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ドキュメンタリー映画『プーチンより愛を込めて』解説・感想/プーチン政権の誕生時、カメラが捉えたものとは!?

映画『プーチンより愛を込めて』は2023年6月09日(土)よりシネ・リーブル梅田、アップリンク京都、6月17日(土)より元町映画館にて公開! 6月10日(土)はシネ・リーブル梅田、6月18日(日)は元町映画館にて岡部芳彦(神戸学院大学教授/ウクライナ研究会会長)さんのトークショーを予定。詳しくは各劇場のHPをご参照ください。

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ロシア連邦初代大統領ボリス・エリツィンに後継者として指名され、2000年に第2代大統領に就任したウラジーミル・プーチン。以降、プーチン政権は実質20年以上にわたり続き、プーチンは権力を握り続けている。

 

ヴィタリー・マンスキー監督は、プーチンが大統領代行に就任してからの1年間、プーチン大統領候補の選挙用PR動画の撮影を含め、プーチンにカメラを向け続けた。

 

プーチンはいかにして権力を握り、自らの統治国家を築き上げることができたのか!?今、カメラが目撃したものが明かされる。

 

カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞受賞作。  

 

目次

映画『プーチンより愛を込めて』の作品情報

(C)Vertov, GoldenEggProduction, Hypermarket Film-ZDF/Arte, RTS/SRG, Czech Television2018

2018年製作/102分/G/ラトビア・スイス・チェコ・ロシア・ドイツ・フランス合作映画/原題:Putin's Witnesses

監督・脚本・撮影・ナレーター:ビタリー・マンスキー 編集:グンタ・イケレ 

映画『プーチンより愛を込めて』のあらすじ

(C)Vertov, GoldenEggProduction, Hypermarket Film-ZDF/Arte, RTS/SRG, Czech Television2018

1999年12月31日正午、ボリス・ニコラエヴィチ・エリツィンロシア連邦大統領を辞意することを表明し、後継者に、当時首相を務めていたウラジミール・プーチンを指名した。

 

3ヶ月後に行われる大統領選挙までの間、ロシアの新しい憲法、国旗は若き指導者に引き継がれた。

 

プーチンの選挙用PR動画の撮影を担当することになったヴィタリー・マンスキーは、大統領選挙への出馬表明も、公約も発表しないまま、 “選挙運動”を展開するプーチンの姿を記録していく。

 

この期間中、プーチンはロシア全土をほぼ回り、ロシア高層アパート連続爆破事件など諸問題の解決、第一次チェチェン紛争の"英雄"たちへの慰問や恩師との再会を果たす。その姿はテレビによって国民に伝えられ、国民が抱く彼のイメージを「強硬」から「親身」へと変化させていく。

 

2000年3月26日の開票日当日、マンスキーはエリツィン元大統領の自宅でカメラを回していた。

プーチンの当選をまだかまだかと待ちわびるエリツィン家族の姿が映し出される。

 

ついにプーチンの当選が発表され、エリツィンプーチンの選挙事務所に電話をかけるが、プーチンは不在。折返しかけるとの返事にもかかわらず、それから一時間半がたっても、プーチンからの連絡はなかった・・・。  

映画『プーチンより愛を込めて』の解説と感想

(C)Vertov, GoldenEggProduction, Hypermarket Film-ZDF/Arte, RTS/SRG, Czech Television2018

映画の冒頭、1999年のクリスマスと大晦日のマンスキー監督一家の姿が映し出される。

幸せ一杯のクリスマスの映像に対して、大晦日の光景は正反対の雰囲気を漂わせている。

 

1999年の12月31日は、ロシア連邦大統領のエリツィンが辞意を表明し、後継者にウラジミル・プーチンを指名した日であった。

マンスキー夫人はそのことをひどく嘆き、民主主義が失われていくことを懸念。自分にカメラを向ける夫に対して激しい拒絶の態度を見せていたのだ。

 

今、彼女の姿を観ている私たちは彼女の予感があたっていたことがわかるが、当時はまだ「嫌な予感」に過ぎなかった。

 

マンスキー監督は、その頃、国立テレビチャンネルのドキュメンタリー映画部の部長という役職にあり、彼がプーチンにカメラを向けることは当然の任務だった。その後、彼はプーチンの選挙用PR動画の撮影を担当することになる。

 

彼は妻のように嫌悪感をみせることなく、大統領のイメージアップという仕事を全うしていくが、大統領当選後、彼の回すカメラはソ連時代の遺物を徐々に蘇らせていくプーチンの姿を赤裸々に捉えていく。

 

特筆すべきなのは、マンスキー監督が、直にプーチンに疑問をぶつけていることだ。当時はエリツィン時代の流れで、発言の自由も今よりはあったというものの、それなりに地位の高い人でもプーチンの前では震え上がっていたというから、権力者に怯まないマンスキー監督の勇気には驚かされる。しかし、当然のごとくプーチン聞く耳を持たず自己主張を繰り返すだけだ。

 

これは民主主義が失われていく一つの記録といってもいいだろう。  

 

マンスキー監督は当初、これらのフィルムを映画にするつもりはなかったが、2014年にロシア・ウクライナ紛争が勃発したのを契機に映画にすることを決意。

 

インタビューで「この映画は、黙って同意して犯罪の目撃者になったすべてのロシア国民の個人的責任も、集団的責任の認識もあったからこそ、制作しました」と語っている。

 

これは、プーチンの最大の天敵と呼ばれたロシアの政治活動家・弁護士で、現在刑務所に収監されているアレクセイ・ナワリヌイを描いたドキュメンタリー映画『ナワリヌイ』(2022)で、ナワリヌイが最後にカメラに向かって「悪人がのさばり続けるのは優しい人が何もしないから」と放った言葉を思い出させる。

 

民主主義は永遠にあるものではなく、無関心であったり、見て見ぬふりをしているうちに簡単に失われてしまうものなのだいうことが、この作品を観れば理解できるだろう。

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