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映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』あらすじ・レビュー/グレタ・ガーウィグ監督が19世紀の古典を全く新しい表現で蘇らせる

グレタ・ガーウィグ監督の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)を徹底批評。19世紀の古典が、なぜ現代の女性たちのバイブルとなるのか。巧みな時間軸の構成や、ジョーが追求した「経済的自立」というテーマから、本作が持つ革新的な精神を読み解く。

 

ルイーザ・メイ・オルコットの不朽の名作『若草物語』を、グレタ・ガーウィグが鮮やかに再構築した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。幾度となく映画化されてきたこの物語が、なぜ今、これほどまでに私たちの心を激しく揺さぶるのだろうか。

本作には、現代を生きる私たちが直面する「自立と経済」「キャリアと結婚」という、極めて切実な問いが刻まれている。時系列を大胆に入れ替えた演出や、ジョーの作家としての魂に焦点を当てた結末から、古典が「現代のバイブル」へと進化した理由を紐解いていきたい。

 

映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は、2026年1月13日、NHKBSプレミアムシネマにて放映(午後1:00~午後3:16)。

 

目次

 

映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』作品基本情報

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 映画 画像

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

邦題:ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

原題:Little Women

ジャンル: 青春ドラマ

監督・脚本:グレタ・ガーゥイグ

原作:ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』

撮影:ヨリック・ル・ソー

衣装:ジャクリーン・デュラン

製作国:アメリカ

製作年:2019年

上映時間:135分

配信プラットフォーム:U-NEXT、Amazonプライムビデオ、Hulu

キャスト:シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーン、ティモシー・シャラメ、メリル・ストリープ、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ジェームズ・ノートン

:第92回アカデミー賞(2020) 衣装デザイン賞   (ジャクリーン・デュラン)

 

映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』あらすじ

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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

19世紀のマサチューセッツ州。しっかり者の長女メグ、作家を目指す熱血次女ジョー、優しくて病弱な三女ベス、芸術家肌でお転婆な末っ子エイミー。

南北戦争で父が従軍牧師として不在の中、母マーミーと力を合わせて貧しくも温かい日々を送る姉妹たち。

 

隣の屋敷の孫息子ローリーとも仲良くなり、皆がそれぞれの夢を抱えながら大人になっていく。物語は過去と現在を行き来しながら進む。ジョーは小説家になって経済的にも自立したいと考えており、生涯、結婚はしないとつもりだった。そのため、朋友のローリーのプロポーズを断ってしまう。一方メグは愛を選んで貧しい結婚をし、エイミーは才能と現実の間で揺れながら伯母と共にヨーロッパへ旅立つ。ベスは猩紅熱にかかって以来、病弱となり、ついに体を壊してしまう。

 

女性が自由に生きることが難しい時代に、姉妹たちはそれぞれの形で自分らしい幸せを探していく姿が鮮やかに描かれる。

 

公式予告編はこちら

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映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』感想と評価

古典に吹き込まれた現代の息吹

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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』は、アメリカ文学を代表する古典小説の一つで、時を超えて多くの人々に愛読されて来た不朽の名作だ。

ドラマや映画などこれまで幾度となく映像化されてきたが、グレタ・ガーウィグ監督の手によって生まれた『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』ほど、古典の持つ普遍性と現代的な切実さを鮮やかに融合させた作品はないだろう。

 

19世紀半ばのマサチューセッツ州を舞台にしながらも、本作が放つ輝きは驚くほどに今日的だ。ガーウィグは、当時のノスタルジックな暖かさを表現しながらも、単なる懐古的な時代劇に留まることなく、原作に流れる革命的な精神を、現代の観客に向けてさらに力強く解き放っている。

 

映画は、ジョー・マーチ(シアーシャ・ローナン)がニューヨークに下宿して執筆に励み、雑誌の編集部に原稿を持ち込み、採用されて、歓喜の表情で街を駆け抜けるそんな「現在」から幕を開ける。軽やかな横移動が、観る者を引き付け、心躍らせる。

その頃、エイミー(フローレンス・ピュー)はマーチ伯母さんに気に入られ、伯母さんの同行者としてパリで美術の勉強に勤しみ、メグ(エマ・ワトソン)は結婚し二児をもうけていた。ベス(エリザ・スカンレン)は病気で床に臥せていた。ジョーもまた、つかの間の成功のあと、同じ下宿のベア先生(ルイ・ガレル)から作品を酷評され、傷ついて故郷に舞い戻る羽目になる。

 

本作で最も大胆な試みは、時間軸を解体して物語を進めていることだろう。物語は彼女たちの「現在」から始まり、少女時代の屈託のない輝かしい日々の出来事は、回想として差し挟まれる形で描かれる。

黄金色の光に包まれたあたたかな「過去」と、寒色に彩られた「現在」。それらを何度も行き来することでかつての無邪気な葛藤や喜びがより一層切ない郷愁を伴って胸に迫り、また、青春の葛藤を直視すれば、彼女たちの未来に一層寄り添えるように感じられる。

本作の成功の要因はいくつも上げられるが、その中でも時間軸をずらしていくというこの大胆な試みが、大きな要因の一つであることは間違いない。

 

「愛」と「お金」のリアル——150年前から続く自立への問い

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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

本作は「女性の独立」と、それを支える「経済」というテーマに正面から切り込んでいる。ジョーは自らのペンで生計を立てたいという情熱を持っており、生涯結婚はしないと言い続ける。だが、メリル・ストリープ演じるマーチおばさんが「有利な結婚の必要性」を常々解くように、当時、結婚は女性が生き抜くための唯一の現実的選択だった。女性が仕事を持とうと思っても、持てなかった時代。ジョーですら、原稿を出版社に持ち込むときに、友人に頼まれたという口実を設けなくてはならなかったくらいだ。

 

選択肢の少ない、なんとももどかしくも厳しい環境で、姉妹はそれぞれの進む道を見つけて行く。メグが選んだささやかな結婚生活も、ジョーが渇望する自由も、そしてエイミーがパリで自分自身を見つめ直すことも、すべては社会が課した限界の中でいかに自分らしく繁栄するかという問いに繋がっている。

 

奇跡的なキャストが紡ぐ、姉妹たちの圧倒的な躍動感

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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

キャスト陣のアンサンブルもまた、奇跡的な完成度を誇っている。ジョー・マーチは、世界中の多くの少女たちが共感し、自身を投影して来たキャラクターで、シアーシャ・ローナンはそんなジョーを、情熱的で激しく傷つきやすい一方で、頑固で短気な女性としてパワフルに演じている。

 

姉妹役のエマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレンも適役で、四人がそろった時の躍動感はまるで本物の姉妹のような親密さを醸し出している。そこに母親役のローラ・ダーンの包容力とローリー役のティモシー・シャラメの繊細な存在感が加わることで、物語は立体的な豊かさを手に入れた。

ティモシー・シャラメはこれ以上ローリー役に相応しい人はいないと言えるほどのはまり役で、飛び切り気の合うジョーと双子のように戯れる姿はまぶしいばかりだ。彼も青年期を迎えると、祖父の期待に応えられないと悩む姿を見せている。ガーウィグは、このように登場人物ひとりひとりを多面的に描き、物語に深い奥行きをもたらしている。

 

作家ジョーの「誕生」に込めた、原作者オルコットへの深い敬意

ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語

物語の結末において、ガーウィグ監督はルイーザ・メイ・オルコットへ最大級の敬意を表している。かつてオルコットが編集者の意向で妥協せざるを得なかった女性主人公の「結婚」という結末に対し、本作は「本という名の我が子の誕生」の過程を丁寧に描き出してみせるのだ。

センセーショナルな通俗小説だけでなく、本当に書きたいものを書いて作家となったジョーが瞳を輝かせ、印刷機から生まれてくる自著を見守るシーンは、本作における最も美しいクライマックスで、そのメタ的な構造が面白い。それらはまた、ハリウッドで女性作家として生きるガーウィグ自身の苦悩や情熱とも重なり合うものだろう。

 

ジョーは劇中、自身の書く物語を「小説の素材としては小さすぎる」と評するが、日常として描かれたものの中にも社会は存在する。個人の問題は社会の問題であり、個人の生活は政治と結びつくからだ。姉妹たちの生活の中にも経済格差、貧困、戦争が見えるように、社会と結びつかない個人はない。

 

身の回りの小さな世界を生き生きと描き、また、そこから大きな世界を覗くことも出来る。名作とはそういうものではないだろうか。

 

自らの価値を曲げず、自らの物語を生き抜こうとするジョーの姿は、今を生きるすべての人への力強いエールとなるに違いない。

 

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