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映画『ホゾを咬む』あらすじと感想/妻の行動に疑問を持ち隠しカメラを設置した男がたどり着く先は⁉

短編映画『サッドカラー』がPFFアワード2023に入選するなど、国内映画祭で高い評価を受けている新進気鋭の映像作家・髙橋栄一が監督、脚本、編集を務めた映画『ホゾを咬む』

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新宿K’s cinemaの上映を好評のうちに終え、2023年12月15日(金)からは池袋HUMAXシネマズでの公開が始まる。関西では12月16日(土)よりシネ・ヌーヴォ(12月16日(土)に髙橋栄一監督、12月17日(日)に小沢まゆさんの舞台挨拶を予定)、2024年1月には元町映画館にて公開される他、全国順次公開が予定されている。

 

不動産会社に勤める茂木ハジメは妻のミツがいつもと全く違う服装で街を歩いているのを目撃する。自分が出かけている時に一体妻は何をしているのか!? ハジメは隠しカメラを設置し、妻の行動を見張り始めるが・・・。モノクロームの世界観が観る者を異世界へと誘う新感覚の日本映画だ。

 

主人公のハジメ役を幅広い役柄をこなしカメレオン俳優とも称されるミネオショウが演じ、映画デビュー作『少女 an adolesscent』で国際的にも評価されて以降、活躍を続ける小沢まゆがヒロインのミツ役を演じているほか、プロデューサーも努めている。  

 

映画『ホゾを咬む』作品情報

(C)2023 second cocoon

2023年/日本/4:3/モノクロ/108分/DCP/5.1ch

脚本・監督・編集:髙橋栄一 プロデューサー:小沢まゆ 撮影監督:⻄村博光(JSC) 録音:寒川聖美 美術:中込初音  スタイリスト:タカハシハルカ ヘアメイク:草替哉夢  助監督・制作:望月亮佑 撮影照明助手:三塚俊輔  美術助手:塚本侑紀、菅井洋佑  制作助手:鈴木拳斗  撮影応援:岡上亮輔、濵田耕司、小野寺光、⻑島貫太、秋田三美、小沼美月 音楽:I.P.U 整音・音響効果:小川武  楽曲提供:小川洋 劇中絵画:「生えている」HASE.  宣伝デザイン:菊池仁、田中雅枝 本編タイトルデザイン:山森亜沙美  宣伝写真:moco DCPマスタリング:曽根真弘 製作・配給:second cocoon  配給協力:Cinemago 海外セールス:Third Window Films 文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業

出演:ミネオショウ、小沢まゆ

木村知貴、河屋秀俊、福永煌、ミサ リサ、富士たくや、森田舜、三木美加子、荒岡龍星、河野通晃、I.P.U、菅井玲  

 

映画『ホゾを咬む』あらすじ

(C)2023 second cocoon

不動産会社に勤める茂木ハジメは結婚して数年になる妻のミツと二人暮らしで子供はいない。

 

ある日ハジメは仕事中に普段とは全く違う格好のミツを街で見かける。帰宅後聞いてみるとミツは一日外出していないと言う。

 

ミツへの疑念や行動を掴めないことへの苛立ちから、ハジメは家に隠しカメラを設置する。

 

自分の欲望に真っ直ぐな同僚、職場に現れた風変わりな双子の客など、周囲の人たちによってハジメの心は掻き乱されながらも、自身の監視行動を肯定していく。

 

ある日、ミツの真相を確かめるべく尾行しようとすると、見知らぬ少年が現れてハジメに付いて来る。そしてついにミツらしき女性が誰かと会う様子を目撃したハジメは...。

 

映画『ホゾを咬む』感想と評価

(C)2023 second cocoon

冒頭、三本のろうそくだけが灯った暗い座敷。テーブルには明らかに団体用とわかる料理がずらっと並べられているが、人影は見えない。カメラが奥から手前へと舐めるようにパンして行くとテーブルの端に一人の男の姿が現れる。この男が本作の主人公ハジメ(ミネオショウ)なのだが、彼は微動だにしない。一瞬、俯瞰気味のショットが来たあと、これまでとは逆側の窓側の光景が映し出される。窓を覆う光と影のショットがモノクロの画面により一層鮮烈な印象を与える。しかしその余韻に浸る間もなくすぐに電話が鳴り始める。その電話もまたなんとも奇妙なものであった。

 

今、目にした光景は一体なんだったのだろう? 主人公の夢の世界なのだろうか。それとも彼の心象風景の現れなのか、あるいは用意した宴の席をドタキャンされた哀れな営業マンのリアルな姿だとでもいうのだろうか。現実と妄想が錯綜するような導入に、一気に引きずり込まれる。

 

その後も、ハジメの周りにはなんだか不思議な人たちばかりが現れる。どうリアクションしたらいいのか戸惑わせる人がいるかと思えば、初対面なのにいきなり踏み込んでくる人もいる。社内のエレベーターやトイレで出会う同僚(木村知貴)もなんだかへんだ。全体としてまるで不条理劇を観ているかのような気分になってくる。

 

積み重ねられていく奇妙なエピソードは、生きることへの根源的な不安や不信感の投影である。登場する人々、それぞれの距離感が緻密に計算されて描かれており、画面からは他者を理解することの困難さが浮かび上がってくる。

 

本作の特徴のひとつに「長い間合い」がある。もともと口数の少ないハジメは、妻のミツ(小沢まゆ)に何か尋ねられても、即答することはまずなく、一呼吸、ふた呼吸も間を置いてから言葉を返している。それが作品全体に独特のリズムを作り出している。

 

そんなハジメだから、言いたいこと、尋ねたいことがあってもつい、口を閉ざしてしまう。

この作品で描写される、他者への言葉足らずの部分は、私たちの日常と地続きのような現実味がある。他者の心はよめないものだし、自分の気持ちを他者にうまく伝えるのは至極難しいことだからだ。  

 

言いたいこともうまく伝えらえないハジメは、妻のミツに疑念を抱いた際、妻の行動を監視するべく、部屋に隠しカメラを据え付けるという行動に出る。以来、彼はスマホで妻の姿を終始確認する生活を送ることになる。仕事をしている時も、食事をしている時も、妻がすぐ傍にいるときでさえ、彼はカメラがとらえた妻の姿を見ずにはいられなくなる。

 

妻をこっそり監視するというなんとも不穏な展開は、いつかしっぺ返しが来るだろうという不安を観る者に与え、いやな予感を覚えさせるが(実際、その予感は半分当たるのだが)、驚くべきことに、不安で不条理で不穏だった物語が次第に愛の物語に変容して行くのである。

四六時中、妻の姿を見続けずにはいられないハジメの姿は恋する人間以外の何ものでもない。そこにはピュアとしかいえない愛の感情が流れているのだ。

このピュアさは、主人公の夫婦を演じたミネオショウと小沢まゆの力量によるところが大きいだろう。ミネオショウ演じるハジメは、この物語の語り手として、観る者に不思議な信頼感を与え、小沢まゆは、楽しみを見出して人生を送っているミツというキャラクターに清涼剤のような爽やかさをもたらしている。

 

不条理な世界に埋没していた彼が人間性を取り戻していく姿が瑞々しく描かれていて、終盤のあるーンには思わず感極まってしまった。

映画『ホゾを咬む』は、泣けるラブストーリーなのである。

(文責:西川ちょり)

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