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【NHK BSP4K放映】ヒッチコック映画『ハリーの災難』——世界一美しい風景で描かれる、世界一不謹慎な大騒動

ヒッチコックが描く極上のブラックユーモア。4Kで味わう『ハリーの災難』の不条理な魅力を探る

 

アルフレッド・ヒッチコックといえば「サスペンスの神様」だが、その真骨頂は恐怖と隣り合わせに存在する「ユーモア」にある。本作『ハリーの災難』は、そのユーモアの側面をストレートに、かつブラックに描き出した異色作だ。

 

本稿では、美しい紅葉が4K放送でどのように映えるのか、そして死体を巡る人々の呆れるほど無頓着で愛すべき振る舞いについて、見どころを紐解いていく。

 

映画『ハリーの災難』は、NHK BSP4K にて2026年1月31日(土)午後9:00~より放映(終了時間:午後10:41)。

 

目次

 

映画『ハリーの災難』4K 作品情報

邦題:ハリーの災難

原題:The Trouble with Harry

ジャンル:ミステリー/コメディー

監督:アルフレッド・ヒッチコック

脚本:ジョン・マイケル・ヘイズ

撮影:ロバート・バークス

音楽:バーナード・ハーマン

製作国:アメリカ

製作年:1955年

上映時間:99分

配信プラットフォーム:U-NEXT

キャスト:ジョン・フォーサイス、シャーリー・マクレーン、エドマンド・グウェン、ロイヤル・ダノ、ミルドレッド・ナトウィック

 

映画『ハリーの災難』あらすじ/死体を巡る、埋めては掘っての「てんやわんや」

ハリーの災難 映画 画像

(C)1955 Samuel Traylor and Patricia Hitchcocke O'Connell as Co-Trustees.All Rights Reserved.

物語の舞台は、ニューイングランド・バーモント州の美しい丘陵地帯。のどかな風景の中に、身なりのいい男「ハリー」の死体が転がっているのが見つかる。

 

第一発見者の少年から始まり、次々と村人が通りかかるが、死体に驚く人は誰一人としていない。それどころか、元船長のワイルズは「自分の誤射のせいだ」と思い込み、人目を忍んで死体を埋めようと画策する。

 

ところが、それぞれの事情や勘違いから、死体は何度も埋められては掘り返されることに……。犯人は誰なのか?という謎を置き去りにしたまま、事態はブラックユーモアたっぷりの大騒動へと発展していく。

 

映画『ハリーの災難』4K感想と評価

(C)1955 Samuel Traylor and Patricia Hitchcocke O'Connell as Co-Trustees.All Rights Reserved.
「死体」という名のマクガフィン

著名なイラストレーター、ソール・スタインバーグがデザインしたメインタイトルのあと、ニューイングランド、バーモント州の丘陵地帯の美しい風景が映し出される。

 

ところがその丘陵の一角に身なりのいい男の死体が転がっていた。まず外でひとり遊んでいた男の子が死体をみつけ、あわてて丘を駆け降りて行く。そのあとも次から次へと人々が通りかかり死体をみつけるが、本当にことの重大さをわかっていたのは最初の少年だけ。あとの人々は死体を観ても驚かず、呆れるほど無頓着な態度を見せる。

 

少年に連れられてきた母親ジェニファー(シャーリー・マクレーン)は死体を見るや「ハリー」と叫び、私たちは死体の名前を知ることになる。だが、母親はそのまま息子を連れて平然と帰ってしまう。

 

うさぎ狩りに来た元船長のアルバート・ワイルズ(エドマンド・グウェン)は、自分の弾があたったせいだと思い、一度は売れない画家のサム・マーロウ(ジョン・フォーサイス)に手伝ってもらい、死体を埋めるが、すぐに自分が三回撃った弾は空き缶、看板、ウサギに当たったことがわかり、死体を確かめるためにあわてて掘り返す。この死体の処置を巡って、村の人々のそれぞれの都合が重なり、埋めたり掘ったりが繰り返されるという、てんやわんやの騒ぎへと物語は展開していく。

 

本作において、死体であるハリーは、ヒッチコック映画ではお馴染みの「マクガフィン」と言えるだろう。つまり、この異常な事態を人々がどのように対処するのかというストーリーを導くための狂言回しのようなものだ。

 

登場人物たちは皆、彼の死は自分のせいだと思い込み、様々な方法で隠蔽工作を試みる。その茶番劇がブラックユーモアたっぷりに描かれていく。

 

ウィットに富んだ脚本の妙

ヒッチコックはサスペンス、スリラー映画の神様として知られているが、実は彼の作品には常にユーモアが表裏一体となって存在している。本作はイギリスの作家ジャック・トレバー・ストーリーの原作を『裏窓』や『泥棒成金』などの作品でウィットに富んだ台詞を数多く書いて来た名脚本家ジョン・マイケル・ヘイズが脚色した、ヒッチコック作品には珍しいストレートなコメディ作品なのだ。

 

とはいえ、サスペンスの要素がまったくないわけではない。本作には保安官のカルヴィン・ウィッグス(ロイヤル・ダノ)という原作にはなかった人物が登場する。こんな田舎だとほとんど犯罪もなさそうなものだが、この男、なかなか嗅覚が鋭く、機転も利くようだ。

 

保安官の存在は物語に心地よい緊張感を与え、「死体の存在がバレるのでは?」とハラハラさせてくれる。

そもそも、ハリーを殺したのは誰なのかという根本的な疑問も常につきまとっている。

また、ジェニファーの部屋のあるドアが何度もゆっくりと開くのは一体なんなのか。そのたびにワイルズが大慌てするのが実に可笑しい。

 

殺伐とした状況で芽生える「二つの恋」

この奇妙な物語を支えているのは、実は心温まるラブストーリーの側面だ。

ミス・グレイブリー(ミルドレッド・ナトウィック)は、丘の上で死体の両足を持って立っているワイルズとばったり出会い、「どうしたんですか、大尉?」と一向に慌てずに尋ねる。それどころか、彼女はすぐにワイルズを自宅に誘い、お茶とマフィンをごちそうすると言う。

このシチュエーションでお茶に?という疑惑がだれにも湧き上がるだろう。この女性は『裏窓』に登場するミス・ロンリーのような非常に孤独な人物なのだろうか、そしてその誘いに乗る元船長は何か下心があるのだろうか、と不信に思う。ところが、物語が進むに連れ、疑問が解け、二人が素敵なカップルのように見えて来るのだ。

 

ジェニファーとマーロウの若いカップルも負けてはいない。マーロウは、絵が億万長者に売れたにも拘わらず、現金を要求せず、彼女や、ワイルズやミス・グレイブリー、絵を置いてくれている雑貨屋の店主などに声をかけ、彼女たちが欲しがるものを現物で届けるように伝える。

ジェニファーが欲しがったのは「いちご」だ。欲深い世俗とは無縁のマーロウの決断と行動、そして皆のそれぞれのささやかな願いは不思議な爽快感さえ呼ぶのである。

 

4Kでこそ堪能したい、執念の「紅葉」美

本作の見どころの一つは、何といっても全編を彩る紅葉の景色だろう。

実は撮影時、天候不良でロケが難航したため、スタッフが大量の紅葉を持ち帰り、スタジオの木々に一枚一枚貼り付けて撮影したという驚きのエピソードがある。

 

全体の半分がスタジオ撮影とは思えないほど、テクニカラーとビスタビジョンで切り取られた風景は鮮やかに輝き、かつ素朴な温かみを感じさせる。

4K放送では、その一枚一枚の葉の輝きが、この「現代のおとぎ話」をより一層幻想的に引き立ててくれることだろう。

 

【まとめ解説】『ハリーの災難』を100倍楽しむための3つのポイント

1. 本作が「ヒッチコックの個人的なお気に入り」だった理由

サスペンスの巨匠として君臨していたヒッチコックにとって、本作は興行的な成功以上に「自らの趣味を存分に投影した」愛着の深い作品だった。

映画の舞台はアメリカだが、原作はイギリス人作家によるもので、英国を舞台にしている。もともとロンドン出身のヒッチコックは、「死」を茶化すような英国特有の乾いたユーモアを好んでいた。あまりに淡々と死体を扱う村人たちの姿は、彼の理想とする「洗練された悪ふざけ」だった。

 

2.音楽の盟友バーナード・ハーマンとの出会い

 後に『めまい』や『サイコ』など多くのヒッチコック作品で伝説的なスコアを書くことになる作曲家バーナード・ハーマンと初めてタッグを組んだのが本作だ。ハリーを埋めたり掘ったりするドタバタに合わせた、コミカルで少し不気味な音楽にも注目してほしい。

 

3. シャーリー・マクレーン、伝説のデビュー

ジェニファー役のシャーリー・マクレーンは本作で銀幕デビューを飾った。

当時、ブロードウェイの舞台『パジャマ・ゲーム』で主役の代役を務めていた彼女を、たまたま観劇していたプロデューサーが発見。そのショートカットの愛くるしさと、どこか掴みどころのない独特な雰囲気が、ヒッチコックの求める「死体を見ても動じない不思議な女性」に合致した。

ヒッチコックも彼女を気に入り、「新しい個性の誕生」として大々的に売り出した。彼女のその後の活躍は言うまでもない。


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