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映画『童年往事 時の流れ』あらすじ・感想/ 少年の成長を通して家族の生と死を描く侯孝賢 (ホウ・シャオシェン)監督の自伝的作品

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侯孝賢と脚本家のチュウ・ティェンウェン(朱天文)がはじめてタッグを組んだ、台湾ニューシネマの原点ともいえる幻の作品『少年』リマスター版が劇場初上映されるほか、多彩な作品がラインナップされている。

その中から今回は『童年往事 時の流れ』(1985)を取り上げたい。

侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の自伝的作品で『恋恋風塵』(1987)と並ぶ初期の代表作だ。

第22回金馬奨最優秀助演女優賞(唐如韞(タン・ルーユン))・最優秀脚本賞、第36回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、第31回アジア太平洋映画祭審査員特別賞を受賞している。

 

目次

映画『童年往事 時の流れ』作品情報

(C) Central Motion Picture Corp.

1985年製作/138分/台湾映画/原題:童年往事 (英題:A Time to Live and a Time to Die)

監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン) 脚本:侯孝賢、朱天文(チュー・ティエンウェン) 撮影:李屏賓(リー・ピンビン) 音楽:呉楚楚 出演:游安順(ユー・アンシュン)、辛樹芬(シン・シューフェン)、田豊(ティエン・フォン)、梅芳(メイ・ファン)、唐如(タン・ルーユン)、呉素瑩、陳淑芳、周棟宏

映画『童年往事 時の流れ』あらすじ

(C) Central Motion Picture Corp.

1948年に広東省から台湾に渡ってきた少年、阿孝(アハ)とその家族。しかし、体の弱い父親は台北の気候があわず、一家は台湾南部に転居。祖母は大陸の生活が忘れられず、阿孝と外出するたびに、彼の手を引いて歩いて中国に戻ろうとする。

阿孝は村の子供たちのあいだでガキ大将的な存在になり、豊かな自然の中でのびのびと育った。高校時代はすっかり悪童となり、家族を困らせる一方、真面目な女子学生に淡い恋心を抱く。

やがて父と母が死去。祖母もまた、老衰で亡くなってしまう。

 

映画『童年往事 時の流れ』感想

(C) Central Motion Picture Corp.

主人公・阿孝(アハ)は中国・広東省で生まれた後、すぐに両親と姉兄・祖母の5人と共に台北に移住して来た。いわゆる外省人の一家である。

父は公務員として務めていたが台北の気候が体に合わず、療養のため、一家は台湾南部の田舎へと転居する。

窓がいつも開け放たれていて、外の緑が太陽とまじりあってほのかに輝いている。父が画面手前の左手の勉強机に向かっていて、奥にふすまがあり、画面中央よりちょっと右側に子どもが一人、父と同じ方向を向いて勉強している。このショットは何度か出てきて、すこしばかり小津作品の構図を思い出させる。

白いブラウス姿で家の手伝いをせっせとしている姉は台北の名門女子大に合格していたことがあとからわかる。食事や入浴シーンなどが丁寧に何度も描写される。

一方、阿孝はほとんど家にいない。町のちょっとした広場。カメラはそこに座っている人々を映した後、画面を横断していく。その中で祖母が阿孝を呼び続けており、長回しでその全身をとらえたあと、今度はバストショットで阿孝を探し続ける祖母をとらえている。

阿孝はその声が聞こえないわけがないのだが、まったく知らん顔をしてビー玉遊びに興じている。巻き上げたビー玉と親からくすねた金を木の根元に埋めている阿孝。

やがて迷子になった挙句、人力車に乗って帰ってきた祖母。これは次第にひどくなっていき、今で言う徘徊老人となっていくわけなのだけれど、ちょっと困ったような、くしゃくしゃとした表情をしている祖母がなんとも可愛らしく、ユーモラスに描かれている。

祖母は3人の孫の中でもとりわけ阿孝を気に入っており、二人で外出をすれば必ず一緒に大陸へ帰ろうと誘う。二人で青ザクロをとって帰り、祖母がザクロでお手玉を教えるシーンもほのぼのとしていて心をうつ。(阿孝がたいしてうまくならなかったのは中学生になって玉突きで遊んでいる際に玉でお手玉をやり始める様子でわかる。しかし、この遊びがきっかけとなり大げんかになってしまう。成長した阿孝はすっかり悪童に育っており、刃物を振り回した喧嘩に明け暮れる)。

 

英語のタイトルが示すように、もともと体が弱かった父が亡くなり、母までも喉頭癌を患ってしまう。結婚した姉が母の世話をしていたが、その母もなくなり、家には阿孝と兄と祖母が残される。

やがて祖母も亡くなるが、阿孝たちは数日気がつかないでいた。体も爛れており、葬儀屋が彼らをちらりと見る。阿孝たちはその視線の意味に気付いている。

 

阿孝が憧れる近所の少女は、『童年往時』から2年後に作られた『恋恋風塵』にも出ていた辛樹芬(シン・シューフェン)だ。彼女に「大学に受かったらね」と言われて俄然勉強しだす阿孝。彼の成長を描きながら、一家の変遷をその生と死で描く。

人が亡くなるということの大変さがリアルに丁寧に描写されている。実際のところ人間はそう簡単に死ねはしないのだ。

(文責:西川ちょり)

 

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