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森田博之監督インタビュー/映画『光る鯨』/ SFやファンタジーの突拍子もない物語でも出発点は日常から始めたい

森田博之監督 (C)studio solars

深夜2時の“異世界エレベーター”に乗って彼女が降り立った先はパラレルワールドだった──

 

映画『光る鯨』は幼い頃に両親を事故で亡くした女性が、幼馴染が発表した一冊の本「光る鯨」に導かれるようにパラレルワールドに迷い込み、思いもよらぬ体験をする姿を描いたSFヒューマンドラマだ。

 

監督・脚本を務めたのは第11回田辺・弁慶映画祭でキネマイスター賞と映画.com賞をW受賞し、テアトル新宿、ユーロスペース等で公開され好評を博したSFラブストーリー『ラストラブレター』(2016)の森田博之

 

主人公・イトを演じたのは、元TEMPURA KIDZの関口蒼で、本作で映画初主演を果たした。イトの幼馴染みで新進小説家・はかるを『明ける夜に』(2022)の佐野日菜汰、イトの姉・冬海を『空の瞳とカタツムリ』(2018)の中神円、カフェのマスターを「馬の骨」(2018)の桐生コウジが演じている他、古矢航之介、瀧石涼葉、山口友和、水沢朋美等が脇を固めている。また、『ラストラブレター』でW主演したミネオショウ、影山祐子も存在感のあるキャラクターで出演している。

 

映画『光る鯨』は2023年12月に東京・池袋HUMAXシネマズでの上映を好評のうちに終え、このたび関西での公開がスタートした!

 

映画『光る鯨』は、2024年1月20日(土)よりシアターセブン、1月26日(金)よりアップリンク京都にて公開。1月27日(土)にはシアターセブン、アップリンク京都の両館で舞台挨拶が予定されている(詳しくは各映画館のHPにてご確認ください)

 

関西公開を記念して森田博之監督にインタビューを敢行。作品が生まれた経緯や、作品に込められた思いなど、様々なお話を伺った。

 

目次

 

幼少期の思い出や記憶が結実した物語

(C)studio solars

──パラレルワールドをモチーフに映画を製作しようと思われた経緯を教えていただけますか。

 

森田博之監督(以下、森田):小学生の時に観た作品で『映画ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(1988)というのがありまして、「西遊記」の物語とのび太とドラえもんたちが住んでいる街がごっちゃになってしまって現実世界とは違うパラレルワールドになってしまうんですね。のび太とドラえもんがタイムマシンで中国の過去の世界に行って、そこで妖怪たちを倒せばもとの世界に戻るというタイムパラドックスもので、それがパラレルワールドというものを知るきっかけでした。そのあともパラレルワールドを描いた様々な作品を観る機会があり、いつか自分の映画に出したいなと思ってずっと温めていたんですけど、今回ようやく出すことができました。

 

──本来なら交わることのないパラレルワールドの「入り口」になるものとして古い団地のエレベーターを使うというアイデアはどこから来たのでしょうか

 

森田:ある程度階数のあるビルのエレベーターを上って下りて、上って下りてというのをずっと繰り返していると異世界に行ってしまうという都市伝説があるのは以前から知っていました。それはちょっと怖い話で、どこかに行ってしまわないように気をつけようという教訓めいたものだったんですけど、日常の中に異世界の入り口のようなものがあるという、そのネタの切り口が面白いなと思って、いつかそれも自分の映画に使いたいとずっと温めていました。都市伝説とパラレルワールドのアイデアを合体させ、いろいろな要素を加えたのが今回の物語です。

 

──映画に登場するエレベーターがとても雰囲気があって「入り口」としてぴったりだと感じられたのですが、この場所はどうやって探されたのですか。

 

森田:今回撮影で使ったのは古い都営団地なんですが、昔、僕もその近くの団地に住んでいまして、その団地は四階建てでエレベーターがなかったんですけど、近くに住んでいる友達の団地はエレベーターがあったんですね。そのエレベーターというのが、じめじめしていて便利というよりはちょっと異質というか、知らない方と一緒に乗るときなど密室でもあり少し怖いイメージがありました。団地のエレベーターが「入り口」にはぴったりなのではないか、昔、自分が育った場所の近くで撮影が出来たらいいなという思いもあり、あの都営団地を思い出して交渉して使わせていただきました。

 

鯨をモチーフにした理由

(C)studio solars

──次に「鯨」についてお尋ねします。「光る鯨」は映画のタイトルでもあり、劇中、作家になった幼馴染のはかるの本のタイトルでもあります。実際、鯨が登場する場面もありますし、「鯨」にはどのような思いが込められているのでしょうか。

 

森田: 劇中、「恐竜は好きじゃないけど鯨は好き」という台詞を少年が言うシーンがありますが、それは僕の幼少期の実際の思い出なんです。上野の国立科学博物館の前にシロナガスクジラの実物大模型が昔から展示されていまして、鯨って知ってはいるけど、肉眼で観ることはないので、こういう大きさで目もすごく大きくてこんなのが実際にいるんだとそこに来る度に目を奪われていました。父に連れて行ってもらった思い出や、鯨の前で撮った写真が残っていたり、夜になると鯨がライトアップされて「光る鯨」といいますかそのイメージがあって、「鯨」をモチーフに出来たらなという思いがありました。

 

──実際、鯨が劇中、出現して驚いたのですが、他にも、パラレルワールドそれぞれの世界で月の大きさが違うなど、その世界観が見事に表現されていますね。

 

森田:ミュージックビデオなどを作っている荒船泰廣という友人がいまして、彼はCGを使った表現がとても得意で、彼に手伝ってもらえるか相談したところ、月はそれほど難しくないけれど鯨などの生き物はすごく難しいとのことでした。でもやってくれることになってあまり時間もない中、素晴らしい映像を作ってくれました。

 

大切な人を亡くしてしまった人を描く

(C)studio solars

──結構、長回しが多いですよね。若い俳優さんたちがたくさん出演されているので、彼女、彼らの芝居をじっくり見せたいという意図があったのでしょうか。

 

森田: 物語自体は突拍子もないフィクションなので、お芝居自体は丁寧に、丁寧に撮っていきたいという思いがありました。俳優さんも実際皆さんが出演された作品を観て決めましたし、SFだからといってぶっとんだものをやるのではなくて、地に足の付いた人物を出したいというのがあって、お芝居もできるだけ抑えてやってほしいとお願いしました。撮り方もあまり細かくカットを割るというのではなく、できるだけ皆がしっかり会話しているのをじっくり撮りたい、そうしたものをお客さんに提示したほうが、ああ、こういう人たちがいるんだなと皆さんにわかってもらえるのではないかという狙いもありました。

 

──森田監督の2012年の作品『カラガラ』には大切な人を亡くして自分だけが生き残ってしまったという苦悩を抱えた人物が描かれていましたし、『ラストラブレター』は妻を亡くした夫がヒューマノイドとして妻を蘇らせる物語でした。本作も、幼い時に両親を亡くして姉妹で支えあいながら生きてきた女性が主人公です。大切な人を亡くしてしまった人というのが森田監督の作品の大きなモチーフであるように思えます。

 

森田:父親が15年前に亡くなりまして、その時、僕は24歳でした。父は入院していたんですけど、見舞いに行くと「大丈夫、大丈夫」と言っていましたし、そう簡単に人は死なないだろうと思っていたんですね。ところが一ヶ月くらいで容体が急変して亡くなってしまった。母親もまさかそんなにすぐに亡くなるとは思っていなかったみたいですごく悲しみが大きかったんですけど、父の死を体験して、人って意外と簡単に死んでしまうんだなという思いを抱きました。

子供のころ映画を見に連れて行ってくれたのも父でしたし、映画監督を目指すきっかけになったのも父親の存在が大きかったので、父親ってなんだったんだろうというのを、父親もSFが好きだったのでそういうのを絡めて映画で表現できたらいいなと、24歳以降ずっと考えて来ました。大切な人を亡くしてしまった人を描くというのはこれからもずっとテーマにしていきたいですし、父と息子というテーマにもいつかチャレンジしてみたいと思っています。

 

──亡くなった方に会いたいというのは切実な思いで、本作のように幼い頃に両親を亡くした人はとりわけそうだと思うのですが、決して会うことはできません。けれどファンタジーやSFならそれが描けるのではないか、それがフィクションの力ではないかと思っていて、本作でも亡くなった人と再会するシーンが描かれています。もちろん、この作品はいろんな解釈ができるので、願いがかなったシーンだとは一概にはいえないかもしれませんが、それでもそうしたシーンが登場する。そういう力を持っている映画というものについてはどう思われますか。

 

森田:おっしゃるとおりで、映画は何を出してもいいといいますか、UFOを出してもいいし、エイリアンやゾンビを出してもいいし、人喰いザメをだしてもいい。僕は現実にないものを観たいんですね。非日常的なものを暗い空間で他のお客さんと観るというような、映画とはそういう娯楽であるべきだという思いがあります。

一方でSFやファンタジーにしても出発点は日常から始まるものがいいなと思っていて、そこから非日常のパラレルワールドに行けるというようなものを僕自身観てみたいし、突拍子のない物語でも、お客さんが登場人物に寄り添っていけるようなものにできるだけなっていればいいなといつも考えています。

(インタビュー/西川ちょり)

 

森田博之監督プロフィール

1984年生まれ。埼玉県出身。

高校在学中に映画制作を始める。 日本映画学校(現日本映画大学)卒業後、演出部、 制作部として劇場用映画に参加。

これまで監督した映画作品は各地の映画祭で入選、上映される。初長編作『カラガラ』が第6回 田辺・弁慶映画祭に入選。『ラストラブレター』が第11回田辺・弁慶映画祭にてキネマイスター賞 & 映画.com賞をW受賞。テアトル新宿の同映画祭セレクション上映にて最多動員を記録。2019年、劇場公開される。2023年には地下鉄サリン事件を題材にした短編『消える陽』が下北沢トリウッドで上映された。

 

 

映画『光る鯨』作品情報

(C)studio solars

2023年/日本映画/127分/ヨーロピアン・ビスタ/カラー/5.1ch

監督・脚本:森田博之 撮影:上川雄介 照明:大西辰弥 録音:濵田耕司、望月亮佑、三塚俊輔 カラリスト:稲川実希 整音:山田幸治 音響効果:三浦光太郎 衣裳:泉敦夫 ヘアメイク:前野はるみ、氏家美帆、下山葵 助監督:佃直樹 VFX:荒船泰廣 音楽:松田幹 主題歌「光る鯨」作詞 森田博之、作曲 松田幹

出演:関口蒼、佐野日菜太、古矢航之介、中神円、瀧石涼葉、小吹奈合緒、西巻大翔、下鳥時穏、田中里念、宮本行

 

映画『光る鯨』あらすじ

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幼少期に両親を亡くした23歳のコンビニ店員、志村イトは姉と二人で暮らしている。幼馴染の新進作家、高島はかると音信不通となり数ヶ月が過ぎていた。イトは彼への密かな想いを断ち切ることが出来ず、かつて家族で暮らした高層団地へと向かう。はかるの処女作「光る鯨」を手に古いエレベーターに乗り込むと、上昇と下降を繰り返す。彼女の記憶は深く深く潜っていく。深夜2時、誰もいない11階に止まった時、ついに《異世界エレベーター》が発動する。イトはいなくなった人に会える世界=パラレルワールドへと足を踏み入れるー。