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【ベトナム映画祭2023】映画『雲よりも高く』あらすじと感想/父と子の深い愛をベトナムの自然と都市を対比しながら描く

日本とベトナムが外交関係を樹立してから2023年で50周年。また、ベトナムも参加するASEAN(東南アジア諸国連合)と日本の関係も2023年で友好協力50周年を迎えた。その記念すべき年にベトナム映画祭2023』が日本各地で順次開催されている。

関西では大阪・シネ・ヌーヴォにて10月7日(土)より13日(金)まで開催!(詳細は劇場HPにてご確認ください)

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近年のベトナム映画を代表する様々な作品を筆頭に、ベトナム人技能実習生を主人公にした藤本明緒監督の『海辺の彼女たち』など豊富な作品がラインナップされている。今回はその中から2017年の作品で、劇場初公開となる『雲よりも高く』を紹介したい。

 

北ベトナム山岳地帯出身のルーン・ディン・ズン監督が、美しい山岳地帯の自然と、高いビル群がそびえ立つホーチミンの都会の風景を対象的に描いた、父と子の絆が心を揺さぶる暖かなヒューマンドラマだ。

 

本作は第90回アカデミー賞外国語映画ベトナム代表作品に選出された。  

 

目次

映画『雲よりも高く』作品情報

2017年製作/90分/ベトナム映画/原題:Cha Cong Con

監督:ルーン・ディン・ズン

出演:ゴー・ザ・クアン、ドー・チョン・タン

 

映画『雲よりも高く』あらすじ

©Tu Van Film Production and Media Company Limited

山奥の川のほとり、漁師のモックと幼い息子カーは毎日の漁で慎ましく暮らしていた。カーはいつも空を見上げ飛行機を追いかけることに夢中だ。時に遠くまで行ってしまい、父を慌てさせることもあった。

 

モンスーンの雨が降ると、この父子も含め、川沿いで暮らしている人たちは高地に集まって雨が止むのを待つのが常だった。

 

カーはほかの子どもたちと元気よく遊び、目と耳が不自由なおじさんのお話を聞くのを楽しみにしていた。おじさんは都会で仕事をしていたことがあったのだ。おじさんの語る都会にカーたち子どもたちはほのかな憧れを抱く。

 

雨もおさまり、人々はそれぞれの家に帰って行った。父子は木を伐り出し、流された屋根を修繕し、床を整えた。

 

ところがカーの具合がよくない。モックは薬草をとって来て、煎じて飲ませてみるも、カーは日に日に衰弱していった。

 

モックはカーを連れて船を漕ぎ、バスを乗り継いで遠く離れた大都会の病院へと向かう・・・。  

 

映画『雲よりも高く』感想

冒頭、ベトナム北部の渓谷の美しく壮大な眺めに目を見張る。雄大な湖に小さな木の船を出す父と、それに並走するように、飛行機を追いかけて緑に包まれた森を駆けていく息子の姿を俯瞰で捉えたシーンが美しい。

 

父親のモックはひとりで息子の世話を焼く。母については多くは語られないがどうやら病気で亡くなったらしい。貧しいが愛情に満ちた父と子の暮らしが綴られていく。

 

カー役に選ばれた少年は、プロの俳優ではなく、ルーン・ディン・ズン監督が選んだ村の少年だという。無邪気な笑顔と自然な演技で観客を魅了する。輝く瞳が印象的だ。

 

洪水の季節になると近隣の住民は高地の家に集まり、共同生活をして雨が止むのを待つ。雨は急に降りだすので、中には逃げ遅れる家族もいる。そんな厳しい暮らしの中でもカーたち子どもたちは皆で目いっぱい遊べる一年のこの機会が楽しくてならない。活気と喜びに満ちた子どもたちの生き生きとした表情が実に眩しい。

 

その中にひとり、過去に都会で働いていたことがあるというおじさんがいる。彼が目と耳が不自由なのはどうやら建設作業の現場から足を滑らせたためらしい。彼は、村の生活を嫌い、都会に出たこと、そこで巨大な建築物に魅せられて、その事業に参加したいと思ったこと、その建物は天に届くような巨大なものだったことを語り、子どもたちは彼の話に夢中になる。

 

彼の語りに合わせてクレーンでいっぱいの超高層建築が画面に映し出される。満月と重なるようにして建っているその巨大な建物はまるでバベルの塔のようだ。カーたちが暮らす渓谷の壮大で崇高な風景と競うようにこの光景が都会の象徴として描かれている。この建築物はホーチミンに実際にある63階建てのビデクスコワタワーだという。

 

高地での生活が終わり、皆に別れを告げて家に戻った頃からカーの具合が悪くなる。モックは薬草を煎じたり、祈ったりするが、カーの容態はどんどん悪くなっていく。モックは息子を都会の病院に連れて行く決心をする。

 

彼らのような貧しい人々が、都会の医療をどれくらい受けられるのか、全ては金次第なのか、本作はそうした社会的な問題点にも鋭く触れながら、親切な看護師や、同じ病気の子どもを抱える保護者同士の確かな触れ合いを描いている。  

 

本作は非常に心根の温かい作品で、それゆえに胸をしめつけられるような思いにも駆られるが、何よりも、父と息子の深い愛情を描いた人道的な作品として深く心に染みこんでくる。

 

第90回アカデミー賞外国語映画ベトナム代表作品に選出されたことは先に触れたが、他にも2017ベトナム映画祭シルバーロータス賞、第36回イラン国際映画祭アジア最優秀映画賞、2017アリゾナ国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞している。