デイリー・シネマ

映画&海外ドラマのニュースと良質なレビューをお届けします

映画『これが私の人生設計 』あらすじと感想/『ドマーニ! 愛のことづて』で監督デビューした俳優のパオラ・コルテッレージが2014年に主演した痛快コメディー

イタリア映画祭 2024で好評を博した「C'è ancora domani「まだ明日がある」)」が、『ドマーニ! 愛のことづて』のタイトルで2025年3月14日から全国公開される。

戦後間もないローマを舞台に、夫の暴力や義父の介護など、過酷な生活を送りながらも、友人等との交流を通じて心の安らぎを見出す女性を描き、本国イタリアで600万人動員の大ヒットを記録した作品だ。

 

監督を務めたのは、イタリアの国民的コメディエンヌ兼俳優として活躍するパオラ・コルテッレージ。本作で初の長編映画監督デビューを果たしたと同時に主演も務めている。

 

2月17日(月)には『ドマーニ! 愛のことづて』の上映を記念してイタリア文化会館ホールで、パオラ・コルテッレージの2014年の主演作『これが私の人生設計』が公開される(18:30~/入場無料)。

 

本稿ではこの作品を取り上げたい。

 

(C)2014 italian international film s.r.l

 

『これが私の人生設計』でパオラ・コルテッレージが演じるのは、国外で成功をおさめ評価されたのに、イタリアに帰国した途端、男社会の厳しさに巻き込まれ、悪戦苦闘する天才建築家。主題的にも『ドマーニ! 愛のことづて』に通じるものがあるだろう。

 

監督を務めたのは『幸せのイタリアーノ』(2022)、『ようこそ大統領』(2013)のリッカルド・ミラーニ。コミカルな展開の中に問題意識を巧みに盛り込んでいる。

 

『これが私の人生設計』はU-nextやAmazon Primeでも配信されている。

 

目次

 

映画『これが私の人生設計』作品情報

(C)2014 italian international film s.r.l

2014年製作/103分/イタリア映画/原題:Scusate se esisto!

監督;リッカルド・ミラーニ 製作:フェデリカ・ルチザーノ、フルビオ・ルチザーノ 脚本:ジュリア・カレンダ、パオラ・コルテッレージ、フリオ・アンドレオッティ、リッカルド・ミラーニ 撮影:サベリオ・グアルナ 編集:パトリツィア・チェレザーニ 音楽:アンドレア・グエラ

出演:パオラ・コルッテレージ、ラウル・ボバ、マルコ・ボッチ、コラード・フォーチューナ、ルネッタ・サビーノ、チェザーレ・ボッチ、エンニオ・ファンタスティキーニ、フェデリカ・デ・コーラ、アントニオ・ダウジーリオ、フェリス・ファリーナ、アルマンド・デ・ラッツァ、フランカ・ディ・シコ、フィロメナ・マクロ、マッテオ・フォティ、ステファニア・ロッカ、ジェノベファ・サンドリーニ、ジョルジア・バッキアロッティ、メリッサ・バスタンテ、ティエゴ・バッティスティーニ

※当メディアはアフィリエイトプログラム(Amazonアソシエイト含む)を利用し適格販売により収入を得ています。

 

映画『これが私の人生設計』あらすじと感想・評価(ネタバレあり)

(C)2014 italian international film s.r.l

冒頭、超田舎育ちのヒロインの神童ぶりが描かれる。幼いころから絵に才能を見せるも、その傑作が家族には理解されず暖炉に放り込まれていく様子がおかしくも哀しい。

学校の教師が才能を発見し、やがてローマ大学で優秀な成績を残した彼女は現在ロンドンで建築家として働いている。しかし、この雨の多い街は彼女には精神的に少々厳しかったらしい。雨が雪に変わったある夜、スパゲッティにほんのわずか(なんでこんなに少ないのか?)のソースをかけて侘びしそうに食べる彼女はある決心をする。懐かしいイタリアに帰ること。しかし、建築家仲間にそのことを告げると、彼らは固まり無言で彼女をみつめる。「私、何かへんなこと言ったかしら」。

 

ここまでおよそ10分ほど。ヒロインのセレーナ・ブルーノに扮するパオラ・コルテッレージは、若いころのリース・ウィザースプーンを彷彿させるコメディエンヌぶりを発揮している。

 

イタリアに帰った彼女は、インテリアや墓碑銘の仕事などをしながら父の形見のオートバイを乗り回し悪戦苦闘の毎日。オートバイを悪ガキにまんまと騙し取られ、生活のためにイタリア料理店でアルバイトまでするはめに。各国から訪れる客に料理の説明を求められ、様々な言語を駆使する彼女(日本語もお上手!)。そんな彼女を見てイケメンオーナーは「何者なんだ?」と問いかける。

 

そう、こんなに優秀な女性がアルバイトで生活せざるをえないイタリアの現状に驚かされる。イタリアってこれほどまでに男社会だったのか。面接で合格しても「妊娠」したら解雇という契約だったり。イタリアのこの保守的なありさまは、ロンドンの建築仲間の態度を見る限り、他の国でもよく知られているということなのだろう。

 

セレーナは盗まれたオートバイを追ってたまたまやって来た集合住宅で、住人の中年女性と知り合う。住宅がどれも似たような外観のため、迷子になるという彼女は絵の具で自分の家までの印をつけていた。そこでセレーナは、集合住宅の再開発案を募集しているポスターを見かけ、コンペに応募しようと考える。

 

一方で、オーナーとの恋も順調に進行しているように見えたが…。ある日オーナーに誘われ出かけたバーで、オーナーが突然『フル・モンティ』や『マジック・マイク』ばりにステージに上がって踊りだし、自慢の肉体美を披露する展開に爆笑。彼はゲイだったのですね。そのため、奥さんと別れて一人暮らしをしているのだとか。彼にすっかりときめいていたセレーナはあえなく失恋。恋に敗れたものの、彼女たちは友人として親交を深めていく。彼女の家のあまりの狭さに自分の家にくるように誘うオーナー。二人は同居することになり、コンペの仕事を大量に持ち込む彼女。

そんなコミカルな日常を経ていざコンペへ。ところが、ここでも男性優位社会は揺るぎなく、審査委員たちは「セレーナ・ブルーノ」は男性に違いないと思い込んでおり、目の前の彼女に彼はどこなのかと尋ねてくる始末。とっさに自分は代理人で、「セレーナ・ブルーノ」は日本の大阪に出張中だと応えてプレゼンを始めてしまう。東京でもなければ京都でもなく「大阪」というのがよいですね。そしてなんと彼女の案件が採用される。さて、さて、どうなっていくのやら。

 

2014年の作品だが、全く古さを感じさせない。本作が扱う問題は、もちろん、イタリアだけの問題ではない。悪しき伝統にあぐらをかいた権力の権化にこれまで耐えてきた人たちが「ノー」をつきつけるラストが気持ちいい。

 

場末に立つ巨大な集合住宅もなかなか魅力的な空間だった。建築映画としてもきちんと記憶に残しておきたい。

www.chorioka.com