ムヨン校は、政府からいじめのない学校と表彰された名門校として知られていたが・・・実は裏ではスガンという男子生徒が悪徳の限りを尽くしていた。有力者の親に守られて教師も警察も手出しできない。
非正規教員として採用されたソ・シミンは、正規雇用を望むなら何があっても見て見ぬふりをするようにと先輩教師から忠告される。なんとしても正規採用してほしいシミンは、スガンの行いに気づきながらも知らぬふりをしようとするが・・・。
映画『勇敢な市民』は、韓国の同名人気ウェブトゥーンを原作に、『ユア・マイ・サンシャイン』(2006)、『あいつの声』(2007)など、恋愛映画からスリラーまで幅広い作品を手掛けてきたパク・ジンピョが監督を務めたアクション・コメディだ。
『生まれ変わってもよろしく』(2023)、『サムダルリへようこそ』(2023-24)などのドラマ作品で知られる人気俳優、シン・ヘソンが主役の非正規教師ソ・シミンに扮し、いじめの主犯をドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』(2021)などのイ・ジュニョンが冷酷に演じている。
「犯罪都市」シリーズや映画『ハント』(2022)などの作品でアクションを手掛け『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024)で長編映画初監督デビューを果たしたホ・ミョンヘンが武術監督を務めており、本格的なアクションが展開するのも見どころの一つだ。
目次
韓国映画『勇敢な市民』作品情報

2023年製作/112分/PG12/韓国映画/용감한 시민(英題:Brave Citizen)
監督:パク・ジンピョ 原作:キム・ジョンヒョン 撮影:キム・ヨンソン 照明:ペ・イルヒョク 武道:ホ・ミョンヘン
出演:シン・ヘソン、イ・ジュニヨン、パク・ジョンウ、パク・ヒョックオン、チャ・チョンファ
韓国映画『勇敢な市民』あらすじ

ソ・シミンは、いじめのない学校として高く評価されているムソン高校に臨時職員として採用される。
しかし、この学校ではスガンという男子高校生が闇の支配者として君臨していた。 彼は仲間を引き連れ全校生徒にいやがらせをしていたが、徹底的にいじめ尽くすターゲットをひとり決め、今はジニョンという生徒が被害を受けていた。
スガンは二年前に暴力事件を起こして一度逮捕されたのだが、復学して暴れ放題だった。スガンの親は有力者で、警察、政治家ともつながっており、教師はいじめの実態を知っていても手を出せずにいた。
ジニョンはたびたび屋上に立ち飛び降りようとするほど追い詰められていたが、ある日、危機に陥った際、通りがかったシミンに助けられたことから彼女に救いを求める。
シミンは他の教師から何か問題を見かけても見て見ぬふりをするよう忠告されていた。正規採用されたい彼女は、忠告を守り、見ざる聞かざるを通そうとするが、偶然ジニョンがいじめられているところに出くわした際、たまたま通りがかったようにみせかけ、顔を黒ビニールで覆われたジニョンに飛び蹴りをくらわそうとしていたスガンのみぞうちにパンチを入れて危機を救ったのだ。
実は彼女は実家がボクシングジムを経営しており、自身もかつて女子ボクシングのオリンピック国家代表候補だった。だが父親が保証人になったことで金に困るようになり、ボクシングジムを守るため代表をあきらめざるをえなかったという過去があった。今はボクシングの道をきっぱりあきらめ、倫理教師として正規採用されることが彼女の夢だった。
彼女の前に赴任した非正規教師はスガンを咎めたことでトラブルとなり自殺したと先輩教師から教えられる。しかし、ジニョンを放っておくわけにはいかない。
そんな時、彼女の目にジムで父親が子供向けにそろえた動物の覆面が飛び込んで来た。彼女は猫の覆面をかぶり、バスケットのコートでよその学校の生徒ともめて暴れているスガンの前に立った。
スガンはこれまで負けたことがなかったが、「猫」にいいように殴られ、唖然とする。仲間たちもスガンがやられていることに驚きを隠せない。パトカーがやって来たので、皆、あわてて逃げ出したが、シミンはしてやったりと笑いが止まらない。
しかし、スガンのいじめはおさまるどころかエスカレートするばかりだ。一線を越えた彼に対して、シミンは本気で戦うことを決意するが・・・。
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韓国映画『勇敢な市民』感想と解説

前半は、シン・ヘソン扮する主人公・ソ・シミンが、懸命に受けのいい人気者の先生になろうと努めている姿がコメディタッチで描かれているが、それ以上にイ・ジュニョン扮するスガンという生徒のいじめが強烈で、生徒たちが日々の学園生活で覚える不安と腹立たしさがじわじわと伝わってきて心の中に出来た黒い塊がどんどん大きくなっていくような気分に包まれる。人によっては観るのに注意が必要かもしれない。
このいじめの主犯者は、一度あまりにひどい傷害事件を起こして退学になり二年後に復学、ほかの生徒たちよりも二年年上でもう成人しているという人物だ。
教師たちもいじめが横行していることは承知しているが、スガンの親が有力者で警察や政治家ともつながりがあることから手出しできない。さらに「失職」や「出世」を持ち出されては皆、我が身可愛さに黙らざるを得ない。
本作は高校を舞台にしていることから「学園もの」、「青春もの」というイメージを浮かべがちだが、スガンとその背景にあるものは、今、現在社会に蔓延る悪を象徴するものとして描かれている。
明らかに不正なことをしていながら、それをもう隠すこともなく、指摘されても過ちを決して認めず、被害者に決して謝らず、反省などもってのほかと居直り、のうのうと特権の中に居座り続ける人々が、今や社会の中心となっている。人それぞれ、個々に思い当たる節があるだろう。
だからこそ、当初は正規教員になりたいなら知らぬふりをしておくようにと忠告された新任非正規教員であるヒロインが、生徒を守るために毅然と立ち上がるストーリーには胸のすく思いがする。
彼女は「悪い奴が罰を受けるべきです」と語るが、これはNetflix韓国ドラマ『旋風』で、ソル・ギョング扮する政治家パク・ドンホが目指す「罪を犯したものが恥を知る世界」と通じるものがある。
元女子ボクシング国家代表候補で、めっぽう強い新任教師が赴任してくるというところから既にファンタジーではあるのだが、声をあげたひとりのシミン(市民)の力が他の人々の心を動かしていく様が丁寧に描かれている。これが韓国であるだけに説得力は大きい。
「犯罪都市」シリーズのホ・ミョンヘンが武術監督を務めているだけあって、アクションも秀逸だ。スガンとシミンの一騎討となるラストのバトルがクライマックスとなるが、この試合は極悪人を叩きのめすという目的と共に、家の事情で国家代表候補を決める試合でわざと負けなくてはならなかった過去を背負ったシンミにとってのリベンジ戦でもあることが次第に見えてくる。
だからこそ、彼女は「猫」のマスクを自ら剥ぎ取り、「猫」ではなく「シンミ」として戦うのだ。
それはまた、「猫」のマスクをしている限り観る側はスタントマンの存在を意識するが、マスクを取れば戦っているのはシン・ヘソンその人だということを意味する。このラストマッチはシン・ヘソンという俳優の戦いでもあるのだ。アクション俳優ではない彼女がここまで戦えることに感嘆し、思わず大きな拍手を送りたくなるのである。