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映画『HOW TO BLOW UP』あらすじ・感想/気候変動に対して「エコテロリスト」として行動することを決心した若者たちをケイパー映画の文脈で描く

環境破壊に人生を狂わされたZ世代の若者たちは、気候危機に対する平和的な抗議活動に限界を感じ、過激な破壊行為の計画を立てるが・・・。

 

映画『HOW TO BLOW UP』は、米テキサス州の石油パイプラインを、即席の爆弾で破壊しようとする若者8人の姿を描いたエコスリラーだ。

 

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監督を務めたのは、Netflixのホラー映画『カムガール』(2018)のダニエル・ゴールドハーバー

スウェーデンの気候変動学者アンドレアス・マルムのノンフィクション『パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか』を原作に、本作で主演を務めたアリエラ・ベアラーと共同で脚本を執筆。環境問題の緊急性を顧み、構想からわずか19か月で完成させ劇場公開を果たした。

 

出演者はアリエラ・ベアラーの他に『レヴェナント:蘇りし者』(2015)でレオナルド・ディカプリオの息子を演じたフォレスト・グッドラック、『アメリカン・ハニー』(2016)で衝撃的なデビューを果たしたサッシャ・レイン等。  

 

目次

映画『HOW TO BLOW UP』作品情報

(C)Wild West LLC 2022

2022年製作/104分/PG12/アメリカ映画/原題:How to Blow Up a Pipeline

監督:ダニエル・ゴールドハーバー 

製作:アイザ・マッツェイ、ダニエル・ゴールドハーバー、アリエラ・ベアラー、アダム・ワイアット・テイト、デビッド・グローブ・チャーチル・ビスト、アレックス・ブラック、アレックス・ヒューズ 製作総指揮:ジョン・ローゼンバーグ、リッカルド・マッダロッソ、サッシャ・レイン、フォレスト・グッドラック、ジョーダン・ショル、ナタリー・セラーズ、ユージーン・コトリャレンコ 原作:アンドレアス・マルム 脚本:アリエラ・ベアラー、ダニエル・ゴールドハーバー 撮影:テイラ・デ・カストロ 美術:アドリ・シリワット 衣装:ユーニス・ジェラ・リー 編集:ダニエル・ガーバー 音楽:ギャビン・ブリビク

出演:アリエラ・ベアラー、サッシャ・レイン、ルーカス・ゲイジ、フォレスト・グッドラック、クリスティン・フロセス、マーカス・スクリブナー、ジェイミー・ローソン、ジェイク・ウェアリー、アイリーン・ベダード

 

 

映画『HOW TO BLOW UP』あらすじ

(C)Wild West LLC 2022

カリフォルニア州ロングビーチ出身のソチは、最近、母親を亡くし、哀しみに暮れていた。母親は石油精製所に近い有害物質汚染地域で暮らしており、異常な熱波が原因で死亡したのだ。

 

ソチは大学で環境NGOの活動を続けていたが、平和主義的抗議活動に限界を感じていた。彼女は環境汚染源であるSUV車のタイヤを切り裂き、「法律が裁かないのなら私が裁く」と印刷されたメモを残していく。

彼女は環境ドキュメンタリーの制作に関わるショーンとともに大規模な行動を取れる仲間を集めることを決心する。

 

そんな彼女の友人で、同じ地区で育ったテオは有毒化学物質のために末期ガンを患っており、貧しいがゆえに救命治療や医療を受けることができずにいた。

 

テオのガールフレンドのアリーシャは、気候危機に対する過激な破壊行為をテオがソチと一緒に計画していることを知り、最初は反対するが、最終的に彼女を支えるために自身も計画に参加する。

 

採掘業者に居留地を侵略されたネイティブ・アメリカンのマイケルは独学で爆弾づくりを行っており、YouTubeなどで製造法を公開していた。そんなマイケルや、パイプライン建設のためテキサスの土地を奪われたドゥエイン、環境活動家のカップル、ローガンとローワも加わり、8人の若者たちはテキサスのパイプラインを爆破するために人里離れたテキサスの廃屋に集まるが・・・。  

 

映画『HOW TO BLOW UP』感想と解説

(C)Wild West LLC 2022

スウェーデンの気候変動学者アンドレアス・マルムが2021年に発表したノンィクション『パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか』には、パイプラインの爆破方法が実際に記されているわけではない。しかし、ここでマルムは、非暴力を重んじる戦略的平和主義や市民的不服従よりも、「財物の破壊(サボタージュ)」の方が歴史を通じて効果を上げて来たと論じ、気候変動においても急進的な行動が必要だと促している。

 

映画『HOW TO BLOW UP』はこのマルムの著書を原作に、実際に気候変動に対して「エコテロリスト」として行動することを決心した若者たちを主人公にした物語だ。

Netflixのホラー映画『カムガール』(2018)で知られるダニエル・ゴールドハーバー監督は、パイプライン破壊作戦の顛末をスリリングに描くと共に、そこに至った彼らの切実な思いに迫っている。

 

プロのテロリストではなく、素人の若者たちが、独学で爆弾を製造し、パイプラインを爆破しようとする作戦の過程は常に不安な雰囲気がつきまとっている。

 

映画ファンならケリー・ライカートの2013年の作品『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』を思い出すだろう。ジェシー・アイゼンバーグ扮する環境活動家の若者が仲間と共に水力発電ダムの爆破を試み成功するが、ホームレスが一人巻き込まれ死亡したことにより、パラノイアに陥って行く姿を描く作品だった。

 

『HOW TO BLOW UP』の若者たちも犠牲者を出さずにパイプラインを爆破し、誰にも疑われずにメンバーが脱出するために緻密な計画を立てているのだが、どんな完璧な計画も、実行するのが人間である限り、綻びが生じるものだ。破られる禁酒の約束、爆弾製造過程での小爆発、予期せぬ訪問者、引き裂かれるベルトなど、計画を狂わせるようなエピソードが綴られるたび、緊張感は高まって行く。

 

こうした経緯が「ケイパー映画」の手法で撮られているのが本作のユニークなところだろう。また、計画に参加した8人の素顔や動機がタランティーノ風のフラッシュバックによって、徐々に明かされていく構成も巧みだ。

 

そこから浮かび上がってくるのは、彼らが政府や巨大エネルギー企業によって、家や土地を奪われたり、家族や、はたまた自分の命を脅かされている犠牲者であるということだ。

平和主義的抗議活動も法に頼ることも、災害を停めるには何の役にも立たないと悟った彼らが、過激な手段へと向かっていく切実な思いが胸に迫って来る。彼らは決して極端なイデオロギーの持ち主ではなく、ごく普通の人間なのだ。

 

キャラクターに憑依したような若い俳優陣の魂の籠った演技も相まって、本作は、切迫した環境問題を、観客に直視させることに成功している。

 

本作には終盤にも大きなひねりがあり、そんな点もタランティーノを彷彿させる。

問題があるとすれば映画が面白過ぎることだろう。あまりにも「ケイパー映画」としてよく出来ているせいで、作り手が意識したテーマ性よりもそちらがより印象に残るからだ。

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