2006年に公開され、働く女性のバイブルとして世界的な社会現象を巻き起こした『プラダを着た悪魔』から20年、待望の続編『プラダを着た悪魔2』が公開された。
前作に引き続き、監督のデヴィッド・フランケルと脚本家のアライン・ブロッシュ・マッケンナがタッグを組み、メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチというオリジナルキャストが再集結。同窓会的な楽しさに溢れた本作だが、その再会劇はデジタル化とAI(人工知能)の台頭、そして伝統的な出版文化の弱体という現実に引き寄せられたものだった。
かつての絶対的君臨者ミランダは、今やコスト削減と炎上リスクにさらされ、硬派なジャーナリストへと成長したアンディは、あるきっかけで再び『ランウェイ』の門を叩くことに。
二人の再会が、単なるノスタルジーを超えて、現代社会における「プロフェッショナリズム」の意味を問い直していく。
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目次:
作品基本情報
| 作品名 | プラダを着た悪魔2(仮題:The Devil Wears Prada 2) |
|---|---|
| 監督 | デヴィッド・フランケル |
| 原作 | ローレン・ワイズヴァーガー |
| 脚本 | アライン・ブロッシュ・マッケンナ |
| 衣装 | モリー・ロジャース |
| 出演者 | メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチ ほか |
| 上映時間 | 119分 |
| ジャンル | ドラマ、ファッション、コメディ |
| 製作国 | アメリカ合衆国 |
映画『プラダを着た悪魔2』あらすじ

名門報道機関「ニューヨーク・ヴァンガード」が社員全員を突然解雇したため、フリーとなったジャーナリストのアンディ(アン・ハサウェイ)は、デジタル化の波で存続の危機に瀕しているファッション誌『ランウェイ』を救うため、かつてのボス・ミランダ(メリル・ストリープ)と再び手を組むことに。
20年ぶりに再会したミランダはアンディを覚えていないととぼけ、ナイジェルは依然と変わらず、ミランダを支え続けていた。
ミランダのかつての部下で、アンディの先輩アシスタントだったエミリー(エミリー・ブラント)は今や強大な広告主の幹部として働いていた。
そんな矢先、ランウェイの親会社であるエリアス・クラークのオーナー、アーヴ・ラヴィッツが急死する事態が発生。息子のジェイが跡を継ぐが、彼は、経営コンサルタントを雇い、コスト削減策を提言。このままでは『ランウェイ』の多くの社員がクビになり、雑誌の存続自体も危うくなってしまう。
アンディは「本物の文化の価値」を守り抜くためにエミリーに協力を求めるが・・・。
映画『プラダを着た悪魔2』感想と評価
『ランウェイ』を巡る時代の変化
かつてファッション雑誌『ランウェイ』は世界の流行を支配する絶対的な存在だった。しかし、今ではその権威はデジタルの荒波とAIの津波によって激しく浸食されている。
冒頭、アンディが勤めていた名門報道機関『ニューヨーク・ヴァンガード』が、授賞式の最中にテキストメッセージ一通で全社員を解雇するという衝撃的なシーンが描かれているが、こうしたことは今のジャーナリズムにおいてそれほど珍しい出来事ではないという。
また、かつては「皆が私たちのようになりたがっている」と豪語していたメリル・ストリープ扮するミランダも、本作では「9月号が薄すぎてフロス(糸ようじ)に使えるほどだ」と自虐的に語るほど、プリントメディアの衰退は著しい。この業界の変化は、ツールの進化に留まらず、権力構造そのもののシフトを引き起こしている。かつてはエディトリアル(編集)がブランドを導いていたが、現在では高級ブランドがメディアに対して優位に立ち、広告主が雑誌の存続を左右しているのだ。
キャラクターの軌跡:20年後の成熟と変わらない本質
主要キャラクターたちは、20年の歳月を経てそれぞれ異なる場所で成長を遂げてきたが、その根底にある「プロフェッショナリズムへの執着」は共通している。
この「変わらなさ」と時代による「変化」の絶妙なバランスが、観客に懐かしさと新鮮さを同時に提供する源泉となっている。
メリル・ストリープ演じるミランダは、コンプライアンスや労働環境への厳しい監視、さらにはAIによる自動化という、彼女の流儀とは相容れない現代的な課題に直面している。特に、労働搾取が疑われるブランドを誤って賞賛してしまったことに端を発する炎上騒動は、かつての彼女なら一蹴していたであろう出来事だが、現代においては雑誌の存亡に関わる致命的なスキャンダルとして描かれる。しかし、ミランダの真の魅力は、予算削減のためにエコノミークラスでの移動を余儀なくされたり、運転手を解雇してウーバーを利用するという屈辱的な状況にありながらも、その鋭い観察眼と「That's all.」という冷徹な一言の重みを決して失わないことだ。
アン・ハサウェイ演じるアンディは、本作の冒頭で「受賞歴のある硬派な記者」として登場する 。20年前、第2アシスタントになったばかりの頃の彼女はファッションを「空虚なもの」として軽く見ていたが、現在はその重要性と、それが生み出す経済的・文化的な影響力を深く理解している。彼女が『ランウェイ』で再び働くことに同意したのは、消えゆく「質の高いコンテンツ」を守るためであり、その決断には20年前とは異なる、プロとしての覚悟が宿っている。
アンディとミランダの関係は、かつての「支配と服従」から、一種の「共生関係」へと進化している。この関係性の変化こそが、本作が「懐かしいだけの映画」ではなく「新鮮な映画」と感じさせる最大の要因なのだ。
エミリー・ブラントが演じるエミリーは、最も劇的な変化を遂げたキャラクターと言えるだろう。彼女は『ランウェイ』を去り、今や広告主であるディオールのエグゼクティブとして、かつてのボスであるミランダを脅かす存在となっている。中盤、彼女が見せる野心的な企みは、本作でもっとも緊張感をもたらすものだが、愛すべきコメディリリーフ的役割は今回も引き継がれており、誰も彼女を嫌いにはなれないだろう。
スタンリー・トゥッチ演じるナイジェルは、本作においても「誰もが望むメンター」としての役割を果たしつつ、その内面にはより深い人間味が加えられている。彼は、時代の変化に戸惑うミランダを支えながら、同時にアンディの才能を誰よりも早く見抜いている。彼の存在は、激動の物語の中で変わらない安心感を提供しつつ、ファッションが本来持つ「夢を見る力」を今でも変わらず体現している。
衣装デザインから見るキャラクターの変遷
パトリシア・フィールドから衣装監督を引き継いだモリー・ロジャースは、20年後のキャラクターたちが「何者になったか」を、衣装を通じて描いている。
アンディがナイロンからコートを褒められた際、彼女が「プロボの古着屋で11ドルで見つけたマルジェラ」と答えるシーンは、彼女が高い審美眼を持ちながらも、ブランド名に踊らされない独自の価値観を確立したことを示している。また、アンディが物語の重要な局面で着用するジョルジオ・アルマーニ・プリヴェのジャンプスーツは、彼女が「パワー・エディター」としての地位を確立し、自信に満ち溢れていることを鮮やかに証明している。
一方、ミランダがロンドン・プレミアで着用した赤いサテンのプラダのコートは、彼女が依然としてファッション界の「悪魔」であり続けることを宣言している。ここではファッションそのものが物語を語るのだ。
「美」と「文化」を守り抜くために
効率性や利益率だけを追求する「テック・ブロ(Tech-bro)」的な価値観が広まっている昨今、ジェイ(B.J.ノヴァク)に代表される新世代の経営陣は、雑誌を単なる「コンテンツ」としか見なさず、AIによる自動生成とコスト削減こそが正解だと信じている 。
これに対し、ミランダは「あなたは先見の明があるのではない。単なるベンダー(物売り)だ」という痛烈な一言を浴びせる。数値化できない「価値」を創造してきたプロフェッショナルたちの自負を代弁したセリフだ。
アンディはジャーナリストとして鍛えた腕をいかし、硬派な論説を紙面で展開するが、ミランダから「誰も読んでいない」と毒を吐かれる(とはいえ、彼女はアンディに好きに書かせているのだが)。どの記事がどれくらい読まれたかが一目でわかるデジタル世界において、View数が少ない記事は意味のないものとされがちだ。だが、彼女の記事はボディ・ブローのようにじわじわと影響を与え、『ランウェイ』の評価を緩やかに高めていく。
ルーシー・リュー扮する億万長者のサーシャ・バーンズはこれまでずっと取材を拒否して来たことで知られていたが、アンディ参加後の『ランウェイ』誌を評価し、まさかの取材OKとなる。このことは、例えバズらなくても読んでいる人は読んでいること、人の心を動かすような良い記事を書き続けることの意義深さを示しているのだ。
とはいえ、良い仕事をするだけで生き残れるほど世の中は甘くない。アルゴリズムが支配する世界で、編集者がキュレーションする「美」と「文化」の価値を守り抜くためには、理解のない買い手の買収工作を阻止し、新たな道を見つけるという現実的な作戦が必要だ。
こうして終盤、物語はビジネス・スリラーとして加速度を増していく。アンディは自らのキャリアをかけて『ランウェイ』を救うために奔走する。それは自分自身のアイデンティティと価値観を失わないための闘いでもあるのだ。
まとめ:
AIの台頭によって自身の存在意義を問われている現代、本作が提示するのは、「自分を安売りしない」、「変化に適応しながらも本質を守る」というメッセージだ。
アンディが最後に見せる晴れやかな表情は、自分の価値観を信じて荒波を乗り越えた者だけが得られる「真の爽快感」を表している。ミランダという「旧時代の象徴」とアンディという「現代の理性」が手を組むことで、伝統は守られ、同時に革新がもたらされるのだ。
困難な渦中、自身の「引き際」まで考えたミランダが、アンディに向かって「仕事が好きなのよ」と独白するシーンは、まさにこのシリーズの魅力を凝縮している。彼女たちは仕事が大好きなのだ。「お仕事映画」としての真髄がここにある。
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