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【感想・あらすじ】韓国ドラマ『シスターズ』第一話を徹底解剖/2022年韓国版『若草物語』とは!?

貧しい家庭に生まれながらも互いに支え合って暮らしてきた三姉妹が、富と権力を持つ者たちの陰謀に巻き込まれていくサスペンスドラマ『シスターズ』がNETFLIXで配信されている。

 

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原題が「작은 아씨들(英題:Little Women)」とあるように、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』が原作だが、あの『若草物語』が2022年の韓国を舞台にするとこんな作品になるのか!と驚くこと間違いなし。

 

脚本がパク・チャヌク監督作品の脚本で知られるチョン・ソギョンというのも楽しみのひとつだ。演出を務めるのは大ヒットドラマ『ヴィンチェンツォ』のキム・ヒウォン

今回はこの作品の第一話をじっくり観てみよう。

 

目次

 

韓国ドラマ『シスターズ』の作品情報

放送日】 2022年9月3日〜2022年10月9日(予定)/TVING、Netflix 全12話

原題】 작은 아씨들(英題:Little Women)

原作】 ルイーザ・メイ・オルコット 『若草物語』

演出】 キム・ヒウォン

脚本】 チョン・ソギョン

キャスト】キム・ゴウン、ナム・ジヒョン、パク・ジフ、ウィ・ハジュン、オム・ギジュン、カン・フン、オム・ジウォン、コン・ミンジョン、パク・ジヨン、パク・ボギョン、キム・ミスク

 

映画『シスターズ』〈第一話〉あらすじ

韓国ドラマ「シスターズ」のポスタ=tvN提供

インジュ、インギョン、イネの三姉妹は、古いビルの屋上に建てられたみすぼらしい家屋に住み、助けあいながら暮らしていた。

 

インジュとインギョンはイネの誕生日祝にケーキを買い、修学旅行に行くための250万ウォンを工面して手渡す。貧しさ故に修学旅行には行けないと諦めていたイネは喜ぶが、イネが寝ているうちに母がその金をくすね、借金が返せなくなって逃亡した父のいるフィリピンに行く費用にあててしまう。

 

姉ふたりはイネに恥をかかせないためにも、もう一度金を工面することにした。インジュはオーキド建設で経理を担当しているが、彼女が貧しい家の人間だからという理由で周りの人々からハブられていた。前借りをしたいと頼んでみたものの、当然の如く断られてしまう。

 

そんなインジュにもたったひとりだけ仲の良い先輩がいた。一階上で働くファヨン先輩だ。彼女もまた貧しい家の生まれの苦労人だったが、大変優秀で、起業して世界へはばたこうと準備を進めていた。修学旅行の費用も快く貸してくれた先輩にインジュは心から感謝を述べるのだった。

 

一方、次女のインギョンは大叔母を訪ねていた。インギョンはかつて大叔母と暮らしていたことがあるのだ。大叔母は大金持ちだが、意地悪で、インギョンは彼女が嫌いだった。しかし、大叔母くらいしか頼る人はいない。大叔母は、これからも家を訪ね、朝、新聞を読み上げることを条件に金を貸してくれた。

 

インジュはイネに捻出した金を渡すが、イネは受け取りを拒否。自分のために苦労する姉たちを見るのがいやだという彼女は友達と約束があると告げ、インジュを振り切り出かけてしまう。

 

高級車に乗り込むイネの姿をたまたま見かけ不信に思ったインギョンは、尾行して、イネが裕福な同級生の肖像画を描いて金をもらっているのを目撃する。行為を咎める姉に対して、得意なことでお金が稼げて嬉しかったのにと不満を漏らすイネ。

 

インギョンはOBNの社会部記者だ。テレビのニュース番組でソウル市長選に出馬することを噂されているパク・ジェサンが取り上げられているのを見て、インギョンは過去の事件を思い出していた。「ポベ貯蓄銀行の資金流出事件」で、銀行の頭取が自殺した事件である。

 

「死にたくない」と訴えていた保釈中の頭取が、弁護士と面談後にトイレで注射器を刺したまま死に、自殺と認定された。この時の弁護士がパク・ジェサンだったのだ。この事件では32人が起訴され4人が自殺しているが、多くの弁護士がいた中で、その4人を担当していたのが、パク・ジェサンだった。

 

当時、パク・ジェサンは事件とは関係ないと結論付けられたが、インギョンはずっと疑念を抱いていた。上司にそのことを伝えると思いがけず取材を許可される。

 

パク・ジェサン財団の集会が行われた際、インギョンは、ロビーでパク・ジェサンに「ポベ貯蓄銀行の資金流出事件」における自殺の件について果敢に尋ねるが、仕事中に酒を飲んでいたことがバレて、一ヶ月の停職を命じられてしまう。

 

アルコール中毒かも知れないと思うインギョン。昔から他人の感情に敏感で、ニュースを読む際に涙を流すこともあった。気持ちを落ち着かせるために、いけないと思いながらも最近は頻繁に酒を飲んでいたのだ。

 

その頃、インジュは、海外からやって来た財務本部長のチェ・ドイルという人物に呼び出される。ファヨンと連絡が取れない、海外に行ってもう帰っているはずだが、連絡先を知らないかと尋ねたあと、本部長はファヨンが欧州法人の口座から700億ウォンを横領したと語り、インジュを驚かせる。

 

携帯がつながらないので、インジュは先輩の部屋を訪ねることにした。先輩の帰りが遅くなった場合、熱帯魚に餌をやってほしいと頼まれ、部屋に入る際の暗証番号を教えてもらっていたのだ。

 

部屋に入ったインジュは、クローゼットの中で首を吊って死んでいる先輩を見つけ愕然とする。

先輩はコートを着て真っ赤なハイヒールを履いたままぶら下がっていた。部屋にはその赤と対比するように青く輝くランが一輪おかれているのが見えた。

 

先輩の死にショックを受け、会社の対応に疑問を持ったインジュは辞表をつきつける。そんな中、ヨガの会員制クラブから会員権が譲渡されたと連絡がはいった。

 

ヨガクラブにやってきたインジュがキーを渡されたロッカーをあけると、大きなリュックサックが押し込まれていた。入っていた箱をあけると、この世に三足しかないという「ブルーノ・ズミノ」の靴が出てきた。

 

一度先輩と食事に行った時、インジュの靴のヒールが折れ、先輩が貸してくれたことがあるのだ。

そしてその箱の下にはぎっしり詰め込まれた札束が入っていた。インジュはリュックを抱きしめて泣き崩れる。やがてインジュの中に、こんなにお金があるのに自殺するわけがないという疑念が浮かびあがる。

 

韓国ドラマ『シスターズ』〈第一話〉主な登場人物の解説

オ・インジュ(キム・ゴウン:三姉妹の長女 オーキッド建設の経理。

オ・インギョン(ナム・ジヒョン:三姉妹の次女 OBN社会部記者。

オ・イネ(パク・ジフ:三姉妹の末っ子。セラン芸術高校の奨学生。絵の才能がある。

パク・ジェサン(オム・ギジュン:貧しい幼年、青年期を過ごした後、弁護士となり、ベトナム戦争の英雄ウォン・ギソン将軍の娘と結婚。現在はパク・ジェサン財団の理事長を務め、才能ある人材に奨学金を支援している。ソウル市長、ゆくゆくは大統領を目指している野心家。 

ウォン・サンア(オム・ジウォン:パク・ジェサンの妻。 ウォンリョン美術館館長を務める。

パク・ヒョリン(チョン・チェウン:パク・ジェサンとウォン・サンアの一人娘。オ・イネの同級生。

 

チン・ファヨン(チュ・ジャヒョン:オ・インジュの先輩。会社でのハブられ仲間。

シン取締役(オ・ジョンセ:オーキッド建設役員。ファヨンと不倫関係だという噂がある。

チェ・ドイル(ウィ・ハジュン:ウォルリョングループ海外法人本部長。オーキッド建設欧州事業担当のコンサルタント。

 

ハ・ジョンホ(カン・フン:姉妹の大叔母の家の近所に住む青年。オ・インギョンの幼なじみ。病気の祖父と二人で暮らしている。

 

オ・ヘソク(キム・ミスク:三姉妹の大叔母。不動産会社を運営する大金持ち。

 

韓国ドラマ『シスターズ』〈第一話〉の解説

オルコットの『若草物語』を大胆にアレンジ

『シスターズ』は、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』が原作とは思えないほどサスペンス溢れる作品だが、主人公の設定や、お金にまつわる主題など、作品の基盤を構成するのは紛れもなく『若草物語』そのもので、やはりその点が本作の大きな魅力のひとつとなっている。

 

オルコットの『若草物語』はこれまでにも何度か映像化されている。最も記憶に新しいのがグレタ・ガーウィックが監督を務めた映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』だろう。次女役のシアーシャ・ローナンを主役に据え、現在から過去を回想していくという大胆な脚色を行い、「女性と経済」を主題に、姉妹のそれぞれの生き方、人生の選択が描かれていた。

 

『若草物語』では長女のメグは、堅実な結婚をし、幸せな家庭を築いている。一方、次女のジョーは小説家志望の活発な女性で、隣に住む幼なじみの青年ローリーと仲が良い。四女のエミリーは、絵の才能があり、ヨーロッパで叔母の世話のもと、修行を積んできた。三女のベスは姉妹で一番やさしい心の持ち主だが、病に倒れてしまう。

 

一方、『シスターズ』はどうだろうか。キム・ゴウン扮する長女インジュは一度結婚したものの離婚しているという設定になっているが、次女のナム・ジヒョン扮するインギョンは、放送局に務める記者=ジャーナリスト、大叔母の家に住んでいた頃の幼なじみと再会し、親しく会うようになるというように、非常に原作に近いキャラクターと言えるだろう。幼なじみのハ・ジョンホの設定もローリーとそっくりだ。

 

また、末っ子のイネは、絵の才能があり、ヨーロッパに留学したがっているという設定で、エミリーと重なる。『若草物語』では四姉妹だが、本作は三姉妹だ。なぜ三姉妹なのかは、今後の展開で明らかにされていくのだろうか?

 

最も原作と違うのが、母親のキャラクターだ。原作では父親は従軍牧師として戦争に行っており、母親と姉妹の5人で留守宅を守っている。母は、一家が貧しくても、そのことを卑下しないよう、健やかに子どもたちが育つように努めてきた。

 

一方、『シスターズ』は父親が事業に失敗し、挙げ句に大量の借金を作って逃げ、一家は貧困にあえぐことに。母親はろくに娘の世話もせず、あろうことか長女と次女が妹のために貯めたお金を盗んで夫の暮らす海外に行く費用として使ってしまう。

 

ただ、生きていくためにはお金が必要だという主題は貫かれている。お金を工面する難しさから始まった現代の韓国を舞台にした“若草物語”は、金に執着する人間の姿をクローズアップし、貧富の差が拡大する現代社会の闇を映し出す、大胆なミステリー作品として生まれ変わったのだ。

 

『親切なクムジャさん』や『お嬢さん』などのパク・チャヌク監督作品で知られる脚本家のチョン・ソギョンは今後どのように原作を料理してみせるのだろう。かなり骨太の社会派になる予感もする。

 

多才な出演者たち

三姉妹の長女を演じるキム・ゴウンは、ドラマファンには『トッケビ』でお馴染みだろう。映画ではキム・ヘスと共演した『コインロッカーの女』やイ・ジュンイク監督の『サンセット・イン・マイ・ホームタウン』(原題:『辺山』)での演技が印象に残っている。本作でも喜怒哀楽に溢れた様々な表情をみせている。

 

次女役のナム・ジヒョンは、子役出身で、『ファイ 悪魔に育てられた少年』などの映画、『魔女食堂にいらっしゃい 』などのドラマで知られている。誰もが金に囚われている本作の中で、唯一金に目が眩んでいない、正義感の強いキャラクターを颯爽と演じている。

 

三女役のパク・ジフは国内外の映画祭で多数の賞を受賞したキム・ボラ監督の『はちどり』で主演を務め、自身も様々な賞に輝いた。『はちどり』は、ひとりの中学生の日常と成長を描きながら、そこに韓国という国の成熟の軌跡を重ね合わせた作品。本作もまた、ある一家の小さな物語が、韓国の現代史へとつながっていく「社会派」エンターティンメントの様相を呈しており、本作に、パク・ジフが出演するのは必然のように思われる。

 

そんな三人の前に現れる巨大な敵に扮するのは、パク・ジェサン役のオム・ギジュン。演劇やミュージカルでの活躍で知られる俳優だ。その妻役には、『感染家族』などのオム・ジウォンが扮している。

 

また、ドラマ『イカゲーム』のウィ・ハジュンや、ドラマ『グリーンマザーズクラブ』、『ナルコの神』のチュ・ジャヒョン、映画『エクストリーム・ジョブ』(2019)、『スウィング・キッズ』(2018)、ドラマ『サイコだけど大丈夫』(2020)などで知られるオ・ジョンセといった錚々たるスターが顔を揃え、第二話には、『ヴィンチェンツォ』つながりなのだろうか、ソン・ジュンギがカメオ出演している。

 

『シスターズ』は、全12話。Netflixで毎週土・日曜日23時に新しいエピソードが配信。

 

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韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(全16話)感想・レビュー なぜ人はこのドラマに惹きつけられるのか?!

自閉スペクトラム症を抱える天才的頭脳を持つ新米弁護士ウ・ヨンウが大手法律事務所に就職し成長していく姿を描く韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』

 

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韓国のENA水木ドラマ枠で放映され、第1話では0.9%だった視聴率が最終回では17.5%を記録したという注目作だ。Nerflixでも配信され、韓国は勿論、世界中で大ヒットを記録。早くもパート2の制作が発表され、アメリカや日本でのリメイクの話も出ているという。なぜ本作はこんなにも人を惹きつけるのだろうか!?

 

目次

 

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の作品情報

【放送日】 2022年6月29日〜2022年8月18日(予定)/ENAチャンネル、Netflix 全16話
【原題】 이상한 변호사 우영우(英題:Extraordinary Attorney Woo)
【演出】ユ・インシク
【脚本】ムン・ジウォン(『無垢なる証人』) 
【メインキャスト】パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギョン、ハ・ユンギョン、チュ・ヒョニョン、クォン・ミヌ、ペク・ジウォン、チョン・ベス、チン・ギョン

 

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』のあらすじ

(C)Netflix

生まれて始めて話した言葉が法律用語だったという自閉スペクトラム症を抱える天才肌の女性弁護士ウ・ヨンウ。ソウル大学のロースクールを主席で卒業したものの就職に苦戦。中途半端な時期に採用された大手法律事務所で、力を発揮し始める。

法廷は勿論のこと、オフィスでの人間関係、恋愛まで、様々な壁にぶつかりながらも果敢に挑む姿をハートフルに描いたリーガル・ヒューマンドラマ。

 

韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』全16話 評価と感想

人とは違う佇まい、普通でない行動をする人に、人は眉をしかめたり、腹立ちを覚えがちだが、本作を見ていると、社会には寛容さがもっと必要であると思わされる。

特に最終回にヨンウの直属の上司であるチョン・ミョンソク(カン・ギヨン)が彼女に「君は普通の弁護士じゃないだんから」と微笑んで励ますシーンがある。この言葉は、人と違っていい、君らしくやりなさいというエールであると同時に不寛容な社会への問いかけでもあるのだろう。

 

勿論、綺麗ごとだけで進行する物語ではない。同僚弁護士クォン・ミンウ(チュ・ジョンヒョク)は、ライヴァルとしてヨンウの存在自体を忌々しく思っているし、別のシニア弁護士はヨンウのことを生意気な態度の悪い新人と決めつけ評価していない。

誰もがヨンウの特質を理解してくれるわけではなく、ドラマの中でも差別や偏見(そもそもソウル大学のロースクールを主席で出たのに就職できないこと自体が差別であるという指摘も劇中でなされている)は描かれている。

 

しかし、視聴者は、ドラマを見続けていくうちに、そうした偏見について真摯に受け止めるようになり、障害を持つ人々への理解を深めていく。こうした点をしっかり押さえて作られているからこそ、芯からこのドラマを楽しむことが出来るのだろう。

それにしてもヨンウが最初にチョン・ミンソク弁護士のもとで、仕事を始めていなかったら、彼女の能力はきちんと花開いただろうか?人の能力をいかせるのもいかせないのもまたひとつの能力なのだ。

 

また、弁護士は依頼者を助けるのが仕事ということは自明だが、それが決して社会正義であるとは限らないこと、とりわけ、大手の事務所なら、依頼者が金を出せる人に限られることなど、志を持ち弁護士となった人々が直面する現実的な葛藤も描かれている。

 

そのため、時に、心情的に応援してしまいたくなる相手が「敵」である場合もあり、勝訴しても素直に喜べない事案もある。とりわけ、12話の女性問題を多く取り扱う社会派の女弁護士との対比が象徴的で、この弁護士は一人だけしか居ない小さな事務所のため、大手に勝てない。でも、依頼人からの信頼は絶大で、ヨンウや、同じチームのチェ・スヨン(ハ・ユンギョン)も彼女には一目置く。12話は彼女を中心とした女性の連帯が描かれていて特に素晴らしいエピソードに仕上がっている。

 

明るく朗らかなコメディータッチで物語は進むが、ヨンウの出生の秘密や、大手弁護士事務所同士の対立など、どろどろした要素も含まれている。16話をひっぱっていくにはそうした設定が必要だと考えられたのだろうが、別にいらなかったのでは?とも思えてしまう。

 

それだけヨンウや周りのキャラクターが魅力的で、各回が扱う興味深い事案にいかに取り組むかという展開だけで十分満足できてしまうからだ。しかし、どろどろしたいかにもドラマチックな設定も、最終的に、本当の愛情とはなにか? 真摯に誠実に生きるということはどういうことかという本作が最も描きたかったことへと集約されていく。

 

実際の社会を見ればそれは「ファンタジー」の世界であると言われるかもしれない。しかし、それでも伝えなければいけない、本当に公正な社会のあり方を、それに向かって悩み葛藤し続けることの必要性を、という作り手の強い意志が、多くの人の心を捉えたと言ってもいいだろう。

 

そしてなんと言ってもウ・ヨンウに扮したパク・ウンビンが素晴らしい。カン・テオ扮する法律事務所の職員、イ・ジュノが彼女に恋をするのだが、彼が彼女に向けるその温かい優しい視線は、視聴者が、ヨンウに送った視線と重なるだろう。愛さずにはいられないのだ。

 

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イ・オクソプ+ク・ギョハン短編4作がJAIHOで配信中

第14回大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞したイ・オクソプ監督の『なまず』が一般公開されるのを記念して、配信サイト「JAIHO」(https://www.jaiho.jp/)にてイ・オクソプが公私に渡るパートナーのク・ギョハンとのコラボレーションにより発表してきた傑作短編の中から、オクソプ監督自身が選んだ四つの短編が配信されている。彼らの独特の個性がよく現れた必見の作品だ。

 

目次

 

『四年生のボギョン』(2013)

女子大生ボギョンとドックは付き合って4年目。粗大ゴミとして捨てられていたソファを持って返ったり、大型扇扇風機を買って運んだりという恋人たちのエピソードをジャンプカットを巧みに使いながら、ユーモラスに見せ、2人の長年の息のあったところを見せる。一方で、仲はマンネリになっていて、ときめきが欲しいポギョンは、このまま大学を卒業して彼と結婚することにためらいを持っている。別の先輩が気になりだし、ついに別れ話となるふたり。しかし最後のセックスの最中にドックに首を絞めてと言われたポギョンは絞めたまま絶頂にいたり、気がつけば、ドックを絞め殺していた。この時、あわてふためていて、とりあえず窓をあけると、下ではダンス部がダンスの練習をしているのがいい。これは偶然か、それとも演出か? 警察につかまって刑務所で先輩に肖像画を書いてもらっているところに幽霊のドックが来てという妄想のあと、画面には、部屋のカーテンに包まれたドックの遺体が。そしてその横にはポギョンのパンティーが。このあと、ポギョンは先輩の家に行き、関係を結んでしまうのだが、ここに関連してくるタクシーの運転手というキャラも絶妙だ。いなくてもいいキャラなのに、なぜか存在感たっぷり。ラストはいささが落ちが弱く感じられるが、男の思惑から自由になった女の話でもあるのかもしれない。

『四年生ボギョン』(A Dangerous Woman 4학년 보경이)2013年 28分
監督:イ・オクソプ 出演:キム・コッピ、ク・ギョファン、ペク・スジャン 

 

『監督!僕にもDVDをください!』(2013)

JAIHOで独占配信中

売れない俳優のギファンは、出演したインディーズ映画のDVDをもらうため、監督たちのもとを訪ねてまわっているが、監督たちはなかなかDVDを渡してくれない…。今も映画監督を続けている者もいるが、セールスマンがすっかり板についた人もいる。なかなかDVDを渡したがらない女性監督は「この作品だけで私を評価しないで」と言う。インディーズで映画に関わっていた人々のあるあるの世界が描かれる中、DVD集めという目的が「黄色の紙袋」一点に集約され、それが主人公にとって特別なものになっていくのが面白い。

『監督!僕にもDVDをください!』(Where is my DVD? 왜 독립영화 감독들은 DVD를 주지 않는가?)2013年 28分 監督:ク・ギョファン 撮影協力:イ・オクソプ 出演:ク・ギョファン、コ・ボギョル、ハ・ジュノ

 

『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(2015)

JAIHOで独占配信中

革細工職人になる夢に敗れイタリアから帰国したソンファンを俳優志望のギョファンが出迎える。彼は重機免許を取って、俳優になることをあきらめかけていた。それで納得できるのかと問うソンファンだったが、彼も重機免許をとるべく、運転の練習に勤しむ。ついに免許を取るが、ギョファンと連絡がとれなくなる。やっとかかってきた電話で、ギョハンはちょっとした遊び程度の気持ちで手伝った映画がベルリンで賞をとり、今は撮影で忙しいと告げる。がっぽり儲けたという彼に「俺も俳優になろうかな」とソンファンが言うと「おすすめしません」という言葉が返ってくる。なんとも言えぬ味わいの結末で、ソンファンの気持ちを思うと実に複雑な気分に。オ・イプソク、ク・ギョハンコンビの真骨頂とも言える皮肉全開の一篇。

『フライ・トゥ・ザ・スカイ』(Fly to the Sky 플라이 투 더 스카이)2015年韓国14分
監督:イ・オクソプ、ク・ギョファン出演:ク・ギョファン、チョ・ソンファン 

 

『ROMEO』(2019)

階上の恋人の姿を見たさに奔走する若い男性。一分たらずの作品で少しグロい。

『ロミオ』(ROMEO)2019年 韓国 1分
監督:イ・オクソプ 出演:ク・ギョファン