「第1回 日本モンゴル映画祭」が絶賛開催中だ。2025年3月22日(土)より新宿Kʼs cinemaにてスタートした本映画祭は、3月29日(土)より会場を横浜シネマリンに移して開催。これまであまり観る機会のなかった多種多様なモンゴル映画が上映されている。期間中は、監督・キャストをはじめ上映作品の関係者が来場、トークショーなどのイベントも予定されている。
「第1回 日本モンゴル映画祭」とは?
首都・ウランバートルを中心に刺激的なカルチャーが日々生まれ続けているモンゴル。映画においても多彩なテーマ・ジャンルの作品が数多く制作されている。
「第1回 日本モンゴル映画祭」では、「映画という人々の文化・生活を伝えるメディアを通じて、日本とモンゴルそれぞれで生きる観客・作り手の相互交流を橋渡しする」という目的のもと、多種多様なモンゴル映画を一挙上映。大草原の雄大な風景と遊牧民の人々の心を美しく描いた作品はもちろん、様々な個性あふれる作品を選出。日本の観客にモンゴル映画の魅力を再認識させ、新たな魅力との出会いをもたらすラインナップが揃った。
開催がスタートした3月22日(土)には、映画祭オープニング作品として『ハーヴェスト・ムーン』が新宿Kʼs cinemaにて上映された。モンゴル人俳優として初のハリウッド進出&Netflixオリジナル作品(ドラマ『マルコポーロ』のフビライ・ハンの弟役)出演を果たした俳優アムラ・バルジンヤムの初監督作だ。さらに、彼が脚本・出演を務めた柳楽優弥主演作『ターコイズの空の下で』も上映され、上映後には舞台あいさつが行われた。
このたび、初日舞台あいさつの模様を届ける公式リポートが到着した。
新宿Kʼs cinema「第一回 日本モンゴル映画祭」 初日舞台挨拶レポート
『ハーヴェスト・ムーン』の上映後、登壇したアムラ・バルジンヤムは、自身が初めて監督を務めた理由について、作り手それぞれが異なるストーリーテリングの手法を持つ中で、本作にピッタリな手法で映画制作を続けている監督を探したが、自分が思い描く手法は自分にしかできないと思い、監督を担うに至ったとコメント。
続けて英題の意味を聞かれると、「ムーン(月)」は女性を意味しており、アムラが演じる主人公トルガも彼が故郷で出会う少年トントゥーレイも、それぞれに異なる女性を思い続けていると言及。そして、モンゴル国内には現時点で約9万世帯の母子家庭と約2万世帯の父子家庭が存在し、さらに両親の出稼ぎや都市部への進学、あるいは死別や貧困などの様々な理由から、トントゥーレイのように両親と一緒に生活できない子供が20万人近く存在することを説明。そうした子供たちの多くが、生活面でも精神面でも他の子より早く「大人」になることを強いられるという現実を、国内外の大人たちにこそ知ってほしいという思いから同作を企画したと明かした。
また作中で都市と地方の関係性を描いたのも「モンゴルは世界でも18番目に国土面積が広い国なのに対し、人口は約348万人と少なく、その半数が都市ウランバートルで生活している」というモンゴルにおける地域での人口格差の課題が背景にあると解説した。
最後に、アムラは「経済的に厳しい環境にある子供たちが、他の子よりも早く『大人』になるように強いられる」という状況は、モンゴルのみならず世界各地が抱える問題であり、映画を観た感動と共に抱く「子供たちを取り巻く問題を解決したい」という思いによって、モンゴル人・日本人をはじめ多くの人々が分かり合えることを願っていると語った。
続けて上映されたアムラの脚本・出演作『ターコイズの空の下で』の舞台挨拶では、同作プロデューサーであり「第1回 日本モンゴル映画祭」代表の木滝和幸の司会のもと、再びアムラが登壇。同作の脚本執筆・出演の経緯について、アムラはモンゴル人・日本人の間にある“長き物語”の存在をはじめに挙げた。
第二次世界大戦の終戦後、当時モンゴルにいた日本人の約1万2千人が捕虜として抑留され、モンゴル国内の交通の要となる大橋や公共施設などの工事に従事したが、中には厳しい寒さや病気によって亡くなった者も少なくなかった。亡くなった者たちの遺骨はモンゴル国内の墓地に葬られたが、のちに日本へと引き取られたことで死者たちはようやく祖国へ帰還できたという。
一方、モンゴルが社会主義政権時代を経て、1980年の最後に民主化へ至った直後には、国内経済は低迷し重大な食糧難の時代が訪れた。その際、日本は牛乳などの食料物資やヒーターなどの暖房器具、バスの寄贈などの支援を行ってくれたことから、モンゴル人として「かつての戦争や悲しみの歴史を観る者に伝えながらも、“愛”によってモンゴルと日本をつなぐ映画」を制作できないかと思い至り、のちに出会ったKENTARO監督と企画を練っていったと明かした。
共演した主演の柳楽優弥については、俳優としての魅力あふれる才能・実力のみならず、モンゴルという国の生活・文化に深く興味を持って撮影期間を過ごしてくれたことが何よりも嬉しかったと語り、フレンドリーな空気を常に醸し出してくれたことが撮影現場を支えてくれていたとコメント。
そして『ターコイズの空の下で』のキャスティング・スタッフィングにあたって、柳楽やベテラン俳優の麿赤兒をはじめ、様々な国の優れたキャスト・スタッフで制作を進められたのは、交渉を担当してくれた木滝プロデューサーのおかげだったと、彼への感謝の言葉で舞台挨拶を締めくくった。
「第1回 日本モンゴル映画祭」今後の舞台挨拶情報
【横浜シネマリン/2025年3月29日(土)~4月11日(金)】
3月29日(土)
・『ホワイト・フラッグ』11時45分~上映後(上映終了:13時21分)
登壇ゲスト:バトバヤル・チョグサム監督
4月7日(月)
・『ターコイズの空の下で』13時15分~上映後(上映終了:14時55分)
登壇ゲスト:KENTARO監督
4月11日(金)
・『ターコイズの空の下で』15時00分~上映後(上映終了:16時40分)
登壇ゲスト:KENTARO監督
*登壇ゲストのご都合等による変更・中止の可能性がございます。予めご了承ください。
*最新の舞台挨拶情報の詳細は、映画祭公式SNS・各劇場公式SNSにてお確か目ください。
「第1回 日本モンゴル映画祭」全上映作品
【オープニング作品/ジャパン・プレミア】
『ハーヴェスト・ムーン』
(2022/モンゴル/90分/英題:Harvest Moon)
第41回バンクーバー国際映画祭 ヴァンガード部門 観客賞
【キャスト】
アムラ・バルジンヤム、テヌーンエルデネ・ガラムハンド、ダムディン・ソブド、ダワーサンバ・シャラヴ、ツェレンダリザヴ・ダシニャム
【スタッフ】
監督:アムラ・バルジンヤム 脚本:アムラ・バルジンヤム、バヤルサイハン・バトスフ、T. ブムエルデン プロデューサー:ウラン・サインビレグ
【作品概要・あらすじ】
レストランで働く青年トルガは、草原で暮らす養父の体調が悪いという知らせを受け、すべてを捨てて故郷へ向かう。トルガは父親の死後も街には帰らず、父が行うはずだった収穫の仕事を自分がやると決めた。
そこでトルガが出会った10歳の少年トントゥーレイは、シングルマザーの母親が街で働く間、祖父母とともに暮らしていた。年齢差を超えて、互いの心の内に秘めた感情に触れあううち、それぞれに新たな変化が芽生えて……。
【ジャパン・プレミア】
『獄舎Z』
(2024/モンゴル/83分/英題:Z Zone)
第24回高雄映画祭 正式出品
【キャスト】
プレブジャルガル・エルデネビレグ、ビルグーン・チュルーンドルジ 、バザラグチャー・ビャンバジャヴ、ビャンバスレン・ブムバヤル、ツェングーン・チンギス
【スタッフ】
監督:ビルグーン・チュルーンドルジ 脚本:プレブジャルガル・エルデネビレグ、ビルグーン・チュルーンドルジ、バザラグチャー・ビャンバジャヴ プロデューサー:ツァルス・フーフディン・ズスラン、ハク・メディア、トレンド・アーティスト
【作品概要・あらすじ】
更生のため、街から遠く離れた労働収容所に連れてこられた非行少年グループ。ここで厳しい罰を受けることになるかと思いきや、謎の闇の世界へ放りこまれ……。
閉鎖空間で自由と生き残りを賭け、影に潜む邪悪な勢力と戦わなければならなくなった若者たち。刻々と残り時間は減り、山中どこへ行っても危険地帯だらけ! 果たして彼らは魔の手から逃れ、暗闇から光の中へ脱することができるのか!? 極寒のモンゴルを舞台にゾンビたちが暴れ出す!
『シティ・オブ・ウインド』
(2023/フランス・モンゴル・ポルトガル・オランダ・ドイツ・カタール/103分/英題:City of Wind)
ベネチア国際映画祭 オリゾンティ部門 最優秀男優賞、第96回アカデミー賞 国際長編映画賞 モンゴル代表、大阪アジアン映画祭 グランプリ(最優秀作品賞)
【キャスト】
テルゲル・ボルドエルデネ、ノミンエルデネ・アリウンビヤンバ 、アヌ・ウジン・ツェルマー 、ブルガン・チュルーンバト、ガンゾリグ・ツェツェゲー
【スタッフ】
監督・脚本:ラグワドォラム・プレブオチル プロデューサー:カティア・ハザック、シャーロット・ヴィンセント
【作品概要・あらすじ】
高校卒業を控えた17歳のゼは内気な青年。学校で勉学に励む一方、困っている人を助けるために儀礼を行うシャーマンの役目も果たしていた。そんな彼はある日、心臓に持病を抱える少女マララのために儀礼を行うことに。
突然出会った二人は惹かれあい、やがて恋に落ちる。好奇心旺盛なマララに刺激を受け、色鮮やかに輝き出したかのような日常だったが、シャーマンとしての使命を背負う彼の心に新たな葛藤が生まれて……。
【インターナショナル・プレミア】
『トレジャー・アイランド』
(2024/モンゴル/108分/英題:Treasure island)
【キャスト】
ナランムンフ・マグサルジャブ、フンツェングーン・バトトルガ、ツェレンボルド・ツェグミド、バトニャムブー・エンフタイヴァン、エネレル・トゥメン、ジャンチヴ・ガンゾリグ、エルヘムバヤル・ガンボルド
【スタッフ】
監督:ツェグメド・オルゴドル 脚本:アンフジャルガル・エンフタイヴァン プロデューサー:ゾルザヤ・バトバヤル
【作品概要・あらすじ】
物売りたちが集まる青空市場の他に行き場のない孤児のガルトだったが、ある日強盗団のメンバーに遭遇し、彼らから任務を言い渡されることになった。訪れた先で待ち受けていたのは、手を縛られ監禁されていた魅惑的な女性ウヤンガだった。強気な彼女に手を差し伸べるうち、ガルトの人生は想像とは異なる方向へ進んでいくことに……。人の優しさと愛情、醜さと裏切り。モンゴル社会の両面性を描き、そこで翻弄されていく若者たちの物語。
【ジャパン・プレミア】
『ホワイト・フラッグ』
(2023/モンゴル・日本・スイス/96分/英題:White Flag)
アジアン・フィルム・フェスティバル・バルセロナディスカバリーズ部門 スペシャル・メンション
【キャスト】
エルデネツェツェグ・エンフバヤル、オルトナサン・エルデネバヤル 、サンダンプレブ・オユンサンボー、ナラントール・タイヴァン
【スタッフ】
監督・脚本:バトバヤル・チョグサム プロデューサー:安藤光造、バトバヤル・チョグサム、ダニエル・ハッサー
【作品概要・あらすじ】
都会の刑事ゾリグは、行方不明の男性を探すため地方を訪れていた。その人物が最後に目撃された現場のそばで、彼は一つのゲルに暮らす二人の若い女性サランとナランと出会う。ゾリグは疑いを持ちつつ彼女たちに近づき、やがてサランと一線を越えてしまう。
しかし彼女たちは姉妹ではなく、モンゴルではいまだタブー視されることもある同性愛の恋人関係だった。恋人とゾリグの仲を知ったナランは、感情を激しく乱してしまい……。
『冬眠さえできれば』
(2022/モンゴル・フランス・スイス・カタール/98分/英題:If Only I Could Hibernate)
カンヌ国際祭映画祭 「ある視点」部門 正式出品、第25回東京フィルメックス 審査員特別賞&観客賞
【キャスト】
バットツォージ・オールツァイフ、ノミンジグール・ツェンド、トゥグルドゥル・バトサイハン、バトマンダフ・バトチョローン、ガンチメグ・サンダグドルジ、バトサイハン・バトトルガ
【スタッフ】
監督・脚本:ゾルジャルガル・プレブダシ プロデューサー:フレデリック・コルヴェ、マエバ・サビニエン、ゾルジャルガル・プレブダシ
2022/モンゴル・フランス・スイス・カタール/98分/英題:If Only I Could Hibernate
【作品概要・あらすじ】
数学が大得意な高校生ウルジー。物理学コンクールで優勝し、進学のため奨学金の獲得を目指すも、母親が地方で働くと突然言い出し、幼い弟と妹とともに家に残されてしまう。厳しい冬を乗りきるためには暖房の燃料となる石炭を買うお金を稼がねばならず、闇の仕事に手を出したウルジーは、勉強どころではなくなって……。
カンヌ映画祭の「ある視点」部門でモンゴルの長編映画として初めて上映され、モンゴルでも大きな支持を得た作品。
『ターコイズの空の下で』
(2020/日本・モンゴル・フランス/95分/英題:UNDER THE TURQUOISE SKY)
第68回マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭 才能賞&FIPRESCI賞、第28回カメリマージュ国際映画祭 ワールド・シネマ部門 正式出品
【キャスト】
柳楽優弥、アムラ・バルジンヤム、麿赤兒、ツェツゲ・ビャンバ、サラントゥーヤ・サンブ
【スタッフ】
監督:KENTARO 脚本:アムラ・バルジンヤム、KENTARO プロデューサー:木滝和幸、ウラン・サインビレグ、KENTARO
【作品概要・あらすじ】
日本人の道楽息子タケシと、ワイルドなモンゴル人青年アムラが、あるきっかけでモンゴルの草原を共に旅することになる。タケシには、第二次世界大戦終了後にモンゴルで捕虜となった祖父が、現地で恋に落ちた女性との間に生まれた娘を探すというミッションがあったが……。タケシ役を日本を代表する名優・柳楽優弥が演じている。美しい大草原を走りながら、道中でさまざまな人々やハプニングに遭遇し、言葉の壁を越えて青年二人が絆を深めていくコミカルなロードムービー。
公式ホームページ
https://mongolianfilmfest.com/
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