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眞田康平監督インタビュー/映画『ピストルライターの撃ち方』/第二の原発事故を背景に、権力構造の中で抑圧を受けもがく人々の「尊厳」を描く

眞田康平監督 (C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

再び原発事故が起こった世界で奮闘する棄民労働者たちの等身大の姿を描いた映画『ピストルライターの撃ち方』

東芸大大学院映像研究科修了作品『しんしんしん』(2011年)や、若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)2018参加作品『サヨナラ家族』(2019年)の眞田康平監督が長年温めてきた企画をカタチにした待望の長編第二作だ。

 

東京・ユーロスペース、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』での上映を好評のうちに終え、いよいよこの秋、関西での公開がスタートする。

 

映画『ピストルライターの撃ち方』は、9月16日(土)より第七藝術劇場、9月29日(金)より京都シネマ、10月6日(金)より神戸映画資料館にて公開。9月16日(土)には第七藝術劇場にて眞田康平監督、奥津裕也さん、中村有さんの舞台挨拶が予定されている。また、神戸映画資料館では、「眞田康平監督特集」として長編デビュー作『しんしんしん』が同時上映される。(詳細は各映画館のHPをご確認ください)

 

このたび、関西公開を記念して眞田康平監督にインタビューを敢行。作品が生まれた経緯や、作品に込められた思いなど、様々なお話を伺った。  

 

第二の原発事故が起こった世界を描いた理由

(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──第二の原発事故というのはあってはならないことなんですけれど、いつか本当にあるんじゃないかという思いを抱かせるくらい現実味があって他人事と思えなかったのですが、まずこの作品を制作するに至った経緯を教えていただけますか。

 

眞田康平監督(以下、眞田): 2011年に東日本大震災があって原発事故が起こったことがすごくショックで、どこかで作品にしてみたいと思いながら、どのようにしたらいいかわからず、ずっと考え続けていました。調べていくうちに、再稼働の方向に進んでいくのだなということをすごく感じるようになりました。実際に経済産業省と一緒に仕事をしたときも、エネルギー基本計画でそうなっている事を知って。

僕は石川県出身なのですが、調べてみたら実家の近くにも原発があり、それがちょうど20キロ圏内くらいの位置だったんです。自分の地元でもし事故が起こったとしたら実家は『帰宅困難区域』になる可能性がある。福島には個人的にあまり接点がなかったのですが、舞台を近未来にして、もう一回、どうしようもない事故が起こってしまい、また同じことを繰り返しているという設定であれば自分で想像することも出来るし、それを語ることも出来ると考えました。そこで、原発事故が起こったけれども、その周辺でそれまでとあまり変わらない生活を送っている人々が、いろいろな影響を受けながらどうしようもなく追い詰められていく物語という形が出来上がっていきました。

 

──全編、宮城県でロケされたそうですが、地元の方の反応はいかがでしたか。

 

眞田宮城県仙台市は本作の主演の奥津裕也の出身地なんですね。どこか地方を舞台にしたいという話を彼としていたとき、「宮城県でロケすればいろんな人が手伝ってくれると思うしどうだろう」と提案されました。みんなが幸せになる脚本(ほん)ではないのでどういうふうに受け止められるだろうかと不安でしたが、実際行ってみると本当にいろんな方が協力してくださって、また起こりうる身近な問題として受け止めていただき、「このように映画にしてもらえてよかった」と言ってくださる方もいらっしゃって、ものすごく有り難かったですね。  

 

うまい役者たちと共にキャラクターを作り上げる

(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──主演された奥津裕也さんと中村有さんは眞田監督の長編第一作「しんしんしん」にも出演されていて、長い付き合いとお聞きしましたが、眞田監督から観たお二人の魅力とはどういったものでしょうか。

 

眞田:奥津は、普段、ヤンキーやヤクザの下っ端といった怖い人というか、サブでちょっとフックのある役柄を演じることが多いんですけど、今回のように真正面にメインをはりながらもすごく繊細な役柄といったものもやれるだろうと思っていたんですね。実際、ちゃんと自分が書いた通りに演じてくれたところもあるし、自分が思ってもいなかったような演技をしてくれたところもあり、すごく信頼している俳優です。

中村は普段、優男的な役が多いんですけど、ちょっと怖い役をやった方が僕は映えるなと思っていて、今回、非常に難しい役柄に挑戦してもらったんですけど、最初の刑務所をでてきたばかりの時のキャラクターに対してはすごく悩んでいましたね。逆に第2形態といいますか、キャラクターが暴力に目覚めてしまってからは生き生きとしだして、僕もめちゃめちゃいいなと思って観ていました。

ふたりとも本当にうまいですよね。今回、出てくださった役者さんたち、皆さん本当にうまくて、すぐに意図を汲んでくれて、その上でああでもない、こうでもないと言いながらそれぞれのキャラクターを一緒に作り上げていくことができました。

 

──マリを演じられた黒須杏樹さんもとてもよかったですね。黒須さんをキャスティングされた理由を教えていただけますか。

 

眞田:すごくたくさんの方にオーディションに来ていただいたんですけど、黒須さんは年齢的に若かったので、最初は妹役で来てもらったんですね。脚本は渡していたのでマリ役もやってみますかという話になって、すごく画に映える方だなという印象を持ちました。ダンスをしているので体幹がしっかりしていて背も高いので、啖呵を切る演技にもこれはいけるんじゃないかと感じさせるものがありました。本人はふわふわとしている感じの人なので、マリを演じるのは最初は戸惑いがあったと思うんですけど、中盤くらいから声がだんだん低くなって行って、お芝居ひとつひとつがすごく良くなっていったのを覚えています。  

 

「ピストルライター」が表すものは何か

(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──タイトルにもなっている「ピストルライター」が、非常に気になる存在として登場しますが、そこにどんな思いを込められたのかお聞きしてもよろしいでしょうか。

 

眞田:ピストルライターという嘘の拳銃を持っているヤクザの下っ端、チンピラっていうのがすごくダサいじゃないですか。

ピストルってやっぱり暴力の象徴だと思うんです。暴力の象徴を持っているように見えて実際はライターだったというみせかけのものが、劇中で、本物の拳銃になるのか、誰かを撃ってしまうのだろうかということはずっと考えるのだろうなと思っていて。

達也という主人公は暴力を自分の中に引き受けるかというところでずっと葛藤していて、それができない人なんですよね。ヤクザ側にパッと染まってしまえば、ヤクザの社会では生きやすくなるのに、なにか捨てきれないところがあってそれができない。そんな達也を観ていて、親友の諒が自分が肩代わりするかのようにそちら側へすっと行ってしまう。故郷もなく、全てを失くしてしまった人がすっとそちら側に入ってしまってというところで、いつ達也の持つピストルが本物の拳銃になるのか、という、暴力の象徴のような形で描いていきました。

 

描きたかったのは「人間の尊厳」

(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

──プレスシートを拝見すると、眞田監督は一番描きたかったのは「人間の尊厳」だとおっしゃっていますね。

 

眞田:タコ部屋の人たちを経済的なものとしか見ず、人間として扱わないのがヤクザ側の論理で、社会というものはそんな構造になっていると思っていて。

焚き火のシーンで「あいつらを働かせて俺たちが稼ぐ側に回るんだよ」と言いながらもそれをまったくできないのが達也で、一方、タコ部屋の人たちはタコ部屋の人たちで人権も何もないところで閉じ込められて働かされて追い詰められて行くんだけど、そこから抜け出すのも億劫みたいになってしまっている。権力構造になっているというか、上からどんどん圧力をかけられていって、その一番底辺にいる人たちがわけのわからないままそれらを背負わされてどんどん上から抑圧されていく、そんな中での人間性を描きたいと思って尊厳という言葉を使いました。

 

──タコ部屋の人とか、ヤクザなど大勢の人が出てきますけど、そのひとりひとりがとても丁寧に描かれています。群像劇といってもいいかと思うのですが、群像劇を撮るにあたって、とくに心がけられたことなどありますか。

 

眞田:逆に群像劇をつい書いてしまって、そのまま群像劇を撮ってしまい、編集をするときに、みんなにそんなにいらないというようなことを言われて(笑)、もっと3人に絞った方が見やすいってすごく言われたんですけど。自分の中ではひとりひとりにちゃんと理由があって、それぞれが絡んでいるのだということをなるべく見せていきたいと思ってやっています。

 

土台は社会派なんですけど、そこでやりたかったのはひとりひとり潰されていく人間たちの姿だし、呪いの言葉を吐いて、ひとり、またひとり退場していく中で、達也という人物が追い詰められて行き諒と対峙したときにどうなるのかという、ひたすら人間ドラマになっていますので、全編118分、最後まで見たときに、スタートからどこに連れて行かれるのかをぜひ楽しみにしていただければと思います。

(インタビュー/西川ちょり)  

眞田康平監督プロフィール

1984年石川県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科監督領域修了。監督、脚本、編集エディター。修了作品として監督した2011年の映画『しんしんしん』は、渋谷ユーロスペースをはじめとした全国10館で劇場公開された。2015年に発表した短編『イカロスと息子』にて、ゆうばりファンタスティック映画祭ショートフィルム部門の審査員特別賞を受賞。2018年には文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)」に参加し『サヨナラ家族』を発表した。

映画『ピストルライターの撃ち方』作品情報

(C)映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

2022年制作/日本映画/シネスコ/カラー/ステレオ/118分  R-15+

監督・脚本:眞田康平 プロデューサー:奥村康 撮影:松井宏樹 録音:高橋玄 音楽:長嶌寛幸 美術:飯森則裕 助監督:登り山智志 ヘアメイク:香理 制作:宮後真美

出演:奥津裕也、中村有、黒須杏樹、杉本凌士、小林リュージュ、曽我部洋士、柳谷一成、三原哲郎、木村龍、米本学仁、古川順、岡本恵美、伊藤ナツキ、橋野純平、竹下かおり、佐野和宏  

映画『ピストルライターの撃ち方』あらすじ

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ピストル型のライターで煙草に火をつけるチンピラの達也は、ヤクザの下で立入禁止区域の除染作業員をタコ部屋まで運ぶバンの運転手をしている。そんな彼の下に、刑務所から出て来たばかりの親友の諒と出稼ぎ風俗嬢のマリが転がり込んできて、行き場の無い3人の共同生活が始まる―。