の核になるのは子供の大人に対するストライキだ。「なぜ、テレビを買ってくれないの?」という子らの問いにただ、「少しは黙ってろ」「うるさい」としかいえない笠智衆。んじゃあ一言も話さないと、家族にはもちろん、近所の人にも、学校でも沈黙を通す幼い兄弟。

 

「大人の話すことなんて天気の話とか意味のないことばかり!」というのが彼らの主張だ。

彼らのストライキは徹底しており、ついには家を出て行ってしまう。兄弟は家からご飯を持ちだして手づかみで食べており、そこへ警官が来て、二人は逃げ出し、お櫃がポツンと土手におかれたままというカットが笑いを誘う。

 

結局近所づきあいも兼ねて、笠家はテレビを買い、めでたしめでたしとなるが、駅で出逢った久我美子と佐田が、ぎこちなく天気のことばかり執拗に話している場面へと続く。子供の指摘の的確さが顕になる、可笑しみに溢れたシーンだ。

 

子供の行動を通して、大人たちの未熟さがユーモラスに綴られる小津後期の名作のひとつ。

(文責:西川ちょり)

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