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映画『愛はステロイド』(Love Lies Bleeding)あらすじと解説/A24が贈るクリステン・スチュワート主演の異色のラブサスペンス

映画『愛はステロイド』(原題:Love Lies Bleeding)は、 A24 製作の最新クライム・サスペンス だ。監督を務めたのは長編映画デビュー作『セイント・モード 狂信』(2019)で知られる新鋭ローズ・グラス、主演には『トワイライト』シリーズや『パーソナル・ショッパー』(2016)、『スペンサー ダイアナの決意』(2021)で知られる クリステン・スチュワート が抜擢された。


物語は、アメリカ南西部の乾いた砂漠地帯を舞台に、ボディビル、ステロイド、暴力、そして燃え上がる愛が交錯する異色のスリラーとして描かれる。

 

トレーニングジムで働くルーは、ラスベガスで開催される大会に出場するためヒッチハイクで旅をしているボディビルダー、ジャッキーと出会い、激しい恋に落ちる。しかし、ルーの父が牛耳る犯罪組織や、夫からDVを受ける姉の存在が二人の愛を暴力と混沌の渦に引きずり込んで行く。

 

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クリステン・スチュワートが主人公のルーを演じているほか、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)などのケイティ・オブライアンがジャッキーを、エド・ハリスがルーの父親を演じ、ジェナ・マローン、アンナ・バリシニコフら個性的俳優が脇を固めている。

また、Netflixのミニシリーズ『私のトナカイちゃん』(2024)の監督を務めたベロニカ・トフィウスカが共同脚本として参加している。

 

目次

 

映画『愛はステロイド』作品情報

(C)2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

2024年製作/104分/R15+/イギリス・アメリカ合作映画/原題:Love Lies Bleeding

監督:ローズ・グラス 製作:アンドレア・コーンウェル、オリバー・カスマン 製作総指揮:スーザン・カー、オリー・マッデン、ダニエル・バトセック、デビッド・キンバンギ 脚本:ローズ・グラス、ベロニカ・トフィウスカ 撮影:ベン・フォーデスマン 美術:ケイティ・ヒックマン 衣装:オルガ・ミル 編集:マーク・タウンズ 音楽:クリント・マンセル 音楽監修:サイモン・アストール

出演:クリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、ジェナ・マローン、アンナ・バリシニコフ、デイブ・フランコ、エド・ハリス

 

映画『愛はステロイド』あらすじ

(C)2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

1989年のニューメキシコ州。ルーは父が経営しているトレーニングジムのマネージャーとして働いている。今夜も大勢の客で賑わっているが、彼女の勤務態度はぶっきらぼうだ。

ルーはこの街を一度も出たことがない。彼女がこの街に留まっているのは、彼女の姉を、姉の暴力的な夫から守るためだった。

 

ある日、放浪ボディビルダーのジャッキーがこの街にやって来る。ジャッキーはダッフルバッグひとつ抱えてオクラホマ州から、ラスベガスの大会に向けてヒッチハイクでここまでやってきたのだ。

 

彼女は大会の参加費を稼ぐため、街の男と関係を持ち、射撃場に併設のレストランのウェイトレスのアルバイトを紹介してもらう。

 

夜になってジムにやって来たジャッキーを見て、ルーはたちまち彼女に恋をする。二人はすぐに恋人同士になり、ルーは泊る場所のないジャッキーを自分の家に招き入れた。大会で優勝したら、海辺の家で暮らしたいと夢を語るジャッキーの姿を見て、ルーは競技で有利になるようにと、彼女にステロイドを与えた。ルーの人生はジャッキーという恋人を得たことで一変する。

 

ルーにとって気がかりなのはジャッキーが射撃場で働いていることだ。射撃場もルーの父親が経営しているのだ。ルーの父親は国境を越えた武器密輸を営む極悪人で、この街の影の支配者だった。

 

ある日、ルーはジャッキーを連れて、姉夫婦と共にレストランで食事をとるが、姉が夫からひどい仕打ちを受けるのを見て、彼に抗議する。そこで、彼がジャッキーと寝てアルバイトを紹介したことを知らされ、愕然となる。

 

そのことでルーはジャッキーに詰め寄るが、ジャッキーはひどく恐縮しながら、男性も女性もどちらも好きなのだと語り、ルーを呆れさせる。

 

それからまもなく、姉が夫から壮絶なDVを受け、意識不明だという報せが入る。ルーが怒り、悲しむ姿を見たジャッキーはひとり、姉夫婦の家へ出かけて行き、DV夫の頭を机に何度も叩きつけて彼を殺してしまう・・・。

 

映画『愛はステロイド』感想と考察

(C)2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

映画「愛はステロイド」は、アメリカ南西部の乾ききった砂漠の町を舞台に、人間の欲望と中毒の構造を鮮烈に描き出した作品だ。

倉庫のような場所に設けられた巨大なジムや大型ピックアップトラック、そして当たり前のように転がる銃器といった「ロードサイドに広がるアメリカ的風景」を背景に、そこで暮らす人々の荒んだ生活が映し出されていく。ローズ・グラス監督は、この風景を単なる舞台設定としてではなく、作品の根幹を支える文化的記号として徹底的に描き込んでいる。

 

ジムの壁には「強さ」を説くポスターがあちこちに貼られているのだが、本作で問われる「強さ」とは、単に筋肉や武力に裏打ちされた力を指すのではない。それは、欲望や依存、そして腐敗へと人間を導く危険な中毒性と表裏一体なのだ。ローズ・グラス監督は、血、汗、嘔吐物を画面に頻出させ、ほとんどフェティッシュな視線で、人間が自らの肉体を極限に追い込む様をリアルに捉えている

 

物語の中心になるのは、ルーとジャッキーの激しく燃え上がる関係だ。ボディビルの大会に出場するためラスベガスを目指し旅しているジャッキーがこの街に流れて来る。彼女はルーのジムでトレーニングを始め、ルーはすぐにジャッキーの美しさと輝きに魅了される。二人はすぐに恋仲となり、レズビアン・ロマンスが大胆に描かれていく。

 

そんな二人の愛に冷酷な影を落とすのが、ルーの父ルー・シニア(エド・ハリス)の存在だ。町を非公式に支配する彼は、家族さえも己の支配の道具として巧みに利用する。愛や忠誠を装いながら、実際には人間を欲望の回路に閉じ込める構造が描かれるが、それらは現代社会における権力の在り方と不気味に重なって見える。

 

時代の閉塞感と父親による支配で出口となる外部を失っているルーにとって、ジャッキーの自由さは人生における光明でもあっただろう。だが、ジャッキーが愛のためにとった行動のせいで、ジャッキーもまた、ルーの家族に取り込まれていく。

 

ジャッキーとルーが殺人を隠蔽するために死体を崖下に落とそうとするシークエンスは、ジェームズ・M・ケインの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(ルキノ・ヴィスコンティ作品をはじめ、何度も映画化されている)を想起させるが、『郵便配達~』の最初は打算的に見えた恋人同士が次第にピュアな姿を見せて行くのに対して、『愛はステロイド』では、登場人物たちは、驚くほど衝動的かつ情熱的だ。その様子の一端がジャッキーのステロイド中毒という形で表現されている。ジャッキーの肉体の鼓動を伝える生々しい響きが、我々、観客の感覚を麻痺させ、中毒的な生の実態を追体験させ、不安を誘う。だが、彼女たちはその不安さも乗り越えて行く。

 

古典的な犯罪小説の骨格を踏襲しつつ、それを現代的なフェティッシュと荒々しい美学で塗り替えることで、作品は新たな犯罪映画の様式を切り拓いている。クライマックスの思いもよらぬ光景には、滑稽さと超越性が共存している。この大胆さと楽観性こそが「愛はステロイド」を特異な位置に押し上げている理由だろう。

 

ルーは煙草に執着し、一度は禁煙に成功するものの、結局、最後にはまたそれに手を出しているし、ジャッキーのステロイド中毒については既に言及した。そしてここでは「愛」もまた、煙草やステロイドと同じように中毒性を持ち、歓びと哀しみをもたらす、やめるにやめられないものとして再定義されるのである。

 

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