破産寸前に陥った崖っぷち母娘の虚構にまみれた姿を描く映画『エル プラネタ』。
監督、脚本、主演、プロデュース、衣装担当を務めたアマリア・ウルマンは、1989年ブエノスアイレス生まれ。現在はロサンゼルスのダウンタウンにオフィスを構えている新進気鋭のアーティストだ。
自身を被写体に「若い女性の様々な典型」を取り込んだ架空の人物を演じた「Excellence&Perfections」というパフォーマンスをインスタグラムで展開し一躍世界に名を馳せるようになった。
虚構を演じながら、現代を生きる女性像を提示するというスタンスはこの全編モノクロで撮られた初長編映画『エル プラネタ』にもまるっきり受け継がれている。
目次
『エル プラネタ』の作品情報
2021年製作/82分/アメリカ・スペイン合作映画
原題:El Planeta
監督、制作、脚本、衣装:アマリア・ウルマン
音楽:chicken
出演:アマリア・ウルマン、アレ・ウルマン、チェン・ジョウ
『エル プラネタ』のあらすじと感想(ネタバレを含みます)
ロンドンの服飾学校を卒業した女性レオは父親が亡くなったという報せを受け、スペインの故郷、海辺の田舎町ヒホンに帰ってくる。
父と母はとっくの昔に別れていたが、それでも母にとっては父は生活を支えてくれるための拠り所であったようで、その父が亡くなったことで、全てを失うカウントダウンにいる。
団地の一室から立ち退きの宣告を受けていて、破産寸前。物語の中盤には電気まで止められている。なのに彼女たちには悲壮感がない。
お洒落をして街に繰り出しては、贅沢な買い物をして、インスタグラム用の写真を撮り終えたら返品する。母は万引をしたり、架空の有名人の夫をこしらえて有名レストランの食事をその夫のつけとしていただいてしまったりする。
時折、思い出したように行政に電話して、生活保護がおりないだとか、仕事したくても職歴がないから仕事がみつからないとわめくが、それ以上のことはしようとしない。
お金が無くなってもまだカードは使えるからと高級菓子などを買っている。電気は止められていてもろうそくをともしてなんだかおしゃれな雰囲気を上手に作っている。一体この人たちはどうするつもりなんだ?と心配を通り越して呆れてしまうが、実際のところ、自分が極貧においやられることを想像できない気持ちはわからないでもない。
「誰だっていつ貧困に陥るかわからないんですよ!」と母親は電話で怒鳴っていたくらいだから、わかってんじゃんと思いつつも、それが自分たちであるということを認めたくない気持ちもよくわかる。これは以前見た『ホームレス ニューヨークと寝た男』(2014/トーマス・ビルテンゾーン)を思い出させるなぁ。普段は着飾って派手な生活を送っているように見えても住むところもない男のドキュメンタリー映画だった。彼も崖っぷちなのにあまり悲壮感がなかった。
【参考映像】
面白いのはこの母親役を演じているのがアマリア・ウルマンの実の母親であること。まったく演技経験はないらしいのだが、実にうまいし、はまっている。ラスト、警察が詐欺容疑で逮捕しにやって来たら、刑務所暮らしはいいご飯が食べられるらしいと意気揚々と連行されていくのだ。
おしゃれでシニカルな全く新しい社会派コメディーだ。U-Nextなどで配信中。